1,046 / 1,561
1045.【ハル視点】橋渡しは難しい
「私が知っている限り、領都ウェルマール周辺にある牙蛇盗賊団のものと思われるアジトは三つです」
そう前置きをしたクレットは、片手を前に出すと一本ずつ指を折り曲げながら話し始めた。
うーん、このクレットの動きも俺にしか見えていないわけなんだが、これもきちんと皆に伝えるべきなんだろうか。
いや、だがよくよく見てみると、どうやらこの動き、完全に無意識の行動のようだ。それならこれはあえて指摘しない方が良いのかもしれない。指摘したら見えていないのが分かっているのにと、クレットが気にするかもしれないからな。
そう判断した俺は、何も言わずにただ静かにクレットの話しの続きを待った。
それにしてもこういう事まで考えていちいち判断しないといけないなんて、幽霊と人の橋渡しとは難しいものなんだな。きっとアキトも色々な事を考えて、今まで試行錯誤してきたんだろう。
そう思えば、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「まず一つ目は東側の街道の横を通っている川の、下流域にあります。二本目の橋の下に魔道具と植物を使った隠し洞窟があり、そこを拠点にしているようです」
想像していた以上に詳細なその説明を聞いて、俺はすこし驚きながらも口を開いた。ここまでしっかりとした情報なら、俺の判断で勝手に言葉を変えるのは良くないだろう。
俺はクレットの言葉を、ただそのまま繰り返す事に決めた。
「川の下流か…あの辺りではたしかに何度か盗賊の被害があったねー」
「そうか、隠し洞窟なんてものがあるのか」
「撤退が早すぎると思ってはいたが、そういう理由か」
周辺の調査をしても、隠し洞窟は発見できていないとファーガス兄さんも苦い顔だ。
「魔道具と植物を使っているなら、やはり魔道具技師を手配すべきなんだろうか?」
「そうだね。あとは植物学者を連れていくのも良いかもしれないよー」
「いや、いっそ植物に詳しい冒険者というのはどうだ?」
低い声でボソボソと対策の相談を始めてしまった三人の姿をじーっと見つめてから、クレットはちらりと俺に視線を向けてきた。このまま説明を続けても良いんでしょうか?と言いたげな表情だな。
「あーみんな、感想や対策の相談がしたくなる気持ちは分かるんだが…できればそれは後にして、先に全てのアジトの情報を聞いてしまわないか?」
そう声をかければ、三人はハッと顔をあげた。
「それもそうだな」
「ああ、すまんな。つい熱くなってしまった」
「ごめんねークレット、報告続けてくれる?」
「はい、ウィリアム隊長!」
嬉しそうにすぐにそう答えたクレットは、続いて二本目の指を折り曲げた。
「二つ目は、ムレングダンジョンから北へ抜けた場所にある廃村、かつてのフォール村です。魔物の襲撃があって放棄されたあの元フォール村の、食料保存用の地下倉庫に集団で住み着いています」
これもそのままくり返せば、ファーガス兄さんとウィル兄さんの眉間にものすごいしわが生まれた。
「…ああ、なるほど、あそこか。行った事がある場所があげられるのは悔しいな」
「あの廃村は定期的に騎士が巡回はしてる筈なんだけど――うーん、毎回地下の倉庫までは…確認してないかもねーいったいいつから住み着いてたんだろ?」
心底嫌そうにそう呟いたファーガス兄さんとウィル兄さんは、ハッとこちらを見ると慌てた様子でその口をぴたりと閉じてみせた。
別に喋るなという意味で見つめていたわけじゃないから、そんなに慌てなくても良いんだが。ただ二人とも廃村になった後のフォール村に行った事があるのかと、ぼんやり考えていただけだ。
まあ静かになったのは、続きを聞かせてもらうためには良い事か。
ちらりと視線だけで促せば、クレットはすぐに続けますねと今度は三本目の指を折り曲げてみせた。
「三つ目のアジトはルティルーの森の奥地にある、元は他国の貴族が所有する別荘だった廃墟です」
この言葉をそのまま伝えれば、父さんは不思議そうにクレットに尋ねた。
「あの建物はかなり老朽化しているから、危険だと聞いているんだが…?」
「建物の外観はそうなんですが…中は綺麗なものでした」
見てきたように話すなとファーガス兄さんが尋ねれば、実際に見てきましたとクレットはさらりと答えた。
「この体ですから、ダンジョン以外はどこにでも潜り込めるんです」
「…ダンジョンは無理なのか?」
興味を引かれて聞いてみれば、クレットはあっさりと答えてくれた。
「はい、折角ならダンジョンの未踏区域に行ってみようとしましたが、そもそもダンジョンには入る事もできませんでした」
へぇ、そうなのか。俺は幽霊の時もダンジョンには挑戦しなかったから知らなかったな。
「だからーちゃんと橋渡ししてってば!」
「あ、すまない」
俺はまだまだアキトみたいに上手に橋渡しは、できないようだ。
そう前置きをしたクレットは、片手を前に出すと一本ずつ指を折り曲げながら話し始めた。
うーん、このクレットの動きも俺にしか見えていないわけなんだが、これもきちんと皆に伝えるべきなんだろうか。
いや、だがよくよく見てみると、どうやらこの動き、完全に無意識の行動のようだ。それならこれはあえて指摘しない方が良いのかもしれない。指摘したら見えていないのが分かっているのにと、クレットが気にするかもしれないからな。
そう判断した俺は、何も言わずにただ静かにクレットの話しの続きを待った。
それにしてもこういう事まで考えていちいち判断しないといけないなんて、幽霊と人の橋渡しとは難しいものなんだな。きっとアキトも色々な事を考えて、今まで試行錯誤してきたんだろう。
そう思えば、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「まず一つ目は東側の街道の横を通っている川の、下流域にあります。二本目の橋の下に魔道具と植物を使った隠し洞窟があり、そこを拠点にしているようです」
想像していた以上に詳細なその説明を聞いて、俺はすこし驚きながらも口を開いた。ここまでしっかりとした情報なら、俺の判断で勝手に言葉を変えるのは良くないだろう。
俺はクレットの言葉を、ただそのまま繰り返す事に決めた。
「川の下流か…あの辺りではたしかに何度か盗賊の被害があったねー」
「そうか、隠し洞窟なんてものがあるのか」
「撤退が早すぎると思ってはいたが、そういう理由か」
周辺の調査をしても、隠し洞窟は発見できていないとファーガス兄さんも苦い顔だ。
「魔道具と植物を使っているなら、やはり魔道具技師を手配すべきなんだろうか?」
「そうだね。あとは植物学者を連れていくのも良いかもしれないよー」
「いや、いっそ植物に詳しい冒険者というのはどうだ?」
低い声でボソボソと対策の相談を始めてしまった三人の姿をじーっと見つめてから、クレットはちらりと俺に視線を向けてきた。このまま説明を続けても良いんでしょうか?と言いたげな表情だな。
「あーみんな、感想や対策の相談がしたくなる気持ちは分かるんだが…できればそれは後にして、先に全てのアジトの情報を聞いてしまわないか?」
そう声をかければ、三人はハッと顔をあげた。
「それもそうだな」
「ああ、すまんな。つい熱くなってしまった」
「ごめんねークレット、報告続けてくれる?」
「はい、ウィリアム隊長!」
嬉しそうにすぐにそう答えたクレットは、続いて二本目の指を折り曲げた。
「二つ目は、ムレングダンジョンから北へ抜けた場所にある廃村、かつてのフォール村です。魔物の襲撃があって放棄されたあの元フォール村の、食料保存用の地下倉庫に集団で住み着いています」
これもそのままくり返せば、ファーガス兄さんとウィル兄さんの眉間にものすごいしわが生まれた。
「…ああ、なるほど、あそこか。行った事がある場所があげられるのは悔しいな」
「あの廃村は定期的に騎士が巡回はしてる筈なんだけど――うーん、毎回地下の倉庫までは…確認してないかもねーいったいいつから住み着いてたんだろ?」
心底嫌そうにそう呟いたファーガス兄さんとウィル兄さんは、ハッとこちらを見ると慌てた様子でその口をぴたりと閉じてみせた。
別に喋るなという意味で見つめていたわけじゃないから、そんなに慌てなくても良いんだが。ただ二人とも廃村になった後のフォール村に行った事があるのかと、ぼんやり考えていただけだ。
まあ静かになったのは、続きを聞かせてもらうためには良い事か。
ちらりと視線だけで促せば、クレットはすぐに続けますねと今度は三本目の指を折り曲げてみせた。
「三つ目のアジトはルティルーの森の奥地にある、元は他国の貴族が所有する別荘だった廃墟です」
この言葉をそのまま伝えれば、父さんは不思議そうにクレットに尋ねた。
「あの建物はかなり老朽化しているから、危険だと聞いているんだが…?」
「建物の外観はそうなんですが…中は綺麗なものでした」
見てきたように話すなとファーガス兄さんが尋ねれば、実際に見てきましたとクレットはさらりと答えた。
「この体ですから、ダンジョン以外はどこにでも潜り込めるんです」
「…ダンジョンは無理なのか?」
興味を引かれて聞いてみれば、クレットはあっさりと答えてくれた。
「はい、折角ならダンジョンの未踏区域に行ってみようとしましたが、そもそもダンジョンには入る事もできませんでした」
へぇ、そうなのか。俺は幽霊の時もダンジョンには挑戦しなかったから知らなかったな。
「だからーちゃんと橋渡ししてってば!」
「あ、すまない」
俺はまだまだアキトみたいに上手に橋渡しは、できないようだ。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。