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1142.【ハル視点】ギュームのすごさ
ギュームは嬉しそうに俺達三人を先導して歩きながら、シュリのためにどんな事をしたのかをくわしく話し始めた。
きっと誰かに話したくてたまらなかったんだろうな。人によっては引いてしまうぐらいの勢いで話しているんだが、アキトはうんうんと楽しそうに聞いている。
だから余計に話が止まらないわけだが。ギュームもアキトも楽しそうだからまあ良いかと、俺とキースはただ黙って二人の会話に耳を傾けている。
「できる事はあまり多くはなかったんです。食事はアキト様のおかげで魔力を頂いて終わっていましたし、毛を梳かすのも夕食会の時にさせてもらいましたから」
「あ、そうですよね」
夕食会の時に毛を溶かしてくれていたのは見ましたと、アキトは笑顔で答えている。
「こちらに来てからは、まず丁寧にもう一度全身を布で拭かせてもらいました」
そしてその後、寝床をいくつも整えてどれが良いかを試してもらったんだと嬉しそうに続ける。
これがアキトとキースの恩ウマであるシュリだから、特別扱いをしている――というわけでは無いんだからすごいよな。ギュームはここの厩舎にいる大勢のウマ、それぞれが好きな寝床と食べ物の趣味、そしてそのウマがどうしても嫌いな事などを完璧に覚えている。
世話係なら当然だと思える頭数を軽く超えているんだが、むしろギュームはもっといろんな事を知りたいといつも意欲的だ。ぽんと質問をすれば10倍ぐらいになってかえってくるような人だ。
「わらの上に布を広げた寝床がかなり気に入ってもらえたようで、幸せそうに眠ってくれたんですよ」
そうか。シュリがゆっくり眠れたなら良かった。
二人の救出時に俺が乗っていたあのウマが、その間もずっと隣にいたという話にはすこし驚いてしまった。まるでシュリを守るようにして、一緒に同じ寝床で眠ったらしい。
「え、そうなんですか?」
「ええ、あの子はタユというんですが、子煩悩な子でしたから…きっと母性本能が働いたんでしょうね」
「なるほど。それでずっと一緒にいたんですね」
ああ、そういう事だったのか。そういえば初めて他のウマたちとシュリを引き合わせた時も、たくさんのウマが寄ってきていたな。もしかしたらあれも、シュリを可愛がりたいウマたちが集まってきていたのかもしれない。
そんな事をぼんやりと考えていると、ギュームが普段は使っていない奥の方へと繋がる廊下へと足を向けた事に気がついた。
「あれ、奥の部屋なのか?」
本当に滅多に使われない部屋だからと不思議に思って尋ねてみれば、ギュームはすぐにはいと頷いた。
「他のウマと一緒にするとくつろげないかもしれないですから、ひとまず昨夜はタユと二頭だけでこちらの部屋を使ってもらいました」
昼間に相性を見てからなら、他の馬とも同室にしても良いんですがとギュームは真剣な表情で続ける。
うん、ウマの事ならやっぱりギュームにまかせるのが一番だな。信頼できる仕事ぶりだと感心していると、ひとつの部屋の前でギュームは立ち止まった。
「シュリ様とタユはこちらの部屋です」
どうぞと手で促されたが、俺達は驚きすぎて全員揃って固まってしまった。
今シュリの名前を呼んだよな。
「おや、どうかしましたか?私はまた何かまずい事でも…?」
何かしでかしてしまったのかと慌てだしたギュームに、俺は皆を代表して声をかけた。
「いや、まずい事では無いんだが…今、名前で呼んだか?」
「あ…はい」
「と言う事は声をかけてもらったんだな?」
シュリ本人が名前を明かす以外に、その名前を知る方法は無いはずだ。
「…はい、打ち明けて頂きました」
そう答えたギュームは、まるで蕩けるようなうっとりとした笑顔を浮かべていた。伴侶である庭師のぺスカが見たら、妬きそうな表情だなと一瞬だけ思ったが、いやウマ相手なら慣れているかと考え直した。
「ハル様とキース様、そしてアキト様とは話してたと、シュリ様から教えてもらったので、つい気が緩んでいました…」
他の人の前ではうっかり呼ばないようにきちんと気をつけていますと、ギュームは申し訳なさそうにそう続けた。
「あ、いや責めているわけじゃないんだ」
「そうです。ただちょっとシュリくんの名前を何で知ってるんだろうって驚いただけですから!」
「そうそう、そこは気にしないでくれ」
肩を落として反省しているギュームを、アキトと二人がかりで必死になって宥めていると、不意にキースが、あ、と声をあげた。
ん?とその場にいる全員が視線を向ければ、キースはニコーッと嬉しそうに笑って続けた。
「そっかーじゃあさ、ギュームもシュリくんの秘密を守る仲間だねー」
「ハイッ!光栄です!」
おお、今のは計算しての発言とかじゃなくて、おそらく素の発言だな。さすがキースだ。おかげで空気が変わった。
ギュームも嬉しそうな笑顔で、コクコクと頷いている。
「まあ、せっかくだし、これ以上は中に入ってから話そうか」
「そうだね」
「うん、おじゃましまーす」
ノックをしてから中に入ったキースの声に、シュリがさっと立ち上がったのがドアの隙間から見えた。
「あーキースくん!おはよう!」
「おはよう、シュリくん!」
きゃっきゃと戯れる二人の可愛さに癒されつつ、俺達も部屋の中へと足を踏みいれた。
きっと誰かに話したくてたまらなかったんだろうな。人によっては引いてしまうぐらいの勢いで話しているんだが、アキトはうんうんと楽しそうに聞いている。
だから余計に話が止まらないわけだが。ギュームもアキトも楽しそうだからまあ良いかと、俺とキースはただ黙って二人の会話に耳を傾けている。
「できる事はあまり多くはなかったんです。食事はアキト様のおかげで魔力を頂いて終わっていましたし、毛を梳かすのも夕食会の時にさせてもらいましたから」
「あ、そうですよね」
夕食会の時に毛を溶かしてくれていたのは見ましたと、アキトは笑顔で答えている。
「こちらに来てからは、まず丁寧にもう一度全身を布で拭かせてもらいました」
そしてその後、寝床をいくつも整えてどれが良いかを試してもらったんだと嬉しそうに続ける。
これがアキトとキースの恩ウマであるシュリだから、特別扱いをしている――というわけでは無いんだからすごいよな。ギュームはここの厩舎にいる大勢のウマ、それぞれが好きな寝床と食べ物の趣味、そしてそのウマがどうしても嫌いな事などを完璧に覚えている。
世話係なら当然だと思える頭数を軽く超えているんだが、むしろギュームはもっといろんな事を知りたいといつも意欲的だ。ぽんと質問をすれば10倍ぐらいになってかえってくるような人だ。
「わらの上に布を広げた寝床がかなり気に入ってもらえたようで、幸せそうに眠ってくれたんですよ」
そうか。シュリがゆっくり眠れたなら良かった。
二人の救出時に俺が乗っていたあのウマが、その間もずっと隣にいたという話にはすこし驚いてしまった。まるでシュリを守るようにして、一緒に同じ寝床で眠ったらしい。
「え、そうなんですか?」
「ええ、あの子はタユというんですが、子煩悩な子でしたから…きっと母性本能が働いたんでしょうね」
「なるほど。それでずっと一緒にいたんですね」
ああ、そういう事だったのか。そういえば初めて他のウマたちとシュリを引き合わせた時も、たくさんのウマが寄ってきていたな。もしかしたらあれも、シュリを可愛がりたいウマたちが集まってきていたのかもしれない。
そんな事をぼんやりと考えていると、ギュームが普段は使っていない奥の方へと繋がる廊下へと足を向けた事に気がついた。
「あれ、奥の部屋なのか?」
本当に滅多に使われない部屋だからと不思議に思って尋ねてみれば、ギュームはすぐにはいと頷いた。
「他のウマと一緒にするとくつろげないかもしれないですから、ひとまず昨夜はタユと二頭だけでこちらの部屋を使ってもらいました」
昼間に相性を見てからなら、他の馬とも同室にしても良いんですがとギュームは真剣な表情で続ける。
うん、ウマの事ならやっぱりギュームにまかせるのが一番だな。信頼できる仕事ぶりだと感心していると、ひとつの部屋の前でギュームは立ち止まった。
「シュリ様とタユはこちらの部屋です」
どうぞと手で促されたが、俺達は驚きすぎて全員揃って固まってしまった。
今シュリの名前を呼んだよな。
「おや、どうかしましたか?私はまた何かまずい事でも…?」
何かしでかしてしまったのかと慌てだしたギュームに、俺は皆を代表して声をかけた。
「いや、まずい事では無いんだが…今、名前で呼んだか?」
「あ…はい」
「と言う事は声をかけてもらったんだな?」
シュリ本人が名前を明かす以外に、その名前を知る方法は無いはずだ。
「…はい、打ち明けて頂きました」
そう答えたギュームは、まるで蕩けるようなうっとりとした笑顔を浮かべていた。伴侶である庭師のぺスカが見たら、妬きそうな表情だなと一瞬だけ思ったが、いやウマ相手なら慣れているかと考え直した。
「ハル様とキース様、そしてアキト様とは話してたと、シュリ様から教えてもらったので、つい気が緩んでいました…」
他の人の前ではうっかり呼ばないようにきちんと気をつけていますと、ギュームは申し訳なさそうにそう続けた。
「あ、いや責めているわけじゃないんだ」
「そうです。ただちょっとシュリくんの名前を何で知ってるんだろうって驚いただけですから!」
「そうそう、そこは気にしないでくれ」
肩を落として反省しているギュームを、アキトと二人がかりで必死になって宥めていると、不意にキースが、あ、と声をあげた。
ん?とその場にいる全員が視線を向ければ、キースはニコーッと嬉しそうに笑って続けた。
「そっかーじゃあさ、ギュームもシュリくんの秘密を守る仲間だねー」
「ハイッ!光栄です!」
おお、今のは計算しての発言とかじゃなくて、おそらく素の発言だな。さすがキースだ。おかげで空気が変わった。
ギュームも嬉しそうな笑顔で、コクコクと頷いている。
「まあ、せっかくだし、これ以上は中に入ってから話そうか」
「そうだね」
「うん、おじゃましまーす」
ノックをしてから中に入ったキースの声に、シュリがさっと立ち上がったのがドアの隙間から見えた。
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