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1207.達人ラスさん
料理は別に得意ってわけじゃないけど、バイトしてた居酒屋でちょこちょこ料理の仕方を教えてもらったりはしてた。それに野菜を切るぐらいの調理のお手伝いなら、たまにしてたからね。
だから俺にも野菜を切ったり、何か手伝わせてもらえますか?って言うつもりだったんだ。
そう、ラスさんの手際を見るまでは。
あの手際を見てしまったら、そう言おうとした口を思わず閉じる以外に、俺に出来る事なんて無かったよ。
もしかして早送り中ですか?って聞きたくなるぐらいに、手早く数種類の野菜を刻んでいくんだ。
野菜を洗ったなと思ったらもう皮を剥いてて、皮を剥いたなと思ったらもう切り出してて、切り出したなと思ったらもはや残像ぐらいしか見えないぐらい素早く包丁が動くんだ。
驚いて思わずじっと眺めている間に、下ごしらえが全部済んでしまうんだからすごいよね。
「よし、下ごしらえは終わったな」
下ごしらえの達人と呼びたくなるぐらいの素早さでパパッと野菜を刻み終えたラスさんは、何でもない事みたいにうむと一つ頷いた。
その反応があまりにも自然体すぎて、びっくりしちゃったよね。
「すごい…早い」
思わずぽつりとそう呟けば、嬉しそうにふふふと笑われてしまった。
「俺の仕事は料理人だから、まあこれぐらいはな」
あっさりとそう答えたラスさんは、今度はてきぱきと大きな鍋やフライパンのような物を取り出していった。
火の魔道具を使って鍋やフライパン?を加熱しながら、ラスさんは口を開いた。
「領主城内には厨房はいくつもあるんだが、そのどこにいっても魔道具が惜しげも無く使用されているんだ。この火の魔道具もそうだし、水の魔道具もそうだな」
これだとラスさんが指差したのは、さっき野菜を洗う時に使っていた魔道具だ。
なるほど。俺のいた世界でのキッチンの機能のほとんどを、魔道具で補ってるって感じなんだね。そう言われると後ろにあるあの前開きっぽいのはオーブンとかなのかな?それとも電子レンジとか?
思わずそんな事を考えながら、きょろきょろと厨房の中を見回しちゃったよね。
そこからのラスさんの動きは、それはもう圧巻だった。同時にいくつもの調理器具と魔道具を使いこなして、いくつもの料理を平行して作っていくんだ。
あまりに素早い動きや温度調整に、ラスさんの手って二本ですよね?って確認したくなるぐらいだった。
ラスさんのすごさに驚いたり、その手さばきに見惚れてたりしている間に、調理は全て終了していた。
えー俺、何もしてないんだけど。
「アキト、待たせたな」
そう言ってラスさんはにっこりと笑ってくれたけど、俺、さっきからただ呆然と見つめてるだけだったよ。
「いえ、全然待ってないです。それに、俺…ただ見てるだけですみません…」
何も手伝えなかったと心からの謝罪を告げた俺に、ラスさんは笑って答えた。
「いや、レーブンとローガンがガキの頃を思い出したよ」
よくそうやってキッチンの隅から俺が料理する所を見ていたんだと、ラスさんは懐かしそうに続けた。
あーなるほど。もしかしたら二人とも、ラスさんが料理する所を幼い頃から見て育ったから、料理人になりたいって思ったのかな。
厳密に言うとレーブンさんの職業は宿屋の経営者なのかもしれないけど、料理が美味しい宿なので俺の中では料理人認定だよ。
「そっちのテーブルに行っててくれ」
ラスさんに言われるままに、俺は厨房の隅にあるテーブルへと向かった。テーブルの上には向かい合うようにしてスプーンやフォークなんかの食器類と、果実水が入っているらしいコップが並んでいた。
あれ?いつの間にこんなものを用意したんだろう?
この部屋に入るなり鍵を閉めて防音結界まで発動させてたぐらいだから、俺がしてないって事はこれも間違いなくラスさんが用意してくれたって事だよね。
俺そんなにラスさんの手際に見惚れてたのかな?
驚きのあまりまじまじとテーブルの上を眺めていると、ラスさんがトレイを持ってこちらへと近づいてきた。どうやら今日の食事は、トレイの上にひとまとめにされているみたいだ。
「これが、アキトの好きな物なら良いんだが…」
そう言ってラスさんが差し出したトレイを見て、俺は思わずえっと驚きの声を洩らした。
だから俺にも野菜を切ったり、何か手伝わせてもらえますか?って言うつもりだったんだ。
そう、ラスさんの手際を見るまでは。
あの手際を見てしまったら、そう言おうとした口を思わず閉じる以外に、俺に出来る事なんて無かったよ。
もしかして早送り中ですか?って聞きたくなるぐらいに、手早く数種類の野菜を刻んでいくんだ。
野菜を洗ったなと思ったらもう皮を剥いてて、皮を剥いたなと思ったらもう切り出してて、切り出したなと思ったらもはや残像ぐらいしか見えないぐらい素早く包丁が動くんだ。
驚いて思わずじっと眺めている間に、下ごしらえが全部済んでしまうんだからすごいよね。
「よし、下ごしらえは終わったな」
下ごしらえの達人と呼びたくなるぐらいの素早さでパパッと野菜を刻み終えたラスさんは、何でもない事みたいにうむと一つ頷いた。
その反応があまりにも自然体すぎて、びっくりしちゃったよね。
「すごい…早い」
思わずぽつりとそう呟けば、嬉しそうにふふふと笑われてしまった。
「俺の仕事は料理人だから、まあこれぐらいはな」
あっさりとそう答えたラスさんは、今度はてきぱきと大きな鍋やフライパンのような物を取り出していった。
火の魔道具を使って鍋やフライパン?を加熱しながら、ラスさんは口を開いた。
「領主城内には厨房はいくつもあるんだが、そのどこにいっても魔道具が惜しげも無く使用されているんだ。この火の魔道具もそうだし、水の魔道具もそうだな」
これだとラスさんが指差したのは、さっき野菜を洗う時に使っていた魔道具だ。
なるほど。俺のいた世界でのキッチンの機能のほとんどを、魔道具で補ってるって感じなんだね。そう言われると後ろにあるあの前開きっぽいのはオーブンとかなのかな?それとも電子レンジとか?
思わずそんな事を考えながら、きょろきょろと厨房の中を見回しちゃったよね。
そこからのラスさんの動きは、それはもう圧巻だった。同時にいくつもの調理器具と魔道具を使いこなして、いくつもの料理を平行して作っていくんだ。
あまりに素早い動きや温度調整に、ラスさんの手って二本ですよね?って確認したくなるぐらいだった。
ラスさんのすごさに驚いたり、その手さばきに見惚れてたりしている間に、調理は全て終了していた。
えー俺、何もしてないんだけど。
「アキト、待たせたな」
そう言ってラスさんはにっこりと笑ってくれたけど、俺、さっきからただ呆然と見つめてるだけだったよ。
「いえ、全然待ってないです。それに、俺…ただ見てるだけですみません…」
何も手伝えなかったと心からの謝罪を告げた俺に、ラスさんは笑って答えた。
「いや、レーブンとローガンがガキの頃を思い出したよ」
よくそうやってキッチンの隅から俺が料理する所を見ていたんだと、ラスさんは懐かしそうに続けた。
あーなるほど。もしかしたら二人とも、ラスさんが料理する所を幼い頃から見て育ったから、料理人になりたいって思ったのかな。
厳密に言うとレーブンさんの職業は宿屋の経営者なのかもしれないけど、料理が美味しい宿なので俺の中では料理人認定だよ。
「そっちのテーブルに行っててくれ」
ラスさんに言われるままに、俺は厨房の隅にあるテーブルへと向かった。テーブルの上には向かい合うようにしてスプーンやフォークなんかの食器類と、果実水が入っているらしいコップが並んでいた。
あれ?いつの間にこんなものを用意したんだろう?
この部屋に入るなり鍵を閉めて防音結界まで発動させてたぐらいだから、俺がしてないって事はこれも間違いなくラスさんが用意してくれたって事だよね。
俺そんなにラスさんの手際に見惚れてたのかな?
驚きのあまりまじまじとテーブルの上を眺めていると、ラスさんがトレイを持ってこちらへと近づいてきた。どうやら今日の食事は、トレイの上にひとまとめにされているみたいだ。
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