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4歳

 11、私、稀人です

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 一瞬固まった精霊達がざわめいた。

『『『『え、稀人?嘘でしょう?この世界の子供だろう?あるわけないわよ。稀人の姿じゃないだろ。だってミレットが産んだのよ。大地が揺れたのはかなり前だよ。現れた話は聴かないし。嘘つくなよ!』』』』

 ・・・他人の精霊の声は聞こえないけど喜んでる顔じゃない。でもアリアが段々泣きそうな顔になっているので何となく分かる。

(チッ!何だよお前ら、ちょっと長生きしてるからって偉そうに!ムカつくなぁ。うちの精霊泣かさないで欲しいんだけど!)
 拳を握りしめて魔力を纏い、テーブルをかなり思いきり叩いた。

 ダンッ!・・・ビキッ・・・

なんかしてはいけない音がしたが構わず精霊達を睨むと、びくっ、と固まった。それから
「・・・ごめんなさい・・・」
と父と母に謝る。
「アリア」
呼ぶと肩にピトっとくっついた。
ねえ、私に触ればそれは分かるの?と聞くと頷く。
 (精霊は嘘ついたら存在が消えちゃうから嘘はつけないの。知らない事以外は、言えないって言うか黙るしかないんだけど、契約者が真実にたどり着いたら、話をする事が出来るの)
ほう、それはイイコト聞いた。

『私、嘘は言ってないわ!』

アリアが他の精霊達に訴える。
ほう、真実も確認せず、嘘がつけない精霊を嘘つき呼ばわりしたのか・・うちの子を。
私はまず父の精霊達に手を出す。父がちょっと面食らっているがそこはスルーで。
「触れば分かるんでしょ?」
と言うとおずおずと近付いてくる。そして十秒くらい触れると、ビックリして父の所に戻る。次に母の精霊に向かって手を出す。中級精霊の挑戦的な目が、怖くないぞと虚勢を張ってお化け屋敷に挑む子供みたいだったので、触った時に悪代官風にニヤリ、と笑ってやったらビビってた。

 そして、各々の精霊から、雀のさえずりのような訴えを聞いた父と母がちょっと疲れていた。(笑)


「ミラ・・稀人と言うのは本当なのか?この子達が記憶が二つあると騒いでて・・・」
とても困った顔で、父に質問された。

「そうです。でもその前に!」
と言って掌を出して、ストップする。

「お父様とお母様の精霊達!私の精霊を嘘つき呼ばわりした者は前に来て謝りなさい!」
とテーブルの上を差すと、精霊達はビクッと固まった。父と母は自分達の精霊を見て目を丸くする。精霊達もどうすればいいのか分からず固まっていた。
「真実を分かりもせず、間違った事を言って他人を非難したんですから、謝るのは当然でしょう?」
精霊達はオロオロして戸惑っている。
「ミラ、この子達も悪気はなかったのよ、ごめんなさいね」
「ああ、済まなかったよ、ミラ」
父と母がちょっと困ったように言うが、私は首を振って答える。
「お父様とお母様のせいではありません。・・・主に頭を下げさせるなんて最低の精霊達ですね!それとも・・そちらが嘘をついたと断言して、存在を消されたいですか?」
非難した事で自分達の方が嘘つきになるかも、という事実に目を真ん丸にして固まる精霊達。
それからもう一度、拳にギュギュッと魔力を集め始めると、その量にびっくりした下級精霊達はすぐにテーブルまでやって来た。わたわたしている所を見ると、どうやら謝ってるらしい。
アリアを見るとコックリ頷いてる。私はそれを見てニッコリ笑って言った。
「許します、ありがとう」
しかし中級の二人を見ると、火の子はプイッと顔を逸らしてポンと消えた。
あ!ムカツク~!
「・・そうですか、わかりました。
宣言します!火の精霊アジルバは私の精霊を嘘つき呼ばわりしましたが、私の精霊は真実を口にしました。嘘をついたのは・・・」
私が朗々と声を上げると再びポンと現れたが凄く睨んでる。と部屋の熱量が増えた?と思った瞬間、炎を放った。
「アジルバ何するの!ミラ!」
母が叫んだ。私は手を翳した。
「《反射》」
透明な硬質ガラスが炎をそのまま返した。が自分の炎だから相殺すると思ったのに意外にも少し傷を追ったらしい。どういう原理なのかな?
自分の炎を丸々返されてショックを受けてるようだ。でも、敵対するなら容赦はしないから。

外には出ていないけど窓から見てるだけでも、この中世の世界がどのくらいの文化的水準かくらいわかる。そして王様がいて貴族がいて、つまりここには厳然とした階級があるのだ。平民もちゃんと幸せか?どれくらい虐げられているのか?奴隷もいるかもしれない。そう考えた時に、もし不当な事を言われた時には負けちゃいけない世界だと思ったのだ。

手に集めた魔力を指先に圧縮するように集めて火の子を指差す。
「《レーザー》」
指から光の線がピッと延びて火の子の腕を貫いた。が、その先の漆喰?の壁も一緒に貫いて、壁に小さいが穴が空いてしまった。はうっ!
「アジルバ!」
母が火の子を抱きかかえると、とアリアが叫んだ。
『ミラ!ミラの魔法が火の精霊より大きくて強かったから、ダメージが大きいわ!もしかしたら消滅してしまうかも』
アリアが凄く焦っている。
え?攻撃は腕だけだったのになんで?それにその子は中級の筈だから幾らか強いんじゃないの?
「え?・・・っと、ヒール系で治るの?」
『精霊は属性と魔素で出来てるから魔力が埋ればできるかも』
・・埋める・・・母様の側に寄って手を翳す。
「ミラ!何を・・・」
「《治癒》」
と唱えて魔力をグイグイと中に押し込むイメージで出す。すると傷を追って煤けた体が元通りになった。再生と違ってそんなに魔力は使わなかったけど、見ていた母は目を丸くしてる。少しして気がついた火の子は、ちょっと気まずそうにふて腐れてたが、緑の子と一緒に謝ったようだ。


「・・・稀人なのか」
父と母がショックを受けたように溜め息をつく。私はイスに座り直して一息つくと話をはじめた。
「・・・そうです。二十歳まで生きた記憶があります(面倒だから1才くらいサバ読んでもいいよね21になったばかりだったし)」
「二十・・・それはもう大人だね」
「一応。ここでは十五ですけど、私の世界では二十歳で大人なんです。でも私は医者になるためにまだ勉強してました」
父と母の目がびっくりして瞬いている。
「・・・どのくらい勉強するんだい?」
「・・最低七歳から十八歳までですね。もっと知識が欲しかったら二十二歳まで。医者は更に何年か勉強しないと本当の医者になれないから」
苦笑いしながら説明すると、呆気に取られた顔になってた。
「・・・10年以上も勉強するのか。稀人はいろんな知識を残すと言い伝えられているが、とても進んだ文明なのだろう?そんなに勉強が必要なのか?」
「自分がなりたいものになるには覚える事がたくさんあるから。それに進んでるからこそ、便利な物と危ない物を知る知識が必要だから」
「危ない物?」
「体に有害な物とか戦争兵器とか、他にもいろいろありますけど・・・」
2人の眉間にシワが寄る。
「・・・イレッサは驚いてないの?」
部屋の端でずっと静かに見守っていただけのメイドに話しかけると、ほんの少しだけ微笑んだ。
「驚いてますよ。・・・三歳のあの日から少し変わられましたね」
「・・・知ってたの?」
「ずっと側にいますからね」
「・・・なんで何にも言わなかったの?」
と聞くと、ニッコリ笑う。
「とても困ったようなお顔が増えたからですよ。その前まではとてもお外に出たがってらっしゃったのに、あの日から少し考えては首を振るんです。最初は倒れて外が怖くなったからだと思っていたんですが、お外に全く興味をなくされたようだったので」
何だ、バレバレかぁ。
「・・・この世界が何なのか全然分からなかったから外に出る前に色々知りたかったのよ」
「・・ミラ、倒れた日ってもしかして・・・」
躊躇いがちに母様が言う。私は笑って頷く。
「記憶が戻った・・思い出した日。あの曲は私が作った曲じゃないけど、私の世界のたくさんの作曲家の何千とある曲の中の一つ」
「そんなにたくさんの音楽があるのね」
「あれは私が事故で死んでしまう直前に、弾くはずだった曲なの」
父と母が言葉を失う。
「いいの、今は弾けないし」
「・・・今は?」
私の言い方に首を傾げる。指を父と母の前に出し、親指と小指をわきわきしながら睨む。
「鍵盤が届かないの!たぶん六、七歳くらいまで私が弾きたい曲は弾けないから・・」
と言うと、残念そうな顔で笑ってくれた。2人を見てると、嫌われてはいないと思う。でも・・・
「私・・・ここにいてもいいの?」
と言うと、2人ともちょっとびっくりした顔になった。
「ミラは私達の子だ、なんでそんな事を言うんだ?」
「貴女は私が産んだのよ。どこへ行くと言うの?」
悲しそうな顔で私を見つめる。
「でも私・・・これから外に出たらきっと色々するわ。人を助けたり、知恵を分けたり。ほんとは服も食事も変えたいし」
躊躇いがちに私が言うと
「・・・ドレス、嫌なの?」
母が困ったように聞く。
「お食事、不味かったですか?」
珍しくイレッサが狼狽える。
母をみてから胴体に目を落として脇腹に手を置く。
「コルセットが」
眉間にシワを寄せて言う。それからイレッサを見て
「不味くないわよ。お塩だけであの料理が出来るなんて、イレッサは凄いんだけど、他の味付けも食べたいの。この世界には塩しか味付けがないの?」
ずっと溜めてた疑問を口にした。
女性二人が絶句している。

しかし一般、平民や下級貴族で手に入るのはやはり塩だけのようで、大商人か上級貴族でお金があれば、砂糖や胡椒が手に入る。つまりは平民でもお金が腐るほどあるなら手に入るという事のようだ。
王宮の料理では普通に使われていてパーティーや晩餐に招かれると食べる事が出来るらしい。

胡椒も存在してたのか。でもやっぱり高いんだね。

「精霊が、稀人がこの世界に知識を与えると言われてるっていうのは教えてくれました。良く言えばお姫さまみたいな生活が出来るのかも知れない。でも悪い面を考えるなら?
例えばそれでお金儲けを考える人がいたり、上の貴族が手に入れようとしたり、国の為にとか言って圧力を掛けられて王族に囲われたりはしないの?
他の国が知って欲しがったりしたら拐われて売られたりとか・・・お父様やお母様やイレッサを拐って、私に言う事聞かせるとか。
さっきは精霊達も、魂の稀人を信じてなかったから、暫くは誤魔化せるかも知れない。でもいつか・・・いつかわかったらどうなるの?私のせいで3人の命が危なくなるのは嫌なの」
一気に喋って、一息つく。聞いていた三人は顔色を失ってる。
「そんな事まで考えてたのかミラ。そこまでは考えていなかったよ。確かにその可能性は高いかもしれない。私も子供の頃に聞いた事があるし、学院の図書室の文献に残る稀人は確か、魔法は使えない、と。でもここで生まれたミラは・・・稀人の知恵で魔法が使えるんだね・・・それを知ったら欲しいと思うやつは多いだろうな。しかも魔法が規格外だ」
父は眉間にシワを寄せて厳しい顔で溜め息をついて言った。
「もしみんなが危ない目に合うくらいなら、もう少し魔法を覚えるか大人になったら、人があまり来れない山奥か、森の中で生活しようと思ってたの」
と肩を竦めて苦笑いすると
「だ、駄目だよミラ!そんなの寂しすぎるだろう?」
父が泣きそうな顔をしている。
と、母が強い瞳で真っ直ぐ見つめる。
「そうね、駄目よミラ。今であれだけ規格外なのだから、どうせならさっき精霊達を抑えたように、全てが優位に立てるほど魔力を増やして規格外の魔法を覚えなさい」
「ミ・・ミレット!?」
母の言葉に父が狼狽える。
「お母様・・・?」
何と規格外を推奨された。
「わたくしは学生時代に何人も求婚されましたが、精霊が付いていない者は、この子達が邪魔をして、絶対寄せ付けませんでした」
と母様が言うと火の男の子は得意そうな顔、緑の女の子はコックリと頷く。
「それでも諦めの悪い方は、わたくしに勝てたら考えると言い、この子達と勝利を勝ち取ってお断りしました」
なんか目が点になってしまった。
母様すげーカッコイイ!あぁ、そのときにこの子達は中級になったんだね。端で静かに聞いていたイレッサが諦めたように溜め息をついてた。
あ、イレッサは知っていた。
お父様は(5)ダメージを受けた、そんな顔してる(笑)。
「そして精霊が付いている方の中から爵位など関係なく人柄でガイレスを選んだのです」
「・・・ミレット!」
おっ!お父様は(10)ダメージが回復した、とても嬉しそうだ。
「わたくしの父はうちより位の高い家に嫁がせようとしたようですが、その方達も精霊が居なかったのでわたくしに勝てなかったのですよ。そうして自分の利益にならない娘は放り出されましたが、家は没落などしていないので別に気にしてはいません。ですからミラ、力をつけなさい」
なんかお母様が頼もしい。そしてちょっと気弱で優しいお父様が可愛い、というこの家族が更に好きになった。父と母の所へ近寄りギュッと抱きしめる。
「おとうさま、おかあさま、ありがとう」
「ガイ、私達も魔力と魔法を増やしましょう。せめてこの子達が上級になるくらいには」
自分達の精霊を見て母が言う。
「ああ、この先ミラに守られるだけじゃ親として情けないからね」
「そうねガイ、頑張りましょう」


 そのあと・・・空気中には全ての魔素あるはずだ!と思って土魔法と水魔法をホンの少し捻り出し、テーブルと壁を直しました。


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