生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1289.【ハル視点】緊張感

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 ニコニコ笑顔でおはよーと返したウィル兄と、真面目におはようございますと答えたジルさんに続いて、俺も口を開く。

「おはよう、ファーガス兄さん」
「ああ、おはよう」

 俺達の緩い挨拶とは違い、ダンとジーラル、ネルバは、明らかに緊張しているようだ。まあ無理も無いか。騎士団員からすれば自分たちの一番上にいる上司だからな。

「「「おはようございます」」」

 敬礼をしながらもぴたりと声を揃えた挨拶に、ファーガス兄さんもすっと敬礼を返した。何げない仕草に見えるのに美しい敬礼だった。さすがファーガス兄さんだな。

「今は気楽にしてくれて良いんだぞ。まだもう少し客人が来るまでに時間はあるからな。好きな所に座って待っていてくれ」
「はっ、お気遣いに感謝します!」

 ダンが率先してそう答えれば、ジーラルとネルバも口を開いた。

「ありがとうございます!」
「お言葉に甘えさせて頂きます!」

 そう答えた三人は、ぎこちない笑顔を浮かべたまま何とか椅子に腰を下ろした。

 あ、いや、もしかしたらダンは、浮かないように二人に合わせてるだけかもしれないな。ちょっとジーラルとネルバの緊張っぷりを、楽しんでるような気がする。

 気楽にしてくれと言ったのにぎこちなく対応されてしまったファーガス兄さんは、明らかに困り顔で苦笑を浮かべている。眉間にもうっすらとしわが寄ってしまっているな。距離を取られてしまって悲しいとか考えてそうだ。

 だが三人の気持ちも分かるんだよな。

 いくら本人から気楽にしてくれと言われても、急にくだけた態度を取るのはさすがに難しいだろう。別にファーガス兄さんが嫌われているわけじゃない。くだけた態度が取れないぐらい、敬意を持って慕われているだけだ。

 でもそれがファーガス兄さんには伝わってないんだよな。

 この空気をどうしようかと考えを巡らせていると、不意にウィル兄が尋ねた。

「ねぇファグ兄、冒険者ギルドからも人が参加するって聞いたけど、あれってさ、誰が来るとかの詳細ってもう分かってるのー?」

 ああ、たしかにそれは俺も気になっていた事だな。

 ファーガス兄さんの気もまぎれるだろうし、緊張中の三人も少しは落ち着くための時間が稼けるかもしれない。

 かなり良い質問だ。

「いや、ギルド職員と有望な冒険者から数名が来るとは聞いているが…はっきりと名前までは聞いていないな」

 あっさりとファーガス兄さんはそう答えてくれた。

「へぇ、そうなんだー」
「詳細は来てないのか?」
「ああ、だが無理に詳しく聞く必要も…今回は無いかと思ってな」

 うん、まあ確かにそれはそうだな。

 もしこちらの目的が情報収集でそのために冒険者ギルドに声をかけたなら、だれが参加するのかはかなり重要になる。この場合はきっちりと誰が参加してくれるのかを問い合わせるし、詳しい人を出してくれるように裏での根回しなども必要になってくる。

 だが今回は、どちらかと言うとこちらが持っている情報を公開するためのものだ。あちらから誰が来たとしても、たしかに何も問題は無い。

「それもそうだねー」
「それにここの冒険者ギルドなら、参加する人の人選にも問題は無いと思います」

 へぇ、ジルさんは随分ここの冒険者ギルドを信頼してるんだな。

「ああ、俺もそう思うよ」

 ファーガス兄さんもか。ウィル兄も頷いているし、思った以上に冒険者ギルドの評価は高いらしい。

 感心しながら話を聞いていると、部屋のドアがノックされた。

「お客様が到着されました」

 今回は相手が客人だからか、ボルトはドアを開けると俺達に向かって声をかけてくれた。全員揃ってさっと立ち上がり、姿勢を正す。

「お通ししてくれ」
「こちらへどうぞ」
「失礼致します」

 ジーラルたち以上にぎこちない動きで入ってきたのは、整った顔立ちをした優し気な雰囲気の青年だった。

「ウェルマールにある魔道具店の店長を務めております、マルクと申します。魔道具についてご相談があると聞いて参りました」

 緊張している様子だが、一息にそう言いきったその姿が俺の友人によく似ていた。
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