生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1273.【ハル視点】アキトの料理は

 何から食べようかと考えるまでもなく、ほぼ無意識のまま最初に手を伸ばしたのは肉料理だった。これだけ美味しそうな肉に誘惑されたら、抗う事はできない。

 俺は薄く切りわけられた肉を、くるりとフォークとナイフで巻いて取り皿に移動させた。

 アキト自ら作ってくれたというソースも気になるし、これだけ美しい肉なら絶対に野菜と食べても美味いだろう。だが、最初の一口はやっぱりそのままの味を味わいたいな。

 アキトの視線を感じながら、俺はそっと肉を口に運んだ。

 まず驚いたのは一噛みするだけで、ぶわりと口の中いっぱいに肉の旨味が広がった事だった。驚きながらもどんどん食べ進めていけば、今度はしっかりとつけられているらしい下味の風味を感じた。

 これはソースをつけなくて正解だったかもしれない。上質なウカの肉の味をじっくりと感じられるし、下味だけでも驚くほどに美味い。

 あまりの美味しさに、自然と笑顔がこぼれてしまう。

 ごくりと肉を飲み込んでから、俺は思わずほうっとひとつ息を吐いた。

「アキト。この肉料理、最高に美味しいよ」

 感想を待っていてくれたアキトに、俺は笑顔でそう声をかけた。

「ハルが気に入ってくれて良かった」

 気に入ったなんてものじゃないよ、アキト。

 正直アキトが作ってくれたというだけでも美味しいと感じるとは思うんだが、そういう感情を全て抜きにしても最高に美味い肉料理だった。

 特に気になったのは、この焼き加減だ。

「味付けも美味しいんだけど、特に肉の焼き加減がね。すっごく俺好みだ。アキトがこだわってくれたんだろう?」
「あ、本当?それなら良かった。ハルはこれぐらいが好きだろうなと思ったんだ」

 ふわっと笑ったアキトは、次いで不思議そうに首を傾げた。

「でも、よく俺のこだわりだって気づいたね?」
「うん、ラスはもっとしっかり火を通すからね。俺の好みはもちろん知ってるだろうけど、この料理はラスの中ではしっかり焼いた方が美味しいという自信があるんだと思う」

 実際にラスが作った肉料理は、いつだって俺の好みなんて全く関係なく、毎回美味いと思わされるんだよな。

 それがラスの料理のすごい所だと思う。

「もちろんそれも美味しいんだけどね。ラスの料理に文句は無いんだ」

 むしろいつも美味しい料理をありがとうと、感謝しているぐらいだ。

「でもこの料理は特別だった。料理をしている間、アキトが俺の事をいっぱい考えてくれたんだなって伝わってきたよ」

 しかもアキトの好みなら、もう少し焼いてある肉の方が好きだろう。それなのに俺が好きな焼き加減を優先してくれたって事なんだよな。

「ラスさんもね、大事な人を待つ時は料理をして待つんだって」

 アキトはぽつりとそう教えてくれた。どうやらラスにそう言われて、料理を作って待ってくれていたらしい。

「作った料理を喜んで食べてくれるところを想像しながら作れば、待ってる間の寂しさが和らぐんだって教えてくれたんだ」
「そうなのか」
「だからそれを作ってる間も、ずっとハルの事を考えてたよ」

 そんな事を聞くと、目の前の料理がさらに特別に思えてくるな。

「俺は幸せ者だな」

 自然とこぼれた笑みに、アキトは慌てながら口を開いた。これはおそらく照れ隠しだな。

「せっかくだからそのソースもかけて食べてみて?」
「これだね?アキトが作ったって言うソース」
「そうそう」

 アキトに勧められるままにソースをかけて食べてみたんだが、これがまたすごかった。思わずぐっと声が漏れたぐらいだ。

「そのままも美味しかったけど、このソースをかけるとさらにやばいね」

 アキトが美味しいものを食べた時に言葉が出なくなると言っていたが、まさにそれだ。

 うなりながら、俺はもう一枚の肉をソースと共にそっと口に運ぶ。

「ああ、このソースがあれば、野営地での食事も質が上がりそうだなって考えてしまうぐらい美味しいよ」

 ただの串焼きでも豪華になりそうだと苦笑すれば、アキトは少し自慢げな笑顔で答えた。

「それなら野営するような依頼の前にも、作って持っていこっか。ラスさんから作り方をしっかり教わって書き残しておいたから、これからはいつでも作れるからね」

 なんとアキトは料理を教わっただけではなく、きっちりその作り方も細かく書き留め、更にラスから誰に食べさせても良いという許可まで得てきたらしい。

 このソースを、いつでも食べられるなんて信じられない。串焼き肉以外にも使い道は色々とあるだろう。そう考えるだけでワクワクしてくる。

「ありがとう、アキト。このソースはぜひ次回の野営の時にも作って欲しい――いや、俺も一緒に作りたい!」
「それも良いね。今度ラスさんに許可をもらっておくね」
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