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12 御前試合開催

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 窓から差し込む朝日で目を覚ます。
 目を開けると、目の前で俺の顔を見つめるエクスの顔があった。

「ふふ、おはようございます、お兄様。熟睡されていましたね」

 エクスはそう言いながら俺に体を寄せて来る。
 ほのかにいい香りがする、本当に剣なのか疑いたくなるほど柔らかい体だ。

「……おはよう、エクス」

 ――むくっ
 俺の寝顔を観察するエクスに慣れた俺は特に慌てることなく体を起こして背伸びをする。
 傍にある台に置いていた眼鏡を付けてベットから立ち上がり、王都サントリアを見下ろせる窓際まで向かう。

「……魔物が出て来た時は地獄絵図のように荒れ果てていたのに、もう元通りになってる。……すごいな」

 窓を開けて室内の空気を入れ替えながら、そんな事を呟いていると――

 ――むぎゅっ
 エクスも寝間着のまま起き上がり、俺の背中に抱き付きながら窓の外を眺める。

「ロイダース様が魔族からお守りした王都ですからね。これぐらいではどうって事はないでしょう」
「……親父が王都を守った……って?」

 俺がエクスに尋ねると――

 ――バァンッ!
 扉から勢いよくリースさんが現れる。

「おはよう二人とも!」
「……また貴方は……二人の時間を邪魔しないでくれませんか?」
「そんなの知らないわよ! ……それよりマイオス、今日はいよいよ御前試合当日ね! 今から楽しみだわ!」

 朝から元気なリースさんは相変わらずノックをすることなく部屋に入ってくる。
 もう慣れたので特に問い詰める事なく俺は返答する。

「そうだね。どんな冒険者達が参加してくるか楽しみだよ。……それに、リースさんがいれば敵なしだと思うな」
「それを言うならマイオス、貴方もよ! 確か、御前試合で優勝したらお父様が何か一つ願い事を叶えてくれるって言ってたけど……マイオス、貴方は何か考えているの?」
「ん~……そうだなぁ」

 リースさんから不意に問われて考えると、一つだけ願いが脳裏に浮かぶ。

「……新しい鍛冶ギルドを作りたい、かな」
「……へ? それでいいの? もっとすごいものを望めばいいのに!」

 リースさんはそんな事を呟く。

「あはは……それぐらいしか俺には考えられないや。……まぁでも、まだ優勝したわけじゃないからね。その時になったら考えるさ」
「そう……それじゃ早く朝ご飯を食べて、御前試合に備えましょう!」

 それからリースさんと国王陛下たちと朝ご飯を済ませた後、国王陛下と共に王都へと繰り出した。



 移動した先は、王都サンリトリアにある大聖堂闘技場だ。
 大きな大聖堂の前にある闘技場は、中央部に石でできた闘技台の上には数多くの冒険者が待機しており、その周りには観客席が敷き詰められていて王都の住民の多くが座って御前試合が開かれるのを今か今かと待ちわびているようだった。

「へぇ……大きな会場だね。ここで戦うんだ」
「本当ですね。人が沢山います、お兄様」
「……二人はこの闘技場は初めて?」

 俺達に視線を向けたリースさんが尋ねる。

「あぁ……うん。冒険者の人から話は聞いた事がある程度で……自分がこの場で戦うとは思っていなかったな」

 俺が答えると、イングラム国王陛下は振り返る。

「今日は住民の為の催し物だ。存分に励むといい! ……さ、私は二階にある演説台から冒険者に号令をかけなくてはならない。リースティア達は他の冒険者がいる所へ向かってくれるか?」
「わかったわ、お父様!」

 リースさんに続けて俺もお辞儀をする。

「今日は精一杯頑張ります!」

 ――ぺこっ
 俺と同様にお辞儀をするエクス。
 それから俺達は国王陛下と離れて、他の冒険者がいる闘技台へと向かった。



 喧騒としている闘技台では、腕に自信のある冒険者が終結していた。

(……50人ぐらいはいるんじゃないのかな?)

 そんな事を考えていると、建物の二階にある演説台から顔を出した国王陛下が俺達を見渡しながら大声を発した。

「またせた冒険者諸君! 本日より、かねてより伝えていた御前試合を執り行う!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」

 ――パチパチパチパチパチパチッ!
 観客席からも弾けるような拍手が鳴り、冒険者達から待ってました、と言わんばかりの歓声が上がる。
 いよいよ、御前試合が始まるようだ。



◇◇◇



 御前試合では三名で一組で編成されており、俺達は俺とエクスとリースさんの三名で申請し、俺達含めた総勢16組のパーティが御前試合に参加する事となった。
 中にはあの元勇者パーティもいた。

(……なんだろう。あの黒い剣?)

 アバランスは漆黒の鞘に入った見慣れない剣を腰につけていたのが印象に残った。



 しばらくすると、闘技台のところに司祭が現れた。
 その司祭から参加する冒険者は順々に何か魔法をかけられている。

「……何してるんだろう?」
「あれは防御魔法よ。私達が武器でやり合えば致命傷を食らいかねないでしょ。それを防ぐ為の処置よ」
「へぇ……たしかにその方が安全だね。……あ、終わった冒険者達は建物の中に入っていくね」

 そんな事を話している内に、俺達も司祭から処方を受ける。

「さ、これで大丈夫だ。存分に励むと良い!」

 体に分厚い層で包まれる感覚だ。

「ありがとうございます」

 俺はお礼を言った後、他の冒険者と一緒に建物の中に移動しようとするが――

「ちょっとマイオス、どこに行く気よ」

 ――俺に声をかけてくるリースさん。

「……え? 戻らないの?」
「当たり前じゃない。さっき建物の中に張られていた表を見てないのかしら? 初めの対戦試合は私達からよ! パーティ名も”神聖騎士隊”って決めておいたわ」
「神聖騎士隊!? ……なんか強そうな名前だね」

 パーティ名はともかく、どうやら初戦は俺達のパーティからのようだ。
 続々と建物の中に消えていったパーティの中で一組だけが闘技台に残るパーティがいた。

「……あ」
「……うげっ」

 相手は前に冒険者ギルドで俺に絡んできた巨体の男のパーティだった。

「お、お前は!? また武器を壊さないでくれよ!」

 俺に気付くと、すぐに巨体の男は声をかけてきた。
 だが、エクスが巨体の男に威勢よく吐き捨てる。

「ふん、貴方の武器ごときにお兄様が手を下すまでもありません」
「お前は……相変わらず口が減らない女だな。俺を怒らせるのが上手いようだ!」
「まぁまぁエクス……貴方も参加してたんだ。この前はごめんね。武器を壊して」

 巨体の男に俺は話すと、リースさんが不思議そうな表情を浮かべる。

「なによ貴方達、知り合いなの?」
「あぁ……リースさん達と会った冒険者ギルドでちょっと絡まれた相手だよ」
「へぇ……あ、確かに。そんな事もあったわね。……殆ど忘れちゃってたわ」

 リースさんと話していると、御前試合を司会進行する人が建物の中から出て来た。

「皆さまお待たせ致しました! 今からここ王都サントリアの大聖堂闘技場で行われる御前試合を開催致します!」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 司会の声で、俺達は観客からの熱狂の渦に包まれる。

「……すごいなぁ」

 まさか、自分がそんな場所に立つ日が来るとは思っていなかった。
 自然と手に持つゲイボルグにも力が入る。

≪すごい熱狂だな! これは期待に応える戦いをしないとな、あんちゃん!≫
(……だね。防御魔法がかかってるとは言え、相手に怪我をさせないように気を付けないと)
≪分かっているさ!≫

「マイオス。あの巨体の男は私に任せなさい!」

 相手は巨体の男と魔法使いらしき女性とシーフ姿の男の三人組だ。

「あ、うん! エクスは魔法使いの子をお願い、俺はシーフを相手にするよ」
「わかりました。お兄様!」

 俺がエクスに指示を出していると、司会が声を上げる。

「それでは両者構え……御前試合、第一回戦――」

 俺は手の持つゲイボルグに力を込める。

「――始めっ!!」

 司会の掛け声と共に、御前試合の戦いの火蓋が切って落とされた。
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