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1269.【ハル視点】幸せな時間
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俺はアキトと手を繋いだまま、のんびりと領主城の廊下を歩いていた。
せっかくアキトが俺のために作ってくれた手料理だ。早く食べたいと思う気持ちは、もちろんある。それなのにのんびりと移動しているのは、手を繋いでゆったりと歩くこの時間も同じぐらい大事にしたいからだ。
いま俺達が目指しているのは、二人で使っている自室だ。
どうせなら荷物を置き、装備も外して身軽になってから、ゆっくりと食事を楽しみたい。そう言ってみたら、アキトがじゃあそうしようとすぐに頷いてくれたんだ。
自然とこぼれてしまう笑みを浮かべたまま廊下を歩いていると、不意に警備役の侍従から声をかけられた。
「おかえりなさいませ、ハロルド様」
さすがに緩みきったこの顔を、見せるわけにはいかないか。俺は意識して表情を引き締めてから口を開いた。
「ああ、今帰った」
「ご無事で何よりです」
「ありがとう。他のみんなも、特に怪我もなく全員無事だよ」
俺の記憶が正しければ、この侍従はたしかネルバの友人だったはずだ。そう思って情報を付け足せば、一瞬だけホッとしたような笑顔を浮かべた。ほんとうに一瞬だったから、アキトは気づいていないかもしれない。
「そうですか。それは良かったです。他の使用人たちにも伝えてよろしいですか?」
使用人の中には、ジーラルやダンの友人もいるだろう。その者たちに伝えても良いかとわざわざ確認してくる律儀な侍従に、俺は笑顔で頷いた。
「ああ、もちろんだ」
「ごゆっくり体を休めてください」
「そうするよ、ありがとう」
警備役というのは、当然ではあるが決められた時間はそこから動けない。俺達が帰ってきたという一報は入っているはずだが、玄関前の出迎えに参加する事はできない。
だからこそ、こうして運良く目の前を通ると声をかけられるんだよな。心配してくれているのは有難いが、今回はやけにそれが多い気がする。
何度か警備役に声をかけられては答えるのを繰り返しつつ、俺達はひたすらに自室を目指して進んで行く。アキトとはずっと手を繋いだままだ。
「あ、そうだ。後でボルトにはきちんと礼を言っておかないとな…」
不意にそう思いついた俺は、ぼつりとそう呟いた。
もしあそこでウィル兄から食事に誘われていたら、俺は何も考えずに良いよと了承していただろう。そうしたらアキトが遠慮して、せっかく作ってくれた手料理を隠してしまっていた可能性も―――あるな。
「ボルトさんのさっきのあれって、俺の事を考えてウィリアムさんの言葉を遮ってくれたんだよね」
さすがボルトだと言いたげなアキトの言葉に、俺は左右に首を振った。
「いや、それは違うだろう」
「え、違うかな?」
「ああ、俺がアキトの料理を食べさせてもらうためだから、どちらかというと俺のためじゃないか?」
本気で心からそう思って口にした言葉だったが、アキトは楽しそうに声をあげて笑い出した。えーハルはそう言ってくれるんだ?と聞かれたが、それは当然だろう。
そう答えれば、アキトはさらに楽し気に笑い続けた。うん、アキトは笑顔が一番似合うよな。
「ボルトの説明があったとはいえ、誘うのを諦めてくれたウィル兄にもちゃんとお礼を言っておきたいし…それに、そうだ!料理をしないかとアキトを誘ってくれた、ラスにもきっちりお礼を言わないと!」
お礼を言うべき人がどんどん増えていくな。まあ問題は無い。時間がかかってもきっちり礼を言って回ろう。
そう決意した俺に、アキトはまた楽しそうに笑い出した。
ようやく自分たちの部屋の前まで辿り着いたが、そこには二人のメイドが並んで待っていた。
俺達の部屋の前でこうして使用人に待機されている事は、実はそうそうある事じゃない。いったい何の用だろうと考えつつ、二人の顔をちらりと見る。
ああ、この二人は、屋外での食事会をした時に、庭園まで案内してくれたメイドたちだな。
「「ハロルド様、お帰りをお待ちしておりました」」
ぴったりと動きと声を揃えたメイドたちからかけられのは、俺の帰還を喜ぶ言葉だった。
「ああ、ありがとう」
「「ハロルド様、アキト様。本日はどちらでお食事にされますか?」」
あー、なるほど、これが聞きたくてここで待機していたのか。
普段なら応接室か食堂で、家族も一緒に食事を取る事が多い。だが今日はアキトの手料理を初めて食べるという、俺にとって特別な時間だ。
――こういう時は、やっぱり二人だけで食べたいんじゃない?
ニヤニヤと笑いながらそう尋ねてくるウィル兄の顔が、ぼんやりと思い浮かんでくるな。実際にこれはウィル兄か、もしくはボルト、ラス辺りの気づかいなんだろう。
礼を言わないといけない事が、またひとつ増えたな。
頭の中でそんな事を考えていると、アキトがちらりとこちらを見た。
「ハルが決めて?」
上目遣いでそう言ってくれるアキトに、俺は即座に答える。
「俺は今日は、アキトと二人きりで食べたいな」
「うん、じゃあそうしよう」
せっかくアキトが俺のために作ってくれた手料理だ。早く食べたいと思う気持ちは、もちろんある。それなのにのんびりと移動しているのは、手を繋いでゆったりと歩くこの時間も同じぐらい大事にしたいからだ。
いま俺達が目指しているのは、二人で使っている自室だ。
どうせなら荷物を置き、装備も外して身軽になってから、ゆっくりと食事を楽しみたい。そう言ってみたら、アキトがじゃあそうしようとすぐに頷いてくれたんだ。
自然とこぼれてしまう笑みを浮かべたまま廊下を歩いていると、不意に警備役の侍従から声をかけられた。
「おかえりなさいませ、ハロルド様」
さすがに緩みきったこの顔を、見せるわけにはいかないか。俺は意識して表情を引き締めてから口を開いた。
「ああ、今帰った」
「ご無事で何よりです」
「ありがとう。他のみんなも、特に怪我もなく全員無事だよ」
俺の記憶が正しければ、この侍従はたしかネルバの友人だったはずだ。そう思って情報を付け足せば、一瞬だけホッとしたような笑顔を浮かべた。ほんとうに一瞬だったから、アキトは気づいていないかもしれない。
「そうですか。それは良かったです。他の使用人たちにも伝えてよろしいですか?」
使用人の中には、ジーラルやダンの友人もいるだろう。その者たちに伝えても良いかとわざわざ確認してくる律儀な侍従に、俺は笑顔で頷いた。
「ああ、もちろんだ」
「ごゆっくり体を休めてください」
「そうするよ、ありがとう」
警備役というのは、当然ではあるが決められた時間はそこから動けない。俺達が帰ってきたという一報は入っているはずだが、玄関前の出迎えに参加する事はできない。
だからこそ、こうして運良く目の前を通ると声をかけられるんだよな。心配してくれているのは有難いが、今回はやけにそれが多い気がする。
何度か警備役に声をかけられては答えるのを繰り返しつつ、俺達はひたすらに自室を目指して進んで行く。アキトとはずっと手を繋いだままだ。
「あ、そうだ。後でボルトにはきちんと礼を言っておかないとな…」
不意にそう思いついた俺は、ぼつりとそう呟いた。
もしあそこでウィル兄から食事に誘われていたら、俺は何も考えずに良いよと了承していただろう。そうしたらアキトが遠慮して、せっかく作ってくれた手料理を隠してしまっていた可能性も―――あるな。
「ボルトさんのさっきのあれって、俺の事を考えてウィリアムさんの言葉を遮ってくれたんだよね」
さすがボルトだと言いたげなアキトの言葉に、俺は左右に首を振った。
「いや、それは違うだろう」
「え、違うかな?」
「ああ、俺がアキトの料理を食べさせてもらうためだから、どちらかというと俺のためじゃないか?」
本気で心からそう思って口にした言葉だったが、アキトは楽しそうに声をあげて笑い出した。えーハルはそう言ってくれるんだ?と聞かれたが、それは当然だろう。
そう答えれば、アキトはさらに楽し気に笑い続けた。うん、アキトは笑顔が一番似合うよな。
「ボルトの説明があったとはいえ、誘うのを諦めてくれたウィル兄にもちゃんとお礼を言っておきたいし…それに、そうだ!料理をしないかとアキトを誘ってくれた、ラスにもきっちりお礼を言わないと!」
お礼を言うべき人がどんどん増えていくな。まあ問題は無い。時間がかかってもきっちり礼を言って回ろう。
そう決意した俺に、アキトはまた楽しそうに笑い出した。
ようやく自分たちの部屋の前まで辿り着いたが、そこには二人のメイドが並んで待っていた。
俺達の部屋の前でこうして使用人に待機されている事は、実はそうそうある事じゃない。いったい何の用だろうと考えつつ、二人の顔をちらりと見る。
ああ、この二人は、屋外での食事会をした時に、庭園まで案内してくれたメイドたちだな。
「「ハロルド様、お帰りをお待ちしておりました」」
ぴったりと動きと声を揃えたメイドたちからかけられのは、俺の帰還を喜ぶ言葉だった。
「ああ、ありがとう」
「「ハロルド様、アキト様。本日はどちらでお食事にされますか?」」
あー、なるほど、これが聞きたくてここで待機していたのか。
普段なら応接室か食堂で、家族も一緒に食事を取る事が多い。だが今日はアキトの手料理を初めて食べるという、俺にとって特別な時間だ。
――こういう時は、やっぱり二人だけで食べたいんじゃない?
ニヤニヤと笑いながらそう尋ねてくるウィル兄の顔が、ぼんやりと思い浮かんでくるな。実際にこれはウィル兄か、もしくはボルト、ラス辺りの気づかいなんだろう。
礼を言わないといけない事が、またひとつ増えたな。
頭の中でそんな事を考えていると、アキトがちらりとこちらを見た。
「ハルが決めて?」
上目遣いでそう言ってくれるアキトに、俺は即座に答える。
「俺は今日は、アキトと二人きりで食べたいな」
「うん、じゃあそうしよう」
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