生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,281 / 1,561

1280.【ハル視点】クレットへの言葉

「あー、ハルに来てもらって良かったよ。とりあえず今気になる事は、何とかなりそうだねー後は明日考えれば良いや」

 ホッとした様子でへらりと笑ってみせるウィル兄に、俺も笑顔で口を開く。

「役に立てて良かったよ」
「本当にありがとう、すっごく助かった」

 笑顔でお礼を言ってくれたという事は、どうやら話も終わりのようだ。この感じなら、そろそろ退室したいと切り出しても良さそう…かな?

 俺は今眠っているアキトを、一人で部屋に置いてきてしまっているわけだからな。警備の厳しい領主城内だから、一人でいると危険だとかは無い。無いんだが、ただ俺がアキトと一緒にいたいんだよな。

 できる事なら、今すぐにでも自室に帰りたい。そしてアキトの眠るベッドに潜り込んで一緒に眠りたい。

 ここにいるのはウィル兄とクレットだけだし、色々と考えずにそのままそう言うか。そう決意した俺が口を開くよりも前に、ウィル兄が笑って口を開いた。

「ハル、早く帰りたいーって顔してるね」
「ああ、まあね」
「もちろん帰って良いんだけど、その前にもうひとつだけ!」

 まだ何か用があったのかと思ったが、ウィル兄の視線は俺ではなくクレットがいる辺りに向けられていた。さっき俺が視線を向けていた場所を、しっかり覚えていたんだな。

「クレットは明日の報告会には、参加しなくて良いからねー」

 ああ、そうか。家族だけなら俺が会話の橋渡しをできたかもしれないが、明日はジーラルとネルバ、それにダンも参加する。さらにその上、冒険者ギルドの関係者や魔道具技師まで来るなら、手信号でこっそり会話をするのも難しいだろう。

「俺が会話の橋渡しをできないからか?」
「うん、まあそうだね。ジーラルとネルバとダンだけなら、もしハルの手信号を見られても黙って飲み込んでくれると思うんだけど…ちょっと人が増えそうだからねー」
「なるほど」
「せっかく来てもらっても、俺達が反応できないのはクレットに申し訳ないからさー」

 それにそうなると、ジルはクレットの事を気にしながら参加する事になるでしょ?と続けたウィル兄に、俺は思わず笑ってしまった。

 もちろんクレットに申し訳ないという気持ちも確かにあるんだろうが、何よりも伴侶であるジルさんのためじゃないか。少し呆れてしまった俺と違い、クレットはそれは大問題ですねと真面目な顔で答えている。

 そんな扱いで良いのか。

「それは大問題ですねって言ってるよ」
「さすがクレット、分かってくれてるねー」
「ウィリアム隊長の、私への気づかいに心から感謝します。今回の報告会には不参加とさせて頂きますね」

 クレットの丁寧な言葉を伝えれば、ウィル兄はにっこりと笑みを浮かべた。

「報告会で方針が決まったらハルに伝言を頼むから、明日か明後日ぐらいには一度ハルの所に行ってくれるー?」
「もちろんです。では明日の夕方頃には、一度ハロルド様とアキト様の部屋の前に向かいますね」
「もちろんですって言ってるよ。ああ、夕方に俺達の部屋の前だな」

 約束を取り付けた後は、俺はさっそく帰る事に決めた。部屋を出ようと歩き出すと、背後からウィル兄のおやすみーという間延びした声が追いかけてくる。

「ウィル兄もおやすみ。クレットも良い夜を」
「ありがとうございます、おやすみなさい」



 部屋の前にいた侍従に声をかけて、俺はそのまま来た道を戻り始めた。さっき挨拶を済ませた警備しか立っていないから、帰り道は静かなものだ。

 スタスタと早足で歩き続ければ、部屋まではあっという間だった。

 物音で起こさないようにとそーっとドアを開けば、アキトは俺が出ていった時と全く変わらない体勢でスヤスヤと眠っていた。

 手紙にも触れた様子は無いから一度も目は覚めていなさそうだな。そんな事を考えながら俺は魔力を練り上げた。口の中でボソボソと呟いて、全身に浄化魔法をかける。

 これもすっかり習慣になったな。ここまで小まめに浄化魔法をかけるなんて昔なら考えられなかったが、アキトのおかげで俺も当たり前のようにやるようになっている。

 ただそれだけの事で、胸の中が温かくなるような気がするんだから不思議なものだ。

 ふふと思わず微笑みながら、俺はアキトを起こさないように細心の注意を払ってベッドの中に潜り込んだ。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。