生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1155.【ハル視点】直接の感謝の言葉

 アキトとキースからの感謝の言葉に、その場にいた七人はぽかんとした表情のまま固まってしまった。

 まあそうなるよな。助けに来てくれたからと、身分にも役職にも関係なく自ら直接お礼を言いに行くなんて人は――そうはいないから。

 貴族なら特にそうだ。いや、アキトは貴族では無いんだが、俺の伴侶候補だから周りから見れば貴族扱いだからな。

 貴族なら例え心から感謝していたとしても、騎士団長や衛兵隊長といった役職を代表する者に礼の手紙を書くか、一声かけるというのが一般的だ。その場合は、団長や隊長から部下に礼の言葉が伝えられる。

 そういう暗黙の決まりを知っているからこそ、みんなは戸惑っているわけだ。

 それにしても、予想以上の驚き方だな。

 口が開いたままの騎士に、目を大きく見開いている衛兵、侍従に至っては息をしているかと心配になるほどの驚き方だ。

「あれ…?」

 アキトはなんでこんな反応?と言いたげに、不思議そうにこてりと首を傾げている。

 一方でキースはというと、突然お礼を言えば驚かれるとは分かっていたんだろうな、普通にみんなの反応をじっと見つめている。

 しばらくすると我に返った七人は、慌てた様子でこちらに向き直った。何か言いたそうにはしているが、なかなか誰も口を開かない。

「あの、キース様とアキト様に、ひとつ質問をよろしいでしょうか?」

 沈黙を破ってそう尋ねてきたのは、予想通りというべきか、俺達が来た時に最初にこちらに気づいて声をかけてくれた侍従だった。

 戸惑うアキトをまるで庇うかのように、キースはすぐにニッコリと笑顔を浮かべて答えた。

「うん、なぁに?」

 よく知っている侍従からの質問とはいえ、ここにいる七人の中にはキースと直接関わりが無い人も混ざっている。

 それなのにアキトを庇おうとする姿に、正直に言えばすこし驚いた。

 もしかしたら、アキトと一緒にいる間に、キースの人見知りはずいぶんとマシになってきているんじゃないか?

 そんな事を考えていると、侍従の視線がちらりとアキトの方を向いた。

「はい。俺も、もちろん大丈夫です」
「ハロルド様も…よろしいですか?」
「ああ、どうぞ」

 俺にまで律儀にそう確認をした侍従は、ぴんっと背筋を伸ばしてから尋ねた。

「皆様は探索隊に参加した者に、お礼を言うためにわざわざここまで来られたという事で間違いないでしょうか?」
「うん、そうだよ」
「はい。志願して来てくれたと聞いたので、お礼が言いたくて…」

 キースとアキトの返答に、七人は分かりやすく慌て始めた。

「確かに私たちは志願してあのルティルーの森に行きましたが、それぞれの理由があっての事ですから、そんなに気にしないで下さい」
「理由…ですか?」

 不思議そうにそう返したアキトに、騎士は困り顔で続ける。

「もちろんお二人の事を助けたいという気持ちは全員にありました。ただそれ以外にも、その…憧れの人と一緒に行きたいとか…ですね」

 ファーガス兄さんやウィル兄さん、それにマティさんやジルさんに憧れている人は多いからな。所属が違えば滅多に会えない相手と、一緒に行動が出来るならと考える人がいてもおかしくはない。

 アキトとキースのために志願したわけじゃないのかと、そんな細かい事で怒るつもりは俺には無いからな。

「あー衛兵はですねー職務上、どうしても盗賊と関わる事が多いんです。だから俺達の方は、やっと見つかった拠点に行きたいって理由の人もいましたね」

 苦笑しながらそう答えた若い衛兵は、あとはよく分からないんですが――階段を一緒にのぼった縁がどうとか何とか言ってましたよと続けた。

 うん、誰が言ったのかが簡単に想像できるな。あの日階段を一緒にのぼっただけの筈なのに、アキトはやけに衛兵たちに気に入られていたから。

「それに…言葉は悪いかもしれませんが、攫われた所を見たと通報が来た場合、例えその人がキース様とアキト様でなくても助けに行ってましたよ?」

 普段からそういう仕事もしているのでと、衛兵は困り顔のままそう答える。

 まあ、それはそうだよな。

「えーでも、助けに来てくれたのは本当でしょう?」

 一歩も譲らないキースの答えに、アキトもうんうんと大きく頷いて同意を示している。

「えっと…でも……」
「あ、でもね、僕達はお礼を言いたかっただけなんだー」
「そうだね。別にお礼を押し付けたいわけじゃないですから…」

 とりあえず言えたから良いかと、アキトとキースは普通に話し合っている。言いたかっただけで返事は求めないという二人の反応に、侍従は分かりやすく困惑した表情で俺に尋ねてきた。

「ハル様、この感謝は…その、私たちが受け入れて良いもの…でしょうか?」

 つっかえながらもそう尋ねてきた侍従に、俺は笑って答えた。

「二人の感謝に他意は無いよ。本当にただお礼を言いたいだけだから」

 受け入れるも聞くだけにとどめるも好きにして良いよと続ければ、侍従はふうと息を吐いてから口を開いた。

「お礼など不要ですと言いたい所ですが、お二人のお気持ちを受け入れます」
「…俺も受け入れます」
「あ、じゃあ俺も」
「お礼を言っていただけるとは思っていなかったので驚きましたが…嬉しいものですね」
「普段は感謝の言葉なんて滅多に聞けないもんな」

 そんな風にその場にいた七人は、笑顔でアキトとキースの感謝の言葉を受け入れた。
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