生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1074.ラスさん

 ドアが開いた音は、結構…いやかなり大きかった。あれだけ盛り上がっていた使用人のみんなの声がぴたりと止まって、全員がドアの方を見るくらいの音だったからね。

 みんなはじっとドアの方を見つめているけど、俺は反射的に視線を彷徨わせてシュリくんの姿を探した。

 シュリくんは怖がりなのに、急にあんな大きな音がして大丈夫なのかな?怯えてないかな?

 そう思って心配になっちゃったからだ。キースくんも同じ考えだったのか、隣で全く同じ動きをしてたよ。友達思いのキースくん、可愛いな。

 ちなみに発見したシュリくんは、部屋の隅っこでまるで守るように立っている馬さんの後ろからひょこっと顔を出してたよ。きょとんとした顔でドアの方を見つめているから、驚いてるだけで怯えてはいないみたいだ。

 うーん、さっきから思ってたんだけどハルの乗ってた馬さん、すっごくシュリくんを気に入ってるよね。それとも保護者意識とかなんだろうか。

 どういう考えなのかは俺には分からないけど、ずっとシュリくんの事を気にかけて動いてくれてるみたいなんだよね。

 あとであの馬さんには感謝の差し入れに行こうと決めながら、俺はようやくドアの方へと視線を向けた。

「…全く…ドアはもう少し静かに開いて貰わないと困ります。料理長ともあろう人が、他の使用人に示しがつかないでしょう?」

 そこではボルトさんにこんこんと説教をされている、ラスさんの姿があった。

「あ、ラスさん!」
「本当だ、ラスさんだー!」

 思わず名前を呼んでしまった俺とキースくんをちらりと見て、ボルトさんはふうとひとつ息を吐いてからラスさんに道を譲った。

 さっきまでの説教を綺麗に聞き流していたらしいラスさんは、何事も無かったかのようにすごい勢いで俺とキースくんに近づいてきた。

「二人とも、怪我は…?」

 真剣な目に圧倒されそうになりながらも、俺はいいえと首を振った。

「俺もキースくんも、今回の騒ぎでは一度も怪我はしてないです」

 ハルにもケイリーさんにも、それは一回怪我をしたけど回復ポーションを使ったって意味か、それとも完全に無傷ってって意味かって確認されたからね。

 今回はちゃんと先手を打って、そう答えてみた。

「そうか…怪我はしていないんだな…良かった」

 ホッと息を吐いたラスさんの肩から、すこしだけ力が抜けたのが分かった。

「つらい思いは…しなかったか…?」
「いいえ、キースくんが機転を利かせてくれたので…キースくんはすごいんですよ」

 安心してもらえるようにと笑顔でそう答えれば、一体いつの間に来ていたのかいつもの服に着替えたケイリーさんが興味深そうに口を開いた。

「その話しはぜひ聞きたいな」

 あ、キースくんのすごさと、シュリくんのすごさを説明して良いんだ。たっぷり話しますよと笑顔で頷こうとしたけれど、それよりも前にラスさんが声をあげた。

「ちょっとだけ待ってくれ。もうひとつだけ先に聞きたい事があるんだ」
「ん?どうしたラス?」
「アキト、キース様、二人とも飯は食えていたのか?今、腹は減ってるか?」

 わざわざ領主様の言葉を遮ってまで聞いてくれるのが、それなんだ。さすがラスさんだと感心しながら、俺はすぐに答えた。

「俺は、まだお腹は減ってないです。お昼ごはんにはキースくんが持ってた、ラスさんのパンを食べさせて貰いましたよ!」

 あれはいつも領主城の料理で出してくれるのとはまた一味違って、木の実がごろごろ入った少し噛み応えのあるパンだった。すっごく美味しかったんだよね。

「パン…?」
「ほら、前にいざと言う時にって持たせてくれた、木の実の入った固めのパンだよ。すっごく美味しかった!」

 ニコニコ笑顔でそう答えたキースくんに、思わずあれは美味しかったよねーと同意してしまったよね。

 ラスさんは少し考えてから、ああ…あれかとぽつりと呟いた。

「気に入ったなら、領主城でも出そうか?」
「ぜひ!お願いします!」
「僕も食べたい!」

 二人揃って声を上げれば、ラスさんはふわりと笑みを浮かべた。

「もちろんだ」
「それ、俺も食べてみたいな。アキトとキースが気に入ったパンなら、きっと俺も好きだと思うんだ」

 ハルが笑顔でそう声をかければ、ラスさんはぶっきらぼうに分かったと答えてからケイリーさんに視線を向けた。

「こっちの話しは終わった。俺は夕飯の仕込みに戻る」
「ああ、探索隊のみんなは今夜は帰って来ないかもしれないが…頼んだ」
「まかせろ」

 ラスさんはそれだけ言うと、颯爽と部屋を出ていった。

 本当に俺達の安否確認のためだけに来てくれたんだな。
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