生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,267 / 1,447

1266.【ハル視点】出迎え

しおりを挟む
 森の外で気ままに過ごしつつ待機してくれていたウマたちと、俺たちは何の問題もなく無事に合流する事に成功した。

 ウマに乗って森を抜けると、俺達はそのまま街道を駆け出した。

 少しずつ日が暮れつつあるせいか、街道を行く人の数はかなり減っている。移動中の人もまだ多少はいるんだが、ウマの駆ける音を聞くとさっと道を開けてくれる。

「すまない、ありがとう!」

 ちょうど道を譲ってくれた冒険者にすれ違い様にそう声をかければ、後ろから気にすんなーと答える声が追いかけてきた。

 こういう気楽なやり取りができるのが、冒険者の良い所だな。

「まさかこんな時間に帰って来れるとは、思わなかったねー」

 そう声をかけてきたのは、隣でウマを走らせているウィルだった。

「そうだな。まあもし夜遅くなっても、俺は帰るつもりだったけどな」

 アキトが待っているんだから当然だろう?と匂わせれば、ウィルからは気持ちは分かると返事が返ってきた。ジルさんに会うために、ウィルも今日中には帰るつもりだったんだろうな。

 ウマを走らせながらそっと見上げた空は、うっすらと赤く染まっていく所だった。青から紫、ピンク色から赤へとなだらかに色が変化していて綺麗だ。

 アキトに見せたいなと考えていると、不意にジーラルが叫んだ。

「あっ、みんな、領都の大門が見えてきたぞ!」

 叫び声にパッと視線を戻せば、確かに遠くにうっすらと領都の大門が見えてきていた。

「思った以上に順調な移動でしたねー」

 ネルバの嬉しそうな声に、ダンがすかさずまだ気は抜くなよと声をかけている。たしかにここで油断して魔物に出くわすなんて嫌だからな。

「それもそうですね。気合を入れなおします!」

 素直に忠告の言葉を受け止めて周りを警戒し始めたネルバに、ダンは良い判断だと嬉しそうに笑っている。

 和やかな空気が流れる中、俺達は大門を目指し更に速度をあげた。



 大門を通り抜けた俺達は、街中の大通りをウマを引きながら歩いていく。

 この時間帯になると、大通りの人はそれほど多くない。食事が取れる屋台の多い市場の中や、路地の飲食店の前の方が混み合っているからな。

 このままウマでこの大通りを駆け抜けられたら、時間短縮になるんだけどな。騎士の恰好をしている時ならともかく、冒険者を装っている今の状態では残念ながらそれは不可能だ。

 風に乗って時折漂ってくる美味そうな料理の香りを感じながら、俺達は足早に大通りを歩き続けた。



 はやる気持ちを抑えつけて森を通り辿り着いた領主城の前には、メイド長のリモと数人の使用人たちが待機してくれていた。

 どこかで俺達が帰ってくるという情報を仕入れてきていたんだろう。特に驚いた様子もなく、リモはスカートを摘まみながら深々とお辞儀をしてから口を開いた。。

「おかえりなさいませ。ウィリアム様、ハロルド様、そして先行部隊のみなさま。無事のお帰りをお持ちしておりました」
「ただいまー」
「ああ、ただいま」

 ウィルと俺がそう答えれば、リモは順番に俺達の姿を見つめた。

「みなさまご無事なようで、何よりです」

 ふわりと笑みを浮かべたリモの言葉に、俺達も笑い返す。本当に心からそう思ってくれているのが伝わってくる表情だった。

「それではどうぞ。みなさま、中へお入りください」

 リモの声かけと共に、待機していた使用人たちの手によって領主城のドアが開かれる

 ゆっくりと開いていくドアの隙間から、メイドや侍従たちを始めとした使用人がずらりと並んで待機しているのが見えた。

 ある意味では見慣れた出迎えの風景だが、一番前に立っているのが執事長のボルト一人だけじゃないのが、いつもとは違う所だな。

 アキトだ。ボルトの隣に、アキトが立っている。

 リモの案内で城の中へとぞろぞろと進んで行きながらも、俺の視線はアキトだけに固定されている。

 俺達の姿をじっと確認した後、アキトは明らかにホッとした様子で肩の力を抜いた。
しおりを挟む
感想 375

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...