生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1012.【ハル視点】書類の情報

「魔物本来の習性から考えれば、崖の近くに生息するルダリオンがウェルマール領都近くの森に現れるなんて、まず考えられない事だ」

 ファーガス兄さんの説明は、すらすらと流れるように続いていく。いつの間にこれだけの準備をしたんだろうと考えてしまうぐらい、立派な進行役だな。

「この時点で何らかの異常事態が起こっているのではないかと判断した俺は、すぐに各所での調査を進めてもらう事に決めた。調査の詳しい内容については、ウィリアムから報告してもらう」

 話しを振られたウィル兄さんは、はーいと笑顔で答えた。

「この調査についてはできるだけ急いだ方が良いと判断したので、その日からすぐに優先的に実行してもらったよ。うちの隊員たち総出でねー」

 明るい声でそう続けたウィル兄さんは、書類の束を全員の前にささっと並べていった。誰かに頼むでもなく自ら書類を配り歩くウィル兄に、壁際で待機していた侍従が慌てている。

「これが調査の結果判明した、この一週間ほどで現れた魔物の一覧だよ」

 渡された書類にざっと目を通せば、十体弱の魔物の名前がずらりと並んでいた。

「なんと…これほど大量にいたんですか?」
「しかも出た魔物の全てがA級だと…?」
「いや、それよりも、その全てが現れた場所が不自然な事の方が問題だろう…」

 確かにそれが一番の問題だな。

「ああ、こっちのオレールウルフは、本来なら砂漠にしか出ない種の筈だろう?」
「こっちのメントイ―プなんて、海にしか出ない筈の魔物なのに森の中で遭遇した…だって?」

 会議に参加している騎士と衛兵たちは書類に目を通すと、口々に驚きの声をあげた。それぞれ自分が知っている魔物の事を話すせいで、一気に会議室の中は賑やかになった。

「魔物の名前の横に書いてあるのは、その魔物を倒した人、討伐者の詳細だねー」

 騎士団員や衛兵については、名前や所属隊までがはっきりと記入されている。

 だが、さすがに冒険者は例外だ。

 サイクさんについては既に許可を得ていたので名前まで公表しているが、それ以外の冒険者についてはさすがに名前などは載っていない。

 せいぜいがB級冒険者パーティー(4人)とか、A級冒険者(ソロ)、A級冒険者パーティー(2人)程度の記載だけだ。

 うーん、それにしてもB級の四人だけのパーティーでオレールウルフを倒した奴らは、かなりの凄腕だな。そう密かに感心していると、不意にファーガス兄さんが口を開いた。

「魔物の討伐者には騎士団員もいるんだな?」
「うん、森の巡回に回ってた組が遭遇したらしいよ。ちなみにその内一つはうちの隊の隊員たち。調査に向かって偶然出くわしたんだってー」

 誇らしい事だねーと嬉しそうに笑ったウィル兄の反応に、俺も倒したかったとか、出逢えてさえいればなんて声までちらほらと聞こえてくる。自由に発言して良いと言われているとはいえ、心の声が漏れてしまってるぞ。

 さすがに指摘はしないがと考えていると、ファーガス兄さんはこほんと軽く咳をしてみせた。それだけで緩んだ空気が引き締まるのは、さすがファーガス兄さんだな。

「ここに記載されている魔物たちは、既に騎士や衛兵、冒険者によってその全てが倒されている。魔物と対峙した際に多少の負傷はあったようだが、少なくとも命を奪われた人は一人もいなかった」

 死者は0人か。

「それは何よりの情報だな」

 重々しく答えた父の声に、全員がビシッと背筋を伸ばした。

「まだ油断はできないから今も調査は続けてるけど、今の所、習性的に不自然なA級の魔物は発見されてないよー」

 ウィル兄さんは、普通のA級魔物は何体か出たけどねーとさらりと続けた。

「そうか、それは良かった」
「直接的な危機は乗り越えられたとはいえ、問題になのはその魔物が全てここにいる筈のない魔物だった点だな」

 さっきも騎士や衛兵からちらほらと声が上がっていたが、普通に考えればあり得ない事だ。

 魔物には基本的な分布図が存在している。

 魔鳥ルダリオンなら生息地は崖の近く、狼の亜種であるオレールウルフは砂漠のみ、鋭い牙のある巨大な魚メントイープはまず海にしか存在しないはずの魔物だ。

 それ以外の書類に記載されている名前を見ても、どれもこれも不自然な事ばかりだ。

「あ、その辺りの魔物の分布についての詳細情報は、ジルが書類の3枚目に以降にまとめてくれてるよーさすがジルー」

 俺の伴侶ってば素晴らしいよねと言いたげなウィル兄さんの言葉に、その場にいる全員がコクコクと頷きながらそっと書類を捲った。

 ああ、うん。これは伴侶のひいき目とかじゃないな。これはさすがジルさんというしかないぐらい、比較がしやすい一覧になっている。

 そこに記載されている情報をその場の全員が読み始めたため、会議室の中はシンっと静まり返った。
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