生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,204 / 1,561

1203.見送り

 今回の先行部隊は騎士としてではなく冒険者としてこっそりと出発するわけだから、大門の所まで見送りに行く事は誰にもできないらしい。

 うん、まあそうだよね。

 冒険者が依頼に出る時に誰かが見送りに来てるのなんて見た事が無いし、多分めちゃくちゃ目立つと思う。俺だってそんな人がいたら、見ちゃうもんな。

「じゃあ行ってくるね、アキト」
「うん。いってらっしゃい、ハル」

 さっきこっそりイワンさんに近づいて、ハルの事よろしくお願いしますって言っておいたんだ。イワンさんは分かってると言いたげに、ひんと嘶いて返事を返してくれた。

「遅くなるかもしれないけど、今日中には帰ってくる予定だから」
「うん、ちゃんと領主城で待ってるよ」

 実は、ハルからお願いされたんだよね。

 出来れば領主城からは出ないで欲しいって。この前うっかり攫われた身だからね。まだ心配なんだって言われたら、分かったって言うしかないよね。

 だからちゃんとどこにも行かずに、領主城でハルの帰りを待つんだ。

「ああ、そうしてくれ」

 ホッとした様子を見せたハルは、ニコリと笑みを浮かべるとイワンさんに飛び乗った。

 駆け出した先行部隊のみんなの背中が見えなくなるまで、俺はその場に立ち尽くしたまま見送った。

 あーどうしよう。

 まだ出発したばっかりだっていうのに、もう既に寂しいし、心配でどうにも落ち着かない。

 いくらウィリアムさんや他の騎士さんも一緒だとは言え、ハルが難関ダンジョンであるムレングダンジョンに向かうっていうのは事実だからね。心配になるのも仕方ないよね。

「アキト様、この後のご予定は…?」

 心配そうにそう尋ねてくれた侍従さんに、俺はとりあえず自分の部屋に戻りますと返した。ここでそわそわしてても、良い事なんてきっと何も無いからね。外に立ち尽くしてたら周りの皆にも心配されちゃいそうだし、とりあえずまずは部屋に戻ろう。

「それでは、領主城まで私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

 別に迷うようなややこしい道じゃないから、これはたぶん俺を一人で行かせないための申し出なんだろうな。

 そう思ってじっとみてみれば、この侍従さんはかなり強そうだ。

「はい、では領主城までお願いします」
「快諾して頂き、ありがとうございます」

 うーん、これは侍従さんの意思で一緒に行くと提案してくれたのか…それともハルが心配して根回ししてたのかどっちだろうな?

 なんて事を考えながら、俺は侍従さんと一緒に領主城を目指して歩き出した。



 自室に辿り着いた俺は、後ろ手できっちりと部屋の鍵を閉めた。

 いつもなら豪華だけど落ち着く部屋だなーと思うのに、今日は何だかだだっ広くて物寂しく見える気がする。

 ハルがいない部屋に一人でいる事って、そもそもそんなに無いもんな。今頃は、大門の外に出て街道を駆け抜けてる頃かな。

 この前通った道を順番に思い浮かべていると、やっぱり落ち着かない気持ちになってしまう。

 あーさっきからハルの事ばっかり考えすぎてるから、余計にそわそわするのかな。うん、そうかもしれない。

 ハルの事をあまり考えずに、できる時間つぶしっていったい何があるだろう。ベッドにゴロリと転がったまま考える。

 あ、そうだ、本でも読もうかな。

 この前ジルさんに借りた本が、まだ手つかずで残ってるんだよね。とある森にある珍しい果物を巡る冒険譚で子どもにも人気のお話らしいんだけど、実在する果物だからすごくきっちり調査した上で書かれてるんだって。大人が読んでも楽しめるって言ってたから、それを読んでみよう。

 むくりとベッドから起き上がり、俺は魔導収納鞄から取り出した本を持ってテーブルへと移動した。

 分厚い本をテーブルの上に置いて、ぺらぺらとページをめくっていく。

 物語は森に迷い込んだ若手の冒険者が、珍しい果物を見つける所から始まった。こんな果物が実在するんだと考えながら読んでいたんだけど、途中で手が止まってしまった。

 目はちゃんと文字を追ってるんだけど、その内容が全然頭に入って来ない。さっきから同じ文ばかりを何度も読んでいるのに気が付いて、そっと読むのをやめた。

 こんな状態じゃあ読書は楽しめないし、この本にも本を貸してくれたジルさんにも失礼だ。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。