生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1088.【ハル視点】賑やかな住民

 窓からこっそりと外を覗いていた俺達は、父さんと護衛の騎士たちが出発するのをしっかりと確認した。用心してしばらく待って時間を開けてから、揃って衛兵詰所を出発する。移動するのはアキトと俺にキースと、シュリ、そして大人のウマの3人と2頭だ。

 護衛を連れて歩く父さんの姿は、息子の俺が言うのもなんだが様になる。住民からの人気も高い父だから、きっと大騒ぎになるんだろうな。

 そう予想はしていたが、まさかここまでとは思わなかったな。

 先をいく父さんたちの一団がどの辺りにいるかは、簡単に把握できるぐらいの大騒ぎだ。

「わー領主様だー!」
「ケイリー様ぁ!」
「カッコいいー!!」
「おお、手を振って下さったぞ!」

 そんな住民たちの歓声が、俺たちが進む道の先の方から常に聞こえてくる。

 ちなみにキースは父様はすごいんだと誇らしげだ。アキトは素直に感心しているみたいで、すごい人気だねーと笑顔を見せている。

「いやー今日は領主様を見れるとか、すっげぇ良い日だな!」
「そうだなー今日は良い日だ!」

 そんな事を笑顔で言い合っている住民の声が聞こえてきたかと思えば、運悪く会えなかった住民の嘆きの声も聞こえてくる。

「は?領主様がここを通ったのか?」
「ああ、確かに通ったぞー!この目でばっちり見たからな!」

 出遅れた奴らが声をかければ、自慢げな答えが返る。

「はー嘘だろ?嘘だって言ってくれよ!俺たったいま来たから見れてねぇ!」
「それは残念だったな」
「今朝の合同訓練に出発するファーガス様とマチルダ様の姿は見たんだが…」
「え、俺はそっちを見れてない!良いなー!」

 大声でお互いを羨むような会話している冒険者たちの隣をそっとすり抜けて、俺たちはさらに足を動かした。

 人波が父さん達と一緒に移動しているおかげで、意外にもこの辺りはそこまで混雑してはいない。とはいえ人が全くいないわけでも無いんだが。

 シュリもウマもこういう状況には慣れているのか、落ち着いた様子で人の隙間を上手く通り抜けて進んでくれている。

 これだけの人を一気に見た事が無いだろうシュリは、もう少しぐらいは動揺するか怖がるかと思っていたんだが。思っていたよりもかなり落ち着いている。

 この調子なら問題なく領主城まで移動できそうだと考えていると、不意にアキトがすれ違ったウマを目で追っているのに気がついた。

 いつもみたいにウマに見惚れているような視線なら、何とも思わなかっただろう。だが今日の視線は、何となくそういうものでは無い気がする。

 何かをじっと考え込んでいるように見える。

「アキト…どうかした?」

 分からない事は尋ねるに限るなと声をかければ、アキトはすぐにハッと俺に視線を向けた。

「あ、ごめん。ただ馬を見つめてただけ」
「ああ、確かに街中にウマが入れる場所はそう多くないもんね」

 驚くのも無理は無いと声をかければ、アキトは不思議そうに首を傾げた。あれ、それが気になっていたわけじゃないのか。

 基本的にトライプールでもその他の街でも、ウマが集められるような場所はどこも必ず壁の外となっている。

 トライプールの場合は壁の外にある馬車乗り場に、連れてきた馬が預けられるようになっている。便利だねなんて言われているが、あれは逆に考えればよほどの理由が無い限りウマを壁の中には入れないという意味でもある。

 本気で暴れられたら抑え込むのが大変だからという理由があるんだよな。

「もしかして…他の街は禁止されてたの?」
「ああ、そこも説明してなかったか」

 俺の説明不足だなと反省すると、アキトは慌てた様子でそんな事は無いよと声をかけてくれた。ああ、アキトはやっぱり優しい子だな。

「というか…ここは馬が入っても良いんだね?」
「ああ、ウェルマール領都はウマの出入りを一切禁じてないんだ」

 他の場所から来た旅人ですら、街中にウマを連れて入る事ができる。

「まあ、さすがに怒ってるウマとか、今にも暴れそうなウマは入り口で止めて落ち着かせるけどな」
「あ、僕もいちどだけ見た事があるんだけど、衛兵のおじいちゃんが飛び乗ってねーそのまま外に走りに行ってたよ」

 キースの説明に、アキトはえっと大きく目を見開いた。そのままさっとこちらを向いたアキトに、俺は苦笑しながら答えた。

「ああ、走り足りなくて暴れたい気持ちのウマには、それが一番良い手だからな」

 気が済むまで走りきれば自然と自分で街に帰ろうとするからなーと、あっさりと答えて笑みを浮かべれば、アキトはそういうもの?と首を傾げた。

 それが一番街への被害が少ないとも言える。

 建物に使われている建材のヴァコクはかなり頑丈な素材ではあるが、本気で暴れるウマに耐えられるかどうかは――いやさすがに無理だろうな。

「あ、そろそろ森の入口だね」

 不意に上がったキースの声で視線を向ければ、確かに遠くの方に森の入口が見えてきていた。

 ここまでは騒ぎながらついてきていた住民たちも、森に入ればそれ以上は追わないという暗黙のルールがある。それぞれが自由に去っていくのを見守ってから、俺達はゆっくりと森に足を踏み入れた。

 あとは曲がりくねった森の中の道を、ひたすら歩いてくだけだ。しばらく歩いていくと、やがて木々の間から立派な領主城の姿が見えてくる。

 ふと足を止めたアキトとキースは、感慨深そうにその城の姿を見つめている。

 ああ、二人が無事にここに帰って来れた事を、心から神に感謝しよう。
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