生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,156 / 1,447

1155.【ハル視点】直接の感謝の言葉

しおりを挟む
 アキトとキースからの感謝の言葉に、その場にいた七人はぽかんとした表情のまま固まってしまった。

 まあそうなるよな。助けに来てくれたからと、身分にも役職にも関係なく自ら直接お礼を言いに行くなんて人は――そうはいないから。

 貴族なら特にそうだ。いや、アキトは貴族では無いんだが、俺の伴侶候補だから周りから見れば貴族扱いだからな。

 貴族なら例え心から感謝していたとしても、騎士団長や衛兵隊長といった役職を代表する者に礼の手紙を書くか、一声かけるというのが一般的だ。その場合は、団長や隊長から部下に礼の言葉が伝えられる。

 そういう暗黙の決まりを知っているからこそ、みんなは戸惑っているわけだ。

 それにしても、予想以上の驚き方だな。

 口が開いたままの騎士に、目を大きく見開いている衛兵、侍従に至っては息をしているかと心配になるほどの驚き方だ。

「あれ…?」

 アキトはなんでこんな反応?と言いたげに、不思議そうにこてりと首を傾げている。

 一方でキースはというと、突然お礼を言えば驚かれるとは分かっていたんだろうな、普通にみんなの反応をじっと見つめている。

 しばらくすると我に返った七人は、慌てた様子でこちらに向き直った。何か言いたそうにはしているが、なかなか誰も口を開かない。

「あの、キース様とアキト様に、ひとつ質問をよろしいでしょうか?」

 沈黙を破ってそう尋ねてきたのは、予想通りというべきか、俺達が来た時に最初にこちらに気づいて声をかけてくれた侍従だった。

 戸惑うアキトをまるで庇うかのように、キースはすぐにニッコリと笑顔を浮かべて答えた。

「うん、なぁに?」

 よく知っている侍従からの質問とはいえ、ここにいる七人の中にはキースと直接関わりが無い人も混ざっている。

 それなのにアキトを庇おうとする姿に、正直に言えばすこし驚いた。

 もしかしたら、アキトと一緒にいる間に、キースの人見知りはずいぶんとマシになってきているんじゃないか?

 そんな事を考えていると、侍従の視線がちらりとアキトの方を向いた。

「はい。俺も、もちろん大丈夫です」
「ハロルド様も…よろしいですか?」
「ああ、どうぞ」

 俺にまで律儀にそう確認をした侍従は、ぴんっと背筋を伸ばしてから尋ねた。

「皆様は探索隊に参加した者に、お礼を言うためにわざわざここまで来られたという事で間違いないでしょうか?」
「うん、そうだよ」
「はい。志願して来てくれたと聞いたので、お礼が言いたくて…」

 キースとアキトの返答に、七人は分かりやすく慌て始めた。

「確かに私たちは志願してあのルティルーの森に行きましたが、それぞれの理由があっての事ですから、そんなに気にしないで下さい」
「理由…ですか?」

 不思議そうにそう返したアキトに、騎士は困り顔で続ける。

「もちろんお二人の事を助けたいという気持ちは全員にありました。ただそれ以外にも、その…憧れの人と一緒に行きたいとか…ですね」

 ファーガス兄さんやウィル兄さん、それにマティさんやジルさんに憧れている人は多いからな。所属が違えば滅多に会えない相手と、一緒に行動が出来るならと考える人がいてもおかしくはない。

 アキトとキースのために志願したわけじゃないのかと、そんな細かい事で怒るつもりは俺には無いからな。

「あー衛兵はですねー職務上、どうしても盗賊と関わる事が多いんです。だから俺達の方は、やっと見つかった拠点に行きたいって理由の人もいましたね」

 苦笑しながらそう答えた若い衛兵は、あとはよく分からないんですが――階段を一緒にのぼった縁がどうとか何とか言ってましたよと続けた。

 うん、誰が言ったのかが簡単に想像できるな。あの日階段を一緒にのぼっただけの筈なのに、アキトはやけに衛兵たちに気に入られていたから。

「それに…言葉は悪いかもしれませんが、攫われた所を見たと通報が来た場合、例えその人がキース様とアキト様でなくても助けに行ってましたよ?」

 普段からそういう仕事もしているのでと、衛兵は困り顔のままそう答える。

 まあ、それはそうだよな。

「えーでも、助けに来てくれたのは本当でしょう?」

 一歩も譲らないキースの答えに、アキトもうんうんと大きく頷いて同意を示している。

「えっと…でも……」
「あ、でもね、僕達はお礼を言いたかっただけなんだー」
「そうだね。別にお礼を押し付けたいわけじゃないですから…」

 とりあえず言えたから良いかと、アキトとキースは普通に話し合っている。言いたかっただけで返事は求めないという二人の反応に、侍従は分かりやすく困惑した表情で俺に尋ねてきた。

「ハル様、この感謝は…その、私たちが受け入れて良いもの…でしょうか?」

 つっかえながらもそう尋ねてきた侍従に、俺は笑って答えた。

「二人の感謝に他意は無いよ。本当にただお礼を言いたいだけだから」

 受け入れるも聞くだけにとどめるも好きにして良いよと続ければ、侍従はふうと息を吐いてから口を開いた。

「お礼など不要ですと言いたい所ですが、お二人のお気持ちを受け入れます」
「…俺も受け入れます」
「あ、じゃあ俺も」
「お礼を言っていただけるとは思っていなかったので驚きましたが…嬉しいものですね」
「普段は感謝の言葉なんて滅多に聞けないもんな」

 そんな風にその場にいた七人は、笑顔でアキトとキースの感謝の言葉を受け入れた。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...