生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1121.【ハル視点】リームの花は

 一緒に食事を取る事に決めた俺達は、メイドの案内でまた移動し始めた。

 みんなで一緒に庭で食事ができる事がよっぽど嬉しかったのか、キースはニコニコと誰にともなく笑顔を振りまきながら歩いている。

 弾むような足取りで歩くキースを見ていると、それだけで幸せな気持ちになってくるから不思議だ。

 楽しそうなキースを眺めながらゆっくりと歩いていると、不意にジルさんが小さな声で話しかけてきた。

「ハルさん、アキトさん、今回の探索隊の報告はもう受けましたか?もし詳細が知りたいようなら、簡単になら説明させて頂きますが…」

 もし食事の前に報告を聞きに行っていなかったら、この申し出に飛びついていただろうな。いや、だがもしそうしていたら、キースとジルさんにここで遭遇できていなかったか。

「俺達の事を気にかけてくれてありがとう。さっきボルトの報告を聞きに行ってきた所なんだ。だから報告は大丈夫だよ」
「ああ、そうでしたか」

 ホッとした様子のジルさんにアキトがお礼を告げれば、ふわりと優しい笑みが返ってきた。



 色々な事を話しながら歩いていると、不意にメイドたちがひとつの扉の前でぴたりと立ち止まった。ここは庭の中でも比較的隅の方に通じているドアだな。ちらりとジルさんの反応を見てみれば、ジルさんも何故ここに案内されたのか分からないという表情だった。

 隣を仲良く歩いていたアキトとキースは、二人で顔を見合わせている。攫っていった盗賊団どもに感謝なんて絶対にしないが、二人は今回の件でさらに仲良くなったようだな。

「こちらです」
「どうぞ」

 そう声をかけながら、二人のメイドは両側からそっとドアを開いた。

 この先に何か見せたいものがあるんだな。そう思いながら見守っていると、アキトとキースは言われるがままに一歩外へと出た。途端にキースが嬉しそうに歓声をあげる。

「うわー!すごい!綺麗ー!」
「わー!本当だ、すごく綺麗だね!」

 アキトも一緒になって、はしゃいだ声をあげている。

 嬉しそうな二人の声を聞きながら、俺とジルさんも扉をくぐった。

 そこにはまるで庭の一角を埋め尽くすかのように薄い紫色の小ぶりなリームの花がみっしりと咲いていた。

 リームの花は、布を染める染料などに使われる冒険者ギルドでも依頼がある素材の一種だ。

 自然環境下では基本的に群生しない種類で、ぽつぽつとしか咲かない上にそれぞれの花が咲いている期間は三日しかない。その辺りの情報を知らずに気軽に受けてしまうと、後悔する素材だと密かに言われている。

 そんなリームの花がこれほど集まっていて、しかもどれも綺麗に咲いているなんて。

 アキトとキースはキラキラと目を輝かせているが、その素材の希少性を知っている俺とジルさんは花を見るなり驚きに目を見張ってしまった。

「この淡い色が綺麗ー」
「うん、上品な色だね」

 きゃっきゃと喜ぶ二人の声に、俺達はそっと顔を見合わせる。

 いや、二人が喜んでいるなら別に良いか。

 もし冒険者がここに来たら大騒ぎになるかもしれないが、領主城の中にまで入り込める 冒険者なんてそうそういないからな。

 あっさりと割り切った俺は、ぽつりと呟いた。

「これはまた…見事なものだな」
「ええ、ここまでまとまって咲いているリームの花は、私も初めて見ましたね」
「皆さまにそう言って頂けると、庭師たちが喜びます」

 俺達の後ろに控えていたメイドは嬉しそうにそう言うと、すぐにこの花についての説明を始めた。

 説明と言っても、この花の名前と三日しか咲かない花で今日がちょうど三日目だというものだった。珍しい素材なんだと告げなかったのは、二人に素直に花を楽しんでもらうためだろう。

 それにしても三日目か。

「ああ、そういう事か」

 庭師とラスの気持ちが、分かってしまった。

「ん?どういう事?」
「わざわざラスまで巻き込んで花を見て欲しいと庭師たちが言うなんて、滅多にあることじゃないんだ」

 普段はかなり珍しい花が咲いた時でも、良ければ見てくださいぐらいの事しか言わないんだよと俺は説明を続けた。

「そうですね。きっとどうしても見て欲しかったんでしょう」
「あ、そうか。俺達が攫われた日に咲いた花だから…?」

 ぽつりと呟いたアキトに、メイドさんたちは揃ってこくりと頷いた。

「実はキース様にも、夕方までに何とかこちらに来ていただこうと使用人たちで計画しておりました」
「そうなの?」
「はい。まさかお二人に揃って見て頂けるとは思っていませんでしたが…」
「キース様とジル様がいらっしゃった時は、私たちは内心ドキドキしてました」

 ぜひご一緒にと私たちの方から言いそうでしたと恥ずかしそうな笑顔を見せたメイドたちに、俺達も揃って笑顔を返した。

 本当にうちの使用人たちはすごいな。



 リームの花をゆっくりと堪能した後、こちらへどうぞと案内されたのはリームの花の間を通る小道だった。

「こんな所に道があったんだ…」
「僕も気づかなかったよ」
「全然見えなかったよね」
「これはきっと、わざと分かりにくいように作っているんでしょうね」

 興味深そうに小道を観察しながら、ジルさんもそう答える。

「だろうな。きっと庭師も楽しんで全力を出したんだろう」

 思わず笑いながらそう口に出せば、メイドたちは苦笑しながら頷いた。
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