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1117.【ハル視点】商業ギルド
もう商業ギルドの鑑定士が到着して、既に鑑定が始まっている?
俺はゆるりと首を傾げながら、口を開いた。
「ボルト。探索隊は明け方に帰って来たばかりと言ったよね」
「はい、その通りです」
ボルトはビシッと姿勢を正してから、ハキハキとした口調でそう答えた。これは多分この言葉に嘘偽りはありませんという、意思表示だろうな。
別にボルトの言葉を疑っているというわけではないんだが、それでもやっぱりそうなのかとあっさり納得はできなかった。
「…それなのに、もう商業ギルドの鑑定魔法士が…来てるのか?」
「はい、既に鑑定作業に入っていますよ」
「普段なら来るまでにもっと時間がかかるのに―――今日はすいぶんと早くないか?」
鑑定魔法が使える人というのは、基本的に多忙だ。中でも腕の良い鑑定魔法士ともなれば、多忙を極めると言って良い。商業ギルドに抱え込まれるような腕なら、なおさらだ。
俺の質問に、ボルトはにっこりと笑みを返した。
「キース様とアキト様がお戻りになった時点で、商業ギルドには数日中には盗賊団を潰せるだろうと一報を入れておきました」
事前に一報を入れたぐらいで、商業ギルドが動くわけがないだろう。良い意味でも悪い意味でも、金にならない事はしない組織だ。
「それにしても…やっぱり早すぎないか?」
「アキト様とキース様、お二人の行方についての調査に当たっていた陰護衛組から、最近の牙蛇盗賊団は商人を主に狙っていたようだという報告がありました」
それは知らなかったな。
「そうなのか?」
「ええ、ですので、商業ギルドには被害にあった商人の品がわずかでも取り戻せるかもしれないという情報も、しっかりとお伝えしておきましたよ」
なるほどと、それを餌にして呼んだのか。
商業ギルドは、商人を守るために存在していると公言している組織だ。盗品を取り戻せたなら、分かりやすく商人の利になる。そうと分かれば他の何よりも優先して動いてくれるかもねと、俺は不思議そうなアキトに説明した。
「そうなんだ」
納得した様子のアキトの横で、ボルトが口を開いた。
「それに…どうやら商業ギルドには、牙蛇盗賊団の被害にあったという商人からの届け出がいくつも来ていたらしいのです。ですがその情報を、わざと隠していたようなんですよ」
「…そうなのか?」
「はい。衛兵の調査によると、ただでさえ危険だと言われている辺境に来てくれる商人を、これ以上減らしたくなかったとそう言っていたそうですよ」
まるで辺境のためを思っての行動のような言い方をしているが、そんなものはただの言い訳だ。単純に自分たちの儲けが減るのを嫌がっただけだろう。
「それはひどいな」
「私も全ての情報を一般市民に広く公開しろとまでは言いませんが、衛兵隊にも騎士団にも、そして領主様一家にも一切情報を回していなかったのには問題があるでしょう?」
にっこり笑顔のボルトだが、目は全く笑ってない。衛兵隊と騎士団にはともかく、領主様一家にぐらいは伝えておけって顔だな。
「もしもっと早く商業ギルドが情報を回してくれていたら、もっと早く盗賊団に対処できていたかもしれないですもんね…被害にあう人も減ったかもしれない…」
悔しそうにそう呟いたアキトに、俺もボルトもそうだなと頷きを返した。
「それに…もっと早く対処できていたら、アキトもキースも攫われていなかったかも…だよね」
つまり商業ギルドは、俺の敵って事だ。今のギルド長は誰だったかなと、ついつい考えを巡らせてしまう。
「そこの所は、領主様がきっちりと抗議をしてくださいましたよ。久しぶりに本気で怒ったケイリー様を拝見しました」
ボルトはクスクスと楽しそうに笑いながら、そう教えてくれた。そうか。父さんが本気で怒ったのか。それなら少しぐらいは商業ギルドも懲りただろうか。
「それで鑑定魔法士を回してもらったんだな」
「ええ、鑑定が遅くなると、その分報告書の処理も遅くなりますからね」
「少しでも早く事件を終わらせるためだな」
「その通りです」
できるだけ早くアキトとキースに、事件は終わったと思わせたいからな。早く事件を終わらせる事に異論は無い。
「商業ギルドへの処罰は?」
どうなったんだと尋ねてみれば、王都にある商業ギルドの本部に今回の一件をきちんと報告してあると返ってきた。情報の隠蔽があった事を隠してしまえば、今度は父さんが疑われる事になるかもしれないからな。
その上で領主としては処罰は求めないとし、その代わりにと鑑定魔法士を回してもらったらしい。
なるほど。領主の名で処罰を求めれば他の商人たちにも知られて、間違いなく大事になるからな。ここは王都の商業ギルドにも、軽く恩を売っておいた形か。
今の商業ギルドのギルドマスターは、おそらく父さんは関係なくギルド本部からの処分を受けるだろう。まあこれは、わざわざアキトに説明しなくても良い事か。
「もし鑑定に興味がおありなら、ハロルド様とアキト様なら鑑定の場に顔を出しても問題は無いですが…」
「アキト、興味はある?」
「え、ううん?」
アキトは考える時間を取るでもなく、すぐさまふるふると首を振った。もしアキトが少しでも興味があるようなら顔を出そうかと思ったが、それなら用は無いな。
「俺も興味は無いな。鑑定魔法士を睨んでしまいそうだし…やめておこう」
鑑定魔法士はおそらく情報の隠蔽には関わっていないだろうが、それでもうっかり睨んでしまいそうだからな。
「かしこまりました」
すっとお辞儀をしたボルトは、食事の用意はラスに頼んでありますので応接室へどうぞと教えてくれた。
俺達が食事もせずにここに来た事に、気づいていたのか。ありがたい申し出に礼をしてから、俺はアキトと一緒に部屋を出た。
俺はゆるりと首を傾げながら、口を開いた。
「ボルト。探索隊は明け方に帰って来たばかりと言ったよね」
「はい、その通りです」
ボルトはビシッと姿勢を正してから、ハキハキとした口調でそう答えた。これは多分この言葉に嘘偽りはありませんという、意思表示だろうな。
別にボルトの言葉を疑っているというわけではないんだが、それでもやっぱりそうなのかとあっさり納得はできなかった。
「…それなのに、もう商業ギルドの鑑定魔法士が…来てるのか?」
「はい、既に鑑定作業に入っていますよ」
「普段なら来るまでにもっと時間がかかるのに―――今日はすいぶんと早くないか?」
鑑定魔法が使える人というのは、基本的に多忙だ。中でも腕の良い鑑定魔法士ともなれば、多忙を極めると言って良い。商業ギルドに抱え込まれるような腕なら、なおさらだ。
俺の質問に、ボルトはにっこりと笑みを返した。
「キース様とアキト様がお戻りになった時点で、商業ギルドには数日中には盗賊団を潰せるだろうと一報を入れておきました」
事前に一報を入れたぐらいで、商業ギルドが動くわけがないだろう。良い意味でも悪い意味でも、金にならない事はしない組織だ。
「それにしても…やっぱり早すぎないか?」
「アキト様とキース様、お二人の行方についての調査に当たっていた陰護衛組から、最近の牙蛇盗賊団は商人を主に狙っていたようだという報告がありました」
それは知らなかったな。
「そうなのか?」
「ええ、ですので、商業ギルドには被害にあった商人の品がわずかでも取り戻せるかもしれないという情報も、しっかりとお伝えしておきましたよ」
なるほどと、それを餌にして呼んだのか。
商業ギルドは、商人を守るために存在していると公言している組織だ。盗品を取り戻せたなら、分かりやすく商人の利になる。そうと分かれば他の何よりも優先して動いてくれるかもねと、俺は不思議そうなアキトに説明した。
「そうなんだ」
納得した様子のアキトの横で、ボルトが口を開いた。
「それに…どうやら商業ギルドには、牙蛇盗賊団の被害にあったという商人からの届け出がいくつも来ていたらしいのです。ですがその情報を、わざと隠していたようなんですよ」
「…そうなのか?」
「はい。衛兵の調査によると、ただでさえ危険だと言われている辺境に来てくれる商人を、これ以上減らしたくなかったとそう言っていたそうですよ」
まるで辺境のためを思っての行動のような言い方をしているが、そんなものはただの言い訳だ。単純に自分たちの儲けが減るのを嫌がっただけだろう。
「それはひどいな」
「私も全ての情報を一般市民に広く公開しろとまでは言いませんが、衛兵隊にも騎士団にも、そして領主様一家にも一切情報を回していなかったのには問題があるでしょう?」
にっこり笑顔のボルトだが、目は全く笑ってない。衛兵隊と騎士団にはともかく、領主様一家にぐらいは伝えておけって顔だな。
「もしもっと早く商業ギルドが情報を回してくれていたら、もっと早く盗賊団に対処できていたかもしれないですもんね…被害にあう人も減ったかもしれない…」
悔しそうにそう呟いたアキトに、俺もボルトもそうだなと頷きを返した。
「それに…もっと早く対処できていたら、アキトもキースも攫われていなかったかも…だよね」
つまり商業ギルドは、俺の敵って事だ。今のギルド長は誰だったかなと、ついつい考えを巡らせてしまう。
「そこの所は、領主様がきっちりと抗議をしてくださいましたよ。久しぶりに本気で怒ったケイリー様を拝見しました」
ボルトはクスクスと楽しそうに笑いながら、そう教えてくれた。そうか。父さんが本気で怒ったのか。それなら少しぐらいは商業ギルドも懲りただろうか。
「それで鑑定魔法士を回してもらったんだな」
「ええ、鑑定が遅くなると、その分報告書の処理も遅くなりますからね」
「少しでも早く事件を終わらせるためだな」
「その通りです」
できるだけ早くアキトとキースに、事件は終わったと思わせたいからな。早く事件を終わらせる事に異論は無い。
「商業ギルドへの処罰は?」
どうなったんだと尋ねてみれば、王都にある商業ギルドの本部に今回の一件をきちんと報告してあると返ってきた。情報の隠蔽があった事を隠してしまえば、今度は父さんが疑われる事になるかもしれないからな。
その上で領主としては処罰は求めないとし、その代わりにと鑑定魔法士を回してもらったらしい。
なるほど。領主の名で処罰を求めれば他の商人たちにも知られて、間違いなく大事になるからな。ここは王都の商業ギルドにも、軽く恩を売っておいた形か。
今の商業ギルドのギルドマスターは、おそらく父さんは関係なくギルド本部からの処分を受けるだろう。まあこれは、わざわざアキトに説明しなくても良い事か。
「もし鑑定に興味がおありなら、ハロルド様とアキト様なら鑑定の場に顔を出しても問題は無いですが…」
「アキト、興味はある?」
「え、ううん?」
アキトは考える時間を取るでもなく、すぐさまふるふると首を振った。もしアキトが少しでも興味があるようなら顔を出そうかと思ったが、それなら用は無いな。
「俺も興味は無いな。鑑定魔法士を睨んでしまいそうだし…やめておこう」
鑑定魔法士はおそらく情報の隠蔽には関わっていないだろうが、それでもうっかり睨んでしまいそうだからな。
「かしこまりました」
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