生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1057.【ハル視点】出発

 指揮を任された総隊長のファーガス兄さんは、悠然と父さんの隣まで歩いていくと集まった全員をぐるりと見回した。ただそれだけの動きで、参加者達の背筋が一気に伸びた。

 こういう動きだけで周りの空気を変えるのが、ファーガス兄さんはやけに上手いんだよな。さすが次期領主候補だ。

「たった今総隊長を任された、ファーガス・ウェルマールだ。皆、今日はよろしく頼む」

 流れるようにそう告げたファーガス兄さんの言葉に、参加者達はそれはもう様々な反応を見せた。

 一部の騎士はお手本のような敬礼を返していたし、一部の騎士は感極まったように言葉も無くただ震えていた。何故か格好良いと呟いたきり、動かなくなっている騎士も何人かいたな。

 一方、衛兵はというと、もう少し気楽な反応が多かった。

 こくりと頷いている人、笑みを浮かべる人、手をあげて応えとする人。ああ、あと俺らにまかせろと言葉で答えている人もいたな。

 ファグも立派になったなーと孫を見るような反応をしている人も何人かいるが、まあそれはいつもの事だから例外としよう。

 最後に使用人たちはというと、きっちりと揃ったお辞儀でその言葉に応じていた。

 その場に揃った参加者達からまじまじと見つめられ続けている状況だが、ファーガス兄さんは特に視線を気にした様子も無い。

 ただ近くに立っていたウィル兄さんへ、ちらりと視線を向けた。

 はっきりとした言葉や合図すら無かったんだが、ウィル兄はすぐにファーガス兄さんが言いたい事を理解したらしい。いそいそと鞄から布の塊を取り出すと、ファーガス兄さんの隣に立ってバサリと大きく広げて見せた。

 風にはためくその旗には、騎士団の象徴である羽根を広げた鳥と剣、そして衛兵の象徴であるヴァコクの木と腕章が並んでいる。

「今回の行方不明者二名の探索および牙蛇盗賊団の討伐は、こちらの旗を掲げて移動する事が既に決定している」

 そこで言葉を切ったファーガス兄さんは、旗から参加者へと視線を戻した。

「本来ならこれは騎士団と衛兵隊が合同訓練を行う時のみ使用する旗だが、これだけの人数が一気に移動すれば、何らかの非常事態を想像する住民も多いだろう。その不安を消すために使用を決めた」
「あ、もちろん実際にはこれは訓練なんかじゃないんだけどねーでもぱっと一目見て非常事態じゃないよーって分かるようにこれを掲げるんだ」

 ちなみに領主様の許可も衛兵隊長からの許可もちゃあんと出てるからねーと、ウィル兄さんは笑顔でそう説明を付け加えた。

 なるほどと頷いている人も多いから、その情報は必要だったらしい。

「だが旗だけでは…きっと偽装は不十分だと私は思う。そこで皆に頼みたい事があるんだ。街中を移動する間は、これから訓練に赴くような気持ちで移動をして欲しい」

 ああ、なるほど。牙蛇盗賊団を潰してやるとか、盗賊を倒してやるとか、アキトとキースを奪い返してやるとかそういう事を考えていると、表情の物騒さで本来の目的がバレるかもしれないという話か。

 そう言われてみれば、確かにそれもそうだなと納得がいった。

「まかせろ、俺達衛兵は演技派だぜー」

 まるでやじのような衛兵からの声に、ファーガス兄さんは薄っすらと笑って頷いた。

「我ら騎士とて、そういう演技ぐらいはできます!」

 完遂して見せますっとまるで衛兵に張り合うように声を上げた騎士も、ファーガス兄さんから微笑を向けられて嬉しそうだ。

「使用人一同、全力を尽くします」

 すっともう一度頭を下げた使用人たちは、ファーガス兄さんの薄い笑みを向けられてもさすがに落ち着いた反応だった。

「よし、ではウマに乗って、移動を開始しよう」

 ファーガス兄さんの号令で、俺達は揃って訓練場を後にした。



 ウマに乗った五十名ほどの騎士と衛兵、そして使用人がゾロゾロと移動する姿は、予想通りこの上なく目立っている。

 先ぶれが先行し、これから騎士と衛兵が訓練に出発すると一報を入れてくれているからか、森を抜け街中に入っても速度は変わらなかった。

 主街道を歩いている人が、誰もいないんだよな。何よりもすごいのは、先ぶれに出逢わなかった人も確実にいると思うんだが、周りが止めてくれている事だろう。

「これは…ありがたいな」
「ああ、後できちんと礼を言わないとな」

 ファーガス兄さんとマティさんはそんな風に言い合いながら、穏やかに先頭を進んでいく。

「あ―本当に、うちの領民たちってすごいよねー」
「ええ、本当にすごいです」

 その後ろを追いかける形のウィル兄とジルさんも、嬉しそうに笑い合っている。

 俺はと言うとそんな二組の後ろに隠れるようにして、曖昧な笑みを浮かべてウマに乗っている。
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