生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1177.庭師さんのベンチ

 曇り空の日に庭園に来るのは初めてだけど、なんだかいつもよりも花の色に目がいく気がするな。青空の下だろうと曇り空の下だろうと、綺麗な花っていつでも綺麗なんだな。

 そんな当たり前の事を実感しながら、ハルと手を繋いでのんびりと歩いていく。

 途中で立ち止まったりしながら庭園の景色を楽しんでいると、不意にハルが声をあげた。

「あ、アキト、あそこに一つあるみたいだよ」

 優しく微笑んだハルは、すこし先の茂みの中に少しだけ見えているベンチをそっと指差して教えてくれた。

「おお、本当だ。でもあんなにちょっとしか見えてないのに…よく気づいたね」

 さすがハルと思わず顔を見上げて呟けば、ハルはふふと笑って答えた。

「あそこの木に止まってる鳥が気になって、そっちを見ただけなんだ。だからただの偶然だよ」

 ハルが視線を向けた木には、たしかに鳥が止まっている。

「あれ、でもあれって…森にもよくいる鳥だよね?」

 名前は分からないけど、魔物じゃなくて普通の鳥だし、素材図鑑にも載ってなかったと思う。珍しい鳥じゃなかったはずだよね?と尋ねれば、ハルはあっさりとそうだねと頷いた。

「でもあれはマティさんが好きな鳥なんだ。だから庭で見かけたってファーガス兄さんに話したら、なぜ俺達がデートしてる時じゃないんだって悔しがるだろうなと思って」

 ハルはそう言うと、分かりやすく悪戯っ子の笑顔を浮かべた。うーん、これは絶対に後でファーガスさんに話すだろうな。まあそういうのも兄弟ならではのやり取りだと思うから、別に止めないけどね。

「それじゃあ座りに行こうか?」
「うん、行こう!」

 あそこのベンチの周りは、一体どんな感じなのかな。ワクワクしながら、俺はすぐに笑顔で頷いた。

 元々ここの庭園には、座るための場所とかはあまり作ってなかったんだって。

 領主一家には庭でのんびりするのが趣味だって人もいないし、庭師に勧められた時に歩いて楽しむっていうのが主流だったらしい。

 ちなみに他の領から客人が来た時も自慢の庭を見せたりはするらしいけど、やっぱり通り抜けるだけで、くつろぐ場所では無かったそうだ。

 そんな庭なのに何故ベンチがあるかっていうと、最初のきっかけは最近よく庭に訪れる俺とハルのためだったんだ。

 庭師さんたちがせっかくならのんびりと庭を楽しんで欲しいって言って、色んな場所に設置してくれたんだよね。

 しかもじわじわと増えていってるらしいから、今はいくつあるのか――ハルでも把握しきれてないんだって。

 あ、でも食事の時とかに俺とハルが庭の良さをしょっちゅう話してるせいで、最近はファーガスさんやウィリアムさんも、隙間時間にそれぞれの伴侶と庭にデートしに来てるらしいよ。

 だからこのベンチも、別に俺達だけが使ってるってわけじゃないんだ。

 ちなみにケイリーさんは、はやくグレースが帰ってくれば良いのにってすっごく寂しがってたよ。帰ってきたら絶対に庭デートに誘うんだって、力強く宣言してみんなに笑われてた。



「わ、ここは小さな花がいっぱいなんだ!」

 茂みの所のベンチに向かえば、そこでは清楚な色とりどりの花が出迎えてくれた。木々に咲いている花も他の場所より小ぶりだし、どうやらここは小さな花ばかりをたくさん集めている場所らしい。

 いそいそと並んでベンチに腰を下ろす。

「小さな花がたくさん集まっているというのも、こんなに見ごたえがあるんだな。知らなかったよ」
「ねー俺も知らなかったよ。でもこの景色、すごいよね」
「今までもあったのか…それともベンチを設置するために作ったのか…どっちだろうな」
「どっちだろうねぇ」 

 二人で並んで景色を堪能する。

 まさにこれが、俺達がベンチを探してる理由なんだよね。

 庭師の人たちは、別に適当にベンチを置いて回ってるってわけじゃないんだ。

 見どころのある庭の各所に、隠れるようにして設置されてるんだよね。しかも座った状態で見たら、一番綺麗に見える位置を計算して設置してくれてる。

 つまりベンチを見つけたらそこに座るだけで、庭師さんお勧めの最高の景色が楽しめるって事だ。

「俺ここ好きだなー」
「ああ、俺も好きだな。この景色は」

 次も来れるようにちゃんと覚えておこうと、ハルは優しく笑いかけてくれた。
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