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1032.逃げなかった理由
身勝手な盗賊たちの声をすっぱりと無視して、俺達はそのまま森の中へと飛び出した。びゅんびゅんと風を切りながら、馬くんは器用に森の木々の隙間を駆け抜けていく。
ここまでの速度で森の中を走るのは、さすがにハルと一緒に乗ってる時でも一度もした事が無かったな。ハルならやればできる気がするから、単純にそこまでの緊急性のある事態がなかっただけなのかもしれないけど。
木の枝や葉っぱ、それに木々に生っている果物なんかが、顔からほど近い距離を通り過ぎていったりするのが、かなりスリリングだ。
でも不思議と、すこしも怖いとは思わないんだよな。馬くんの外に出れて嬉しいなーと言いたげな、この楽しそうな走り方のせいかな。
速度に慣れてくると周りの景色を見る余裕とかもでてきて、俺とキースくんはキョロキョロと視線を彷徨わせながら森の様子を観察し続けた。
「そろそろいっかい、きゅうけいしてもいいかな?」
しばらくすると、馬くんは走りながら控え目にそう尋ねてきた。
「もちろんだよ、ここまで頑張ってくれてありがとう」
「ありがと」
二人で揃ってお礼を述べれば、馬くんはへへーと照れくさそうにしながらゆっくりと茂みの前で立ち止まった。
体を下げて俺達が下りるのを待ってくれた後、馬くんはそのままその場に座りこんだ。
ここまでずっと走り続けだったから、さすがに疲れたんだろう。申し訳ない気持ちになりながらも、俺はキースくんに小さく声をかけた。
「俺達も座ろうか」
「うん」
乗せてもらってただけの俺達には、正直に言うと休憩は必要ないんだけどね。でもこのままここで立ってたら、追手が追いついて来た時にかなり目立つから。
うーん、それにしても、俺達ここまで見事に何もしてないな。
ただ馬くんの背中に乗せてもらって、ここまで運んでもらっただけだ。これってつまり馬くんだけでも、何の問題もなくあそこから逃げられたって事だよね。
何故、わざわざ俺達に声をかけたんだろう?
不思議に思って聞いてみたら、馬くんの返事はすごくあっさりしたものだった。
「にげるだけなら、かんたんなんだけどね」
「えっと…簡単なんだ…?」
思わず聞き返してしまったよね。
「うん、かんたんだよ。だって、ぼくはあそこでもまほうがつかえたの、みてたでしょ?」
「うん、使えてたね」
しかも何か魔法を使っていたのか、元々の身体能力なのかは分からないけど――あんな壁をぽんぽん壊せるぐらいの力もある。
そりゃあ逃げるのが簡単だとも言えちゃうよねと、なんだか納得してしまった。
「でもね、ぼくはここがどこか…しらないから」
「あー…そっか」
攫われてきたなら、ここがどこか分からないのが普通だよね。鳥の鳴き声で辺境だって分かったキースくんがすごいだけで。
それにねと、馬くんはじっと俺とキースくんを見つめて続けた。
「ひとのことばをはなせるうまって、すごくすくないんでしょう?」
「うん、たぶんそうだね」
もしかしたら俺が知らないだけで、どこかの地域では話せるとかあったりする?そんな気持ちで視線を向ければ、キースくんも困り顔で答えてくれた。
「えっと…僕もいっぱいウマさんとは触れ合ってきたけど、今まで話せるってウマさんに会った事はないよ」
物知りなキースくんもそう言ってるなら、やっぱり珍しいんだろうな。
「でしょう?だからもしあそこからひとりでにげて、ここはどこですかってだれかにききたくても、こえをかけたらこわがられるかなって…」
ああ、うん。まあいきなり馬から話しかけられたら、そりゃあ驚くだろうな。悲鳴のひとつもあげられるかもしれない。
ただすっごく重低音の地を這うような迫力のある声ーとかならともかく、この可愛い幼い声なら恐怖よりも可愛いなって気持ちの方が勝つ気もするんだけど。
「あとねーしゃべれるうまってばれちゃうと、たかくうれるーってわるいひともいるんだ」
「それは否定できないね」
「うん、いるよね」
思わずキースくんと顔を見合わせてから、二人揃ってこくりと頷いてしまった。実際に馬くんはさらわれた結果として、ここにいたわけだし。
「つかまったころからね、いいひととであえて、こわがられなかったらにげよう…っておもってたの」
二人がいたから逃げようって思えたんだよ。二人のおかげで勇気が湧いて来たのと教えてくれた馬くんに、俺は思わずそっと鼻先を撫でてしまった。
あ、突然撫でちゃったけど嫌じゃなかったかな。
「なでてくれるの?」
「あ、僕もなでたい!」
「うん、なでられるのはすきだよ」
嬉しそうな馬くんを、俺達は二人でたくさん撫でさせてもらった。
ここまでの速度で森の中を走るのは、さすがにハルと一緒に乗ってる時でも一度もした事が無かったな。ハルならやればできる気がするから、単純にそこまでの緊急性のある事態がなかっただけなのかもしれないけど。
木の枝や葉っぱ、それに木々に生っている果物なんかが、顔からほど近い距離を通り過ぎていったりするのが、かなりスリリングだ。
でも不思議と、すこしも怖いとは思わないんだよな。馬くんの外に出れて嬉しいなーと言いたげな、この楽しそうな走り方のせいかな。
速度に慣れてくると周りの景色を見る余裕とかもでてきて、俺とキースくんはキョロキョロと視線を彷徨わせながら森の様子を観察し続けた。
「そろそろいっかい、きゅうけいしてもいいかな?」
しばらくすると、馬くんは走りながら控え目にそう尋ねてきた。
「もちろんだよ、ここまで頑張ってくれてありがとう」
「ありがと」
二人で揃ってお礼を述べれば、馬くんはへへーと照れくさそうにしながらゆっくりと茂みの前で立ち止まった。
体を下げて俺達が下りるのを待ってくれた後、馬くんはそのままその場に座りこんだ。
ここまでずっと走り続けだったから、さすがに疲れたんだろう。申し訳ない気持ちになりながらも、俺はキースくんに小さく声をかけた。
「俺達も座ろうか」
「うん」
乗せてもらってただけの俺達には、正直に言うと休憩は必要ないんだけどね。でもこのままここで立ってたら、追手が追いついて来た時にかなり目立つから。
うーん、それにしても、俺達ここまで見事に何もしてないな。
ただ馬くんの背中に乗せてもらって、ここまで運んでもらっただけだ。これってつまり馬くんだけでも、何の問題もなくあそこから逃げられたって事だよね。
何故、わざわざ俺達に声をかけたんだろう?
不思議に思って聞いてみたら、馬くんの返事はすごくあっさりしたものだった。
「にげるだけなら、かんたんなんだけどね」
「えっと…簡単なんだ…?」
思わず聞き返してしまったよね。
「うん、かんたんだよ。だって、ぼくはあそこでもまほうがつかえたの、みてたでしょ?」
「うん、使えてたね」
しかも何か魔法を使っていたのか、元々の身体能力なのかは分からないけど――あんな壁をぽんぽん壊せるぐらいの力もある。
そりゃあ逃げるのが簡単だとも言えちゃうよねと、なんだか納得してしまった。
「でもね、ぼくはここがどこか…しらないから」
「あー…そっか」
攫われてきたなら、ここがどこか分からないのが普通だよね。鳥の鳴き声で辺境だって分かったキースくんがすごいだけで。
それにねと、馬くんはじっと俺とキースくんを見つめて続けた。
「ひとのことばをはなせるうまって、すごくすくないんでしょう?」
「うん、たぶんそうだね」
もしかしたら俺が知らないだけで、どこかの地域では話せるとかあったりする?そんな気持ちで視線を向ければ、キースくんも困り顔で答えてくれた。
「えっと…僕もいっぱいウマさんとは触れ合ってきたけど、今まで話せるってウマさんに会った事はないよ」
物知りなキースくんもそう言ってるなら、やっぱり珍しいんだろうな。
「でしょう?だからもしあそこからひとりでにげて、ここはどこですかってだれかにききたくても、こえをかけたらこわがられるかなって…」
ああ、うん。まあいきなり馬から話しかけられたら、そりゃあ驚くだろうな。悲鳴のひとつもあげられるかもしれない。
ただすっごく重低音の地を這うような迫力のある声ーとかならともかく、この可愛い幼い声なら恐怖よりも可愛いなって気持ちの方が勝つ気もするんだけど。
「あとねーしゃべれるうまってばれちゃうと、たかくうれるーってわるいひともいるんだ」
「それは否定できないね」
「うん、いるよね」
思わずキースくんと顔を見合わせてから、二人揃ってこくりと頷いてしまった。実際に馬くんはさらわれた結果として、ここにいたわけだし。
「つかまったころからね、いいひととであえて、こわがられなかったらにげよう…っておもってたの」
二人がいたから逃げようって思えたんだよ。二人のおかげで勇気が湧いて来たのと教えてくれた馬くんに、俺は思わずそっと鼻先を撫でてしまった。
あ、突然撫でちゃったけど嫌じゃなかったかな。
「なでてくれるの?」
「あ、僕もなでたい!」
「うん、なでられるのはすきだよ」
嬉しそうな馬くんを、俺達は二人でたくさん撫でさせてもらった。
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