生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,271 / 1,561

1270.【ハル視点】メイドたちの提案

 以前にも何度か、アキトと二人きりで食事がしたいと伝えた事はあった。

 他の家ではどうか知らないが少なくともうちの家では、そう珍しい事でも無い。父と母も二人だけで食事がしたいと言い出す事もあるし、二人の兄も伴侶と食事をすると言い出す事もある。

 だがそういう時は、こちらの希望が無ければ基本的に自室に用意される事が多い。

 使っていない部屋はたくさんあるが、一番くつろげる自室で人目を気にせずにのんびりとしたいだろう。そういう使用人たちの優しさから自室にされるんだと思う。

 だが今回は珍しい事に、メイドたちから控え目に尋ねられた。

「お二人さえよろしければ、隣室にご用意をするのはいかがでしょう?」

 なるほど。特別な料理なら、特別な支度をした上でと言いたいんだな。

 俺達が今使っているこの部屋は、本来なら大事な来客のために用意されている部屋だ。その隣室には、泊っている来客とあれこれと秘密の会談をするための部屋となっている。

 うん、あの部屋なら何の問題も無いな。

「それで頼む」
「かしこまりました。用意が済みましたら呼びに参ります」
「自室でおくつろぎになってお待ちくださいませ」

 メイドたちはそう言うと、鍵を開けて隣の部屋へと入って行った。



 二人で自室に入り、後ろ手に部屋の鍵を閉める。途端にパッと振り返ったアキトは、そのままぎゅーっと俺に抱き着いてきた。

 可愛い事をしてくれるな。そう思っている間に、アキトはそっと背伸びをして俺に口づけた。軽く触れるだけの口づけをしたアキトは、ふわりと幸せそうに笑って口を開いた。

「おかえり」
「ああ、ただいま」

 あまりの愛おしさにたまらなくなった俺が、深く深く口づけてしまったのも仕方がない事だろう。

 むしろメイドが呼びに来るんだからと理性を働かせ、そのまま押し倒さなかっただけ頑張ったほうだと思う。あんな可愛い姿を不意打ちで見せられたんだからな。

 だが、このままくっついていると色々とまずいな。

 俺はアキトからそっと距離を取ると、荷物を置き装備を外し始めた。取り出した普段着に手早く着替えていると、アキトがさらりと浄化魔法をかけてくれた。

 相変わらず見事な発動の速さだな。

「いつもありがとう」
「どういたしまして」

 いつも通りのやり取りに思わず笑い合ってから、俺達は部屋の片隅にあるソファへと移動した。

 これは元々この部屋にはなかった。ある日突然ウィル兄さんから、伴侶と二人で並んで座るソファが必要だろうと贈られてきたものだ。

 あの時のアキトは一度座ってみるなり、顔色を悪くしてたな。こんなに高級なもの受け取れないよと、大慌てだった。

 まあ一緒に座ってみていた俺も、これはかなりの高級品だな…奮発したなと感心はしていたんだが。

 だがこれは、おそらくウィル兄からのあの時の詫びの品だ。そう分かってしまっただけに、受け取らないわけにはいかなかった。

 船の上で再会した時にアキトの前で抱き着いて誤解させてしまった事を、ウィル兄からは何度か謝罪されていた。伴侶候補になってもらうきっかけになったという事ももちろんしっかり説明はしたんだが、それでも何かの時に詫びの品を贈ると言われていた。

 おそらくその品がこれだろう。アキトにもそう説明して何とか受け取ってもらう事ができた。

 受け取る時には色々とあったソファだが、座ると自然と寄り添うようになるのもあって今では二人のお気に入りだ。

 トライプールに帰るときには持って帰りたいぐらいだ。

「危ない事は無かった?」
「ああ、そこまで強い魔物も出なかったからね」

 一緒に行ったメンバーは想像以上に強かったよと、俺は笑顔でそう答えた。

「ハル、もし話せない事だったらそう言って欲しいんだけど…ひとつ聞いても良い?」
「もちろんだよ。なぁに?」

 今回はアキトに答えられない事なんて特に何も無いんだが、その気づかいは嬉しい。

「あの…クレットさんが教えてくれた隠されてた魔道具って、本当にムレングダンジョンに繋がってたの?」
「ああ、それか。もう父さんまで報告は上がってるだろうし、別にアキトに隠さないといけないような事じゃないから大丈夫だよ」
「本当に?無理してない?」

 真意を探るかのように、隣に座ったアキトがじっと俺の目を見つめて尋ねてくる。

「してないよ、大丈夫。結論から言うと、たしかにムレングダンジョンに繋がってたね。ムレングの99階層だったよ」
「え…よく階層まで分かったね?」

 驚いた様子のアキトに、俺は偶然出会ったあの冒険者たちの話をする事にした。

 ダンジョン内で毒消しポーションが足りなくて困っていた事。代金を安くした代わりに情報を求めたら、想像以上に良い情報をくれた事。そのパーティーが99階層だと言って地図を見せてくれた事。

「気持ちの良い性格の人ばかりだったよ」

 アキトは良かったねと、明るい笑顔を浮かべた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。