1,302 / 1,447
1301.【ハル視点】魔道具技師
しおりを挟む
「そう言われると確かにそうだな」
ルピカさんの意見を噛み締めるようにしばらく考えた後、ファーガス兄さんはぽつりとそう呟いた。
「えーでもさー…もし移設が可能なら街の近くに隠して設置とかしておけばー緊急時には役立つかもしれないよね?」
そうすればダンジョンで何か問題があったってなっても、すぐに動けるでしょとウィル兄は続けた。
その意見にも、確かに一理あるな。
まあ危険が一切無いとは言いきれないからさすがに領主城の中には設置できないが、それならどこか設置する場所を決めて警備を強化すれば良い。
いや、もしくは何かしらの理由をつけて、壁の外にそれ専用の建物を建てるというのもありかもしれない。
「今までならダンジョンまで移動してから転移していたのが、街の近くからいきなり99階層に飛べる…か…。確かにそれは役立つだろうな」
父さんはうんと一つ頷いてみせた。
「移設が不可能で誰かに悪用される恐れがあるなら、最終的には壊すのも選択肢には入れておきたいな」
「ああ、そうだな」
「それで良いんじゃないか?」
「ここで相談しても結論は出ないだろうからな」
とりあえずの方向性が決まった所で、父さんが口を開いた。
「マルクさん、魔道具の専門家としての意見を聞かせて貰えるか?」
「実物を見てみないと…何とも言えませんね、魔道具の中には一度設置してしまえば二度と動かす事はできないものもあれば、何度でも移設できるものもありますから…」
はっきりとお答えできなくてすみませんと口にしたマルクさんに、父さんは謝罪は必要無いと慌てて答えている。
「こんな少しの情報で、絶対にこうだと言いきれる方がおかしい」
「ご理解ありがとうございます」
「魔道具でダンジョン内に転移できるというのは、今までに聞いた事はあるか?」
「いえ、ありませんね。森から森へ、川から海へという例は聞いた事がありますが…ダンジョン内とは初めて聞きました」
「そうなのか、やはり今回は異例だと思った方が良いんだな」
「間違いなくそうだと思います」
父さんとマルクさんの会話は、ぽんぽんとテンポよく進んでいく。
そんな二人のやり取りを見守っていた俺は、マルクさんの堂々とした態度に密かに感心していた。
ついさっき初対面を済ませたばかりの領主からの質問に、ここまで堂々と答えられる領民がいったい何人いるだろうか。
しかもその領主は、英雄と言われて本にまでなっているような有名人だ。
勝手に萎縮して、喋る事すらできないなんて人も見た事がある。周りからは同情の視線が向けられていたのをよく覚えている。
「マルクさん、情報に感謝する」
「いえ、そんな…」
「もう一つ尋ねたいんだが…ムレングダンジョンまで一緒に来てくれるような…腕の良い魔道具技師の心あたりはあるかな」
ストファー魔道具店なら、魔道具技師の知り合いも多いだろう?そう続けた父さんに、マルクさんは悩む様子もみせずにすぐさま答えた。
「それなら、私がみなさまと一緒に潜らせて頂きます」
「それは…良いのか?今回マルクさんを呼んだのは、魔道具の情報を聞くためで本隊に参加させるためでは無いんだが」
無理をしていないかとまっすぐに目を見つめながら尋ねた父さんに、マルクさんは無理はしていませんと笑顔で頷いた。
「マルクさんは、ムレングダンジョンに潜った事はあるのか?」
ファーガス兄さんは、明らかに心配そうな表情で横から尋ねた。そうだな。どう見てもマルクさんは強いようには見えないからな。
「護衛をきっちりと雇った上で、浅い階層にしか潜った事はありません。戦闘は…得意では無いですね…私では足を引っ張る事になりますか?」
元冒険者の魔道具技師もいますがと、マルクさんは続けた。
「でも魔道具技師としての腕前はマルクさんの方が上なんだろう?」
思わず横からそう声をかければ、マルクさんはにっこりと笑ってもちろんですと言いきった。そういう所は職人らしいな。
「正直強さよりも、魔道具技師としての腕前の方が大事だよね?」
「たしかにそうだな」
軽くそう尋ねてみれば、父さんはすぐに頷いた。強さだけなら周りを強い人たちで固めれば良いだけだからな。
「分かった。もし来てくれるなら、もちろん護衛の騎士達を付けるけど…絶対に危険が無いとは言いきれないんだーそれでも、参加してくれる?」
最終確認であるウィル兄からの質問に、マルクさんはすぐに答える。
「はい、ぜひ」
意思の強いその目も、クリスに似ているな。ウィル兄が護衛を付けると言っていたけれど、俺もマルクさんの事はきちんと気にかける事にしよう。
ルピカさんの意見を噛み締めるようにしばらく考えた後、ファーガス兄さんはぽつりとそう呟いた。
「えーでもさー…もし移設が可能なら街の近くに隠して設置とかしておけばー緊急時には役立つかもしれないよね?」
そうすればダンジョンで何か問題があったってなっても、すぐに動けるでしょとウィル兄は続けた。
その意見にも、確かに一理あるな。
まあ危険が一切無いとは言いきれないからさすがに領主城の中には設置できないが、それならどこか設置する場所を決めて警備を強化すれば良い。
いや、もしくは何かしらの理由をつけて、壁の外にそれ専用の建物を建てるというのもありかもしれない。
「今までならダンジョンまで移動してから転移していたのが、街の近くからいきなり99階層に飛べる…か…。確かにそれは役立つだろうな」
父さんはうんと一つ頷いてみせた。
「移設が不可能で誰かに悪用される恐れがあるなら、最終的には壊すのも選択肢には入れておきたいな」
「ああ、そうだな」
「それで良いんじゃないか?」
「ここで相談しても結論は出ないだろうからな」
とりあえずの方向性が決まった所で、父さんが口を開いた。
「マルクさん、魔道具の専門家としての意見を聞かせて貰えるか?」
「実物を見てみないと…何とも言えませんね、魔道具の中には一度設置してしまえば二度と動かす事はできないものもあれば、何度でも移設できるものもありますから…」
はっきりとお答えできなくてすみませんと口にしたマルクさんに、父さんは謝罪は必要無いと慌てて答えている。
「こんな少しの情報で、絶対にこうだと言いきれる方がおかしい」
「ご理解ありがとうございます」
「魔道具でダンジョン内に転移できるというのは、今までに聞いた事はあるか?」
「いえ、ありませんね。森から森へ、川から海へという例は聞いた事がありますが…ダンジョン内とは初めて聞きました」
「そうなのか、やはり今回は異例だと思った方が良いんだな」
「間違いなくそうだと思います」
父さんとマルクさんの会話は、ぽんぽんとテンポよく進んでいく。
そんな二人のやり取りを見守っていた俺は、マルクさんの堂々とした態度に密かに感心していた。
ついさっき初対面を済ませたばかりの領主からの質問に、ここまで堂々と答えられる領民がいったい何人いるだろうか。
しかもその領主は、英雄と言われて本にまでなっているような有名人だ。
勝手に萎縮して、喋る事すらできないなんて人も見た事がある。周りからは同情の視線が向けられていたのをよく覚えている。
「マルクさん、情報に感謝する」
「いえ、そんな…」
「もう一つ尋ねたいんだが…ムレングダンジョンまで一緒に来てくれるような…腕の良い魔道具技師の心あたりはあるかな」
ストファー魔道具店なら、魔道具技師の知り合いも多いだろう?そう続けた父さんに、マルクさんは悩む様子もみせずにすぐさま答えた。
「それなら、私がみなさまと一緒に潜らせて頂きます」
「それは…良いのか?今回マルクさんを呼んだのは、魔道具の情報を聞くためで本隊に参加させるためでは無いんだが」
無理をしていないかとまっすぐに目を見つめながら尋ねた父さんに、マルクさんは無理はしていませんと笑顔で頷いた。
「マルクさんは、ムレングダンジョンに潜った事はあるのか?」
ファーガス兄さんは、明らかに心配そうな表情で横から尋ねた。そうだな。どう見てもマルクさんは強いようには見えないからな。
「護衛をきっちりと雇った上で、浅い階層にしか潜った事はありません。戦闘は…得意では無いですね…私では足を引っ張る事になりますか?」
元冒険者の魔道具技師もいますがと、マルクさんは続けた。
「でも魔道具技師としての腕前はマルクさんの方が上なんだろう?」
思わず横からそう声をかければ、マルクさんはにっこりと笑ってもちろんですと言いきった。そういう所は職人らしいな。
「正直強さよりも、魔道具技師としての腕前の方が大事だよね?」
「たしかにそうだな」
軽くそう尋ねてみれば、父さんはすぐに頷いた。強さだけなら周りを強い人たちで固めれば良いだけだからな。
「分かった。もし来てくれるなら、もちろん護衛の騎士達を付けるけど…絶対に危険が無いとは言いきれないんだーそれでも、参加してくれる?」
最終確認であるウィル兄からの質問に、マルクさんはすぐに答える。
「はい、ぜひ」
意思の強いその目も、クリスに似ているな。ウィル兄が護衛を付けると言っていたけれど、俺もマルクさんの事はきちんと気にかける事にしよう。
527
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています
水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。
「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」
王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。
そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。
絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。
「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」
冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。
連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。
俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。
彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。
これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる