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1189.【ハル視点】デートに
分厚い雲に覆われた空の下でも、アキトは嬉しそうに庭を見て回っている。
今日みたいな曇り空の日は憂鬱だとか、やる気が出ないだとか、外に出たくないとか言う人もいるんだがな。
アキトに限って言えば、どうやら天候に左右されるという事は無いらしい。
繋いでいる手をゆらゆらと揺らしながら、あちこちの花を観察しながらのんびりと進んでいく。
キラキラした目であちこちを見つめるアキトの姿を見ていると、俺までワクワクしてくるから不思議だ。
アキトに教えてあげられるような何か珍しいものは無いかな。そう考えながら俺もあちこちに視線を動かしていると、一羽の鳥が木の枝に隠れるようにして止まっているのが目についた。
ああ、あれはたしかマティさんが好きな鳥だな。名前はたしかプスレーだったか。そう珍しい鳥では無いが、ここの庭で見られたと話せばきっとファーガス兄さんが悔しがるだろう。
そう想像してクスリと笑みをこぼした所で、茂みの中に隠れるように設置されているベンチに気が付いた。
最近は庭に来る度に、二人でベンチを探しているんだが――俺の記憶が正しければ、あれはまだ知らないやつのはずだ。
「あ、アキト、あそこに一つあるみたいだよ」
俺はすこし先の茂みの中に少しだけ見えているベンチを、アキトにも分かるようにそっと指差した。
「おお、本当だ。でもあんなにちょっとしか見えてないのに…よく気づいたね」
さすがハルと顔を見上げて呟いてくれたアキトに、俺はふふと笑って答えた。
「あそこの木に止まってる鳥が気になって、そっちを見ただけなんだ。だからただの偶然だよ」
「あれ、でもあれって…森にもよくいる鳥だよね?」
きちんと魔物図鑑や素材図鑑を読み込んでいるアキトは、あの鳥がそう珍しいものでは無い事もしっかりと知っていたようだ。珍しい鳥じゃなかったはずだよねと尋ねられた俺は、そうだねと頷いた。
「でもあれはマティさんが好きな鳥なんだ。だから庭で見かけたってファーガス兄さんに話したら、なぜ俺達がデートしてる時じゃないんだって悔しがるだろうなと思って」
そしてきっとマティさんに、さっそく今日庭に行かないかとねだるんだろうな。マティさんもああ見えて兄さんには甘いから、もちろんだと受け入れて二人で庭にやってくるだろう。
そんな二人の未来の姿が、あまりにもはっきりと想像できてしまった。黙っている事ももちろん出来るんだが、それこそもしバレた時に何故教えてくれなかったと言われるからな。そっちの方が面倒そうだ。
今はそんな事よりもベンチだな。
「それじゃあ座りに行こうか?」
「うん、行こう!」
アキトはワクワクした様子で、すぐに頷いてくれた。
元々ここの庭園には、座るための場所はあまり作られていなかった。
今の領主一家の中には庭でのんびりするのが趣味だという人もいないし、庭師に勧められた時に歩いて楽しむのが主流だ。
ちなみに他の領から客人が来た時も自慢の庭を見せたりはするが、それもやはり通り抜けるだけだからな。庭で客人と共にのんびりと過ごすなんて事は、あり得ない。
そんな庭にどんどんベンチが増えていったのは、アキトと俺のためだろう。いや、俺はおまけか。どちらかと言うと、間違いなくアキトのためだな。
手間暇と愛情を込めて育てた植物たちをあれだけ嬉しそうに見て回ってくれるんだから、何かを返したくなったんだろう。
最初は本当に数カ所だけに設置されただけだったんだが、アキトが嬉しそうにベンチごとの景色を楽しむのを知ってか、今もじわじわと増えていっている。
予想外だったのは、俺達だけかと思っていたベンチの利用者が増えた事だ。
食事の時にアキトと俺が庭の良さを頻繁に話してるせいで、最近はファーガス兄さんやウィル兄さんも、隙間時間にそれぞれの伴侶と庭にデートをしに来ているらしい。
キースも使用人たちやジルさん、ギュームやシュリと一緒にたまに庭に遊びに来ているらしい。
父さんは母さんが帰ってきてから、庭デートに誘うんだと言っていたな。それは好きにしてくれと全員で返したせいで、すこし拗ねられてしまった。
夜に仕事が終わった後にも来れるようにと、最近では魔道具の灯りもあちこちに設置されているらしい。今度アキトを誘って、夜にも庭に来てみるのも楽しいかもしれないな。
「わ、ここは小さな花がいっぱいなんだ!」
茂みの所のベンチに向かえば、そこでは清楚な色とりどりの花が出迎えてくれた。木々に咲いている花も他の場所と比べればかなり小ぶりだ。どうやらここは、あえて小さな花ばかりをたくさん集めている場所らしい。
アキトと二人並んで、いそいそとベンチに腰を下ろす。
「小さな花がたくさん集まっているというのも、こんなに見ごたえがあるんだな。知らなかったよ」
「ねー俺も知らなかったよ。でもこの景色、すごいよね」
「今までもあったのか…それともベンチを設置するために作ったのか…どっちだろうな」
「どっちだろうねぇ」
穏やかに話しながら、目の前の景色を堪能する。
これがあるから、ベンチを探すのを止められないんだよな。
庭の各所にまるで隠れるようにして設置されているベンチは、座った状態で見たら一番綺麗に見える位置が計算されているんだ。
ベンチを見つけたらそこに座るだけで、庭師お勧めの最高の景色が楽しめる。しかもこのすこし隠れた場所っていうのがまた良いんだよな。
視界にあるのは綺麗な景色とアキトだけで、幸せを感じてしまう最高のデート場所だと思う。
「俺ここ好きだなー」
「ああ、俺も好きだな。この景色は。次もここに来れるようにちゃんと覚えておこう」
そう口にすれば、アキトはうんと頷きながら幸せそうに笑ってくれた。
今日みたいな曇り空の日は憂鬱だとか、やる気が出ないだとか、外に出たくないとか言う人もいるんだがな。
アキトに限って言えば、どうやら天候に左右されるという事は無いらしい。
繋いでいる手をゆらゆらと揺らしながら、あちこちの花を観察しながらのんびりと進んでいく。
キラキラした目であちこちを見つめるアキトの姿を見ていると、俺までワクワクしてくるから不思議だ。
アキトに教えてあげられるような何か珍しいものは無いかな。そう考えながら俺もあちこちに視線を動かしていると、一羽の鳥が木の枝に隠れるようにして止まっているのが目についた。
ああ、あれはたしかマティさんが好きな鳥だな。名前はたしかプスレーだったか。そう珍しい鳥では無いが、ここの庭で見られたと話せばきっとファーガス兄さんが悔しがるだろう。
そう想像してクスリと笑みをこぼした所で、茂みの中に隠れるように設置されているベンチに気が付いた。
最近は庭に来る度に、二人でベンチを探しているんだが――俺の記憶が正しければ、あれはまだ知らないやつのはずだ。
「あ、アキト、あそこに一つあるみたいだよ」
俺はすこし先の茂みの中に少しだけ見えているベンチを、アキトにも分かるようにそっと指差した。
「おお、本当だ。でもあんなにちょっとしか見えてないのに…よく気づいたね」
さすがハルと顔を見上げて呟いてくれたアキトに、俺はふふと笑って答えた。
「あそこの木に止まってる鳥が気になって、そっちを見ただけなんだ。だからただの偶然だよ」
「あれ、でもあれって…森にもよくいる鳥だよね?」
きちんと魔物図鑑や素材図鑑を読み込んでいるアキトは、あの鳥がそう珍しいものでは無い事もしっかりと知っていたようだ。珍しい鳥じゃなかったはずだよねと尋ねられた俺は、そうだねと頷いた。
「でもあれはマティさんが好きな鳥なんだ。だから庭で見かけたってファーガス兄さんに話したら、なぜ俺達がデートしてる時じゃないんだって悔しがるだろうなと思って」
そしてきっとマティさんに、さっそく今日庭に行かないかとねだるんだろうな。マティさんもああ見えて兄さんには甘いから、もちろんだと受け入れて二人で庭にやってくるだろう。
そんな二人の未来の姿が、あまりにもはっきりと想像できてしまった。黙っている事ももちろん出来るんだが、それこそもしバレた時に何故教えてくれなかったと言われるからな。そっちの方が面倒そうだ。
今はそんな事よりもベンチだな。
「それじゃあ座りに行こうか?」
「うん、行こう!」
アキトはワクワクした様子で、すぐに頷いてくれた。
元々ここの庭園には、座るための場所はあまり作られていなかった。
今の領主一家の中には庭でのんびりするのが趣味だという人もいないし、庭師に勧められた時に歩いて楽しむのが主流だ。
ちなみに他の領から客人が来た時も自慢の庭を見せたりはするが、それもやはり通り抜けるだけだからな。庭で客人と共にのんびりと過ごすなんて事は、あり得ない。
そんな庭にどんどんベンチが増えていったのは、アキトと俺のためだろう。いや、俺はおまけか。どちらかと言うと、間違いなくアキトのためだな。
手間暇と愛情を込めて育てた植物たちをあれだけ嬉しそうに見て回ってくれるんだから、何かを返したくなったんだろう。
最初は本当に数カ所だけに設置されただけだったんだが、アキトが嬉しそうにベンチごとの景色を楽しむのを知ってか、今もじわじわと増えていっている。
予想外だったのは、俺達だけかと思っていたベンチの利用者が増えた事だ。
食事の時にアキトと俺が庭の良さを頻繁に話してるせいで、最近はファーガス兄さんやウィル兄さんも、隙間時間にそれぞれの伴侶と庭にデートをしに来ているらしい。
キースも使用人たちやジルさん、ギュームやシュリと一緒にたまに庭に遊びに来ているらしい。
父さんは母さんが帰ってきてから、庭デートに誘うんだと言っていたな。それは好きにしてくれと全員で返したせいで、すこし拗ねられてしまった。
夜に仕事が終わった後にも来れるようにと、最近では魔道具の灯りもあちこちに設置されているらしい。今度アキトを誘って、夜にも庭に来てみるのも楽しいかもしれないな。
「わ、ここは小さな花がいっぱいなんだ!」
茂みの所のベンチに向かえば、そこでは清楚な色とりどりの花が出迎えてくれた。木々に咲いている花も他の場所と比べればかなり小ぶりだ。どうやらここは、あえて小さな花ばかりをたくさん集めている場所らしい。
アキトと二人並んで、いそいそとベンチに腰を下ろす。
「小さな花がたくさん集まっているというのも、こんなに見ごたえがあるんだな。知らなかったよ」
「ねー俺も知らなかったよ。でもこの景色、すごいよね」
「今までもあったのか…それともベンチを設置するために作ったのか…どっちだろうな」
「どっちだろうねぇ」
穏やかに話しながら、目の前の景色を堪能する。
これがあるから、ベンチを探すのを止められないんだよな。
庭の各所にまるで隠れるようにして設置されているベンチは、座った状態で見たら一番綺麗に見える位置が計算されているんだ。
ベンチを見つけたらそこに座るだけで、庭師お勧めの最高の景色が楽しめる。しかもこのすこし隠れた場所っていうのがまた良いんだよな。
視界にあるのは綺麗な景色とアキトだけで、幸せを感じてしまう最高のデート場所だと思う。
「俺ここ好きだなー」
「ああ、俺も好きだな。この景色は。次もここに来れるようにちゃんと覚えておこう」
そう口にすれば、アキトはうんと頷きながら幸せそうに笑ってくれた。
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