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1113.【ハル視点】賑やかな
「乾杯の時は静かだったのに急に賑やかになったのには、一応ちゃんとした理由はあるんだよ」
微笑ましそうに俺達のやりとりを見守っていた父さんは、そう前置きをしてからアキトに詳しい説明を始めた。
そう頻繁にある事ではないとはいえ、ここウェルマール領では身分を気にせずに領主一家と使用人が一緒に食事をする事もたまにはある。
「そういう時にはね、数代前の領主が決めた絶対に守るべき決まり事っていうのがいくつかあるんだ」
「絶対に守るべき決まり事…」
そう呟いたアキトは、そこでゴクリとつばを飲み込んだ。
緊張した表情からして、これは間違いなく何か厳しい規則があるんだと誤解されてる…よな。思わせぶりな父さんの言い方に、続きを知っているラスとキースは既に苦笑を洩らしている。
「うん。そのうちの一つがね、まず最初にその場にいる領主一家の人が乾杯もしくは挨拶をするっていうものなんだ」
え、そこ?とアキトは驚いた様子で、何度も目を瞬いている。
「ここまで聞いたら、厳しい決まり事があるんだなーって思うかもしれないね?でもね…」
父さんはまるで悪戯っ子のような笑顔で続けた。
「この挨拶が終わった後は、身分差なんて気にせずに自由に食べて騒いでも良いっていう区切りの意味もあるんだ」
かつて魔物の氾濫であるスタンピードが、頻繁に起こる時期があった。その頃には領主一家と使用人、さらには衛兵や騎士、一般市民までが一緒に食事を取る機会も多かった。
そういう時に、変に気を使われたくないと領主がわざわざ定めて広めた決まり事だからね。
「区切りですか」
「そう。だからみんな挨拶が終わるなり自由に盛り上がっていたでしょう?」
「それであんな風に盛り上がってたのか…」
納得がいったと頷いているアキトに、俺は横から声をかける。
「そうなんだ。普段のうちの使用人なら、俺達がいる場所で料理の感想とかは口にしないからね。別に気にせずに話してくれても良いんだけど」
そう言いながらちらりと周りを見れば、会話が聞こえていたらしい使用人たちはぶんぶんと首を振っている。
「そのお気持ちはとっても嬉しいですが、それを許してしまうとけじめが無くなったりと色々と問題が起きる恐れがありますから――お気持ちだけ頂いておきますね」
ちょうど飲み物を運んでいたボルトは、通り過ぎながらもにっこりと笑みを浮かべながらそう告げた。なるほど、そこはけじめの問題なのか。
「うちの使用人はみんなしっかりしてるからねー」
ふふふと笑いながら自慢に続けられた父さんからの褒め言葉に、使用人たちは今度は照れたり嬉しそうにしたりと忙しそうだ。ボルトすら誇らし気な表情だから、よっぽど嬉しかったんだろうな。
「ちなみに今日みたいな場に身内じゃない人が混ざっている場合には、使用人たちはきっちり礼儀を守ってくれるんだよ」
父さんは笑顔でそう続けた。
領主一家から、そうしろと命令をした事はない。だが使用人との距離が近すぎるからともし領主様一家が軽んじられたら困ると、いつも徹底されているんだよな。
本当にできた使用人たちだと思う。
「まあ今日は身内だけだから、思いっきり食事や宴を楽しめるだろう」
にっこり笑顔でさらりとそう言った父さんに、アキトは嬉しそうにふわりと笑みをこぼした。自分も身内扱いしてもらえるんだとか、思っていそうだな。身内扱いされていなかったら、あんなに探索隊に人が集まらないし、この夕食会だって無かったかもしれないのに。
これはきちんと説明すべきかと考えていると、父さんがハッと顔をあげた。
「あ、長々と話してごめんね。ほら、早く食べよう。ラスの美味しい料理が冷めてしまうよ」
父さんに促されて、俺達は揃って目の前の料理に視線を向けた。
ラスが主導して料理人全員で作ったという料理は、今日も文句なしにどれを食べても美味かった。
かなり手間のかかるものもあるようだから、おそらく探索隊が出発する前から仕込みをしていた料理も混ざっているんだろう。
アキトとキースを助けに行けなかったラスの、全ての気持ちがこもった料理とも言えるかもしれない。
もしかしたらここに同席させたのは、二人を助けに行く事ができなかったラスへの穴埋めだったりするんだろうか。
「これ、すっごく好きな味です!ラスさん!」
「そうか。好きならまた作ろう」
「僕はあれが美味しかったなー」
「これが好きなら他にも食べさせたい料理がある」
嬉しそうに料理の感想を口にする二人に、ラスも目を細めながらそう返している。
うん、アキトもキースもそしてラスも、楽しそうで何よりだ。
ある程度食事が終わると、今度は一部の使用人たちが二人の無事を記念してと歌を披露し始めた。
いつの間に練習したのか、数人が声を重ねての歌声はかなりの完成度だった。俺と父さんも拍手はしたんだが、アキトとキースは手が痛くならないか心配になるぐらい力強く拍手をしていた。
それを見ていた他の使用人たちも、そんなに喜んでくれるなら俺達もと今度は楽器を演奏し始める。更に一押しの果物を食べてくださいとテーブルまで差し入れに来る奴がいたりと、本当に自由な夕食会だった。
微笑ましそうに俺達のやりとりを見守っていた父さんは、そう前置きをしてからアキトに詳しい説明を始めた。
そう頻繁にある事ではないとはいえ、ここウェルマール領では身分を気にせずに領主一家と使用人が一緒に食事をする事もたまにはある。
「そういう時にはね、数代前の領主が決めた絶対に守るべき決まり事っていうのがいくつかあるんだ」
「絶対に守るべき決まり事…」
そう呟いたアキトは、そこでゴクリとつばを飲み込んだ。
緊張した表情からして、これは間違いなく何か厳しい規則があるんだと誤解されてる…よな。思わせぶりな父さんの言い方に、続きを知っているラスとキースは既に苦笑を洩らしている。
「うん。そのうちの一つがね、まず最初にその場にいる領主一家の人が乾杯もしくは挨拶をするっていうものなんだ」
え、そこ?とアキトは驚いた様子で、何度も目を瞬いている。
「ここまで聞いたら、厳しい決まり事があるんだなーって思うかもしれないね?でもね…」
父さんはまるで悪戯っ子のような笑顔で続けた。
「この挨拶が終わった後は、身分差なんて気にせずに自由に食べて騒いでも良いっていう区切りの意味もあるんだ」
かつて魔物の氾濫であるスタンピードが、頻繁に起こる時期があった。その頃には領主一家と使用人、さらには衛兵や騎士、一般市民までが一緒に食事を取る機会も多かった。
そういう時に、変に気を使われたくないと領主がわざわざ定めて広めた決まり事だからね。
「区切りですか」
「そう。だからみんな挨拶が終わるなり自由に盛り上がっていたでしょう?」
「それであんな風に盛り上がってたのか…」
納得がいったと頷いているアキトに、俺は横から声をかける。
「そうなんだ。普段のうちの使用人なら、俺達がいる場所で料理の感想とかは口にしないからね。別に気にせずに話してくれても良いんだけど」
そう言いながらちらりと周りを見れば、会話が聞こえていたらしい使用人たちはぶんぶんと首を振っている。
「そのお気持ちはとっても嬉しいですが、それを許してしまうとけじめが無くなったりと色々と問題が起きる恐れがありますから――お気持ちだけ頂いておきますね」
ちょうど飲み物を運んでいたボルトは、通り過ぎながらもにっこりと笑みを浮かべながらそう告げた。なるほど、そこはけじめの問題なのか。
「うちの使用人はみんなしっかりしてるからねー」
ふふふと笑いながら自慢に続けられた父さんからの褒め言葉に、使用人たちは今度は照れたり嬉しそうにしたりと忙しそうだ。ボルトすら誇らし気な表情だから、よっぽど嬉しかったんだろうな。
「ちなみに今日みたいな場に身内じゃない人が混ざっている場合には、使用人たちはきっちり礼儀を守ってくれるんだよ」
父さんは笑顔でそう続けた。
領主一家から、そうしろと命令をした事はない。だが使用人との距離が近すぎるからともし領主様一家が軽んじられたら困ると、いつも徹底されているんだよな。
本当にできた使用人たちだと思う。
「まあ今日は身内だけだから、思いっきり食事や宴を楽しめるだろう」
にっこり笑顔でさらりとそう言った父さんに、アキトは嬉しそうにふわりと笑みをこぼした。自分も身内扱いしてもらえるんだとか、思っていそうだな。身内扱いされていなかったら、あんなに探索隊に人が集まらないし、この夕食会だって無かったかもしれないのに。
これはきちんと説明すべきかと考えていると、父さんがハッと顔をあげた。
「あ、長々と話してごめんね。ほら、早く食べよう。ラスの美味しい料理が冷めてしまうよ」
父さんに促されて、俺達は揃って目の前の料理に視線を向けた。
ラスが主導して料理人全員で作ったという料理は、今日も文句なしにどれを食べても美味かった。
かなり手間のかかるものもあるようだから、おそらく探索隊が出発する前から仕込みをしていた料理も混ざっているんだろう。
アキトとキースを助けに行けなかったラスの、全ての気持ちがこもった料理とも言えるかもしれない。
もしかしたらここに同席させたのは、二人を助けに行く事ができなかったラスへの穴埋めだったりするんだろうか。
「これ、すっごく好きな味です!ラスさん!」
「そうか。好きならまた作ろう」
「僕はあれが美味しかったなー」
「これが好きなら他にも食べさせたい料理がある」
嬉しそうに料理の感想を口にする二人に、ラスも目を細めながらそう返している。
うん、アキトもキースもそしてラスも、楽しそうで何よりだ。
ある程度食事が終わると、今度は一部の使用人たちが二人の無事を記念してと歌を披露し始めた。
いつの間に練習したのか、数人が声を重ねての歌声はかなりの完成度だった。俺と父さんも拍手はしたんだが、アキトとキースは手が痛くならないか心配になるぐらい力強く拍手をしていた。
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