生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1193.【ハル視点】元騎士

 内容の重大さに反して、それはあまりにもあっさりとした告白だった。

 自身の秘密を打ち明けたはずのアキトは、何ならうっすらと顔に笑みさえ浮かべている。

 いや、まあそれもそうか。

 アキトは以前から、幽霊に対しては異世界人だという事実を隠そうとすらしていなかったな。初対面の幽霊相手に、実は異世界出身なんだと告げているのを、今までに何度も目撃している。

 今回のように俺に防音結界を張る時間をくれるようになっただけ、周りに知られてはいけないという意識が育ったと言えるのかもしれない。

 今までのアキトの行動を知っている俺は、そう考えれば今の告白に納得もできる。

 だが何も知らないクレットは、いきなりこんな事を打ち明けられるとは想像もしていなかっただろう。

 大丈夫かと、俺はそっとクレットに視線を向けた。

 ここ辺境領の騎士団に所属していたわけだから、クレットも当然ながら異世界人が置かれている状況はしっかりと把握している。

 異世界出身である事を隠さないといけない理由も、現在も保護されている異世界人がいる事もきちんと知っている。

 もしかしたら面倒事に巻き込まれている異世界人を、助けた事もあるかもしれない。

「っ…!なんと…!アキト様は異世界人なのですか…?」

 大きく目を見開いたクレットはまるで独り言のようにぽつりとそう呟いた後、俺達が何か言葉を発するよりも前にハッとした様子で口を開いた。

「私、クレットは、例えお二人のような幽霊が見える体質の方に出逢ったとしても、決してアキト様の秘密を他言はしません」

 キリッと真剣な表情でそう宣言してくれたクレットに、アキトと俺は思わず顔を見合わせて微笑んでしまった。

 ここまでしっかりと受け止めて、すぐさまそんな宣言をしてくれるとはさすがに想像していなかったな。幽霊が見える体質の人に出逢っても…か。

「私の剣…に誓っても、今はもうこの手で振るえないものですから――意味が無いでしょうか…」

 ぶつぶつとそう呟いたクレットは、さっと顔をあげて俺たちに向かって続けた。

「それでは、私の元騎士としての誇りにかけて誓います」

 誓いの言葉としてはこれ以上ないものだと思う。クレットは絶対にこの誓いを守ってくれるだろう。ただ元騎士という言葉だけが、引っかかった。

「クレット、俺はクレットは今も騎士だと思う」
「そう…でしょうか?」
「ああ、今も騎士団のために情報を集めてくれていたんだ。しかも騎士として好ましい人格もきちんと維持している。それなら、元では無く立派な騎士だろう」

 父さんやファーガス兄さん、ウィル兄さんに聞いたとしても、クレットは現在も立派な騎士だと断言するだろう。

 いやウィル兄さんだけは、クレットが元騎士だと言った話をしたら、怒り出すか――もしかしたら泣き出すかもしれないな。

 そんな事を考えながら見守っていると、クレットはふらりと視線を彷徨わせた。本当にそう思いますかと言いたげな不安そうな視線を向けられたアキトは、即座にこくりと頷いた。

「俺も、クレットさんは騎士様だと思います」
「幽霊でも…?」
「ああ、幽霊でもだ!」
「ええ、幽霊でもです!」

 アキトと二人でぴたりと言葉を重ねて声をかければ、クレットはふわりと笑みを浮かべた。ああ、やっと俺達が本気でそう思っていると分かってくれたようだ。

「そう言ってもらえて、とっても嬉しいです」
「それで…アキト?いったい何を話したくて異世界人な事を話したんだい?」

 そう声をかければ、アキトはあ、そうだと声を上げた。

「クレットさん、俺は生まれつき幽霊の声が聞こえました。父もそうだったので遺伝したんだと思うんですが…これは元の世界でもかなり珍しい能力だと思います」

 さらりとそう説明されたクレットは、苦笑しなら答えた。

「ええ、こちらの世界でもかなり珍しいと思いますよ」
「ああ、俺もアキトに出逢うまでそんな人が存在すると、考えた事も無かった」

 もし存在すると知っていたら、きっと必死になって探し回る事になっていただろうな。

「だから俺は幼い頃からずっと、たくさんの幽霊たちと触れ合って生きてきました。当然たくさんの幽霊たちの心残りを知っています」
「なるほど。それは…もし可能なら、ぜひ他の幽霊たちの心残りの話を聞かせていただけないでしょうか?」

 まるで縋るような質問に、アキトはもちろんですと笑顔で頷いた。

「俺が今まで出逢った中には、本当に些細な心残りがある人から、実現可能か悩むぐらい壮大な心残りがある人、それにクレットさんのようにそもそも心残りが何かすら分からないっていう人もたくさんいました」

 穏やかな声でそう説明をされたクレットは、ホッとした様子で口を開いた。

「私だけでは…無いんですね。少し安心しました」
「はい。そういう幽霊の中には、気ままにあちこちを放浪しているうちに満足して消えていく人もいたし、もう諦めたわと笑って周りの幽霊たちの世話を焼いているなんて人もいましたよ」

 そう教えてくれたアキトは、懐かしそうな表情を浮かべていた。
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