1,156 / 1,561
1155.【ハル視点】直接の感謝の言葉
アキトとキースからの感謝の言葉に、その場にいた七人はぽかんとした表情のまま固まってしまった。
まあそうなるよな。助けに来てくれたからと、身分にも役職にも関係なく自ら直接お礼を言いに行くなんて人は――そうはいないから。
貴族なら特にそうだ。いや、アキトは貴族では無いんだが、俺の伴侶候補だから周りから見れば貴族扱いだからな。
貴族なら例え心から感謝していたとしても、騎士団長や衛兵隊長といった役職を代表する者に礼の手紙を書くか、一声かけるというのが一般的だ。その場合は、団長や隊長から部下に礼の言葉が伝えられる。
そういう暗黙の決まりを知っているからこそ、みんなは戸惑っているわけだ。
それにしても、予想以上の驚き方だな。
口が開いたままの騎士に、目を大きく見開いている衛兵、侍従に至っては息をしているかと心配になるほどの驚き方だ。
「あれ…?」
アキトはなんでこんな反応?と言いたげに、不思議そうにこてりと首を傾げている。
一方でキースはというと、突然お礼を言えば驚かれるとは分かっていたんだろうな、普通にみんなの反応をじっと見つめている。
しばらくすると我に返った七人は、慌てた様子でこちらに向き直った。何か言いたそうにはしているが、なかなか誰も口を開かない。
「あの、キース様とアキト様に、ひとつ質問をよろしいでしょうか?」
沈黙を破ってそう尋ねてきたのは、予想通りというべきか、俺達が来た時に最初にこちらに気づいて声をかけてくれた侍従だった。
戸惑うアキトをまるで庇うかのように、キースはすぐにニッコリと笑顔を浮かべて答えた。
「うん、なぁに?」
よく知っている侍従からの質問とはいえ、ここにいる七人の中にはキースと直接関わりが無い人も混ざっている。
それなのにアキトを庇おうとする姿に、正直に言えばすこし驚いた。
もしかしたら、アキトと一緒にいる間に、キースの人見知りはずいぶんとマシになってきているんじゃないか?
そんな事を考えていると、侍従の視線がちらりとアキトの方を向いた。
「はい。俺も、もちろん大丈夫です」
「ハロルド様も…よろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
俺にまで律儀にそう確認をした侍従は、ぴんっと背筋を伸ばしてから尋ねた。
「皆様は探索隊に参加した者に、お礼を言うためにわざわざここまで来られたという事で間違いないでしょうか?」
「うん、そうだよ」
「はい。志願して来てくれたと聞いたので、お礼が言いたくて…」
キースとアキトの返答に、七人は分かりやすく慌て始めた。
「確かに私たちは志願してあのルティルーの森に行きましたが、それぞれの理由があっての事ですから、そんなに気にしないで下さい」
「理由…ですか?」
不思議そうにそう返したアキトに、騎士は困り顔で続ける。
「もちろんお二人の事を助けたいという気持ちは全員にありました。ただそれ以外にも、その…憧れの人と一緒に行きたいとか…ですね」
ファーガス兄さんやウィル兄さん、それにマティさんやジルさんに憧れている人は多いからな。所属が違えば滅多に会えない相手と、一緒に行動が出来るならと考える人がいてもおかしくはない。
アキトとキースのために志願したわけじゃないのかと、そんな細かい事で怒るつもりは俺には無いからな。
「あー衛兵はですねー職務上、どうしても盗賊と関わる事が多いんです。だから俺達の方は、やっと見つかった拠点に行きたいって理由の人もいましたね」
苦笑しながらそう答えた若い衛兵は、あとはよく分からないんですが――階段を一緒にのぼった縁がどうとか何とか言ってましたよと続けた。
うん、誰が言ったのかが簡単に想像できるな。あの日階段を一緒にのぼっただけの筈なのに、アキトはやけに衛兵たちに気に入られていたから。
「それに…言葉は悪いかもしれませんが、攫われた所を見たと通報が来た場合、例えその人がキース様とアキト様でなくても助けに行ってましたよ?」
普段からそういう仕事もしているのでと、衛兵は困り顔のままそう答える。
まあ、それはそうだよな。
「えーでも、助けに来てくれたのは本当でしょう?」
一歩も譲らないキースの答えに、アキトもうんうんと大きく頷いて同意を示している。
「えっと…でも……」
「あ、でもね、僕達はお礼を言いたかっただけなんだー」
「そうだね。別にお礼を押し付けたいわけじゃないですから…」
とりあえず言えたから良いかと、アキトとキースは普通に話し合っている。言いたかっただけで返事は求めないという二人の反応に、侍従は分かりやすく困惑した表情で俺に尋ねてきた。
「ハル様、この感謝は…その、私たちが受け入れて良いもの…でしょうか?」
つっかえながらもそう尋ねてきた侍従に、俺は笑って答えた。
「二人の感謝に他意は無いよ。本当にただお礼を言いたいだけだから」
受け入れるも聞くだけにとどめるも好きにして良いよと続ければ、侍従はふうと息を吐いてから口を開いた。
「お礼など不要ですと言いたい所ですが、お二人のお気持ちを受け入れます」
「…俺も受け入れます」
「あ、じゃあ俺も」
「お礼を言っていただけるとは思っていなかったので驚きましたが…嬉しいものですね」
「普段は感謝の言葉なんて滅多に聞けないもんな」
そんな風にその場にいた七人は、笑顔でアキトとキースの感謝の言葉を受け入れた。
まあそうなるよな。助けに来てくれたからと、身分にも役職にも関係なく自ら直接お礼を言いに行くなんて人は――そうはいないから。
貴族なら特にそうだ。いや、アキトは貴族では無いんだが、俺の伴侶候補だから周りから見れば貴族扱いだからな。
貴族なら例え心から感謝していたとしても、騎士団長や衛兵隊長といった役職を代表する者に礼の手紙を書くか、一声かけるというのが一般的だ。その場合は、団長や隊長から部下に礼の言葉が伝えられる。
そういう暗黙の決まりを知っているからこそ、みんなは戸惑っているわけだ。
それにしても、予想以上の驚き方だな。
口が開いたままの騎士に、目を大きく見開いている衛兵、侍従に至っては息をしているかと心配になるほどの驚き方だ。
「あれ…?」
アキトはなんでこんな反応?と言いたげに、不思議そうにこてりと首を傾げている。
一方でキースはというと、突然お礼を言えば驚かれるとは分かっていたんだろうな、普通にみんなの反応をじっと見つめている。
しばらくすると我に返った七人は、慌てた様子でこちらに向き直った。何か言いたそうにはしているが、なかなか誰も口を開かない。
「あの、キース様とアキト様に、ひとつ質問をよろしいでしょうか?」
沈黙を破ってそう尋ねてきたのは、予想通りというべきか、俺達が来た時に最初にこちらに気づいて声をかけてくれた侍従だった。
戸惑うアキトをまるで庇うかのように、キースはすぐにニッコリと笑顔を浮かべて答えた。
「うん、なぁに?」
よく知っている侍従からの質問とはいえ、ここにいる七人の中にはキースと直接関わりが無い人も混ざっている。
それなのにアキトを庇おうとする姿に、正直に言えばすこし驚いた。
もしかしたら、アキトと一緒にいる間に、キースの人見知りはずいぶんとマシになってきているんじゃないか?
そんな事を考えていると、侍従の視線がちらりとアキトの方を向いた。
「はい。俺も、もちろん大丈夫です」
「ハロルド様も…よろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
俺にまで律儀にそう確認をした侍従は、ぴんっと背筋を伸ばしてから尋ねた。
「皆様は探索隊に参加した者に、お礼を言うためにわざわざここまで来られたという事で間違いないでしょうか?」
「うん、そうだよ」
「はい。志願して来てくれたと聞いたので、お礼が言いたくて…」
キースとアキトの返答に、七人は分かりやすく慌て始めた。
「確かに私たちは志願してあのルティルーの森に行きましたが、それぞれの理由があっての事ですから、そんなに気にしないで下さい」
「理由…ですか?」
不思議そうにそう返したアキトに、騎士は困り顔で続ける。
「もちろんお二人の事を助けたいという気持ちは全員にありました。ただそれ以外にも、その…憧れの人と一緒に行きたいとか…ですね」
ファーガス兄さんやウィル兄さん、それにマティさんやジルさんに憧れている人は多いからな。所属が違えば滅多に会えない相手と、一緒に行動が出来るならと考える人がいてもおかしくはない。
アキトとキースのために志願したわけじゃないのかと、そんな細かい事で怒るつもりは俺には無いからな。
「あー衛兵はですねー職務上、どうしても盗賊と関わる事が多いんです。だから俺達の方は、やっと見つかった拠点に行きたいって理由の人もいましたね」
苦笑しながらそう答えた若い衛兵は、あとはよく分からないんですが――階段を一緒にのぼった縁がどうとか何とか言ってましたよと続けた。
うん、誰が言ったのかが簡単に想像できるな。あの日階段を一緒にのぼっただけの筈なのに、アキトはやけに衛兵たちに気に入られていたから。
「それに…言葉は悪いかもしれませんが、攫われた所を見たと通報が来た場合、例えその人がキース様とアキト様でなくても助けに行ってましたよ?」
普段からそういう仕事もしているのでと、衛兵は困り顔のままそう答える。
まあ、それはそうだよな。
「えーでも、助けに来てくれたのは本当でしょう?」
一歩も譲らないキースの答えに、アキトもうんうんと大きく頷いて同意を示している。
「えっと…でも……」
「あ、でもね、僕達はお礼を言いたかっただけなんだー」
「そうだね。別にお礼を押し付けたいわけじゃないですから…」
とりあえず言えたから良いかと、アキトとキースは普通に話し合っている。言いたかっただけで返事は求めないという二人の反応に、侍従は分かりやすく困惑した表情で俺に尋ねてきた。
「ハル様、この感謝は…その、私たちが受け入れて良いもの…でしょうか?」
つっかえながらもそう尋ねてきた侍従に、俺は笑って答えた。
「二人の感謝に他意は無いよ。本当にただお礼を言いたいだけだから」
受け入れるも聞くだけにとどめるも好きにして良いよと続ければ、侍従はふうと息を吐いてから口を開いた。
「お礼など不要ですと言いたい所ですが、お二人のお気持ちを受け入れます」
「…俺も受け入れます」
「あ、じゃあ俺も」
「お礼を言っていただけるとは思っていなかったので驚きましたが…嬉しいものですね」
「普段は感謝の言葉なんて滅多に聞けないもんな」
そんな風にその場にいた七人は、笑顔でアキトとキースの感謝の言葉を受け入れた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。