生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1195.【ハル視点】転移魔法陣

 幽霊には時間の制限が無いとは言え、出せる速度には限界がある。ウマよりも速く移動する事はできるが、さすがにここからトライプールまでは近いと言えるような距離では無い。

 俺達もトライプール領主様に転移魔法陣を使わせてもらっていなければ、時間を駆けて移動する筈だったわけだからな。

 そこまで考えてハッとした。そうか、この手があったな。

「あ…そうだ」

 ニヤリと笑いながら声をあげれば、アキトは楽しそうに尋ねてくれた。

「ハル、何か良い案でも思いついたの?」
「ああ!どうせ誰にもバレないんだから、転移魔法陣で移動する人を待ち伏せして一緒に移動してみるっていう案はどうだろうと思いついたんだ」

 トライプールと辺境領の間なら、領主様一行がそれなりの頻度で移動しているからなと笑って続ける。

「まあ俺もさすがに幽霊だった頃に、魔法陣で移動した事は無かったからな…そもそも幽霊にも魔法陣を使う事ができるのかどうかは…分からないんだが」

 もしかしたら幽霊には魔法陣での移動は出来ない――という可能性だってある。期待だけさせて駄目だった時に申し訳ないとそう続ければ、アキトはなるほどと頷いてくれた。

「魔法陣はすごかったもんね」

 キラキラと尊敬の眼差しを向けてくれるアキトと違い、クレットはいまいち乗り気では無いようだ。明らかな困り顔のまま、えっと…と控え目に話しだした。

「良い案だとは思うのですが…その…いくら見えていなくても、勝手に使用するわけにはいきません。それに…もしかしたら幽霊一体分の魔力を、多く使う事になるかもしれませんし」

 ああ、たしかに魔力は多く消費する可能性があるな。過去に試した事も無いわけだから、絶対に魔力を消費しないとは言いきれない。

「そうか…分かった。それじゃあクレットが情報を伝えたい時に魔法陣を使っても良いか、父や兄たちにきちんと尋ねて許可を得ておくよ」

 そうでもしないと、クレットはきっと魔法陣は使わないだろう。

「いえ、そこまでして頂かなくても、今の私なら、自分の力でトライプールまで移動できますから…」
「いや、魔法陣を使ってでも俺達に伝えたいと思うような重要な情報を手に入れたなら、その時は躊躇せずに魔法陣を使って俺達まで届けて欲しいんだ」

 これはクレットのためというよりも、俺の家族とこの領のためだ。

「…確かに魔法陣が使えるなら早く届ける事ができますが…」
「ぜひ頼む。情報は時に驚くほどの力になる。それはクレットの方が、隊の活動を通じて実感している事だろう?」

 真剣な表情でそう続ければ、クレットはしばらく考えてから、分かりましたと頷いてくれた。

「まあ、まずはきちんと正式に許可を得て、それからそもそもクレットに魔法陣での移動ができるのかをやってみる所から…だけどな」
「はい、ですが、例え許可が貰えなくても、私はトライプールまで行くと思います」
「ああ、歓迎するよ」
「俺も歓迎します」
「ありがとうございます。お二人のおかげでやりたい事をできるという事が、すごく嬉しいです」

 そう言って、クレットはふわりと笑みを浮かべた。自分の心残りが何なのか分からないと言った時の、あの途方に暮れたような表情とは違って今は幸せそうな笑顔だ。

 良かったねとアキトと目を合わせて笑い合っていると、不意にクレットが口を開いた。

「あの…さっそくなんですが…一つだけ、どうしてもお伝えしたい情報があるんです」

 さっきまでとは違う真剣な表情に、俺も真面目に返す。

「そうなのか。それは俺達二人がここで聞いた方が良い情報か?それとも父や兄たちにも話を通した方が良い情報か――どっちだ?」

 まずはそこをはっきりさせないとな。

「可能ならば、領主一家の皆様に、聞いて頂きたいです。情報の内容は、牙蛇盗賊団に関する事です」
「分かった。それじゃあ、すぐに領主城に戻って、皆を集めようか」
「お二人はデート中なのに、無理を言って申し訳ありません」

 クレットは、きゅっと眉を下げながら本当に申し訳なさそうにもう一度そう謝った。もう謝罪は必要無いって言ったのにな。それだけ気にしているという事なんだろう。

「いえ、気にしないでください。大事な情報と俺達のデートなら、大事な情報の方が明らかに急ぎなんですから」

 アキトはあっさりとそう言うと、ね、と笑顔で俺を見上げてくる。ああ、そうだな。アキトとのデートも大事な予定ではあるが、急ぎちうわけでは無いな。

「そうそう、デートはまた今度改めてすれば良いだけだからね」

 明るい笑みを浮かべる事を意識しながら、俺もそう返した。

「うん、次はどこに行くか、またゆっくり考えようね」

 そう言い合う俺達の様子を見て、クレットはやっとホッとした様子でくしゃりと笑ってくれた。
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