生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1171.【ハル視点】キラキラの目

 アキトは顔に感情が出るから、分かりやすいんだよな。いや、もしかしたらこれは、単に俺がアキトの事をよく見ているからだろうか。

「え、よく分かったね」

 まじまじと俺の顔を見つめながらそう呟いたアキトに、俺はふふと笑みをこぼした。

「アキトの事だから分かるんだよ」

 ふざけないでと言われてもおかしくない返しだったと思うんだが、アキトは何故か愛おしそうにふわりと笑ってくれた。

 ああ、何だその笑顔は。もう人目も場所も何も考えずに、ただ抱きしめたくなるような表情だ。

 いや駄目だ。それをしたら、アキトはきっと恥ずかしがるからな。手を繋ぐのは良いが抱きしめるのは駄目な部類に入る筈だ。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は口を開いた。

「アキトに対しては本当に優しいから、そう思うのも無理は無いと思うけど…タユは比較的気難しくないウマってだけで、人の選り好みは普通にするからね」

 俺がそう言った瞬間、タユは小さな低い声でヒンッと一声嘶いた。

「ハル、タユがよけいなこというなって、いってるよー?」

 うん、今のは俺にも何となく分かった。というか、こういう話をしたらタユが不機嫌になるだろうと予想はできていたからな。

 シュリにタユの言葉の意味を教えてくれた礼を告げてから、俺はさっとタユに向き直った。別にタユとアキトが心を通わせている事に対する嫌がらせとか、嫉妬とかでは無いんだって事をちゃんと伝えないとな。

 俺はタユの目をまっすぐ見つめながら口を開いた。

「タユ、これはアキトはすごいんだって事をアキト本人に理解してもらうためだから――すこしだけ譲歩してくれないか?タユがアキトに優しくしてくれているのは分かってるし、本当に感謝してる」

 アキトが初めての乗馬をあれほど楽しめたのは、タユの気づかいがあったからだ。

 この距離なら、俺の考えている事も伝わるだろう?心からの感謝の気持ちを目に込めて黙り込んでいると、不意にタユが短く答えた。

「タユがわかったって!」
「ありがとう、タユ」

 これで誰にも邪魔されずに説明ができる。ホッとして視線をアキトに向ければ、アキトはまた首を傾げた。不思議そうな顔も可愛いな。

「ウマの事を怖いと思う人は、アキトが思っているよりも多いんだ。ウマは強いから、本気になれば人なんてあっさりと殺せてしまうからね」

 出逢ったばかりの頃ならきっと分からなかっただろうが、今のアキトはもう立派な冒険者だ。俺も驚くほどに成長したアキトなら、魔物の強さはもう推測できるだろう。

 お前が余計な事を言ったせいで、アキトに嫌われたらどうしてくれる。そう言いたげなタユから無言の圧力をかけられているんだが、それは綺麗に無視をする。これは必要な話だからな。

「うん、きっと本気で戦ったら強いんだろうなって事は、俺にも分かるよ」

 アキトがそう答えた瞬間、タユからの圧力が一瞬で無くなった。怖がるどころか分かってるけどそれが何?という気持ちが、きっと伝わったんだろう。

「あ、これは怖がって欲しいとかそういう話じゃないから安心して」

 よく分からないと顔に書いてあったアキトにそう声をかければ、ホッと肩の力を抜いた。

「そもそも辺境にいるウマに限らず、人と一緒にいる事を自分で選んだウマたちは、ただ怖がるだけなら乗せてもらえないぐらいで攻撃したりはしないよ。ね、ギューム」

 静かに俺達の会話を聞いていたギュームは、笑顔で頷いた。

「はい。ウマが攻撃をしようとするのは、自分または自分の選んだ乗り手に敵意や憎しみを抱いている時ぐらいです」

 まあこれはあくまでも、人と一緒にいる事を選んだウマに限っての話だ。もし人を憎んでいる野生のウマなんてものがいれば、何の躊躇もなく全力で攻撃してくるだろう。

 これを言うとタユにさらに睨まれそうだし、アキトならそんな野生のウマも何とかしてしまような気がするんだよな。

「アキトがどう思うかは置いておいて、怖いと思う人がいる理由は分かった?」
「うん、一応…?」
「普通はそういう反応をするんだって事を踏まえた上で聞いて欲しいんだけど、ウマにとって一番大事なのは乗り手の感情なんだ」
「感情…?」
「そう、感情」

 または心かな。

「シュリ、通訳をして欲しいんだけど…」

 俺達が長々と話していたせいで、さっきからシュリとキースは近くの花に夢中だ。こどもらしい反応で可愛いなと思うんだが、申し訳ないが今はタユの返事をきっちりと俺に教えて欲しい。

「うん、なぁに?」
「タユ、アキトの感情はどうだった?」

 俺の質問に、タユは少しも悩まずにすぐさま答えた。

「…えっとねーきらきらしてたっていってるよ」

 ああ、そうだろうな。俺がウマ相手に妬いてしまうのは、アキトが好きなものを見る時のキラキラした目で見るせいだから。

「いつもウマのことをきれいだーとかかっこいいとかおもってるし、タユのことをしんらいしてくれててうれしかったって」
「えっと…俺の感情がタユさんには伝わってたって事?」

 すごいねとさらりと答えたアキトは、心を読むなんて怖いと騒ぐ人が一定数いる事なんて思いつきすらしないんだろうな。

「そう。それがタユの言う乗るのが上手に繋がるんだ。馬からすれば、自分に対してキラキラした感情を抱いている相手を乗せて走るというのは、かなり楽しい時間なんだよ」

 そういうもの?とまだ納得できていないらしいアキトに、シュリが口を開いた。

「しじとかはね、べつになくてもいいんだよ。しんじてまかせてくれるひとには、ぼくたちもぜんりょくでこたえたくなるの」

 滅多にいないけどと続けたシュリは、だからキースを乗せて走るのも楽しいんだとぴょんっとその場で小さく跳ねた。

「僕もシュリくんに乗るとすっごく楽しいよ」

 うん、すごく可愛いな。キースとシュリはすっかり友達になったらしい。

「やったーもういっしゅういく?」
「うん、何周でも!」

 微笑ましいやりとりをしている二人を眺めていると、アキトがぽつりと呟いた。

「…タユさん、褒めてくれてありがとうございます」

 やっとさっきの誉め言葉を、受け入れてくれたようだな。
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