生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1054.【ハル視点】それぞれの参加理由

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 ウィル兄が隊長を務めている隊以外にも、周囲にはたくさんの騎士たちの姿があった。名前を知っている者から顔すら知らない者まで、色々な隊の人がごちゃまぜに混ざっている状態のようだ。

 志願してくれてありがとうと声をかけて回ってみれば、それぞれが志願してくれている理由もだんだんと分かってくる。

 ただ盗賊に報いを与えたいという気持ちで参加している騎士もいれば、以前怪我を負った時にキースに励ましてもらったという騎士もいた。

 まあどんな理由で参加してくれても別に良いんだが、中にはアキトに尊敬の念を抱いているという騎士までいたのには少しだけ驚いた。

「アキトに尊敬の念…?」
「あ、あの、変な意味じゃないんです!」

 慌てて言い訳を始めた騎士たちは、どうやら私服で市場の警備をしていた奴ららしい。

「市場の警備をやっていた時に、私服なのにアキト様に気づかれまして…」
「私もそうなんです…目礼を頂きました」
「私はお疲れ様ですと声までかけられました」

 口々にそう声に出した騎士たちは、だから怒らないでくださいと言いたげな表情だ。別にアキトにそういう意味で興味があるわけじゃないってのは、三人の目を見ていれば分かるんだがな。

「へぇ、そうなのか」
「はいっ!その時にさすがウェルマール家の方だなと思っていたので、今回志願させて頂きました」
「私もです」
「私も少しでもお力になりたくて」
「そうか、ありがとう」



 騎士の所を通り抜けると、今度は衛兵が集まった場所に出た。

 うーん、衛兵はもっと少ないと思っていたんだが、想像以上に参加者が多いな。少しだけ以外に思いながら衛兵たちを眺めていると、不意にぱちりと師匠と目が合った。師匠はにこりと微笑んでから口を開いた。

「ハル、予想よりも落ち着いているようで安心したよ」
「はい…少なくとも見た目だけは取り繕ってます」

 そっと地面を睨みながらそう答えれば、ロイ師匠はからりと笑って答えた。

「心が焦るのは仕方がない事だろう。伴侶候補と弟が攫われたんだからな」
「…はい」
「俺にとっても弟子の大事な伴侶候補と弟だ。ちゃんと全力を出して盗賊団を潰すからな」
「はい、お願いします」

 強さももちろんだが、どんな時でも冷静な師匠がいてくれるのはやっぱり心強いな。そう感じながら目線をあげれば、師匠の後ろにも見慣れた顔のベテラン衛兵たちが並んでいるのに気が付いた。

 これは…もしかして転移魔法陣から一緒に階段を上った衛兵は、ほとんどここにいるんじゃないか?

「俺達も頑張るぜぇ」
「なーキースもアキトも、もう俺らの孫みたいなもんだしなぁ」
「しかも牙蛇盗賊団なんてなー俺の因縁の相手じゃねぇか」
「衛兵にとっては恨みしかねぇよなー」
「昨日いくつかアジトが潰せたのは嬉しかったよな」
「今日も本気だそうぜ!」

 そう言って笑い合っていた衛兵たちは、不意に真剣な目で俺を見つめた。

「絶対に助けるぞ」
「ああ、ありがとう」
「気にすんな」
「あ、礼なら酒でよろしくー」
「ああ、無事に見つかったら、山盛り差し入れするよ」

 よっしゃハルのおごりで打ち上げしようぜと笑う衛兵たちに、俺はふっと笑ってから歩き出した。

 次は使用人の方へと向かうかと思ったが、それよりも前に騎士と衛兵の服を着た見慣れない三人の男が俺の前に立ちはだかった。

 知らない顔だが強そうな人たちだなと見つめていると、一番前にいた男が声をかけてきた。

「俺は陰護衛の隊長をしているブラシュだ」

 この男が、あの陰護衛の隊長なのか。驚きながらもよくよく耳を澄ませてみれば、確かにファーガス兄さんが通信の魔道具で話していた声と同じだな。

「この度は、きちんと二人を守りきれずすまなかった」

 そう口にしたブラシュの後ろで、若い男性と壮年の男性が一緒に頭を下げた。

 ああ、この後ろの二人が、キースとアキトの護衛についていた奴らか。

「すみませんでした!」
「…すまなかった」
「いや、顔を見せてまで謝罪に来てくれてありがとう」

 陰護衛はよほどの事がなければ、顔も見せないのが普通だ。もしかしたら市場ですれ違っている商人が陰護衛組の一員かもしれないし、隣にいる冒険者がそうかもしれない。

 そんな秘密主義でなりたっている組織だ。それなのにわざわざ謝罪に来るとは、正直に言えば思ってもみなかった。

「俺もアキトの気配探知がそこまで急成長しているとは、知らなかったからな。二人を助けるための探索隊に参加してくれてありがとう」

 さすがにお前らは全く悪くないとまでは言えなかったが、三人は全力を尽くすと力強く答えてくれた。
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