生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,278 / 1,561

1277.【ハル視点】律儀な男

 もしこれが侵入者なのだとしたら、部屋の中にいる人に見つかるようにわざわざ手を振る理由がない。つまり外にいるのは、すくなくとも侵入者では無いんだろう。不審者ではあるがな。

 そんな事を頭では考えながらも、俺は警戒は解除せずに気配を消して窓へと近づいていく。そうすると、窓の外にいる男の姿がはっきりと見えた。

 俺はふうと小さく息を吐くと、構えていた短剣をすぐに腕輪にしまった。どうやらこれは必要なさそうだ。

 俺の視線の先にいるのは、思い切り首を曲げた上にぎゅっと両目をつむっているクレットだ。しかもこちらを一切見ないようにしながら、未だにふるふると手を振っている。

 そういえばクレットには以前、俺とアキトの自室には入らないようにしてたから挨拶が遅くなったと言われた事があったな。あれは庭園であった時だったか?

 伴侶や伴侶候補と一緒の部屋には、無遠慮に踏み込まないようにしてるんです。そう言っていたクレットだから、おそらく今首を曲げているのも両目をつむっているのも俺とアキトへの配慮なんだろう。

 不思議な体勢の理由にはすぐに思い当ったが、二人で自室にいるのを分かった上でわざわざここに来たその理由が気になった。

 いったい何の用なら、クレットがこんな時間に来るんだ?と不思議に思いつつ、俺はそっと窓の木枠を軽く叩いて音を出した。もちろんアキトを起こさない程度の小さな音になるように、細心の注意を払ったよ。

 俺の立てた小さな音にすぐに気づいたクレットは、ハッとした顔でこちらを見た。

 どうかしたのか?

 手信号で尋ねれば、クレットもすぐさま手を動かした。

 おくつろぎのところお邪魔をしてしまい申し訳ありません。もし可能であればウィリアム隊長の執務室に来て貰えないかと、隊長からの伝言を預かってきました。

 幽霊が見えないウィル兄が、クレット経由で俺に伝言だと?いったいどういう事だ?思わず首を傾げてしまったが、クレットの手はまだ止まらない。

 もし良ければ、アキト様もご一緒にどうぞと言っていました。

 手が止まったのを見て、今度は俺が苦笑しながら手を動かす。

 アキトはもう寝たよ。俺は今からすぐにウィル兄の執務室に向かう事にする。

 そうパパパッと手を動かして返せば、では執務室への途中で合流しますと返ってきた。

 幸せそうにすうすうと寝息を立てながら眠るアキトの姿を、ちらりと横目で見る。

 このまま隣に潜りこんで眠りたいな。でもどうやら幸せに浸りながら眠るのは、もう少し後の事になりそうだ。

 うん、よく眠ってるな。

 これなら急に眼が覚めて俺がいないと慌てる事もなさそうだ。そう思いつつも、俺はウィル兄の執務室に行ってくると書いた紙を用意して、そっとテーブルの上へと置いた。



「ハロルド様、おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
「ご無事で何よりです」
「ありがとう」

 俺が食事を楽しんでいる間に、警備の交代の時間を過ぎたようだ。律儀にそう声をかけてくれる警備に答えつつ、俺はウィル兄の執務室を目指して一人で歩き続けた。

 後はこの廊下をまっすぐ進めば執務室に着くという所で、クレットは俺を待っていた。来ないと思ったら、ここで合流するつもりだったのか。

「ハロルド様、部屋まで押しかけてしまって申し訳ありません」

 そう声をかけてくれたクレットに、俺は手だけで気にするなと返した。

 執務室の周辺というのは、当然ではあるが城の中でも重要な区画だ。だからこそ、あちこちに警備が立っている。今も前方に立っている警備が、こちらを見ているからな。ここで普通に言葉で返事をするわけにはいかない。

 クレットは気にした様子もなく、返事は無くて大丈夫ですよと笑ってくれた。

 ありがとうと目線だけで返してから歩きだせば、クレットもすぐ後ろについてきてくれた。

 執務室の前にいたウィル兄の専属侍従は、俺に気が付くと驚いた顔でこちらを見た。

「ハロルド様、ウィリアム様にご用でしょうか?」

 約束もしていないのにこんな時間にいきなり来たから、驚かせてしまったようだ。クレットに呼ばれたとは、言えないからな。

「ああ、言い忘れた事があったと、急に思い出してね」

 しばらくお待ちくださいと言い置いた侍従が中に尋ねれば、当然ではあるがすぐに許可が下りた。

 部屋に入ってすぐに、ドアを後ろ手にしっかりと閉める。素早く視線を巡らせて部屋の中に他の人がいない事を確認し、同時に気配探知もきっちり行った。

 よし、ウィル兄とクレット、それに俺しかいないな。

「呼んだか、ウィル兄?」
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。