生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
1,318 / 1,523

1317.やばい

しおりを挟む
 自分たちの部屋に戻ると、俺達はすぐに準備に取り掛かる事になった。

 ハルは遠征に出発するための準備なんだけど、見送りに行くなんて全く知らなかった俺は自分の服をどうしようかと悩んでしまった。

 いつもの冒険者として着てる普通の服で良いのかな?でもマチルダさんがわざわざドレスを着てたぐらいだから、もっとかっちりした服装の方が良い?

 とりあえず持ってる服を全部思い浮かべてみたものの、その中のどれが良いのかなんて俺には分からない。服選びのセンスに自信が無いのもあるけど、そもそもこっちの世界の常識が完璧じゃないからね。もしかしたら、見送りには絶対に着ない色とかがあるかもしれない。

 うーん、ハルも準備で忙しいから何とか自分で考えようとしてみたけど、これはさすがに一人では無理そうだな。

 申し訳ないけどハルに相談しようかなと顔をあげると、ちょうどハルが魔導収納鞄から何かを取り出す所だった。

「アキト、もしよければこれを貰って欲しい」

 すっと目の前に差し出された少し大き目の箱を、両手を使って受け取る。

「…開けて良い?」
「もちろん、開けてみて」

 そーっと箱を開けてみれば、中には濃い灰色の布に紫と金色の糸で細やかな刺繍が施された服の上下が入っていた。

 ハルのご家族に挨拶をする時に着ていた服に、ちょっとだけ作りが似てる気がする。もちろん布の素材とか色とか、細かい所は全然違うんだけどね。こっちの世界ではあの服以外に正装って呼べる服を着た事が無いから、そう感じるだけかな。

「これって…」
「えっとね。今日の見送りは、出発式っていう公式行事の扱いになるんだ。だからマティさんは領主代理という立場もあって、正装のドレスを着る必要がある」

 ここまでは良いかな?と尋ねてくれたハルに、俺はコクリと頷いた。

「でも他の人はどんな服を着ていても別に問題は無いんだ。冒険者の服だろうと、普段着だろうと、鎧だろうと問題は無いんだけど…」
「だけど…?」
「もし公式行事に出る機会があれば、アキトに着て欲しいなって前から用意してあったんだ。だから――折角なら着て貰えないかなと思って」

 照れくさそうに笑いながらそう言ったハルは、もちろん強制じゃないけどねと続けた。

 わざわざ俺のために用意してくれていた服を手渡されて、着て欲しいけど強制じゃないよと言われる。

 そんなの、答えは決まってるよね。

「着ます!」
「良いの?」
「絶対着ます!」

 何故か敬語でそう即答した俺に、ハルはふふふと嬉しそうに笑ってくれた。



 ハルから渡された濃い灰色の服は、抜群に着心地が良かった。あまりに着心地が良いから、ついついその場で屈伸してしまったよ。それでも引きつれた感じが一切無い素晴らしい着心地に、ほうと感心の息が漏れた。

 すごいなこれ。これなら走って移動とか、魔物と戦ったりとか問題無くできそうだ。

 そんな事を考えてしまってから、俺はすぐにぶんぶんと首を振った。

 正装してるのに、走って移動とか魔物と戦ったりとかしたら駄目だよね。

「…もしかして、どこかきつかったりした?」

 背後から聞こえてきた少し心配そうなハルの声に、俺は慌てて振り返った。

「違うんだ、逆に着心地が良すぎて…」

 走れそうとか戦えそうとか考えてしまっただけなんだと続けようとしたけれど、俺はそこで言葉を忘れて立ち尽くしてしまった。

「アキト?何か問題でもあったの?」

 不思議そうに首を傾げて尋ねてきたハルの服装こそが、今の俺にとっては大問題だった。

 ハルが身にまとっているその服は、漆黒の布を使って作られている詰襟の軍服だ。

 いや、これは…やばい。本当にやばいよ。何これ、格好良すぎる。似合ってる。いや似合い過ぎてる。

 色んな言葉がぐるぐると頭の中を回ってるけど、見事に語彙力が行方不明モードだ。

 俺だってね、ハルの格好良さへの耐性が少しはついてきたと思うんだよ。いつも一緒にいるわけだからね。軍服だけだったら、まだぎりぎりで耐えられたかもしれない。

 でも今日のハルはその軍服の上に、胸当てをつけたり剣を装備したりしてるんだよね。つまり騎士モードの時のかっちりとした格好良さに、冒険者モードの時の男らしさが足されてるんだ。

 これは、やばいでしょう?
しおりを挟む
感想 377

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...