1,122 / 1,561
1121.【ハル視点】リームの花は
一緒に食事を取る事に決めた俺達は、メイドの案内でまた移動し始めた。
みんなで一緒に庭で食事ができる事がよっぽど嬉しかったのか、キースはニコニコと誰にともなく笑顔を振りまきながら歩いている。
弾むような足取りで歩くキースを見ていると、それだけで幸せな気持ちになってくるから不思議だ。
楽しそうなキースを眺めながらゆっくりと歩いていると、不意にジルさんが小さな声で話しかけてきた。
「ハルさん、アキトさん、今回の探索隊の報告はもう受けましたか?もし詳細が知りたいようなら、簡単になら説明させて頂きますが…」
もし食事の前に報告を聞きに行っていなかったら、この申し出に飛びついていただろうな。いや、だがもしそうしていたら、キースとジルさんにここで遭遇できていなかったか。
「俺達の事を気にかけてくれてありがとう。さっきボルトの報告を聞きに行ってきた所なんだ。だから報告は大丈夫だよ」
「ああ、そうでしたか」
ホッとした様子のジルさんにアキトがお礼を告げれば、ふわりと優しい笑みが返ってきた。
色々な事を話しながら歩いていると、不意にメイドたちがひとつの扉の前でぴたりと立ち止まった。ここは庭の中でも比較的隅の方に通じているドアだな。ちらりとジルさんの反応を見てみれば、ジルさんも何故ここに案内されたのか分からないという表情だった。
隣を仲良く歩いていたアキトとキースは、二人で顔を見合わせている。攫っていった盗賊団どもに感謝なんて絶対にしないが、二人は今回の件でさらに仲良くなったようだな。
「こちらです」
「どうぞ」
そう声をかけながら、二人のメイドは両側からそっとドアを開いた。
この先に何か見せたいものがあるんだな。そう思いながら見守っていると、アキトとキースは言われるがままに一歩外へと出た。途端にキースが嬉しそうに歓声をあげる。
「うわー!すごい!綺麗ー!」
「わー!本当だ、すごく綺麗だね!」
アキトも一緒になって、はしゃいだ声をあげている。
嬉しそうな二人の声を聞きながら、俺とジルさんも扉をくぐった。
そこにはまるで庭の一角を埋め尽くすかのように薄い紫色の小ぶりなリームの花がみっしりと咲いていた。
リームの花は、布を染める染料などに使われる冒険者ギルドでも依頼がある素材の一種だ。
自然環境下では基本的に群生しない種類で、ぽつぽつとしか咲かない上にそれぞれの花が咲いている期間は三日しかない。その辺りの情報を知らずに気軽に受けてしまうと、後悔する素材だと密かに言われている。
そんなリームの花がこれほど集まっていて、しかもどれも綺麗に咲いているなんて。
アキトとキースはキラキラと目を輝かせているが、その素材の希少性を知っている俺とジルさんは花を見るなり驚きに目を見張ってしまった。
「この淡い色が綺麗ー」
「うん、上品な色だね」
きゃっきゃと喜ぶ二人の声に、俺達はそっと顔を見合わせる。
いや、二人が喜んでいるなら別に良いか。
もし冒険者がここに来たら大騒ぎになるかもしれないが、領主城の中にまで入り込める 冒険者なんてそうそういないからな。
あっさりと割り切った俺は、ぽつりと呟いた。
「これはまた…見事なものだな」
「ええ、ここまでまとまって咲いているリームの花は、私も初めて見ましたね」
「皆さまにそう言って頂けると、庭師たちが喜びます」
俺達の後ろに控えていたメイドは嬉しそうにそう言うと、すぐにこの花についての説明を始めた。
説明と言っても、この花の名前と三日しか咲かない花で今日がちょうど三日目だというものだった。珍しい素材なんだと告げなかったのは、二人に素直に花を楽しんでもらうためだろう。
それにしても三日目か。
「ああ、そういう事か」
庭師とラスの気持ちが、分かってしまった。
「ん?どういう事?」
「わざわざラスまで巻き込んで花を見て欲しいと庭師たちが言うなんて、滅多にあることじゃないんだ」
普段はかなり珍しい花が咲いた時でも、良ければ見てくださいぐらいの事しか言わないんだよと俺は説明を続けた。
「そうですね。きっとどうしても見て欲しかったんでしょう」
「あ、そうか。俺達が攫われた日に咲いた花だから…?」
ぽつりと呟いたアキトに、メイドさんたちは揃ってこくりと頷いた。
「実はキース様にも、夕方までに何とかこちらに来ていただこうと使用人たちで計画しておりました」
「そうなの?」
「はい。まさかお二人に揃って見て頂けるとは思っていませんでしたが…」
「キース様とジル様がいらっしゃった時は、私たちは内心ドキドキしてました」
ぜひご一緒にと私たちの方から言いそうでしたと恥ずかしそうな笑顔を見せたメイドたちに、俺達も揃って笑顔を返した。
本当にうちの使用人たちはすごいな。
リームの花をゆっくりと堪能した後、こちらへどうぞと案内されたのはリームの花の間を通る小道だった。
「こんな所に道があったんだ…」
「僕も気づかなかったよ」
「全然見えなかったよね」
「これはきっと、わざと分かりにくいように作っているんでしょうね」
興味深そうに小道を観察しながら、ジルさんもそう答える。
「だろうな。きっと庭師も楽しんで全力を出したんだろう」
思わず笑いながらそう口に出せば、メイドたちは苦笑しながら頷いた。
みんなで一緒に庭で食事ができる事がよっぽど嬉しかったのか、キースはニコニコと誰にともなく笑顔を振りまきながら歩いている。
弾むような足取りで歩くキースを見ていると、それだけで幸せな気持ちになってくるから不思議だ。
楽しそうなキースを眺めながらゆっくりと歩いていると、不意にジルさんが小さな声で話しかけてきた。
「ハルさん、アキトさん、今回の探索隊の報告はもう受けましたか?もし詳細が知りたいようなら、簡単になら説明させて頂きますが…」
もし食事の前に報告を聞きに行っていなかったら、この申し出に飛びついていただろうな。いや、だがもしそうしていたら、キースとジルさんにここで遭遇できていなかったか。
「俺達の事を気にかけてくれてありがとう。さっきボルトの報告を聞きに行ってきた所なんだ。だから報告は大丈夫だよ」
「ああ、そうでしたか」
ホッとした様子のジルさんにアキトがお礼を告げれば、ふわりと優しい笑みが返ってきた。
色々な事を話しながら歩いていると、不意にメイドたちがひとつの扉の前でぴたりと立ち止まった。ここは庭の中でも比較的隅の方に通じているドアだな。ちらりとジルさんの反応を見てみれば、ジルさんも何故ここに案内されたのか分からないという表情だった。
隣を仲良く歩いていたアキトとキースは、二人で顔を見合わせている。攫っていった盗賊団どもに感謝なんて絶対にしないが、二人は今回の件でさらに仲良くなったようだな。
「こちらです」
「どうぞ」
そう声をかけながら、二人のメイドは両側からそっとドアを開いた。
この先に何か見せたいものがあるんだな。そう思いながら見守っていると、アキトとキースは言われるがままに一歩外へと出た。途端にキースが嬉しそうに歓声をあげる。
「うわー!すごい!綺麗ー!」
「わー!本当だ、すごく綺麗だね!」
アキトも一緒になって、はしゃいだ声をあげている。
嬉しそうな二人の声を聞きながら、俺とジルさんも扉をくぐった。
そこにはまるで庭の一角を埋め尽くすかのように薄い紫色の小ぶりなリームの花がみっしりと咲いていた。
リームの花は、布を染める染料などに使われる冒険者ギルドでも依頼がある素材の一種だ。
自然環境下では基本的に群生しない種類で、ぽつぽつとしか咲かない上にそれぞれの花が咲いている期間は三日しかない。その辺りの情報を知らずに気軽に受けてしまうと、後悔する素材だと密かに言われている。
そんなリームの花がこれほど集まっていて、しかもどれも綺麗に咲いているなんて。
アキトとキースはキラキラと目を輝かせているが、その素材の希少性を知っている俺とジルさんは花を見るなり驚きに目を見張ってしまった。
「この淡い色が綺麗ー」
「うん、上品な色だね」
きゃっきゃと喜ぶ二人の声に、俺達はそっと顔を見合わせる。
いや、二人が喜んでいるなら別に良いか。
もし冒険者がここに来たら大騒ぎになるかもしれないが、領主城の中にまで入り込める 冒険者なんてそうそういないからな。
あっさりと割り切った俺は、ぽつりと呟いた。
「これはまた…見事なものだな」
「ええ、ここまでまとまって咲いているリームの花は、私も初めて見ましたね」
「皆さまにそう言って頂けると、庭師たちが喜びます」
俺達の後ろに控えていたメイドは嬉しそうにそう言うと、すぐにこの花についての説明を始めた。
説明と言っても、この花の名前と三日しか咲かない花で今日がちょうど三日目だというものだった。珍しい素材なんだと告げなかったのは、二人に素直に花を楽しんでもらうためだろう。
それにしても三日目か。
「ああ、そういう事か」
庭師とラスの気持ちが、分かってしまった。
「ん?どういう事?」
「わざわざラスまで巻き込んで花を見て欲しいと庭師たちが言うなんて、滅多にあることじゃないんだ」
普段はかなり珍しい花が咲いた時でも、良ければ見てくださいぐらいの事しか言わないんだよと俺は説明を続けた。
「そうですね。きっとどうしても見て欲しかったんでしょう」
「あ、そうか。俺達が攫われた日に咲いた花だから…?」
ぽつりと呟いたアキトに、メイドさんたちは揃ってこくりと頷いた。
「実はキース様にも、夕方までに何とかこちらに来ていただこうと使用人たちで計画しておりました」
「そうなの?」
「はい。まさかお二人に揃って見て頂けるとは思っていませんでしたが…」
「キース様とジル様がいらっしゃった時は、私たちは内心ドキドキしてました」
ぜひご一緒にと私たちの方から言いそうでしたと恥ずかしそうな笑顔を見せたメイドたちに、俺達も揃って笑顔を返した。
本当にうちの使用人たちはすごいな。
リームの花をゆっくりと堪能した後、こちらへどうぞと案内されたのはリームの花の間を通る小道だった。
「こんな所に道があったんだ…」
「僕も気づかなかったよ」
「全然見えなかったよね」
「これはきっと、わざと分かりにくいように作っているんでしょうね」
興味深そうに小道を観察しながら、ジルさんもそう答える。
「だろうな。きっと庭師も楽しんで全力を出したんだろう」
思わず笑いながらそう口に出せば、メイドたちは苦笑しながら頷いた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。