生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1112.【ハル視点】夕食会

 父さんの思いつきから決まった、今日は使用人も一緒にご飯を食べようというその提案は、すぐさま領主城中の使用人たちの間で広まったらしい。

 なんでも緊急連絡なみの速さで城の中を走り抜けたというぐらいだから、どれだけこの提案が歓迎されたかが良く分かるな。

 つまりはアキトとキースがどれだけ好かれているのか――という話しでもあるんだが。

「失礼いたします」
「領主様のお心遣いに感謝します」
「あの伝令は本当ですか?」
「ケイリー様、ありがとうございます!」

 そんな事を口々に言いながら、部屋にいなかった使用人たちもぞろぞろとやって来る。父さんは頷きを返したり返事をしたりと、なかなかに忙しそうだ。

 それにしても思っていた以上に人が多いな。これだけの人数となると、現在仕事中の人以外のほぼ全ての使用人がこの部屋の中に集まっているようだ。

 まあ部屋に入れるようなら別に問題は無いかと、俺は隣のアキトに視線を戻した。

 どんどんテーブルやいすの配置が変えられていく部屋の隅で、アキトはいまシュリの食事のための魔力を練っている。

 ウマに関してはひどく心配性のギュームが、もしよろしければこのウマ様にも食事をとアキトにお願いしに来たからだ。まあ頼まれなくても、アキトならシュリくんにご飯をあげたいと言っていたとは思うんだが。

「お腹空いてる?」

 使用人たちがバタバタと移動しているからとあえて名前は呼ばずにそう問いかけたアキトに、シュリは何も言わずにただそっとその顔を寄せた。まるで甘えるような仕草に、アキトは笑みを浮かべてすぐに魔力を練り始めた。

 ぐんぐんと魔力を吸収していたシュリだが、しばらくすると無言のままアキトの手にすりっと頭を寄せた。多分これはもういらないという意思表示なんだろうな。

 それにしても、ここまで言葉を話さない事を徹底できるなんて、シュリはすごい子だな。

 食事を終えたシュリとそれを静かに見守っていたウマは、二頭揃ってギュームに連れられ部屋から出ていった。何があろうとウマを第一に守ろうとするような奴だから、シュリはギュームに預けるのが一番だからな。

 一応こっそりと、シュリにギュームと行くのは嫌かどうかは聞いたんだがな。シュリの返事はギュームにすりっと頭を寄せる事だったよ。

 まあギュームはびっくりするぐらい大喜びして、ちょっと面倒だったんだが。



 しばらく経ってから、ラスは数人の料理人たちを連れて部屋に戻ってきた。手にはそれぞれカートの魔道具を押している。使用人たちが待ってましたとラスの方へと視線を向けた。

「手が空いている者は、手伝ってくれ」

 そんなラスの声かけで率先して使用人たちが動いた結果、驚くほど短時間で食事の用意までが完了した。

「もう料理が終わっているなら、ラスも一緒に食べないか?」

 父さんからのそんな誘いの言葉に、ラスはたしかに後は盛り付けるだけだが…と何故かそこで言葉を濁した。

 何か不都合でもあるのかと答えの続きを待っていると、不意にラスの視線が俺を捕らえた。

「良いのか?」

 なぜそこで俺に許可を取るんだ?

 ――ああ、アキトのためか。

 アキトは厳密にはまだ領主一家の人間ではないから父さんの許可だけでは足りないと、まずアキトと伴侶候補である俺の許可を得るべきだろうという事か。

「もちろん。アキトもキースも喜ぶよ」
「そうか…二人も良いか?」

 今度はアキトとキースに視線を向けて、ラスは尋ねた。

「もちろん!」
「嬉しい!ラスと一緒に食事なんていつぶりだろ」

 キースのニコニコ笑顔に、アキトも嬉しいねーと満面の笑みで答えている。二人から大歓迎された形のラスは、照れくさそうに笑いながらも俺達のテーブルに同席する事になった。

「よし、それではみんな」

 父さんの声に、部屋の中はしんっと静まり返った。

「キースとアキト、二人の無事な帰還に」

 乾杯とグラスを持ち上げた父さんに、部屋の中の全員がそっとグラスを掲げた。



 静かな乾杯が終わるなり、部屋の中はすぐにわっと賑やかになった。

「わ、今日は肉料理が多いな?」
「いや、待て。見たことないパンもあるぞ」
「すごい種類だな」
「うわー今日も美味しそう!」
「しかも絶対いつもの料理より品数が多いよな」
「ラスさんの料理は久々じゃないか?」
「あ、見て!私の好きな果物まであるー!」

 そんな嬉しそうな会話や笑い声が、あちこちから聞こえてくる。

 俺達にとってはいつもの光景だが、使用人も一緒の夕食会に初めて参加するアキトにとってはかなり新鮮なものだったようだ。

 キョロキョロと周りの様子を伺うアキトの目は、大きく見開かれている。急に賑やかになった事に驚いてはいるようだが、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

 さっきのみんなの雰囲気からして、静かに食事をすると思っていたんだろうな。あまりにも可愛いアキトの反応に、堪え切れなかった笑いがついついこぼれてしまった。

「アキト、びっくりした?」

 クスクスと笑いながらの質問になったが、アキトは特に気にした様子もなくすぐに答えてくれた。

「あ、うん。急に賑やかになったから…ちょっとね」

 そう言うなり、アキトはハッと顔をあげると慌てて言葉を続けた。

「いや、俺はこの賑やかな感じは、すごく好きな雰囲気なんだけどね!」

 なるほど。さっきの言葉は、聞きようによっては嫌がっていると取られるかもと、心配になって慌てていたんだな。

「うん、こういうのがアキトが好きな雰囲気だっていうのは、俺は知ってるよ。それにびっくりはしてたけど、さっきも表情は嬉しそうだったからね」

 ここにいる誰もきっと誤解なんてしないよと続ければ、アキトはなら良かったと照れ笑いを浮かべた。同じテーブルに座っている父さんとキース、それにラスも、アキトを安心させるような笑みを浮かべている。

 周りの使用人たちからよくぞ誤解を解いてくれたと言わんばかりの視線が集まってきているのに俺は苦笑を洩らした。



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