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1021.【ハル視点】事情説明
「その少年は、俺たちの末の弟、キースだ」
ファーガス兄さんがぽつりとそう答えれば、レイさんはハッと息を呑んだ。
「…あの方が、キース様だったのですか。はっきりと顔をお見かけした事が無かったので…誰かまで分かっていませんでした」
「ああ、キースは人見知りだから、衛兵ならあまり姿を見る機会は無いだろうな…気にするな。口を挟んですまない。続けてくれ」
「はい。かなり楽し気な様子でしたので、わざわざ声をかけようとは思わなかったのですが――たまたまお二人がとある路地に入っていったのを見て、つい反射的に後を追ってしまったんです」
「路地…?」
「はい、おそらくパースのパン屋を目指していたんだと思います」
「確かにアキトの行きたい場所には、パースパン屋があったよ」
横からそう教えれば、レイさんは納得顔で頷いた。
「あの路地は、特に危険な場所というわけでは無いんですが…あー…あの辺りで以前ケンがその…黒髪が好みだと言う男にしつこく声を掛けられたことがありまして…」
「……なるほど」
黒髪が好みだというなら、確かにアキトも声をかけられる可能性は高いな。どうしても心配になってしまったレイさんは、そのまま二人の後を追って路地に進んだらしい。
「気づかってくれてありがとう」
「いえ、お守りできなかったので…」
悔しそうにそう言ったレイさんに、俺たちは慌てて首を振った。父も二人の兄も、そして俺も一緒になっていきなりぶんぶんと首を振ったから、すこし驚かせてしまったかな。
「いや、そんな事は無い。ここまで情報を伝えに来てくれてありがとう」
父がそう口にすれば、ファーガス兄さんもこくこくと頷いている。
「そうそう。情報を貰えるだけでもすっごく助かるよーあまり大々的に聞き込みもできなくてねー」
ウィル兄も苦笑まじりにそう声をかけた。
「そう言って頂けると…」
「ああ、レイさんには本当に感謝してる」
俺は深々と頭を下げてから、レイさんに続きを話してくれと促した。
「はい。とりあえずお二人が路地から出るまでは見守ろうかなと思い、俺は少し離れたところから歩いていく二人の姿を眺めていました」
「あの路地は狭いから近くには行き難いもんねー」
ああ、あの路地で後ろから近づいてきたら、不審感がやばいだろうな。
「はい。ただ、そこで予想外な事が起きたんです。まっすぐパースパン屋に向かうと思っていたのに、お二人はその手前にある店のドアの前で急に立ち止まったんです」
「ん?ドア…?あの辺りにはパースのパン屋以外の店は無いだろう?」
あの店の横にあるのは、少し風化した石の壁だけだった筈だ。思わず一番街の事に詳しいであろうウィル兄に視線を向けたが、変わってないよと言いたげな頷きが返ってきた。
「はい。ですがその時は――その石の壁の真ん中に、見慣れない店とドアがあったんです。これは俺の伴侶であるケンに誓って、真実です」
ちなみに俺には、美味しそうな珍しい果物が並んだ店に見えましたと、レイさんはそう続けた。
「いや、誤解しないでくれ。君の事を疑っているわけでは無いんだ…だが…そこに店は無い筈だ」
「うん、市場の申請書類を見ても…やっぱりそこに店は無いよ」
「ええ。あるはずの無い店がそこにあり、しかも俺も立ち寄りたいと思うような品揃えでした。何かがおかしいと思った俺は、ドアを開けさせてはいけないと思い走りだしましたが…間に合いませんでした」
悔やむようにじっと自分の手を見つめたレイさんは、ぐっと手を握りしめてから続けた。
「二人がドアを開けた瞬間、ドアからは眩いほどの光が溢れました。反射的に目をつむって次に目を開いた時には、アキト様の鞄だけがそこにぽつんと取り残されていました」
「そのドアは…どうなった?」
「ドアも同じく、光と共に消えてしまいました」
「…ね、レイくん、ここで知った事は君の伴侶以外には秘密にできる?」
「はい、元衛兵として我が剣に、そして伴侶であるケンに誓って必ず秘密にします」
伴侶は除外する辺りが、なんともウィル兄らしいな。ケンにはアキトが攫われた事も伝えないわけにはいかない。本人にももしかしたら誘拐の危険が迫っているかもしれないんだから。
「そっか、じゃあよろしくねー」
にこっと笑ったウィル兄は、いくつかの紙を取り出して俺達に見せてきた。
「これは取り扱いに注意が必要なダンジョン産の魔道具一覧なんだけど…ここ見て?」
「ん?転移の魔道具。対になっているドアで、開けば違う場所に一瞬で移動できる…?」
「そ、これ最近になっていくつか発見されたんだけどね。基本的にはどれも一回限りの使い切りなんだ」
便利だなと思ったが、制限があるのか。
「複数回使用はできないのか」
思わずそう口にすれば、ウィル兄はそうなんだよー使えたら便利なんだけどねとさらりと続けた。
ファーガス兄さんがぽつりとそう答えれば、レイさんはハッと息を呑んだ。
「…あの方が、キース様だったのですか。はっきりと顔をお見かけした事が無かったので…誰かまで分かっていませんでした」
「ああ、キースは人見知りだから、衛兵ならあまり姿を見る機会は無いだろうな…気にするな。口を挟んですまない。続けてくれ」
「はい。かなり楽し気な様子でしたので、わざわざ声をかけようとは思わなかったのですが――たまたまお二人がとある路地に入っていったのを見て、つい反射的に後を追ってしまったんです」
「路地…?」
「はい、おそらくパースのパン屋を目指していたんだと思います」
「確かにアキトの行きたい場所には、パースパン屋があったよ」
横からそう教えれば、レイさんは納得顔で頷いた。
「あの路地は、特に危険な場所というわけでは無いんですが…あー…あの辺りで以前ケンがその…黒髪が好みだと言う男にしつこく声を掛けられたことがありまして…」
「……なるほど」
黒髪が好みだというなら、確かにアキトも声をかけられる可能性は高いな。どうしても心配になってしまったレイさんは、そのまま二人の後を追って路地に進んだらしい。
「気づかってくれてありがとう」
「いえ、お守りできなかったので…」
悔しそうにそう言ったレイさんに、俺たちは慌てて首を振った。父も二人の兄も、そして俺も一緒になっていきなりぶんぶんと首を振ったから、すこし驚かせてしまったかな。
「いや、そんな事は無い。ここまで情報を伝えに来てくれてありがとう」
父がそう口にすれば、ファーガス兄さんもこくこくと頷いている。
「そうそう。情報を貰えるだけでもすっごく助かるよーあまり大々的に聞き込みもできなくてねー」
ウィル兄も苦笑まじりにそう声をかけた。
「そう言って頂けると…」
「ああ、レイさんには本当に感謝してる」
俺は深々と頭を下げてから、レイさんに続きを話してくれと促した。
「はい。とりあえずお二人が路地から出るまでは見守ろうかなと思い、俺は少し離れたところから歩いていく二人の姿を眺めていました」
「あの路地は狭いから近くには行き難いもんねー」
ああ、あの路地で後ろから近づいてきたら、不審感がやばいだろうな。
「はい。ただ、そこで予想外な事が起きたんです。まっすぐパースパン屋に向かうと思っていたのに、お二人はその手前にある店のドアの前で急に立ち止まったんです」
「ん?ドア…?あの辺りにはパースのパン屋以外の店は無いだろう?」
あの店の横にあるのは、少し風化した石の壁だけだった筈だ。思わず一番街の事に詳しいであろうウィル兄に視線を向けたが、変わってないよと言いたげな頷きが返ってきた。
「はい。ですがその時は――その石の壁の真ん中に、見慣れない店とドアがあったんです。これは俺の伴侶であるケンに誓って、真実です」
ちなみに俺には、美味しそうな珍しい果物が並んだ店に見えましたと、レイさんはそう続けた。
「いや、誤解しないでくれ。君の事を疑っているわけでは無いんだ…だが…そこに店は無い筈だ」
「うん、市場の申請書類を見ても…やっぱりそこに店は無いよ」
「ええ。あるはずの無い店がそこにあり、しかも俺も立ち寄りたいと思うような品揃えでした。何かがおかしいと思った俺は、ドアを開けさせてはいけないと思い走りだしましたが…間に合いませんでした」
悔やむようにじっと自分の手を見つめたレイさんは、ぐっと手を握りしめてから続けた。
「二人がドアを開けた瞬間、ドアからは眩いほどの光が溢れました。反射的に目をつむって次に目を開いた時には、アキト様の鞄だけがそこにぽつんと取り残されていました」
「そのドアは…どうなった?」
「ドアも同じく、光と共に消えてしまいました」
「…ね、レイくん、ここで知った事は君の伴侶以外には秘密にできる?」
「はい、元衛兵として我が剣に、そして伴侶であるケンに誓って必ず秘密にします」
伴侶は除外する辺りが、なんともウィル兄らしいな。ケンにはアキトが攫われた事も伝えないわけにはいかない。本人にももしかしたら誘拐の危険が迫っているかもしれないんだから。
「そっか、じゃあよろしくねー」
にこっと笑ったウィル兄は、いくつかの紙を取り出して俺達に見せてきた。
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「ん?転移の魔道具。対になっているドアで、開けば違う場所に一瞬で移動できる…?」
「そ、これ最近になっていくつか発見されたんだけどね。基本的にはどれも一回限りの使い切りなんだ」
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