生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1290.【ハル視点】マルクという青年

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「私はウェルマール家の長男、次期領主候補のファーガス・ウェルマールだ。急な要請にもかからわずよくぞ来てくれた」

 ファーガス兄さんはその青年の目をまっすぐ見つめながら、そう声をかけた。声が嬉しそうなのは、心から参加してくれたのが嬉しいんだろうな。きっと初対面のマルクにはそれは伝わっていないと思うが。

「あ…」

 まさか次期領主候補であるファーガス兄さんから直接名乗りを受けるとは思っていなかったのか、マルクと名乗った青年はかなり驚いた顔をしたが、次の瞬間にはふわりと笑みを浮かべた。

「こちらこそ、お呼びいただきありがとうございまず。魔道具に関する事なら何でもお尋ねください。みなさまのお役に立てるように、精一杯励ませて頂きます」

 背筋を伸ばしてそう答えたマルクに、ウィル兄が笑顔で声をかける。

「まあまあ、そう固くならなくても大丈夫だよーここには礼儀とかにうるさい人はいないから安心して気を抜いてね。あ、ちなみに俺は次男のウィリアムだよー」

 おまけのような口調で自己紹介をしたウィル兄に、ジルさんは慌てて口を開いた。

「ウィリアム隊長!そのような言い方は…」

 良くないですと続けようとしたのだろうジルさんの言葉を遮る形で、ウィル兄さんはニコニコの笑顔で続けた

「それでこっちが俺の伴侶のジル副隊長ねー」
「…そんな紹介の仕方がありますか…」

 疲れた顔で呟くジルさんの横で、ウィル兄は楽しそうに笑っている。うん、いつも通りの自然体だな。

「ご丁寧にありがとうございます。マルクと申します」

 丁寧にそう答えていたマルクと、不意にぱちりと目が合った。うん、その灰色の瞳の色も、よく似ているな。

「俺はハロルド・ウェルマール。三男で他の領に出ている身だが、今は伴侶候補と一緒に戻って来ているんだ」

 そう挨拶をすれば、マルクはあなたが…とぽつりと呟いた。ファーガス兄さんとウィル兄さんと挨拶をした時とは少し違う反応に、やっぱりそうかもしれないと思った。

「もし違っていたら申し訳ないんだが、もしかしてあなたはストファー魔道具店の方なんだろうか?」
「…っ!はい。私はウェルマール領のストファー魔道具店で店長兼魔道具技師をしています」
「やっぱり。クリスによく似ていると思ったんだが…関係があるんだろうか?」
「クリスは私の兄なんです。ではあなたがハル様ですか」
「ああ、クリスから話を聞いていたんだな」
「はい、信頼できる友人が出来たんだとそれはもうはしゃいだ手紙が届きました」

 遠くに住んでいる弟に、わざわざ手紙を出してまで俺と友人になたと報告をしてくれていたのか。おそらくそれは俺がこちらにいる間に何かあった時に、頼れるようにという配慮から来るものだろう。

 トライプールに帰ったら、クリスに会いに行ってお礼を言わないとだな。

「もしかして…橋に隠されていた隠蔽の魔道具を見抜いてくれたのも、あなたなんだろうか?」

 盗賊団のアジトが隠されていた橋の下の魔道具を、あっさりと見抜いてくれた魔道具技師がいたなと思いついた俺はそう尋ねてみた。

「はい、そうです。あの時は呼んで頂けてとても嬉しかったです」

 ニコッと笑ったマルクは、そのおかげで間近で珍しい隠蔽の魔道具を思う存分観察できましたと嬉しそうに続けた。

 なるほど。魔道具に関係する事への興味の強さも、クリスとよく似ているみたいだ。

「あれは本当に助かったよ。今回もよろしく頼む」
「はいっ!私の全力を尽くします!」

 少し落ち着いた様子に変わったマルクと笑い合っていると、ウィル兄がえーと声をあげた。

「何か一気に仲良くなってるーハルがそんな風に急に距離を詰めるのって珍しいよね?」
「まあそうだな。友人の弟だから特別だ」

 笑いながらそう答えれば、ファーガス兄さんとウィル兄さんは興味深そうに友人の弟?と詳しい話を聞きに近づいてきた。

 長くなりそうな話だと思ったのか、ジルさんはすかさず近づいてくると、こちらへどうぞとマルクに椅子を勧めた。

 そうだな、立ち話をするよりも座った方が良さそうだ。

 俺はみんなに求められるままに、クリスとカーディさんに初めて出逢った時の事をあれこれと説明し始めた。

 依頼がきっかけで出会ったんだと言えば冒険者らしいと喜ばれたし、伴侶自慢と伴侶候補自慢のおかげで友人になったんだと言えばそれは良い友人だなと納得された。

 話の途中であの船の中で会った、あの時の二人かとウィル兄が声をあげたのには驚いた。そういえば、あの時ウィル兄は二人に会ってるんだったな。

 船の上での行動の反省を始めてしまったウィル兄を、俺が必死で慰めたりしている間に気づけばマルクも普通に会話に参加してくれるようになっていた。
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