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1317.やばい
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自分たちの部屋に戻ると、俺達はすぐに準備に取り掛かる事になった。
ハルは遠征に出発するための準備なんだけど、見送りに行くなんて全く知らなかった俺は自分の服をどうしようかと悩んでしまった。
いつもの冒険者として着てる普通の服で良いのかな?でもマチルダさんがわざわざドレスを着てたぐらいだから、もっとかっちりした服装の方が良い?
とりあえず持ってる服を全部思い浮かべてみたものの、その中のどれが良いのかなんて俺には分からない。服選びのセンスに自信が無いのもあるけど、そもそもこっちの世界の常識が完璧じゃないからね。もしかしたら、見送りには絶対に着ない色とかがあるかもしれない。
うーん、ハルも準備で忙しいから何とか自分で考えようとしてみたけど、これはさすがに一人では無理そうだな。
申し訳ないけどハルに相談しようかなと顔をあげると、ちょうどハルが魔導収納鞄から何かを取り出す所だった。
「アキト、もしよければこれを貰って欲しい」
すっと目の前に差し出された少し大き目の箱を、両手を使って受け取る。
「…開けて良い?」
「もちろん、開けてみて」
そーっと箱を開けてみれば、中には濃い灰色の布に紫と金色の糸で細やかな刺繍が施された服の上下が入っていた。
ハルのご家族に挨拶をする時に着ていた服に、ちょっとだけ作りが似てる気がする。もちろん布の素材とか色とか、細かい所は全然違うんだけどね。こっちの世界ではあの服以外に正装って呼べる服を着た事が無いから、そう感じるだけかな。
「これって…」
「えっとね。今日の見送りは、出発式っていう公式行事の扱いになるんだ。だからマティさんは領主代理という立場もあって、正装のドレスを着る必要がある」
ここまでは良いかな?と尋ねてくれたハルに、俺はコクリと頷いた。
「でも他の人はどんな服を着ていても別に問題は無いんだ。冒険者の服だろうと、普段着だろうと、鎧だろうと問題は無いんだけど…」
「だけど…?」
「もし公式行事に出る機会があれば、アキトに着て欲しいなって前から用意してあったんだ。だから――折角なら着て貰えないかなと思って」
照れくさそうに笑いながらそう言ったハルは、もちろん強制じゃないけどねと続けた。
わざわざ俺のために用意してくれていた服を手渡されて、着て欲しいけど強制じゃないよと言われる。
そんなの、答えは決まってるよね。
「着ます!」
「良いの?」
「絶対着ます!」
何故か敬語でそう即答した俺に、ハルはふふふと嬉しそうに笑ってくれた。
ハルから渡された濃い灰色の服は、抜群に着心地が良かった。あまりに着心地が良いから、ついついその場で屈伸してしまったよ。それでも引きつれた感じが一切無い素晴らしい着心地に、ほうと感心の息が漏れた。
すごいなこれ。これなら走って移動とか、魔物と戦ったりとか問題無くできそうだ。
そんな事を考えてしまってから、俺はすぐにぶんぶんと首を振った。
正装してるのに、走って移動とか魔物と戦ったりとかしたら駄目だよね。
「…もしかして、どこかきつかったりした?」
背後から聞こえてきた少し心配そうなハルの声に、俺は慌てて振り返った。
「違うんだ、逆に着心地が良すぎて…」
走れそうとか戦えそうとか考えてしまっただけなんだと続けようとしたけれど、俺はそこで言葉を忘れて立ち尽くしてしまった。
「アキト?何か問題でもあったの?」
不思議そうに首を傾げて尋ねてきたハルの服装こそが、今の俺にとっては大問題だった。
ハルが身にまとっているその服は、漆黒の布を使って作られている詰襟の軍服だ。
いや、これは…やばい。本当にやばいよ。何これ、格好良すぎる。似合ってる。いや似合い過ぎてる。
色んな言葉がぐるぐると頭の中を回ってるけど、見事に語彙力が行方不明モードだ。
俺だってね、ハルの格好良さへの耐性が少しはついてきたと思うんだよ。いつも一緒にいるわけだからね。軍服だけだったら、まだぎりぎりで耐えられたかもしれない。
でも今日のハルはその軍服の上に、胸当てをつけたり剣を装備したりしてるんだよね。つまり騎士モードの時のかっちりとした格好良さに、冒険者モードの時の男らしさが足されてるんだ。
これは、やばいでしょう?
ハルは遠征に出発するための準備なんだけど、見送りに行くなんて全く知らなかった俺は自分の服をどうしようかと悩んでしまった。
いつもの冒険者として着てる普通の服で良いのかな?でもマチルダさんがわざわざドレスを着てたぐらいだから、もっとかっちりした服装の方が良い?
とりあえず持ってる服を全部思い浮かべてみたものの、その中のどれが良いのかなんて俺には分からない。服選びのセンスに自信が無いのもあるけど、そもそもこっちの世界の常識が完璧じゃないからね。もしかしたら、見送りには絶対に着ない色とかがあるかもしれない。
うーん、ハルも準備で忙しいから何とか自分で考えようとしてみたけど、これはさすがに一人では無理そうだな。
申し訳ないけどハルに相談しようかなと顔をあげると、ちょうどハルが魔導収納鞄から何かを取り出す所だった。
「アキト、もしよければこれを貰って欲しい」
すっと目の前に差し出された少し大き目の箱を、両手を使って受け取る。
「…開けて良い?」
「もちろん、開けてみて」
そーっと箱を開けてみれば、中には濃い灰色の布に紫と金色の糸で細やかな刺繍が施された服の上下が入っていた。
ハルのご家族に挨拶をする時に着ていた服に、ちょっとだけ作りが似てる気がする。もちろん布の素材とか色とか、細かい所は全然違うんだけどね。こっちの世界ではあの服以外に正装って呼べる服を着た事が無いから、そう感じるだけかな。
「これって…」
「えっとね。今日の見送りは、出発式っていう公式行事の扱いになるんだ。だからマティさんは領主代理という立場もあって、正装のドレスを着る必要がある」
ここまでは良いかな?と尋ねてくれたハルに、俺はコクリと頷いた。
「でも他の人はどんな服を着ていても別に問題は無いんだ。冒険者の服だろうと、普段着だろうと、鎧だろうと問題は無いんだけど…」
「だけど…?」
「もし公式行事に出る機会があれば、アキトに着て欲しいなって前から用意してあったんだ。だから――折角なら着て貰えないかなと思って」
照れくさそうに笑いながらそう言ったハルは、もちろん強制じゃないけどねと続けた。
わざわざ俺のために用意してくれていた服を手渡されて、着て欲しいけど強制じゃないよと言われる。
そんなの、答えは決まってるよね。
「着ます!」
「良いの?」
「絶対着ます!」
何故か敬語でそう即答した俺に、ハルはふふふと嬉しそうに笑ってくれた。
ハルから渡された濃い灰色の服は、抜群に着心地が良かった。あまりに着心地が良いから、ついついその場で屈伸してしまったよ。それでも引きつれた感じが一切無い素晴らしい着心地に、ほうと感心の息が漏れた。
すごいなこれ。これなら走って移動とか、魔物と戦ったりとか問題無くできそうだ。
そんな事を考えてしまってから、俺はすぐにぶんぶんと首を振った。
正装してるのに、走って移動とか魔物と戦ったりとかしたら駄目だよね。
「…もしかして、どこかきつかったりした?」
背後から聞こえてきた少し心配そうなハルの声に、俺は慌てて振り返った。
「違うんだ、逆に着心地が良すぎて…」
走れそうとか戦えそうとか考えてしまっただけなんだと続けようとしたけれど、俺はそこで言葉を忘れて立ち尽くしてしまった。
「アキト?何か問題でもあったの?」
不思議そうに首を傾げて尋ねてきたハルの服装こそが、今の俺にとっては大問題だった。
ハルが身にまとっているその服は、漆黒の布を使って作られている詰襟の軍服だ。
いや、これは…やばい。本当にやばいよ。何これ、格好良すぎる。似合ってる。いや似合い過ぎてる。
色んな言葉がぐるぐると頭の中を回ってるけど、見事に語彙力が行方不明モードだ。
俺だってね、ハルの格好良さへの耐性が少しはついてきたと思うんだよ。いつも一緒にいるわけだからね。軍服だけだったら、まだぎりぎりで耐えられたかもしれない。
でも今日のハルはその軍服の上に、胸当てをつけたり剣を装備したりしてるんだよね。つまり騎士モードの時のかっちりとした格好良さに、冒険者モードの時の男らしさが足されてるんだ。
これは、やばいでしょう?
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