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8歳
56、ダンジョン
しおりを挟む11月末の、昼の4鐘
南門を出ると、露店や酒場などが軒を連ねていて、まだ昼にもなっていないというのに賑わいを見せていた。
そこを通り過ぎて暫く歩いた先に、綺麗に修復されて、三軒分の広さで高さ4キュピト程の塀に囲まれた屋敷がドーンと建っている。
セファール歌劇場。
朝なのでまだ鉄の門は閉まっているが、すでに二十人以上の男達がウロウロと群れていた。
劇場が始まって一ヶ月、エステルと一緒に確認に来てみた。
「うわっ、アイドルの出待ちみたいだわ・・」
エステルが顔をしかめて呟く。
道幅は広いとはいえ、馬車の通行の邪魔になるほどのむさ苦しい群れになっている。
「裏に回ろう」
「そうね」
遠巻きに二~三十メーター先の群れを眺めて、塀を曲がった。
裏門の護衛さんに顔パスで入れてもらい、本館の劇場の裏口へ向かう。
裏門にも馬車が通れる木の門があるが錠前と閂が掛かっていて、大荷物を運ばない限り滅多に開けないようになっている。
その横に普通の木の扉があり、大体の出入りはこちらでしている。扉の内側は敷地内が見えないように低めの囲い塀が出来ている。中に入ると右側に三階建の大食堂の建物があり、左側には二階建の男の従業員用の建物がある。
「あら、久しぶり。マダムは部屋にいるわよ」
左右の建物を通り過ぎた所で、最初に私達が助けたロペナさんが洗濯物を干していた。
出戻りの五人の中で楽器が出来ない二人、チノさんとロペナさんは裏方になっていて雑用全般をやっている。
敷地内の男性も、二人の雑用のおじさんだけだったが、九人増えて十一人になっていた。
最初、力仕事や見張り見回りを七人で分担していたが、後から四人増やしたという。
雑用以外では、元から五十代の料理人が男女一人ずついたが、竈を使う仕事が増えるので二人募集して、男女二人ずつになった。それでも手が足りないときはロペナさん達が手伝うらしい。
ちなみに、出戻りのお姉さん五人は食堂の上の、狭いけど一人部屋で、借金のあるお姉さん達は本館の上の二人部屋だそうな。
「「こんにちわ~」」
「おや、来たのかい?おかげさまで店は順調だよ」
コンコンと扉を叩いてから、執務室兼マダムの部屋へ入ると書き物をしていたマダムアンジュが顔を上げてニッコリと笑った。
前の部屋とそんなに変わらない配置の部屋だが、変わった所と言えば右の壁一面全てが本棚と引き出しになっていた事だ。
壁の半分がたくさんの小分けの引き出しになっていて、なんと簡易金庫(貴重品ボックス)との事。お姉さん達の名前の木札が付いてて、貯めたお金や客から貰った物を入れておけば、マダムが見張っててくれるらしい。
収穫祭のショーは、北の広場は神殿の前の広場なので、北より広い南の広場で行われた。
当日直前まで準備は手伝ったものの、私達は子供だったので三の鐘(18時)前に返されてしまったのだ。
そうして初日の朝、娼館に行くと門の前に十人くらいの男達がウロウロしていて、裏から入れてもらってマダムの部屋へ行くと、少し暗い顔で椅子に座って、ため息を付いていた。
何でも、広場のショーは拍手喝采とはいかなかったようで、娘達は赤い顔を手で隠し、男達は目を丸くして口が開いたままだったらしい。
マダムは、新し過ぎて受けなかったか・・・と思い、嵩んだ借金がのし掛かって昨日は眠れなかったらしく、部屋へ入ると暗い顔でため息を付いていた。
「?・・・昼からショーでしょ?そろそろ準備しないと間に合わないわよ?」
とエステルがマダムに言うと、
「・・でも昨日は失敗したようだしねぇ・・」
と眉を寄せた。
「そうなの?でも表通りには、十人くらい男の人達がいましたよ?」
と私が言うと、
「 !? 何だって!?・・ホントかい!?」
ガバッと立ち上がって部屋を出ていき、外の様子を眺めると数分で戻って来て、従業員に激を飛ばして営業が始まったのだった。
「最初はどうなる事かと思ったけどね・・」
今はまだ、収支がギリギリらしいけど、数日前にボックス席が三つ売れたらしい。二つは貴族、一つは商人だそうだ。
しかし始めた当初は、日々問題が起こって大変だったらしい。
並んだ順に入れて、入れなかったら次の回まで待つ方式だったが、三回の公演で入れなかった者が揉めて暴れたそうだ。
で、次に木札チケットにすると、それを狙って恐喝と暴行が発生したという。
それで手間は掛かるが仕方なく、入口で予約表を作り、予約木札を渡して名前、髪の色、目の色、身長を明記して、合致したらお金を払って中に入れるようになったら、誤魔化しが効かないとわかってやっと落ち着いたそうだ。
後から増えた四人は、文字が書けるチケット係らしい。
他にも、元娼館だったからか、ショーの後に部屋を取ってお姉さん達を呼ぼうとする者が何人もいたそうで、もう娼館として国に登録していないから、部屋はないし娘達は呼べない!とマダムが断ったが毎日毎日、女を出せ!と文句を言う男達に説明するのが鬱陶しくなり、現在はショーの最後に、マダムか護衛の誰かがステージに出て説明しているらしい。
曰く、
ここはもう娼館ではない。買い上げしたければ娼館の時より大金が必要。そして精霊が付いている男のみ。
と説明したら文句を言いにくる男は殆どなくなったらしい。
「そろそろ、説明するのも面倒なんだけどね」
とマダムがため息をついている。
「精霊が付いてる人だけ・・って誰かに聞いたんですか?」
「登録する時に城へ何回か行って文官とかに聞いたし、ギルドマスターにも詳しく聞いたから、対策も立ててあるさ」
「「・・・ああ」」
「客を取らずに稼げる、ってのがやっとあの子達も判ってきて出て行きたくないとさ」
「・・・そうだよねぇ」
「うん・・・」
「はい、これが曲の代金だよ」
マダムは、執務机にコトリと小さい巾着を二つ置いた。
提供した曲、エステルは歌謡曲三十曲分、私はクラシックを二十曲分の提供で、一曲の作曲につき金貨一枚くらいが相場らしいので、分割で貰う事になった。その代わり曲の権利は劇場のものだ。
銀貨を確かめて、それぞれ自分の巾着に移してスペースに入れる。
竈のお金は国のローンが無くなってからの予定になっている。
「それでねぇ・・・、曲の方が・・ちょっと困った事になってねぇ・・・」
マダムが机に肘をついてため息をつく。
「二階のボックスを買った貴族がね、どうやら歌や踊りよりも、曲を覚えるのが目的らしいんだよ」
貴族に二つ売れたボックス席のうち一つが、伯爵位の貴族で音楽家を数名支援しているパトロンらしく、この曲は誰が作ったのか、楽譜は無いのか?と言われたらしい。
楽器が出来るお姉さんは十一人、ピアノとバイオリンとフートの三人一組を基本にして、ステージの両端に一組ずつ配置されて交互に演奏している。一応ドラムも設置されているので楽器は四つで奏者は三人という事だ。曲の構成によって三人のうち一人がドラムを叩く。
一回のショーは約二十曲、最初と最後の曲だけ同じにして、中の十八曲は残り四十八曲を組み合わせてショーを構成している。
今の楽譜は全て手書きで、一曲につき三つ楽譜があって、劇場本館からは出さないようにマダムが管理している。
だが売るとなると、城に登録する登録料が必要だったり、更に印刷にもお金がかかり、楽譜が売れて利益が返るまでの最初の出費が痛いのだという。
現在セファドールで有名な作曲家は、貴族で五人、平民が二人いるらしい。
貴族なら家が援助していたり、もし貧乏でもすぐに誰かしらパトロンがつくらしい。
でも平民の場合は、学院にいる間に発表会とかで才能を認められないと中々パトロンは付かない。それでも音楽をやりたければ、演奏会に呼ばれて演奏したり、酒場や広場で演奏してお金を貯めながら、楽譜を作って名を売っていくのだそうな。
つまり曲が作れてもお金がないと、楽譜が作れない、儲からない、音楽家として生活出来ない、って事らしい。
「昔はね・・・平民でも音楽の授業ですごく上手いヤツは結構いたんだけどねぇ。でも・・・今は名前を聞かないから流しの演奏家になってるか、貴族に喰われてるかも知れないねぇ」
「貴族が曲を奪ってるの?」
「・・・ああ、そういう事もあるよ。才能があっても演奏会に呼ばれるだけじゃ儲けがないからね。自分の楽譜を書いて売れて初めて音楽家って言えるのさ」
この世界では、上手くても曲を弾くだけの人は演奏家、曲を作れる人は音楽家って言うらしい。
「・・・じゃあ、これは劇場の物にしてもいいんだね?」
近いうちに、少しずつ楽譜も出す事になるだろうから、楽譜の利益も追加するか?と聞かれた。子供だから楽に騙せると思うのに、マダムは意外と真面目だ。
「はい。ここの為に作った物だし。あ、でも・・・もし私達が弾いたり歌ったりする事があった時だけは、私達の権利で!」
「そうねぇ。曲分のお金はもらうんだし、後からの利益はここの蓄えに回してあげて」
それにここに提供した曲は恋歌が多いから多分「私達は大人になるまではあんまり歌ったりしないと思うけど」と私達が言うと、マダムアンジュは少し困ったような顔をして微笑んだ。
「そうかい・・・ありがとう」
* * * * *
「なんか今年はすごく寒いよね?」
「そうね。そろそろ薬草も少なくて見つけにくいし、今年は今日でおしまいにする?」
「うん、そうね」
12月も半ばの昼過ぎ、北門から出て、いつもの子供採集地の林の奥へ進み薬草を取っている。
「「・・・・・・・・・・」」
「・・・・・・ねぇ・・何か変じゃない?」
黙々と薬草を取っていると、エステルが顔を上げて呟く。私も薬草を手に持ったまま周りをみる。
「ん・・今日は一匹も出てこないね。・・・そう言えば門を出る時おじさんが、朝の子供達が獲物が取れなかったって言ってた、とか言ってなかった?」
魔力を薄く放出して《気配察知》で探っても姿が全くない。
「ああ・・言ってたね。何でだろ?」
「今年は寒さが厳しいから、巣籠もりに入ったとか?」
「え・・・・ゴブリンは冬眠しない筈だから!それ絶対おかしいから!」
ゴブリンは集団形成して、洞窟や地面の下や時には地上にもコロニーを作ったりはするが、冬眠はしない。冬でも獲物を探しに出てくる筈なのだ。
「・・・《サーチ》」
エステルが地面に手をついて、約三マイル(3キロ)の林の索敵を掛ける。
「この林の中、動物が全く居ないわ・・・なんでよ???」
「・・獣の本能で、この辺に何か危険を感じて逃げたとか?」
「・・・・私達も取りあえず出よう」
街道まで戻って一息つく。
「どうなってるのかしら?」
エステルが林を振り返って眉をよせる。
「何かが起こっている?・・」
「それは・・・・・あっ!?地鳴り?」
突然、地面が大きく揺れた。
「「地震!!」」
ゴゴゴゴゴゴ・・・と大きな地鳴りが続いて大きく揺れ続けているので地面に座り込んだ。
「「うわっ!?」」
突然、ザザザザザ・・バキバキバキ、と木々がものすごい音を立てている音がした。
二人で顔を見合わせていると、ブワッと突風が抜けていく。
「「・・・・・・・・」」
「何いまの・・・木が倒れた?」
「まさか・・地面に飲まれた?じゃあ地割れとかが来るんじゃ・・・・・」
回りの地面を睨みながら、動くべきか考えていると、地面に変化はないまま、4~5分くらいでやっと揺れが止まった。
「・・・ご・・5ぐらい(震度)あったかな?」
「・・5以上あったわよ!絶対!」
木を見上げると、何もなかったようにいつもの林が広がっている。
「木がどうなったか、確かめましょ」
「・・・うん・・そうね」
十キュピト入った所に広い空間が出来ていて、回りの木が折り重なりすごい事になっている。
そして、その木々の手前の足元にポッカリと黒い大きな穴が開いていた。
「なにこれ?」
二人で覗くと土の階段みたいな物が見える。
「・・・ゴブリンの・・秘密基地?」
と言うと、エステルが吹いた。
「(ブッ!)・・・・まさかぁ」
穴は、大人でも少し屈めば入れるほど大きいので、子供なら余裕で通れる。
魔法でライトを出して降りていくと、三十段で地下に着いた。
「・・結構深かったね」
「そうね・・」
降り立った足下は石畳で、顔を上げると天井は三メートルくらい、広さは縦横十メートルくらいのホールに見える。蝋燭もライトの明かりも無いのにホールは明るい。その先に三つも通路の穴がある。
やはり使われずどこかが傷んで、陥没した地下道が見つかっただけに見えた。
「三つ・・・というと大体は、一つが当たりで、二つはハズ・・レか・・・・も・・?」
「んな、迷路じゃあるまいし。たぶ・・ん・・・・これ・・・は」
と突然、貧血が起きたかのように目の前がスゥーっと暗くなって倒れた。
* * *
ふと意識が戻って顔を上げると、部屋は相変わらずそこにあり、振り返るとエステルも倒れている。
「エル!!大丈夫?」
揺り起こすと、ハッ、と目を覚ましたエステルが顔を上げた。
「ミラこそ先に倒れたじゃない!大丈夫?」
「ん・・目の前がスゥーっと暗くなって、貧血みたいだったけど・・・もう大丈夫みたい。何だったんだろう?」
「ん、私も目の前が暗くなって意識が・・」
二人で首を傾げつつも、何の装備もしてないのでこれ以上は、また何があるか分からないため帰る事にした。
「おお!無事だったか、嬢ちゃん達!」
「揺れが続いてたから心配したぞ」
門に戻ると二の鐘が鳴り夕刻に近かった。
午後から出た子供は私達だけだったので、林の方へ捜索に行くか検討していたらしい。
「ごめんなさい。戻ろうかと思ったら揺れて・・・」
「木が折れるような凄い音がしたのよ」
と、ちょっと中にまで入った事は言わずに、状況を説明した。
「それで・・・林の中の木がたくさん倒れてたんだけど・・・・」
「・・その近くに・・大きな・・・深そうな穴が空いていました」
「はぁ!?・・大きな穴、だと?」
「深いのか!?」
兵士のおじさんがワラワラと寄ってきた。
「はい。とっても深そうでした」
「真っ暗で恐かったです」
オロオロと返事をして頷いた。
「おーい!さっきの揺れのせいで林が陥没したらしいぞー!」
「何だと!?ほんとか?」
「とりあえず、何人かで確認に行ってみないとまずいかもな」
「報告はその後だな・・」
北門の兵士達がバタバタと準備を始めると、「気を付けて帰りなさい」と言われて大人しく帰った。
* * * * *
数日後にギルドへ行くと掲示板に、北の林に迷宮発見!とデカデカと告知されていて、ギルドが沸き立っていた。
ただし現在、Cランク以上の冒険者と騎士団の隊長クラスの人が危険度を調べながらもぐっているそうで、ダンジョンのランクが確定するまでは他の者は入れないと書かれてある。
春以降か夏ぐらいには、入れるようになる予定らしい。
「あれって・・ダンジョンだったの・・」
呆気に取られて掲示板を見る。
「なんだ、王宮からの脱出路じゃなかったのかぁ・・・・・チッ!」
エステルが呟く。
「でも暫くは入れないみたい」
「ん。きっと騎士団が一度攻略するまで一般人は駄目なんでしょうね」
エステルが肩を落とした。
「残念・・・」
私も行く気満々のテンションが下がった。
(あの時、まだ魔力あったし、進んで見れば良かったね・・・)
(そうねぇ・・。やっと間近でファンタジーが体験出来たのに、待たされると意気込みが下がるわよね・・・・)
二人で肩を落とした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
現在、この国にはダンジョンが二つあった。
南の大森林の領地に一つと、西の港町の外れ辺りに一つ。今回の三つ目は王都に近い場所に出来たため、街の人達が魔物が溢れたらどうするのか物議をかもし、守りは厳重にという事で、早急に周りが石積みで囲われ入口には鉄門が設置される事になった。
「大丈夫ですか?レベトール様!」
「ああ、まだ平気だ、エクラー」
ギルドマスターのエクラーと近衛騎士団団長のレベトール・マグラックスは、地下五階の少し広めのホールで、ボスらしい四匹のジェネラルゴブリンと四匹のサーバルウルフをなんとか倒し、息をついた。
ダンジョンが見つかったと知らされた王宮は、すぐに探索メンバーを送り出した。
現在メンバーは、騎士団団長、騎士二人、ギルドマスター、冒険者二人、宮廷魔術師長、宮廷薬師長、の八人。これ以上はない豪華なメンバーで、精霊が付いている者は五人いるのだが、まともな攻撃魔法が使えるのは、冒険者二人と魔術師一人、の三人のみ。残りの回復役の薬師と一人の騎士は、攻撃魔法を鍛えていないので頼りには出来ず、剣と槍がメインの力押しパーティーなのは否めない。
二~三日ぐらい潜って攻略しては一日帰り、また二日攻略する、という予定で行動していた。
「段々と手強くなってますね、団長」
「ああ、そうだな」
少し開けた大部屋でジェネラルゴブリンを倒したメンバーは、座り込んで水分を補給した。
ホールの正面には、やっと下に降りる入口が開いているので、やはりこの階のボスだったようだ。
「やはりこのホールの敵は、五匹じゃなくて八匹でしたね。しかも一度目はジェネラルゴブリン三サーバルウルフ三ゴブリンアーチャー二で八匹でしたが、今回はジェネラル四ウルフ四で八匹でした。固定ではないんですかね?」
宮廷薬師が呟く。
「ん、他の迷宮でも浅い階層の魔物は大体、その階と同数前後しか一度に出ないという情報だった。それに通路や他の部屋は情報に合ってはいると思うが。ここだけ何でだろうな?」
エクラーは眉間に皺を寄せて黙り込む。
「シスの迷宮も、十階くらいまでは階層と同じくらいの数以上は出なかった記憶がある。ここは何か法則が違うのかも知れないな」
メンバーに選ばれたB級冒険者のケルガーがポツリと言う。
〈シスダインの迷宮〉は六十階層である。
とシスダイン伯爵家の文献にあり、現在、上級ダンジョンに指定されている。
この迷宮は遥か昔から存在していて、いつからあるのかは定かではない。そして百五十年程前に領地を得たシスダイン男爵家の当主が家臣数名と共に六十階のドラゴンを倒し伯爵位を賜ったという迷宮だ。
しかし、五十年くらい前からシスダイン騎士団の者でも五十階層辺りのベヒモスを倒せる者が数名しかおらず、現在は六十階のドラゴンに誰もたどり着けないらしい。
王宮の騎士団よりは強いのであるが、シスダイン騎士団も力が落ちているという事だ。
「ケルガーは何階まで行ったんだ?」
エクラーが訊ねた。
「三十・・八?ぐらいだったか。だが、十年前のゴボルドを殺ってからはこっち(王都)にいるから、四十までは行けなかったな・・」
「そうか、あのゴボルドの時か・・・。」
「シスの三十階層って言うと、ゾンビ系って話ですよね?早く行ってみたいッスよ!」
もう一人の二十代の若手冒険者のレスリンが目を輝かせて言った。
彼は西の港町ワントラムの近くの村の出身で、まだCランクの冒険者だが港町中心で冒険者をしていて、ワントラムのギルド長からの紹介でBランクの検定を受ける為に王都に滞在していた。
港町には中級ダンジョンに指定されている、四十階層からなる〈ワントラム迷宮〉があるが、この迷宮は海に近い場所にあるせいか、海の魔物が多く出現する。
彼はその迷宮に潜っていて、海の魔物に結構詳しかったので、何かあった時の為にギルドマスターがメンバーに抜擢した。
一回目の攻略で五階まで攻略して帰還した。
今回は二度目の攻略で、一度目の書き込みを元に比較的サクサクと攻略は進んでいて、前回と同じように五階も早目に攻略し、七階か八階まで到達したい予定である。
しかし魔物が少し変化していた。ジェネラルの宝は鉄剣でみな喜んだが、サーバルウルフの宝に困惑する。サーバルウルフは、魔石一つと小瓶と小さい木箱であった。
レスリンも港町で見たことがないらしく、全員で首を傾げる。確認の為にエクラーが小瓶の蓋を開けると、物凄く眉を寄せた。
「うっ!・・凄い匂いだな。こりゃなんだ?」
順に他のメンバーも匂いを確認して眉を寄せている。
「わからないッス・・」
「どう見ても・・そっちは・・・黒い尿で・・・こっちは・ふ・・糞にしか・・見えないんだが食べ物なのか?・・・・・もしかして薬か?」
騎士団長のレベトールが木箱の蓋を開けて匂いを嗅いでいる。
「いえ、こんな色の薬は見たことがありませんよ」
宮廷薬師長のピナトス・クライスリンが眉を寄せて否定する。
最初に討伐した時は、ジェネラルゴブリンは棍棒、サーバルウルフは魔石、ゴブリンアーチャーは無し、だったのであるが、二度目のアタックで、ウルフは宝なのかも判らない物を落としていった。色が色なのでさすがに誰も味を確かめようとはしない。
「「「「・・・・・・・・・・・」」」」
誰も解らずに沈黙が満ちる。
「取りあえず持ち帰って調べてみるか」
エクラーがため息をついて薬師に渡すと、彼は頷いてスペースにいれた。
ガイレス・シングレア医師の白の精霊が知られてから現在、王宮とギルドが推奨して、Eランク以上の冒険者で精霊が付いてる者はどんどんスペースを使える者が増えていた。
「このスペース、便利ッスよね!俺、王都に来てホント良かったッスよ!!」
彼はBに上がる訓練説明と共に、定期的に行うようになった白の精霊取得の説明会に参加すると枯渇しそうになりながらも死にもの狂いで五日程で圧縮を覚え、精霊が五人になって満面の笑顔だ。
魔術師長と薬師長も一週間くらいで習得し、六人精霊がついている。
「まあ宝も、今のところは他の迷宮とそう変わらない物が出てますが・・」
記録と回復を任されている後衛の薬師長が木札に書き込みをしながら答えた。
最初の一階二階くらいまでで魔物が落とす宝は、子供の採集物である薬草、耳、大小魔石、肉、などだったが、三階以降は数体に一体しか落ちなくなった。そして魔物も強くなっている。
「うむ・・このまま他の迷宮と同じような作りなら、冒険者のランク上げにもってこいなんだが・・・どうなるか」
エクラーが思案顔でため息をついた。
「全員、まだ疲れと魔力が大丈夫なら、あと一~二階・・六階か七階まで行きたいが、大丈夫か?」
エクラーがメンバーに確認すると、全員が頷いて立ち上がった。
―――――――――――――
いつもより短いですが、キリがいいのでここまでに。
この小瓶と木箱が何なのか判明すると、二人はしばらくダンジョン攻略に励む事になります。
応援ありがとうございます!
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