生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1240.【ハル視点】偵察

 しっかりと周りを警戒しながら、俺達は入ってきた魔石のある場所を目指して移動を始める。もちろん警戒する対象は、魔物だけじゃない。

 こちらを監視している視線が無いか、怪しい人が近づいて来てはいないかなどだ。盗賊がいるという想定で行う全力での警戒だ。

 ただ全員が、無言でダンジョン内を歩いているというのも逆に目立つ。

 どうやら俺と同じように考えたのか、ジーラルとネルバは、ダン相手に森で取れる果実を使った酒の話をして盛り上がっている。

 いや、これはもしかしたら普通にその果実酒が飲みたいというアピールかもしれないな。ウィルならこういう話を覚えていて、打ち上げに飲んでと手配してくれたりするからな。いや、手配をしてくれるのは、気配りが細かいジルさんか。

「ウィルも三人の言ってる酒って飲んだ事あるのか?」
「ううん。その果実のは無いかなー俺はネモレの果実酒が一番好きだよー」
「ああ、ネモレか。あれは確かに爽やかな風味で良いな。…そう考えると、俺の伴侶も好きそうだ」

 十分に警戒はしているつもりだが、誰がどこで聞いているか分からないからな。アキトの名前をうっかり呼ばないように気をつけながら、俺はそう答えた。

「もう、また伴侶の話に持ってくー」

 そう言って笑うウィルに、お前だってそうだろうと返す。ウィルも当然だがジルさんの名前は出さずに大事な人だからねと返してきた。

 ははと笑っていると、不意にクレットの声が聞こえてきた。

「ハロルド様、歓談中に失礼します。前方の道左の分岐の先に、気配を減らす魔道具を使っている男が一人います。おそらく彼が偵察かと。あと数歩で声が聞こえる範囲に入ります」

 慌てて声がした方へと視線を向ければ、壁から半身を出しているクレットと目が合った。姿を見ないと思っていたら、壁を抜けて俺達の先回りをしてくれていたらしい。

 ありがとうとすぐさま手信号を送ってから、俺はウィルに話しかける。

「それにしても、こんなに早く依頼が終わるなんて思ってもみなかったな」

 あまりに唐突に話題を変えた俺の言葉に、ウィルもジ―ラルもネルバも、そしてダンもハッとした様子で視線をあげた。不自然にならないようにと考えてくれたんだろう、背後の三人はまた果実酒の話に戻ってくれた。本当に察しが良くて助かる。

「うん、そうだねー」

 ウィルはのんびりと笑いながらそう答えてくれた。よし、ウィルもちゃんと気づいたな。

「見つけるのはもっと大変だと思ってたんだが、あっさり採取できたからな」
「うん、しかも余力も残してってのは嬉しいよねー良い魔物が出たら倒して素材も持って帰ろうか」
「ああ、それは良いな」

 採取依頼でここまで来たが、もう依頼は達成した。簡単だったから疲労はしていないし、まだ魔物が出てくるのを楽しみに待てるほどの余力がある。そして俺達はこのまますぐに、この階層から帰る。

 そう伝わるような会話を、ぽつぽつと重ねていく。しばらくするとクレットがまた壁からひょこっと顔を出した。

「さすがハロルド様とウィリアム隊長です。偵察は面白くなさそうな顔をしながら、いなくなりました」

 その偵察の男の目的は、俺たちには分からない。もしかしたらこの階層にいる冒険者を警戒して見に来たのかもしれないし、もしくは俺達を獲物として狙うかどうかと考えて見に来たのかもしれない。

 だがどちらにしても、今俺達を襲うつもりはないようだ。

 俺はもう大丈夫だとささっと手信号だけで全員に伝えて、そのまま道を進んでいった。



 入ってきた魔石の近くには、どうやら偵察も見張りもいないようだ。俺達全員の気配探知に加えて、クレットが隅々まで見て回ってくれたから間違いない。

 ここまで手薄だという事は、やはりこの魔石以外にも出入り口があるんだろうか。

 いや、もしくは出入り口の近くに見張りを置くと、気づかれる確率が上がって危険だと判断している可能性もあるか。

 そんな事を考えながら、俺は皆の顔を見回した。

「いくよ」

 ウィルは小さな声でそう言うと、率先して魔石に手を触れた。

「先に行くぞ」

 ジーラルが次に手を触れれば、ネルバはこちらをじっと見つめてきた。どうしますかと言いたげな視線に、俺はそっと手で先に行ってくれと促した。

 コクリと頷いたネルバの姿が消えると、ダンが口を開いた。

「ハル、先に行ってくれ」
「分かった。ありがとう」

 一番危険な役割を買ってでてくれたダンに礼を言ってから、魔石に手を触れた。

 一瞬にして隠し部屋まで戻ってきた俺は、ふうとひとつ息を吐いた。

 ああ、早く帰りたいな。アキトに会って抱きしめて、大丈夫だったよと囁いて安心させたい。

 そんな事を考えながら、俺は周りの気配をもう一度丁寧に探った。
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