生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,116 / 1,561

1115.【ハル視点】メイドと遭遇

 手を繋いだまま自分たちの部屋を出た俺達は、二人でゆっくりと長い廊下を歩き出した。空腹ではあるんだが、別にこの後にずらせない予定があるわけでもないからな。

 すこしでも長くアキトと手を繋いでいたいからとは、さすがに言葉にはできないな。

「とりあえず、まずは応接室に行ってみようか」
「うん、そうだね」

 そんな会話をしながらのんびりと歩いていると、角を曲がった所で何かを両手に抱えた一人のメイドと出くわした。昨日の食事会でアキトに楽器を弾いて聞かせていた、メイドのトルーサだな。

 トルーサは驚いた様子で一瞬だけ目を大きく見開いたが、次の瞬間にはさっと立ち止まって俺達に笑みを向けてきた。

「ハロルド様、アキト様、おはようございます」

 爽やかな笑顔での挨拶に、アキトと俺もにっこりと笑顔で答える。

「おはよう」
「おはようございます」

 挨拶を済ませた所で、俺はメイドが手に抱えているものをちらりと見た。それだけの仕草で、メイドはハッとした様子で口を開いた。

「失礼しました。執事長ボルトからこちらを通る許可は得ておりますが…今は表の廊下の方が早く着きますので」
「いや、それは別に問題は無いし責めるつもりも無いんだが…」

 うちのメイドが何の理由も無く、表の廊下を使って荷物を移動させる事はないと俺は知っているからな。もし許可が無かったとしても、咎めるつもりはかけらも無い。

「単純に荷物を持って表を歩くのは珍しいから、何かあったのかな?と思っただけだよ」

 安心させるために優しい声を意識しながら、俺はそう言葉を続けた。

「盗賊団のアジトに向かっていた方たちが、本日の明け方に帰って来られたんです。現在は所属・身分を問わず、全員の方に騎士団本部で休んで頂いています」

 こちらは皆様の衣服を用意したものなんですと、メイドのトルーサは控え目にそう教えてくれた。

 そうか、もう帰ってきたのか。

 あまりに早い探索隊改め殲滅隊の帰還にアキトは驚いているようだが、俺はこうなるかもなとは薄々感じていた。

 あのままの勢いで怒りをぶつけにいったなら、盗賊団のアジトでもそう苦戦しないだろうとは予想ができていたからな。ただ、そう考えていた俺でも驚いてしまうぐらいには、想像以上に早かったわけだが。

 そうだ。トルーサが知っているかどうかは賭けだが、ひとまずアキトが一番気になるだろう事だけでも聞いてみるか。

「そうなのか。思ったよりも早かったな。こちらに被害があったという報告は?」
「いえ、こちらには目立った被害は無かったと聞いています」

 すぐにそう答えてくれたトルーサのおかげで、どうやらアキトの不安も軽減されたようだ。少しだけ笑みが戻ってきている。

 良かった。

 盗賊ごときを相手にして、命にかかわるような怪我はきっとしない。そう思えるぐらい強いメンバーしかいなかったとはいえ、そこに魔物の襲撃でもあれば話しが変わってくるからな。

 思わずふーっと安堵の息を吐いたら、アキトと俺の動きがぴったりと重なった。

 そんな俺達を微笑ましそうに見つめていたメイドのトルーサは、優しい声で続けた。

「詳しくお知らせしたい所なんですが、私もあまり詳細までは聞けていないんです。今の時間なら領主様の執務室に執事長が詰めている筈ですので、詳細についてはそちらで聞いて頂けると助かります」

 知らないんですで終わらせずに、執事長が知ってるからという情報と、さらに居場所まで教えてくれるあたり、さすがトルーサだな。次期メイド長に推薦したいと、現メイド長から言われるだけの事はある。

「分かった。教えてくれてありがとう」
「情報、ありがとうございます」
「いえ、お役に立てて何よりです」

 丁寧な礼をして速足で去っていくトルーサを見送った後、アキトと俺は二人で顔を見合わせた。

「アキト、これからどうしよっか?」

 まあ答えは分かっているんだけどな。ここで被害が無いなら先にご飯食べよーなんて言うアキトは、想像もできないし。

「俺は予定変更してケイリーさんの執務室に向かいたいんだけど、ハルは?」

 そう言いつつ、アキトは少しだけ心配そうに俺の腹をちらりと見た。お腹減ってるけど大丈夫かなとか思われてるんだろうな。あの時腹の音を鳴らしてしまったばっかりに。

 俺はあえて視線になど全く気づいていませんという顔をして、笑顔で答えた。

「うん、俺も同じ意見だよ。被害がないって聞いても、やっぱり気にはなるからね」
「それじゃあお腹は空いてるけど、まずは執務室だね」

 アキトは自分もお腹は空いてるけど、という言い方で話してくれるんだな。こういう所にまで気づかいが詰まっているんだなと感心しながら、俺は口を開いた。

「ああ、そうしよう」
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。