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1188.【ハル視点】庭師の暴走
今日はこの辺りではかなり珍しく、一面のどんよりとした曇り空だ。見上げた空は分厚い雲に覆われていて、ほんのわずかな青空すら見えない。
アキトはそんな空を見上げながら、ゆっくりと歩いている。俺はというと、その横を歩きながら、空ではなくアキトを見つめていた。
どんな天気だとしても、アキトと二人でいられるならそれだけで素晴らしい日だ。そう言ったら、アキトは引くだろうか。
今日はアキトと二人で、領主城の庭園に来ている。
キースとジルさんと一緒に楽しんだ庭での食事会以降、アキトはすっかりここの庭園が気に入ったようだ。
もうリームの花は一つも無くなってしまったんだが、アキトは今でもリームは綺麗だと嬉しそうに眺めている。なんでも葉っぱと茎が風に揺れる様子が、まるで草原みたいに見えるから好きらしい。
嬉しそうにアキトがそう教えてくれた時は、正直に言ってかなり焦った。数日以内には別の場所に植え替える予定だと聞いていたからな。
慌てて庭師たちにアキトの言葉を伝える事になったわけだが、まさかそんな感想を持ってもらえるとは思っていなかったと庭師たちも驚いていた。
そう言ってもらえるならぜひ残そうと、あっさりとそう決めてくれて良かった。
そもそも庭師たちがこれほど張り切っているのは、ギューム経由で俺達の庭園の感想が伝わっていたせいらしい。庭の感想というのは、庭師本人にはあまり届かないものなんだそうだ。
だからこそ庭師たちは、感想をもらってすっごく張り切っているらしい。すこし張り切りすぎなぐらいなのだけが問題なんだが。
「あ、あそこの白色の花は、初めてみるやつだよね?」
見上げるほどの高さに集まって咲いている大きな白い花をさっと指差して、アキトは隣に立っている俺に尋ねた。
「ああ、あれはエウスチっていう花だね。調薬難易度はかなり高いが、頭痛によく効く薬ができる薬草でもあるんだ。見た目が美しいと、特に隣国では鑑賞用としても人気の花なんだが…いったい、いつの間に取り寄せたんだ?」
「俺が気づいていなかっただけじゃなくて…?」
「いや、数日前に来た時は、エウスチの花は無かったよ。珍しい花だし存在感があるから、あれば絶対に気づく」
「あっちの花も…増えてる?」
「ああ、増えてるな」
アキトがそっと指差した方をみてみれば、たしかにそこにも見慣れない花が増えていた。こうして周りを見回してみるだけでも、どれだけ庭師が張り切っているのかが伝わってくるな。
もちろんすごい事だとは思うし、その仕事ぶりには感心もするんだが、どうしても苦笑が漏れてしまう。
俺はアキトに分かりやすいようにと、いくつかの花や木を順番に指差していく。
「これとこれと、これ。それにあれと…あっちの木も、冒険者ギルドで採取依頼が出るような珍しい素材だよ」
「え、そうなの?」
もしここが領主城の中でなければ。普通の人が出入りできる場所だったら。きっと一瞬で採取され尽くすだろうな思うぐらいには、珍しいものばかりだ。
しかもあの青い花は。
「あー…あっちの青い花が咲いてるのなんて、今までは育てられなかった筈の薬草なんだが…」
「へーそうなんだ。でも見た目はすっごく綺麗な花なんだね」
ここにある物が珍しい素材だと知っても、アキトはただ純粋に花の見た目を褒められるんだな。
「前回ここに来た時にも、いくつか気になる薬草があったんだ。だから、一応父に確認はしてみたんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ、あの庭園にある珍しい薬草について、父さんはきちんと把握してるのか?ってね」
庭にはそうそう来ない父さんは、もしかしたら現状を知らない可能性があるんじゃないかと心配になったからだ。現段階で俺から話がいっていれば、庭師たちが怒られる可能性もなくなるかという計算もあった。
明らかに俺とアキトのために、庭を整えてくれているのは分かっているからな。
「もちろん把握はしてるが、基本的に見るのは領主一家か使用人たちだけだから問題ないだろうって言ってたよ」
しかも緊急時には、私たちには構わずに躊躇わずに薬草として使って下さいと庭師から言われているとまで言っていた。きちんと報告が上がっていた事にホッとしていると、父さんは笑って続けた。
「普段は目で楽しめて、いざという時の備えにもなるなら、最高だろうって笑ってた」
「あー…うん、言ってる姿が想像できちゃったよ」
アキトもあっさりと想像できたのか、楽し気に笑っている。
「それにね、最近は騎士団本部の敷地内に新しい薬草畑を作っているんだって。そちらの畑の世話にも、ここの庭師が出向いてるらしいよ?」
珍しい薬草類は、そちらでもしっかりと育てているそうだ。
「それはすごい事だね」
忙しそうだけどと呟いたアキトに、俺も思わず頷いてしまった。
領主城の庭園を改良し続けながら、騎士団本部の薬草畑の世話だからな。
元々庭師たちの仕事は、庭園や城周りの植栽の世話も含まれている。何なら森の中にある畑や、趣味の小さな花壇などにまで手を貸していたはずだ。
そんな状況でも、きっと庭師たちは嬉々として向かうんだろうなと想像ができてしまうんだよな。
次にトライプールからここの領主城に来るときは、トライプール周辺の珍しい植物の種を持ち込もうと、俺は密かに心に決めた。
アキトはそんな空を見上げながら、ゆっくりと歩いている。俺はというと、その横を歩きながら、空ではなくアキトを見つめていた。
どんな天気だとしても、アキトと二人でいられるならそれだけで素晴らしい日だ。そう言ったら、アキトは引くだろうか。
今日はアキトと二人で、領主城の庭園に来ている。
キースとジルさんと一緒に楽しんだ庭での食事会以降、アキトはすっかりここの庭園が気に入ったようだ。
もうリームの花は一つも無くなってしまったんだが、アキトは今でもリームは綺麗だと嬉しそうに眺めている。なんでも葉っぱと茎が風に揺れる様子が、まるで草原みたいに見えるから好きらしい。
嬉しそうにアキトがそう教えてくれた時は、正直に言ってかなり焦った。数日以内には別の場所に植え替える予定だと聞いていたからな。
慌てて庭師たちにアキトの言葉を伝える事になったわけだが、まさかそんな感想を持ってもらえるとは思っていなかったと庭師たちも驚いていた。
そう言ってもらえるならぜひ残そうと、あっさりとそう決めてくれて良かった。
そもそも庭師たちがこれほど張り切っているのは、ギューム経由で俺達の庭園の感想が伝わっていたせいらしい。庭の感想というのは、庭師本人にはあまり届かないものなんだそうだ。
だからこそ庭師たちは、感想をもらってすっごく張り切っているらしい。すこし張り切りすぎなぐらいなのだけが問題なんだが。
「あ、あそこの白色の花は、初めてみるやつだよね?」
見上げるほどの高さに集まって咲いている大きな白い花をさっと指差して、アキトは隣に立っている俺に尋ねた。
「ああ、あれはエウスチっていう花だね。調薬難易度はかなり高いが、頭痛によく効く薬ができる薬草でもあるんだ。見た目が美しいと、特に隣国では鑑賞用としても人気の花なんだが…いったい、いつの間に取り寄せたんだ?」
「俺が気づいていなかっただけじゃなくて…?」
「いや、数日前に来た時は、エウスチの花は無かったよ。珍しい花だし存在感があるから、あれば絶対に気づく」
「あっちの花も…増えてる?」
「ああ、増えてるな」
アキトがそっと指差した方をみてみれば、たしかにそこにも見慣れない花が増えていた。こうして周りを見回してみるだけでも、どれだけ庭師が張り切っているのかが伝わってくるな。
もちろんすごい事だとは思うし、その仕事ぶりには感心もするんだが、どうしても苦笑が漏れてしまう。
俺はアキトに分かりやすいようにと、いくつかの花や木を順番に指差していく。
「これとこれと、これ。それにあれと…あっちの木も、冒険者ギルドで採取依頼が出るような珍しい素材だよ」
「え、そうなの?」
もしここが領主城の中でなければ。普通の人が出入りできる場所だったら。きっと一瞬で採取され尽くすだろうな思うぐらいには、珍しいものばかりだ。
しかもあの青い花は。
「あー…あっちの青い花が咲いてるのなんて、今までは育てられなかった筈の薬草なんだが…」
「へーそうなんだ。でも見た目はすっごく綺麗な花なんだね」
ここにある物が珍しい素材だと知っても、アキトはただ純粋に花の見た目を褒められるんだな。
「前回ここに来た時にも、いくつか気になる薬草があったんだ。だから、一応父に確認はしてみたんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ、あの庭園にある珍しい薬草について、父さんはきちんと把握してるのか?ってね」
庭にはそうそう来ない父さんは、もしかしたら現状を知らない可能性があるんじゃないかと心配になったからだ。現段階で俺から話がいっていれば、庭師たちが怒られる可能性もなくなるかという計算もあった。
明らかに俺とアキトのために、庭を整えてくれているのは分かっているからな。
「もちろん把握はしてるが、基本的に見るのは領主一家か使用人たちだけだから問題ないだろうって言ってたよ」
しかも緊急時には、私たちには構わずに躊躇わずに薬草として使って下さいと庭師から言われているとまで言っていた。きちんと報告が上がっていた事にホッとしていると、父さんは笑って続けた。
「普段は目で楽しめて、いざという時の備えにもなるなら、最高だろうって笑ってた」
「あー…うん、言ってる姿が想像できちゃったよ」
アキトもあっさりと想像できたのか、楽し気に笑っている。
「それにね、最近は騎士団本部の敷地内に新しい薬草畑を作っているんだって。そちらの畑の世話にも、ここの庭師が出向いてるらしいよ?」
珍しい薬草類は、そちらでもしっかりと育てているそうだ。
「それはすごい事だね」
忙しそうだけどと呟いたアキトに、俺も思わず頷いてしまった。
領主城の庭園を改良し続けながら、騎士団本部の薬草畑の世話だからな。
元々庭師たちの仕事は、庭園や城周りの植栽の世話も含まれている。何なら森の中にある畑や、趣味の小さな花壇などにまで手を貸していたはずだ。
そんな状況でも、きっと庭師たちは嬉々として向かうんだろうなと想像ができてしまうんだよな。
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