生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1311.マチルダさんとファーガスさん

 マチルダさんと一緒にいるのに一言も喋らないファーガスさんなんて、あまりにも珍し過ぎるからね。もしかしたら喧嘩でもしてるのかなーと思ったんだけど、ハルいわくのいつものらしい。

 俺はそれを聞くなりホッと肩の力を抜いた。

「何を言ってるんだ、ファーグ」
「だってマティ、きみの美しさをたくさんの人が見るなんて!」

 ぽんぽんと飛び交う会話からして、ただ綺麗に着飾ったマチルダさんを他の人に見せたくないファーガスさんと、立場的に見送りに行かないわけにはいかないマチルダさんの攻防だったみたいだ。

「全く…そんな言い方じゃなくて、素直に褒めてくれた方が私は嬉しいんだが?」

 艶やかに笑いながら揶揄うような口調で告げられたマチルダさんの言葉に、ファーガスさんが大慌てで口を開いた。

「そ、それはすまなかった!マティは今日も大輪の花のように驚くほど美しいし、その派手過ぎないドレスがすごく似合ってる」

 さすがマティだ、惚れ直した、愛してると、ファーガスさんは人目も気にせずに驚くほど情熱的に愛を囁きだした。

 こ、こんなに話すんだ。ファーガスさんって。

 横で聞いるだけなのにうっかり顔が赤くなってる気がするぐらいの口説き文句の連続だけど、マティさんはニッコリと笑みを浮かべて答えた。

「そうか、嬉しいよ、ありがとう」

 うわー普通にそう返せるマチルダさんって、すごいな。

 もし俺があれだけ怒涛の口説き文句をハルからもらったら、真っ赤になるし固まって動けなくなるかもしれない。いや、絶対にそうなるな。何なら照れ隠しでいきなり走り出したりするかもしれないぐらいだ。

「いや、俺こそありがとう」

 マティさんの笑顔に見惚れながらも、ファーガスさんはそう答えた。

「あのな、領主代理という立場的に、本隊の見送りに行かない訳にはいかない。それは分かるな?」
「ああ、もちろんそれは分かってる」
「分かってるなら…」
「いや、分かってはいるんだが…」

 まだ何か言おうとしたファーガスさんの言葉を、マチルダさんは遮るようにしてぽつりと呟いた。

「…それに…私はファーグの見送りもしたいんだから、何と言われても絶対に行くぞ」
「…マティ」

 その言葉に感動して目を潤ませたファーガスさんは、マチルダさんのドレスや化粧を崩さないためにか慎重に伴侶の体を抱きしめた。

 えっと、抱き着いてるファーガスさんには見えてないみたいだけど、抱きしめられてるマチルダさんはよしこれで大丈夫と言いたげな満面の笑みなんだよね。すごく満足そうな笑いです。

 色んな意味で強いな、マチルダさん。

 俺はすっかり感心してしまったんだけど、ケイリーさんとハルはファーガスさんに見えて無いのを良い事に、音を立てない拍手をしながらマチルダさんを称えていた。

 二人の反応があまりにも慣れてるから、本当にいつものなのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、不意に部屋のドアがノックされた。部屋に入ってきたのは、侍従さんに案内されたジルさんとキースくんだ。

 手を繋いで入ってきた二人の姿に、なんだか部屋の空気も和んだ気がする。

「みなさん、遅くなってすみません」
「いや、まだ約束の時間より早いぐらいだよ。おはよう、ジルさん、キース」
「おはようございます」
「父様、おはよー」

 朝から元気なキースくんは、ジルさんと繋いだ手をぶんぶんと振り回して嬉しそうだ。それぞれ挨拶を交わした所で、ケイリーさんが尋ねた。

「ウィルは一緒じゃないんだな?」

 珍しいと言いたげなケイリーさんの質問に、ジルさんは先ほどまで物資の最終確認をしていましたからと答えた。

「ウィリアム隊長は、装備品の最終確認を行うため別行動だったので…」
「僕たちは廊下で会ったんだよ。それで一緒に来たの!」
「そうなんです。キースが誘ってくれて嬉しかったよ」

 ジルさんは温かい目でキースくんを見つめながら、ふふと嬉しそうな笑みを浮かべた。ちょっと珍しい笑顔だ。

 そう思った瞬間、すごい勢いでドアが開いた。駆けこんできたのはウィリアムさんだ。

「遅れてごめんねー装備品の最終確認終わっ…」

 自然な笑みを浮かべるジルさんに気づいたウィリアムさんは、言葉を途中で止めた。

「…ウィル?」
「自然な笑みを浮かべてるジルは可愛いなーと思って」
「やめてください!」

 あ、怒られた。
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