生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1036.不意打ち防止

 気配探知が得意なシュリくんによると、その怖い気配はまっすぐにこちらの方向へと近づいて来ているらしい。

 ただシュリくんは気配を消す魔法と防音魔法は既に使ってくれているらしいから、もしかしたらただ俺達の近くを通り過ぎるだけかもしれないとも言われた。

 そうか、その可能性もあるのか。

 このまま進んだ先がウェルマールの領都とかだったら、そのまま通すのは駄目だと思ったかもしれないけど、この先にあるのはあの盗賊団のアジトだ。

 さすがに俺達を攫ってきたあの盗賊団のために、俺が命がけで戦おうとは思わない。

「うぅ…さっきがすごい…」

 まだ俺では感知できないぐらいの距離みたいだけど、シュリくんは殺気に怯えてプルプルと小刻みに震えている。そんなシュリくんの頭を優しく撫でているキースくんを眺めながら、俺はひたすら気配探知を続けた。

「あ…」

 しばらく待つと、ようやく俺にも分かるぐらいの距離まで近づいて来たみたいだ。

「アキトもわかった?」
「分かったよ」

 うん、これはシュリくんがこわいと言いたくなる気持ちも分かる。

「これは確かに…」
「ね…こわいでしょう?」
「うん、これはこわいね」

 同意しながらも気配を探り続けてみれば、恐ろしい事実に気づいてしまった。

「これ…一頭じゃないね?」
「えっ…」

 キースくんは、大きく目を見開いてじっと俺を見つめてくる。その隣で震えていたシュリくんは、え、そうなの?と尋ねてきた。

 詳しく聞いてみると、殺気が怖すぎてわざと細かい所まで感知しようとしてなかったらしい。申し訳なさそうにごめんなさいと言われてしまったけど、むしろそんなに怖かったのに気配探知をやめなかったんだからすごいよね。

「ううん、探知してくれてありがとう」

 どうやらキースくんも俺と同じ意見みたいだ。

「俺からも、こわいのにちゃんと教えてくれてありがとう」

 お礼を言われるとは思っていなかったのか、シュリくんは照れくさそうにどういたしましてと答えてくれた。

 それにしてもと考えながら、俺は気配探知に意識を戻した。

 一頭では無いどころか、強そうな気配が一塊になって移動中なんだよな。いったいどれだけの数がいるのかが分からないぐらいに気配が密集している。

 リスリーロのおかげで最近は起きてないって聞いてたけど、もしかして…これがスタンピードだったりする?

 でも俺の想像してたスタンピードって、もっとこう魔物の無秩序な大暴走みたいなのだったんだけどな。もしかしてこのあたりのスタンピードは、軍隊みたいな魔物たちの集団が襲ってくる事だったりするんだろうか。

 ああ、駄目だ。そんな事を考えてる場合じゃない。

 これがスタンピードだろうと、そうじゃなかろうと、向こうに気づかれた時点でこちらから攻撃するのは変わらない。

 まあ想像以上に強そうな敵だけどね。

「いっぱいいる…こわいよ」
「シュリくん、大丈夫だよ。僕がずっと一緒にいるからね」

 シュリくんといると、キースくんがまるでお兄ちゃんみたいだ。

 プルプルと震えるシュリくんと、それを必死で慰めているキースくんの姿をちらりと横目で見る。

 この子たちを絶対に守らないといけない。そして、俺も、絶対に生きてハルの所に帰るんだ。

 近づいてくる気配に怯まないように、俺はそっと目を閉じてから魔力を練り始めた。今までにないぐらい真剣に、魔力を練りながらどんどん研ぎ澄ましていく。

 もっと、もっとだ。まだいける。研ぎすました魔力を、今度はどんどん大きくしていく。先制攻撃なら、やっぱり土魔法が良いかな。

 そんな事を考えていると、不意にシュリくんが息をのんだ音が聞こえた。

「ひっ…」
「どうしたの、シュリくん?」
「い、いったい、とびだしてきたよ!」

 恐怖に震える声で、シュリくんはそう叫んだ。きっと勇気を振り絞って俺たちに教えてくれたんだろうな。

「ありがとう、シュリくん」

 これであちらからの不意打ち攻撃は受けずに済む。

「け、けはいもけしてるし、ぼうおんまほうもつかってるのに…なんで?なんでまっすぐこっちにくるの!?」
「分からないけど、落ち着いて」

 意味が分からないとパニックになっているシュリくんの声と、それを必死で宥めているキースくんの声を聞きながら、俺はいつでも魔法を使えるようにと両手を前にだして構えた。
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