31 / 43
鐘の音が鳴る頃に
第30話
しおりを挟む
いくら美来を待っていても、美来は教室に戻ってこなかった。荷物やランドセルはさっき立ち上がった時に一緒に持っていってしまっていた。もう既に帰っているのかもしれない。
もしかしたら僕は帰って来ないことをわかっていて待っているのかもしれない。これは僕が引き起こしたことだ。
見回りの先生が教室に入ってきた時に僕は学校を出た。時間は既に六時半を回っていた。
美来がやったとは思えない。あんなに優しくて、早熟な彼女がそんなことは、決してしないだろう。それだけは確信している。
外は暗く、冬を迎えたといってもおかしくないほど冷え込んでいた。
そうして無気力な状態でゆっくりと家に帰ると、リビングの机には、僕の気持ちとは正反対の彩り豊かな夕飯が並べられていた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
優香はいつものように元気だったが、反応してあげることができなかった。
「ご飯いらないの?」
階段を登ると、下から母の声が聞こえてくる。それに応える気力もなく部屋に入った。
ベットの上で考え事をしていた。こんなに悩んだのはこっちの世界に来た時以来だろう。
僕は枕を手に取り、思い切り殴った。何度も、何度も、何度も。
わかっていた。他人のせいにしていた。そんな力はないことも理解していたはずだった。本当はわかっていたんだ。「誰が」とかではなく、いじめや争いは無くならないことを。わかっていた。
少なくとも、体育の授業で美来と話したときから理解していた。それでも、自分なら石神よりももっと上手くやれると思っていた。何よりも、こんな歪な統治は嫌だった。見たくなかった。
それでも結果的には、クラスを崩壊させ、美来を巻き込み、仲の良かったクラスが徐々に崩壊していってしまっている。
無知な僕の責任だ。綺麗事だった。恐怖以外に統治する方法はなかった。だって恐怖とは…。先生は…。
「お兄ちゃん…」
優香の声がして、その場で固まってしまった。
「さっきね、美来ちゃんが泣いてた所見ちゃったの…」
黙って聞いていたが、心臓の鼓動が、耳から聞こえてくるのがわかる。
「心配で美来ちゃんに話しかけて、そしたら美来ちゃん『喧嘩じゃなくて、嫌われることしちゃった』って言ってて、悲しいお顔したの。だから、お兄ちゃん、美来ちゃんのこと許してあげて…」
美来が葵に嫌がらせをすることは絶対にない。今の話を聞いても僕はそう思っている。涙を拭き取り顔を叩き、部屋のドアを開ける。
「お兄ちゃん…」
泣いている優香がドアの前に立っていた。優香の頭を撫でそのまま抱きしめた。
「美来は何も悪くないんだよ。お兄ちゃんが悪いんだ。今から美来の家に謝りに行ってくるから、大丈夫」
「仲直りできる?」
「うん、美来とお兄ちゃんは友達だから」
「うん、優香も美来ちゃんとお友達だよ」
優香は笑顔を見せたが、最後に目元に溜まっていた涙がこぼれ落ちていく。もう一度優香を 抱き寄せて、僕は美来の家に向かった。
美来の家につき、震えた指でインターホンを押した。
「はい」
美来がインターホン越しに出てくれた。
「どうして疑われるようなことをしたんだよ」
僕は近所のことなど考えずに叫んでいた。
だが美来は無言だった。
「美来がやったなんて微塵も思ってない。僕のせいで…」
「愛斗くんは来てくれたでしょ」
美来の声はとても冷静で、安らかだった。
「友達だって言ってくれたでしょ。だから大丈夫」
大丈夫なはずがない。みんなの矢印が美来に向かっている。優香がうけた苦しみと同じだ。そして美来がやってしまったことは取り返しのつかないことだ。
涙が止まらなかった。上手く話せなかった。
「愛斗くん」
そんな僕とは裏腹に美来が落ちついて話す。
「ありがとう…」
そこからは、何度叫んでも返事は返ってこなかった。
もしかしたら僕は帰って来ないことをわかっていて待っているのかもしれない。これは僕が引き起こしたことだ。
見回りの先生が教室に入ってきた時に僕は学校を出た。時間は既に六時半を回っていた。
美来がやったとは思えない。あんなに優しくて、早熟な彼女がそんなことは、決してしないだろう。それだけは確信している。
外は暗く、冬を迎えたといってもおかしくないほど冷え込んでいた。
そうして無気力な状態でゆっくりと家に帰ると、リビングの机には、僕の気持ちとは正反対の彩り豊かな夕飯が並べられていた。
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
優香はいつものように元気だったが、反応してあげることができなかった。
「ご飯いらないの?」
階段を登ると、下から母の声が聞こえてくる。それに応える気力もなく部屋に入った。
ベットの上で考え事をしていた。こんなに悩んだのはこっちの世界に来た時以来だろう。
僕は枕を手に取り、思い切り殴った。何度も、何度も、何度も。
わかっていた。他人のせいにしていた。そんな力はないことも理解していたはずだった。本当はわかっていたんだ。「誰が」とかではなく、いじめや争いは無くならないことを。わかっていた。
少なくとも、体育の授業で美来と話したときから理解していた。それでも、自分なら石神よりももっと上手くやれると思っていた。何よりも、こんな歪な統治は嫌だった。見たくなかった。
それでも結果的には、クラスを崩壊させ、美来を巻き込み、仲の良かったクラスが徐々に崩壊していってしまっている。
無知な僕の責任だ。綺麗事だった。恐怖以外に統治する方法はなかった。だって恐怖とは…。先生は…。
「お兄ちゃん…」
優香の声がして、その場で固まってしまった。
「さっきね、美来ちゃんが泣いてた所見ちゃったの…」
黙って聞いていたが、心臓の鼓動が、耳から聞こえてくるのがわかる。
「心配で美来ちゃんに話しかけて、そしたら美来ちゃん『喧嘩じゃなくて、嫌われることしちゃった』って言ってて、悲しいお顔したの。だから、お兄ちゃん、美来ちゃんのこと許してあげて…」
美来が葵に嫌がらせをすることは絶対にない。今の話を聞いても僕はそう思っている。涙を拭き取り顔を叩き、部屋のドアを開ける。
「お兄ちゃん…」
泣いている優香がドアの前に立っていた。優香の頭を撫でそのまま抱きしめた。
「美来は何も悪くないんだよ。お兄ちゃんが悪いんだ。今から美来の家に謝りに行ってくるから、大丈夫」
「仲直りできる?」
「うん、美来とお兄ちゃんは友達だから」
「うん、優香も美来ちゃんとお友達だよ」
優香は笑顔を見せたが、最後に目元に溜まっていた涙がこぼれ落ちていく。もう一度優香を 抱き寄せて、僕は美来の家に向かった。
美来の家につき、震えた指でインターホンを押した。
「はい」
美来がインターホン越しに出てくれた。
「どうして疑われるようなことをしたんだよ」
僕は近所のことなど考えずに叫んでいた。
だが美来は無言だった。
「美来がやったなんて微塵も思ってない。僕のせいで…」
「愛斗くんは来てくれたでしょ」
美来の声はとても冷静で、安らかだった。
「友達だって言ってくれたでしょ。だから大丈夫」
大丈夫なはずがない。みんなの矢印が美来に向かっている。優香がうけた苦しみと同じだ。そして美来がやってしまったことは取り返しのつかないことだ。
涙が止まらなかった。上手く話せなかった。
「愛斗くん」
そんな僕とは裏腹に美来が落ちついて話す。
「ありがとう…」
そこからは、何度叫んでも返事は返ってこなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる