生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1045.【ハル視点】橋渡しは難しい

「私が知っている限り、領都ウェルマール周辺にある牙蛇盗賊団のものと思われるアジトは三つです」

 そう前置きをしたクレットは、片手を前に出すと一本ずつ指を折り曲げながら話し始めた。

 うーん、このクレットの動きも俺にしか見えていないわけなんだが、これもきちんと皆に伝えるべきなんだろうか。

 いや、だがよくよく見てみると、どうやらこの動き、完全に無意識の行動のようだ。それならこれはあえて指摘しない方が良いのかもしれない。指摘したら見えていないのが分かっているのにと、クレットが気にするかもしれないからな。

 そう判断した俺は、何も言わずにただ静かにクレットの話しの続きを待った。

 それにしてもこういう事まで考えていちいち判断しないといけないなんて、幽霊と人の橋渡しとは難しいものなんだな。きっとアキトも色々な事を考えて、今まで試行錯誤してきたんだろう。

 そう思えば、少しだけ気持ちが落ち着いた。

「まず一つ目は東側の街道の横を通っている川の、下流域にあります。二本目の橋の下に魔道具と植物を使った隠し洞窟があり、そこを拠点にしているようです」

 想像していた以上に詳細なその説明を聞いて、俺はすこし驚きながらも口を開いた。ここまでしっかりとした情報なら、俺の判断で勝手に言葉を変えるのは良くないだろう。

 俺はクレットの言葉を、ただそのまま繰り返す事に決めた。

「川の下流か…あの辺りではたしかに何度か盗賊の被害があったねー」
「そうか、隠し洞窟なんてものがあるのか」
「撤退が早すぎると思ってはいたが、そういう理由か」

 周辺の調査をしても、隠し洞窟は発見できていないとファーガス兄さんも苦い顔だ。

「魔道具と植物を使っているなら、やはり魔道具技師を手配すべきなんだろうか?」
「そうだね。あとは植物学者を連れていくのも良いかもしれないよー」
「いや、いっそ植物に詳しい冒険者というのはどうだ?」

 低い声でボソボソと対策の相談を始めてしまった三人の姿をじーっと見つめてから、クレットはちらりと俺に視線を向けてきた。このまま説明を続けても良いんでしょうか?と言いたげな表情だな。

「あーみんな、感想や対策の相談がしたくなる気持ちは分かるんだが…できればそれは後にして、先に全てのアジトの情報を聞いてしまわないか?」

 そう声をかければ、三人はハッと顔をあげた。

「それもそうだな」
「ああ、すまんな。つい熱くなってしまった」
「ごめんねークレット、報告続けてくれる?」
「はい、ウィリアム隊長!」

 嬉しそうにすぐにそう答えたクレットは、続いて二本目の指を折り曲げた。

「二つ目は、ムレングダンジョンから北へ抜けた場所にある廃村、かつてのフォール村です。魔物の襲撃があって放棄されたあの元フォール村の、食料保存用の地下倉庫に集団で住み着いています」

 これもそのままくり返せば、ファーガス兄さんとウィル兄さんの眉間にものすごいしわが生まれた。

「…ああ、なるほど、あそこか。行った事がある場所があげられるのは悔しいな」
「あの廃村は定期的に騎士が巡回はしてる筈なんだけど――うーん、毎回地下の倉庫までは…確認してないかもねーいったいいつから住み着いてたんだろ?」

 心底嫌そうにそう呟いたファーガス兄さんとウィル兄さんは、ハッとこちらを見ると慌てた様子でその口をぴたりと閉じてみせた。

 別に喋るなという意味で見つめていたわけじゃないから、そんなに慌てなくても良いんだが。ただ二人とも廃村になった後のフォール村に行った事があるのかと、ぼんやり考えていただけだ。

 まあ静かになったのは、続きを聞かせてもらうためには良い事か。

 ちらりと視線だけで促せば、クレットはすぐに続けますねと今度は三本目の指を折り曲げてみせた。

「三つ目のアジトはルティルーの森の奥地にある、元は他国の貴族が所有する別荘だった廃墟です」

 この言葉をそのまま伝えれば、父さんは不思議そうにクレットに尋ねた。

「あの建物はかなり老朽化しているから、危険だと聞いているんだが…?」
「建物の外観はそうなんですが…中は綺麗なものでした」

 見てきたように話すなとファーガス兄さんが尋ねれば、実際に見てきましたとクレットはさらりと答えた。

「この体ですから、ダンジョン以外はどこにでも潜り込めるんです」
「…ダンジョンは無理なのか?」

 興味を引かれて聞いてみれば、クレットはあっさりと答えてくれた。

「はい、折角ならダンジョンの未踏区域に行ってみようとしましたが、そもそもダンジョンには入る事もできませんでした」

 へぇ、そうなのか。俺は幽霊の時もダンジョンには挑戦しなかったから知らなかったな。

「だからーちゃんと橋渡ししてってば!」
「あ、すまない」

 俺はまだまだアキトみたいに上手に橋渡しは、できないようだ。
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