生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1120.【ハル視点】キースの変化

 その場で立ち止まって待っていれば、キースとジルさんは急ぎ足でこちらへと向かってきた。先に俺達の所まで辿り着いたのは、今日も元気いっぱいのキースだ。

「おはよう!ハル兄!アキトくん!」

 両腕でアキトと俺の片足に器用に抱き着いてきたキースに、俺達も笑顔で挨拶を返す。

「キースくん、おはよう」
「ああ、おはよう」

 ニコニコ笑顔のキースは、きちんとメイドたちにも向き直って朝の挨拶をした。メイドたちも、嬉しそうに挨拶を返している。

 アキトと二人でその様子を眺めている間に、ジルさんが追いついてきた。

「アキトさん、ハルさん、おはようございます」
「ジルさん、おはようございます」
「おはようございます」

 メイドたちにそっと会釈をしたジルさんは、アキトと俺の顔を順番にじっと見つめてからおもむろに口を開いた。

「うん、アキトくんもハルさんも、昨日はよく眠れたみたいですね」
「はい、すっごく良く眠れました!うっかり寝坊したぐらいなので…」

 苦笑しながら答えたアキトに、ジルさんはふわりと優しい笑みを浮かべた。

「腕の中にアキトがいたら、びっくりするぐらいよく眠れました。俺の方がアキトよりも遅くまで寝てましたからね…」

 これを言うのはすこし恥ずかしいが、本気で心配してくれていたのが分かるだけに答えないわけにもいかない。照れながらもそう答えれば、ジルさんは嬉しそうに頷いた。

「きっとお二人とも疲れてたんでしょう。ゆっくり眠れたなら良かったです」
「僕も今日は寝坊したよ」
「キースくんも疲れてたんですよ。誰にも怒られなかったでしょう?」

 優しいジルさんの声に、キースはむしろメイドには褒められたよーと笑顔で答えている。

 それにしても、気になるのはジルさんの方だ。

「ジルさんは、もう起きていて良いのか?探索隊にも殲滅隊にも参加してくれてたんだから、ジルさんこそ疲れてるんじゃないのか?」
「私は大丈夫ですよ」
「でも…ジルさんも明け方に帰ってきたんですよね?」

 アキトが恐る恐るそう尋ねれば、キースも不安そうにジルさんを見上げながら尋ねる。

「ジルさん、寝不足…?」
「確かに明け方に帰ってはきましたが。使用人のみなさんがすでに眠れる用意をきっちりとしてくれていましたからね。すぐに眠れましたから」

 それに普段から私は早起きなのでと、珍しくも自慢げに続けたジルさんは、まあウィルはまだ眠ってましたがと苦笑しながら続けた。

 浮かんでる表情こそ苦笑なんだが、言い方がすっごく愛おしそうだ。もしここにウィル兄さんがいたら、愛されてると大喜びしそうだな。

「無理はしないでくださいね」

 そう声をかければ、ジルさんは頷きながら笑顔を見せてくれた。

「ハル兄とアキトくんは…どこかに行く所だったの?もしかして…邪魔しちゃった?」

 心配そうなキースの質問に、アキトと俺は首を振って答えた。

「今日は庭でご飯にしないか?ってラスさんからの提案があってね、今はそこに案内してもらってる所だったんだ」
「お庭でご飯…?」
「ああ。もうすぐリームの花が見ごろだと、庭師が言っていましたね。それででしょうか」

 さすがジルさんと言うべきか、そういう情報もきちんと把握しているようだ。

「花の名前までは聞いていないですが、たしかに花が見ごろだと言われてますね」
「あの花は咲いている期間がそれほど長くないので、見てもらいたかったんでしょう」

 綺麗な花ですよと教えてくれたジルさんに礼を言うよりも前に、キースがぽつりと呟いた。

「いいなぁ…お庭でご飯」

 その場にいる全員からじっと見つめられている事に気づくと、キースは慌てた様子で手を振った。

「あ、あの、ごめんなさい。今のは…その…思ってた事が口からこぼれただけだから!急すぎてご飯が足りなくなるのは嫌だし!だから気にしないで」

 さっきのいいなぁという言葉は、以前のキースなら思っていても口には出さなかったかもしれない。いや、出せなかったかな。

 こちらから聞かないと自分の意見を主張しないし、黙って考えているタイプだったから。普段からもっと甘えて欲しいと家族は常々言ってはいたが、それでもなぜかキースは控え目だった。

 まあ、そんな控え目なキースも可愛かったんだけどな。

 それがアキトと仲良くし始めてから、何故か素直に思っている事を口にしてくれるようになったんだよな。友人ができたのが良かったんだろうか。

 ジルさんと俺がキースの変化を喜んでいる間に、アキトはバッとメイドたちの方へと視線を向けた。

 キースくんの希望を叶えられますかと訴えるような視線に、二人のメイドは言いたい事は分かってますとばかりにすぐさま頷いてから口を開いた。

「キース様。料理長からは、今日はもしかしたら誰かが一緒に食べるかもしれないからと、かなり多めに料理を詰めていると言われております」
「え…そうなの?」
「はい、料理の心配は必要ありません」

 一番知りたい情報をくれたメイドに感謝しつつ、俺は笑顔でキースとジルさんに声をかけた。

「それじゃあキース、ジルさん、俺たちと一緒に食事にしませんか?」
「…いいの!?」

 上目遣いでこちらを見つめてくるキースに、俺は笑顔で頷いた。

「ああ、もちろん。こっちが誘ってるんだから」
「俺もキースくんとジルさんと一緒に食べたいな」

 アキトがそう声をかけてくれてキースが揺らいだ所に、すかさずジルさんが続ける。

「…私もお腹が空いてきましたね」

 キースは俺達全員の顔を順番に見てから、嬉しそうにうんっと声をあげた。
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