生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1202.出発前に

 あの家族会議の日から、あっという間に数日が経った。

 この数日間、騎士さんたちと使用人の人たちは、それはもう忙しそうだった。会議でも言ってた装備や備品の用意、根回しなんかのために、文字通り走り回って頑張ってくれてたんだ。

 何か手伝いたいと思ったけど、俺にできる事は特になさそうだからぐっと我慢してた。

 そんなみんなの努力のおかげで、ついに先行部隊が出発する日が来た。


 
 今日の出発前の待ち合わせ場所は、騎士団本部の訓練場だ。

 早朝の訓練も終わって本来なら閉鎖されてる時間帯だから、訓練所の中には本当に数えるほどの人しかいない。

 まあその数人も、先行部隊の準備をしてくれていた侍従さんたちとか、盗賊の拠点までの移動手段として馬を連れてきた馬の世話係の人たちとかなんだけどね。

 あのたくさんの人が集まる早朝の訓練の時を知っている身からすると、ちょっとびっくりする光景だ。

 人がいないだけで、ここの訓練場ってこんなに広く感じるんだね。

「ハルは、今日はイワンさんに乗せてもらうの?」

 さっきギュームさんがわざわざ俺達の所まで挨拶に来てくれたんだけど、イワンは今日も調子が良いですって教えてくれてたんだよね。ちょっと距離はあるけど、数頭の馬の中にイワンさんがいるのは見える。

「ああ、いつもはウマの指定はしないんだが…イワンとは気が合いそうだからって聞いてもらったんだ」

 ああ、なるほど。シュリくんに頼んで、イワンさんに一緒に行かないか聞いたって事か。

「返事は何て?」

 そっと顔を近づけて小声で尋ねれば、ハルはふふと笑って同じぐらい小さな声で答えてくれた。

「行きたいって即答だったらしいよ」

 前回まではハルはタユさんに乗せてもらってたから、一応今回はイワンさんに乗るって話をタユさんにもしてもらったんだって。

 いきなり違う馬を選ばれたら嫌かもしれないからって、気を使ったらしい。でもタユさんからの返事は、今はシュリくんと離れたくないからそれで良いってあっさりした物だったらしいよ。

「そっか、タユさんも納得してくれてるなら良かったね。イワンさんも信頼できる人――じゃなくて信頼できる馬だから、ちょっと安心だ」

 俺は一緒に行けないけど、イワンさんは行けるからね。後でこっそりよろしくお願いしますって声をかけておこう。俺からの一方通行だけど、言葉は分かってるみたいだし。

「アキト、今回は本当に情報収集が目的だし、倒したとしても魔物数体程度だから…ね」
「うん、何回も聞いたから知ってるし、ちゃんと分かってるよ」

 知ってても心配はするし、頭では分かってても無事に帰ってくるまで安心はできないんだけどね。でもここでそんな事を言ったら、絶対にハルが気にする。

 俺はへらりと笑みを浮かべて、頑張ってねと声をかけた。



「おはよう、ハル、アキトくん」

 しばらくすると、後ろに三人の騎士らしき人たちを従えたウィリアムさんが、足早にこちらへと向かってきた。

 今日はウィリアムさんも後ろの騎士さんたちも、全身を冒険者風の装備で固めている。

 ウィリアムさんは前衛剣士っぽい装備だ。騎士の人たちは、一人は弓を担いでいて、もう一人は杖を持っていて、もう一人は巨大な盾を背負っている。弓使いと魔法使い、それと盾使い――かな。

「おはよう、ウィル兄」
「ウィリアムさん、おはようございます」
「待たせてごめんね。この二人がうちの隊の隊員で、こっちが陰護衛の隊員だよー」

 てきぱきとそう紹介してくれたウィリアムさんの言葉に、それぞれが自己紹介を始めた。ハルも普通に自己紹介を追えると、他の冒険者とパーティーを組む時みたいにこういう事が得意だとかそういう話をしている。本当に冒険者同士の会話みたいだ。

「ハル様、よろしくお願いします」
「精一杯頑張ります」
「お二人とご一緒できて光栄です」

 それぞれの尊敬のこもった言葉に、ハルとウィリアムさんは顔を見合わせた。

「えーと、まず敬語はー止めよう?」
「そうだな。丁寧に話す冒険者なんて本当にごく一部だから」

 それが三人もいたら目立って仕方ないと、ハルは笑って続けた。うん、確かに。敬語で話す冒険者なんて、そうそういないよね。

「名前も俺はウィルで、ハルは…ハルで良いのー?」
「ああ、もちろん。ハルと呼んでくれ」

 そんなの無理だと慌てる冒険者の恰好をした騎士さんたちに、ハルとウィリアムさんはにっこりと笑みを浮かべて言い放った。

「「できるまで出発できないから、頑張れ」」

 うん、今の表情、二人ともそっくりだったよ。さすが兄弟。
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