生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1140.【ハル視点】謝罪の内容は

 アキトに向かって深々と頭を下げたまま、ギュームは一切動かなくなってしまった。

 うーん、ここまで必死になって謝罪しなければいけないようなひどい事を、ギュームがしたとは――どう考えても思えないな。

 ギュームはウマの事に関してだけは少し――いや、かなり賑やかな人だが、それ以外は基本的に真面目で優しい人だ。ウマの話で盛り上がればアキトと仲良くなるかもなと思っていたぐらいなんだが、何故謝罪から始まったんだ。

 昨日アキトとギュームが話したのは、シュリのために魔力をあげて欲しいと言いに来た時ぐらいだよな。

 あの時は俺も近くにいたが、特に問題になるような会話は無かったと思うんだが…そう考えながら俺はそっとアキトに視線を向けた。

 うん。どうやら、アキト本人も一体何について謝られているのかが全く分からないようだ。どんな会話をしたっけと言いたげに、目をうろうろと彷徨わせている。

 キースはというと、大きく目を見開いたまま固まっていた。まあいきなり現れて全力で謝罪をし始めたら、それは驚くよな。

 許してもらえるまでは頭をあげないつもりなのか、ギュームはまだ動く気配すらない。

 うん、ここは俺が何とかするしかないなと、俺は苦笑しながらギュームに声をかけた。

「ギューム、まずは頭を上げてくれ」
「いえ、しかし…」
「上げてくれ。アキトが困っている」

 俺がそう言った瞬間、バッと顔をあげたギュームとアキトの視線がかち合った。

「申し訳ありませんっ!」
「いえ…えっと…今のは、何の謝罪なんでしょうか?俺には思い当る事が無いんですが」

 表情は困り顔だったが優しい声で尋ねたアキトに、ギュームは悔やんでいるとすぐに分かる表情でそっと口を開いた。

「アキト様、困らせてしまって申し訳ありません」
「いえ」
「さきほどの謝罪は昨日の夕食会の事なんです。夕食会できちんと名乗る事もせずにいたのは、決してアキト様を軽んじているからでは無いんですっ!申し訳ありませんでした」

 一息で続けられた説明に、俺はなるほどとひとつ頷いた。

 そこまで深刻に考えなくても、アキトは名乗られたかどうかなんて一々考えないだろう。だがただそれだけの事で、軽視されたと騒ぐ人も世の中には存在する。

 心配になったんだろうなと思った俺と違い、アキトはそれであんなに謝ったのと驚いた表情のままだった。

「あんな失態をしてしまうとは自分でも思っておらず…申し訳」
「ギューム!」
「はい」

 まだまだ続きそうな言葉を、俺は慌てて遮った。

「挨拶をしていないと、後になってから気づいたんだな?」
「はい。夜になって自室に帰ってから名乗っていない事に気が付きました」

 宥めながらひとつずつ順番に聞き出していけば、どうやら伴侶である庭師のペスカから、アキト様にご挨拶出来て良かったなと言われたようだ。

 ぺスカはただアキトとギュームが喋っている所を見たから、ついに名乗れたんだなと思っての言葉だったらしい。だがギュームは、そのやりとりでシュリの食事の事を気にしていたせいで名乗ってすらいなかった事に気がついたと。

 それは、ぺスカも驚いただろうな。

「すぐに謝りに行きたいと言ったんですが、その方が迷惑だと言われまして…」

 迷惑だとまでは言わないが、昨夜部屋まで来ていたら明日で良かったのにとは思っただろうな。

 そんな事で?という顔をしているアキトに、俺は苦笑しながら声をかけた。

「アキト、ごめん。すっごく真面目な人なんだ」

 でも悪い人じゃないよと視線で告げれば、アキトは分かってるとすぐに頷いた。

「本当に、本当に申し訳ありませんでしたっ!ウマの事になるとつい暴走するのが私の悪い所なんです!」
「ギューム、そこまで心配しなくても大丈夫。アキトは全く気にしていないよ。俺もギュームがアキトを軽んじているとは思っていない」

 ウマの事になると暴走するって所は否定しないけどな。

「…アキト様、今のハロルド様のお言葉を信じさせて頂いてもよろしいですか?」

 ギュームは俺の言葉をただそのまま信じるわけではなく、きちんとアキトにもそう確認の声をかけた。そんな事をさらりとしておいて、アキトを軽んじてるなんて俺が思うわけが無いんだよな。

「はい。俺はむしろ馬の事を親身になって考えてくれる人なんだなーって好感を抱いていましたから、謝られた理由も分からなかったぐらいなので」

 本当にお気になさらずとアキトが続ければ、ギュームはウルウルと涙ぐんだ。

「……良かった…本当に良かった…寛大なアキト様とハロルド様に心からの感謝を!」

 許してもらえたと涙目で大喜びしているギュームに、俺は控え目に声をかけた。

「…ところで、ギューム」
「はい、ハロルド様、何でしょうか?」
「とりあえずいますぐに自己紹介をしておいたらどうだろう?」

 さっきから俺が名前で呼んでいるから、アキトももちろん、もうギュームの名前は知っている。

 だが、ここで自己紹介をしておいて貰わないと、またどこかでいきなり謝罪を受ける事になりそうだからな。

「し、失礼しましたっ!私はギューム。ウマを心から敬愛し、ウマに少しでも快適に過ごしてもらえるようにするのが仕事です」

 何ともギュームらしい挨拶だな。
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