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1090.【ハル視点】心配性のラス
すごい勢いでドアが開いた音は、かなりの大きさで部屋に響いた。
あれだけ盛り上がっていた使用人のみんなの声がぴたりと止まって、全員がドアの方を見るくらいの音だった。
使用人たちの何人かは隠している武器に手が伸びかけているし、それ以外の使用人もアキトとキースをどう逃がすかと考えているような素振りだな。
もう既に領主城の中だからそうそう変な奴はいないだろうと分かっていても、きちんと警戒するのはさすがうちの使用人だと思う。
警戒を込めてみんながじっとドアの方を見つめているなか、アキトとキースだけはうろうろと視線を彷徨わせていた。
どうしたんだろうと考えたのは一瞬だけだった。こんな大きな音がいきなりしたら、怖がっているだろうシュリを探しているんだとすぐに理解できたから。
アキトとキースとほぼ同時に発見したシュリは、部屋の隅でまるで守るように立っているウマの後ろからひょこっと顔を出していた。きょとんとした顔でドアの方を見つめているから、どうやらただ驚いてるだけで特別怯えてはいないみたいだ。
それにしてもあのウマがあんな風に庇うとは思わなかったな。俺を乗せて堂々と走り切ってくれる姿から、頼れるウマだとは思っていたが幼いウマに優しいんだろうか。そういえばあれだけ幼いウマを見るのは初めてか。今まで大人のウマ以外は、見た事が無いかもな。
そんな事をぼんやりと考えている間に、ドアからすたすたとラスが入って来た。アキトとキースの方へと駆け寄ろうとした所を、ボルトにがしりと確保されて説教が始まっている。
「…全く…ドアはもう少し静かに開いて貰わないと困ります。料理長ともあろう人が、他の使用人に示しがつかないでしょう?」
まあそうなるよな。ボルトの立場的にも、これだけの使用人の前で注意しないわけにもいかないだろう。
「あ、ラスさん!」
「本当だ、ラスさんだー!」
思わずと言った様子で、アキトとキースが嬉しそうにラスの名前を呼んだ。二人ともラスの事が大好きだからな。そんな二人の様子をちらりと見て、ボルトはふうとひとつ息を吐いてからラスに道を譲った。
後でまた説教はするんだろうが、今は許してやろうという意思表示だ。
さっきまでの説教を綺麗に聞き流していたラスは、何事も無かったかのようにすごい勢いでアキトとキースとの距離を詰めた。
「二人とも、怪我は…?」
料理に関すること以外でこんなに真剣な表情をしたラスは、初めてみたかもしれないな。アキトはすぐにいいえと首を振った。
「俺もキースくんも、今回の騒ぎでは一度も怪我はしてないです」
お、その言い方は賢いな。さすがアキトだ。俺と父さんが質問責めにしてしまったが、その経験をきちんと活用してくれている。
「そうか…怪我はしていないんだな…良かった」
ホッと息を吐いたラスの肩から、すこしだけ力が抜けたのが分かった。
「つらい思いは…しなかったか…?」
「いいえ、キースくんが機転を利かせてくれたので…キースくんはすごいんですよ」
ニコニコと嬉しそうにアキトがそう答えれば、ラスの後ろからこっそりと部屋に入ってきていた父さんが興味深そうに口を開いた。
「その話しはぜひ聞きたいな」
え、聞いてくれるの?
アキトはそう言いたそうに目をキラキラと輝かせて頷こうとしたけれど、それよりも前にラスが声をあげた。
「ちょっとだけ待ってくれ。もうひとつだけ先に聞きたい事があるんだ」
「ん?どうしたラス?」
何か重要な事か?と首を傾げた父さんに目礼をしてからラスは尋ねた。
「アキト、キース様、二人とも飯は食えていたのか?今、腹は減ってるか?」
「俺は、まだお腹は減ってないです。お昼ごはんにはキースくんが持ってた、ラスさんのパンを食べさせて貰いましたよ!」
「パン…?」
ラスは不思議そうにそう呟いた。どのパンだ?と思うぐらい、二人にパンを差し入れしてるんだろうな。
「ほら、前にいざと言う時にって持たせてくれた、木の実の入った固めのパンだよ。すっごく美味しかった!」
ニコニコ笑顔でそう答えたキースに、あれは美味しかったよねーとアキトも笑顔で同意している。
うん、二人が捕まっている間も美味しいものが食べられていたなら良かったな。
少し考えていたラスも、ああ…あれかとぽつりと呟いた。
「気に入ったなら、領主城でも出そうか?」
「ぜひ!お願いします!」
「僕も食べたい!」
二人が揃って声を上げれば、ラスはふわりと笑みを浮かべた。
「もちろんだ」
「それ、俺も食べてみたいな。アキトとキースが気に入ったパンなら、きっと俺も好きだと思うんだ」
俺も笑顔でそう声をかければ、ラスはぶっきらぼうに分かったと答えてから父さんに視線を向けた。
「こっちの話しは終わった。俺は夕飯の仕込みに戻る」
「ああ、探索隊のみんなは今夜は帰って来ないかもしれないが…頼んだ」
「まかせろ」
ラスはそれだけを言うと、颯爽と部屋を出ていった。あのラスが、料理の途中で抜け出してきたって事だけでも、信じられない事態だからな。
あれだけ盛り上がっていた使用人のみんなの声がぴたりと止まって、全員がドアの方を見るくらいの音だった。
使用人たちの何人かは隠している武器に手が伸びかけているし、それ以外の使用人もアキトとキースをどう逃がすかと考えているような素振りだな。
もう既に領主城の中だからそうそう変な奴はいないだろうと分かっていても、きちんと警戒するのはさすがうちの使用人だと思う。
警戒を込めてみんながじっとドアの方を見つめているなか、アキトとキースだけはうろうろと視線を彷徨わせていた。
どうしたんだろうと考えたのは一瞬だけだった。こんな大きな音がいきなりしたら、怖がっているだろうシュリを探しているんだとすぐに理解できたから。
アキトとキースとほぼ同時に発見したシュリは、部屋の隅でまるで守るように立っているウマの後ろからひょこっと顔を出していた。きょとんとした顔でドアの方を見つめているから、どうやらただ驚いてるだけで特別怯えてはいないみたいだ。
それにしてもあのウマがあんな風に庇うとは思わなかったな。俺を乗せて堂々と走り切ってくれる姿から、頼れるウマだとは思っていたが幼いウマに優しいんだろうか。そういえばあれだけ幼いウマを見るのは初めてか。今まで大人のウマ以外は、見た事が無いかもな。
そんな事をぼんやりと考えている間に、ドアからすたすたとラスが入って来た。アキトとキースの方へと駆け寄ろうとした所を、ボルトにがしりと確保されて説教が始まっている。
「…全く…ドアはもう少し静かに開いて貰わないと困ります。料理長ともあろう人が、他の使用人に示しがつかないでしょう?」
まあそうなるよな。ボルトの立場的にも、これだけの使用人の前で注意しないわけにもいかないだろう。
「あ、ラスさん!」
「本当だ、ラスさんだー!」
思わずと言った様子で、アキトとキースが嬉しそうにラスの名前を呼んだ。二人ともラスの事が大好きだからな。そんな二人の様子をちらりと見て、ボルトはふうとひとつ息を吐いてからラスに道を譲った。
後でまた説教はするんだろうが、今は許してやろうという意思表示だ。
さっきまでの説教を綺麗に聞き流していたラスは、何事も無かったかのようにすごい勢いでアキトとキースとの距離を詰めた。
「二人とも、怪我は…?」
料理に関すること以外でこんなに真剣な表情をしたラスは、初めてみたかもしれないな。アキトはすぐにいいえと首を振った。
「俺もキースくんも、今回の騒ぎでは一度も怪我はしてないです」
お、その言い方は賢いな。さすがアキトだ。俺と父さんが質問責めにしてしまったが、その経験をきちんと活用してくれている。
「そうか…怪我はしていないんだな…良かった」
ホッと息を吐いたラスの肩から、すこしだけ力が抜けたのが分かった。
「つらい思いは…しなかったか…?」
「いいえ、キースくんが機転を利かせてくれたので…キースくんはすごいんですよ」
ニコニコと嬉しそうにアキトがそう答えれば、ラスの後ろからこっそりと部屋に入ってきていた父さんが興味深そうに口を開いた。
「その話しはぜひ聞きたいな」
え、聞いてくれるの?
アキトはそう言いたそうに目をキラキラと輝かせて頷こうとしたけれど、それよりも前にラスが声をあげた。
「ちょっとだけ待ってくれ。もうひとつだけ先に聞きたい事があるんだ」
「ん?どうしたラス?」
何か重要な事か?と首を傾げた父さんに目礼をしてからラスは尋ねた。
「アキト、キース様、二人とも飯は食えていたのか?今、腹は減ってるか?」
「俺は、まだお腹は減ってないです。お昼ごはんにはキースくんが持ってた、ラスさんのパンを食べさせて貰いましたよ!」
「パン…?」
ラスは不思議そうにそう呟いた。どのパンだ?と思うぐらい、二人にパンを差し入れしてるんだろうな。
「ほら、前にいざと言う時にって持たせてくれた、木の実の入った固めのパンだよ。すっごく美味しかった!」
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うん、二人が捕まっている間も美味しいものが食べられていたなら良かったな。
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「もちろんだ」
「それ、俺も食べてみたいな。アキトとキースが気に入ったパンなら、きっと俺も好きだと思うんだ」
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