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「まず、キャサリンはこのままこの大公家に毎日通ってくれる?」
キャサリンはにっこり笑って頷いた。
「はい。わかりました。それは全然構いません。むしろ、ニア様にお会いできるのでわたくしからお願いしたいくらいですわ」
次に私はライアンとジェイに顔を向ける。
「二人には神殿に行ってもらいたいの」
「聖教のですか?」
ジェイが私の目を向ける。
「ええ、大公家の使いとしてね」
ジェイはピンと来たのか軽く頷いた。
「かしこまりました」
「二人には司教様に会って、世間話をしてもらいたいわ。毎日」
「毎日!!」
ライアンが悲鳴をあげる。
「毎日なんて……。ただでさえ神殿には年に一回行けばいいほうなのに」
「年に一回……」
今度はキャサリンが驚いている。かつては熱心な信者だったのならば週に一回は必ず行っていたのだろう。
「兎に角、お願い。そうすると勝手に噂が出回るわ。もちろん大公家の侍女あたりから」
そういってリサを見る。リサは静かに頷いた。
「どんな噂ですか?」
「その前に、きっと今貴女のお父様は疑問をいだいているわよね。なんで私が貴女と会っているのか。なぜ友人と公言したのか」
「はい。その通りです。ステイル様から遠ざけられてから、わたくしのドレスなど興味のなかったはずですのに、今日こちらにお邪魔すると伝えたら直ぐに最高級のドレスが届きましたの」
「そうよね。パーティでのドレスとは全く違うもの」
私はそう言ってキャサリンの装いを見る。今日は鮮やかなスカイブルーのドレスに金糸の刺繍が入っているものだ。
「きっと今頃はマクラニー公爵家を訪ねているはずよ」
ジェイに視線を送ると頷いた。やっぱり伯爵にも監視を付けているのだ。
「あの、それがどういうことなのか。わたくしにわかるようにお話しいただけますか?」
「滅多に来ることのない宗主国である帝国の大公家の令嬢が突然現れた。そして、王家に次ぐ公爵家の公子から、婚約破棄を言い渡される寸前の伯爵令嬢に妙に目をかける。しかも、事故にあった令嬢を助け、暫く大公家に滞在までさせた。そして、帰る時には最高級のドレスを惜しみなく与え、更に翌日に再び屋敷に招待する。これが客間的な視点での今の状況よ」
「はい、その通りです」
「欲に目がくらんだ人間は、友情とか心配という感情を理解できないの。だから、私達の関係を必ず勘繰るはずよ」
「そうでしょうか?」
「ええ、もしかしたらキャサリンには自分たちが知らない価値があるのかもしれない。そう考えるでしょうね」
ライアンがうんうんと頷いた。
「そのタイミングでアスラン大公家の縁者であるライアンと大公女の側近であるジェイが足繁く神殿を訪れる。どう思うかしら?」
「どうって、そりゃ……」
「折しも聖女際がもうすぐ開催されるわ。毎年この時期は帝国中で聖女を探し始めるわよね」
そう聖女を信仰する聖教は毎年聖女の依代となる女性を自薦他薦問わず、帝国の国々から探し制定する。この聖女に選ばれるのは最大の名誉とされ、出身国も帝国からかなりの褒美を受け取れるという一大イベントだ。
日頃信仰の薄い国でも、この聖女祭だけは大盛り上がりで参加する。
「そうか!! 大公家がキャサリン嬢を聖女候補として推薦すると考えるわけか!!」
ライアンが手をポンっと叩く。
聖女祭とは言え、今はイベントのようなものだ。帝国の王家に次ぐ大公家の推薦があるのとないのとでは全く違う。聖女に選ばれる確率が格段に上がる。
「そういうこと。聖女候補として推薦されるかもしれないキャサリンを冷遇していたとは絶対言えないわ。こういう噂はあっという間に広まるから国王陛下にも届くでしょうね」
「あははは、慌てるだろうよ。君の父上も公爵も婚約者君も」
ライアンの言葉にキャサリンは目を見開いた。
「本当にそんなことになりますでしょうか?」
「きっとね」
わたしはキャサリンに向かってウインクする。
その後、狐につままれたようなキャサリンを帰した。もちろん明日また来るように言っておくのは忘れない。
ライアンがキャサリンを送っていく後ろ姿を見ているとジェイが口を開いた。
「こういうことか」
「はい。こういうことです」
「もっとアスラン大公家の力を使うのかと思っていたよ。まさか、噂だけだとはね」
私はジェイに振り返って微笑んだ。
「流石に私が本当に権力を使うのは違いますわ。でも、この噂を信じさせるには十分大公家を利用しておりますが。大公様はお許しになりますでしょうか」
「問題ないと思うよ。やってることは友人を招いてのお茶会と神殿へのご機嫌伺いだからね。本気で大公にキャサリン嬢を推薦してもらうこともできると思う」
本気にそう言うジェイに私はお茶を溢しそうになる。
「やめてくださいませ。そんなことをしたらキャサリンが本当に聖女に選ばれてしまいます。私だって帝国の大公の影響力はよく知っております」
「まぁ、そうかもね。これからどうなると思う?」
はははと笑ってジェイが聞いてくる。
「そうですわね。噂が広まるまでに十日、その後、国王陛下が動き出すまで十日というところでしょうか」
「で、キャサリン嬢はどうなるかな?」
「父親や公爵は慌てて優遇するでしょう。そして、今までの冷遇は無かったことにしてほしいと頼むでしょうね」
私はカップをソーサーに戻すと空を見上げる。
青い空には雲一つない。出来ればキャサリンにもこのような気持ちで国を出てほしい。
「グズ男は?」
この前のパーティの様子を思い浮かべて顔を横に振る。
「彼はもう無理だと思います。転生者の手に落ちてしまっていましたから。何を言ってもイザベラの側から離れませんわ」
「確かにそうか」
二人の間に沈黙が落ちる。キャサリンが本当の意味で切りたい縁は切れないだろうということがわかる。
「でも、親からの圧力で苦しみはするでしょう。イザベラもまだ婚約前ですから、風当たりも強くなるはずですわ」
「キャサリン嬢が残りたいと言ったら? クズ男は無理でも親から優遇されれば気持ちが変わるかもしれない」
私はジェイの言葉にゆっくりと顔を横に振る。
「絶対にあり得ません。それどころか噂で態度がコロコロ変わる方達にいっそう嫌悪感が募るだけです。そして、本当に聖女にはならないということはキャサリンが一番知っています。国王陛下が動く前辺りが見切りをつける頃合いですわ」
「ぶん殴りたいという希望は叶うのかな?」
ジェイの言葉に私は大きく頷いた。
「多分、そういう場が設けられるはずです」
リサに前もって侍女の間に流れるうわさを集めてもらっているのだ。
その中には十日後のパーティで、キャサリンが婚約破棄されるというものがあった。
きっと、そのパーティはそのまま開催されるだろう。でも、意味合いは婚約破棄ではなく、婚約は継続されるという趣旨に変わっている筈だ。
私はキャサリンにその場での復讐を提案したいと思っている。
ただ、その場での言動はキャサリンに任せよう。
穏便にただ家出のように国を捨てることもできるし、公衆の面前で父親と公爵、そして、婚約者を非難して飛び出すこともできる。
「兎に角、十日後に保護案件となるはずですわ」
私は冷静にジェイにそう伝えたのだった。
全てが予想通りに進んだ。
リサが流した噂はあっという間に広まり、アスラン大公女がキャサリンと仲良くしているのは聖女祭の聖女への推薦のためだと言われている。
更に大公女の側近や縁者が足繁く神殿に通っていることも真実味を加えているのだろう。
世論とはなんと移り気なんだろう。
あんなにキャサリンを『悪役令嬢』と呼んでいたはずなのに、今はキャサリンを蔑ろにした公爵家へ非難が集まりつつある。
流石に公爵も釈明の場を設けるらしい。
それが、あのパーティだ。
私は手にした招待状をテーブルに置いた。
「お嬢様、キャサリン様がお見えになりました」
バルトの言葉に私は頷いた。
「わかったわ」
今私が身につけているのは、アスラン大公女らしいドレスだ。即ち最高級の装いということだが、気持ちは落ち着いている。
「ニア様、お待たせいたしました」
そう言って部屋に入ってきたのは、これまた素晴らしいドレスを身につけたキャサリンだった。
「素敵だわ」
「ありがとうございます。このようなドレスをご用意いただき、感謝しております」
「いいのよ。今日はご実家や公爵家が用意したドレスは嫌でしょう?」
「はい、今日で終わりですから」
そう言ったキャサリンは内面からも美しさが溢れている。
あの日からキャサリンとは何度も何度も話をしてきた。
この日をどう過ごすのか、復讐とは何なのか、誰にどう対応するのか。話すことは尽きなかった。
そして、キャサリンの出した答えは意外なものだったのだ。
私はその答えを聞いて、思わず唸ってしまったほどだ。
「ふふふ、ぶん殴るんですものね」
私がそういうと顔を真っ赤にして狼狽える。
「やめてくださいませ。あの時は、まだ、混乱しておりましたのよ」
「ごめんなさいね。少しは緊張は解けたかしら?」
「はい」
その時、ドアがノックされてライアンとジェイが入ってきた。
二人とも今日は正装だ。
「うわー、二人とも綺麗だぁ」
ライアンの言葉にキャサリンの頬が染まる。私はそれを見て心から嬉しかった。
だってキャサリンの笑顔が本物だとわかるから。
「では、お嬢様方、参りましょう」
私は頷くとジェイの手を取った。そして、キャサリンの手はもちろんライアンが取る。
「運命が変わる瞬間だね」
こっそりとジェイが言った言葉が感慨深い。
「ええ、今日、全てが本物になりますわ」
今回の一番の功労者はジェイと言っていいだろう。
「ジェイ、本当にありがとうございます」
私は目の前のキャサリンとライアンを見つめながら呟いた。
「いや、アスラン大公殿下の気まぐれさ」
そう言ってジェイは微笑んだ。
私達は連れ立ってマクラニー公爵家のパーティへやって来た。
キャサリンの家にステイルが来たらしいが、既に大公家にいた為キャサリンのエスコートはライアンがしている。クズ男にキャサリンは勿体無い。
私は護衛騎士のジェイを従えて一人での入場だ。
「アスラン大公女リリアナ様、リドル子爵家ライアン様、ユーハル伯爵家キャサリン様です」
会場の視線が一瞬にして集まる。それはそうだ渦中のメンバーの登場だからだ。
私は真っ直ぐ前を向いて顎を上げる。堂々としなくては折角大公様がくださった機会を台無しにしてしまう。
私はキャサリンとライアンを先に行かせて、その後、一人で入場した。
もちろん後ろには常にジェイは控えているが、こういう場では護衛騎士は数には入らない。
私がゆっくりと入場すると、既にキャサリンとライアンが会場の中央に立っていた。
キャサリンはにっこり笑って頷いた。
「はい。わかりました。それは全然構いません。むしろ、ニア様にお会いできるのでわたくしからお願いしたいくらいですわ」
次に私はライアンとジェイに顔を向ける。
「二人には神殿に行ってもらいたいの」
「聖教のですか?」
ジェイが私の目を向ける。
「ええ、大公家の使いとしてね」
ジェイはピンと来たのか軽く頷いた。
「かしこまりました」
「二人には司教様に会って、世間話をしてもらいたいわ。毎日」
「毎日!!」
ライアンが悲鳴をあげる。
「毎日なんて……。ただでさえ神殿には年に一回行けばいいほうなのに」
「年に一回……」
今度はキャサリンが驚いている。かつては熱心な信者だったのならば週に一回は必ず行っていたのだろう。
「兎に角、お願い。そうすると勝手に噂が出回るわ。もちろん大公家の侍女あたりから」
そういってリサを見る。リサは静かに頷いた。
「どんな噂ですか?」
「その前に、きっと今貴女のお父様は疑問をいだいているわよね。なんで私が貴女と会っているのか。なぜ友人と公言したのか」
「はい。その通りです。ステイル様から遠ざけられてから、わたくしのドレスなど興味のなかったはずですのに、今日こちらにお邪魔すると伝えたら直ぐに最高級のドレスが届きましたの」
「そうよね。パーティでのドレスとは全く違うもの」
私はそう言ってキャサリンの装いを見る。今日は鮮やかなスカイブルーのドレスに金糸の刺繍が入っているものだ。
「きっと今頃はマクラニー公爵家を訪ねているはずよ」
ジェイに視線を送ると頷いた。やっぱり伯爵にも監視を付けているのだ。
「あの、それがどういうことなのか。わたくしにわかるようにお話しいただけますか?」
「滅多に来ることのない宗主国である帝国の大公家の令嬢が突然現れた。そして、王家に次ぐ公爵家の公子から、婚約破棄を言い渡される寸前の伯爵令嬢に妙に目をかける。しかも、事故にあった令嬢を助け、暫く大公家に滞在までさせた。そして、帰る時には最高級のドレスを惜しみなく与え、更に翌日に再び屋敷に招待する。これが客間的な視点での今の状況よ」
「はい、その通りです」
「欲に目がくらんだ人間は、友情とか心配という感情を理解できないの。だから、私達の関係を必ず勘繰るはずよ」
「そうでしょうか?」
「ええ、もしかしたらキャサリンには自分たちが知らない価値があるのかもしれない。そう考えるでしょうね」
ライアンがうんうんと頷いた。
「そのタイミングでアスラン大公家の縁者であるライアンと大公女の側近であるジェイが足繁く神殿を訪れる。どう思うかしら?」
「どうって、そりゃ……」
「折しも聖女際がもうすぐ開催されるわ。毎年この時期は帝国中で聖女を探し始めるわよね」
そう聖女を信仰する聖教は毎年聖女の依代となる女性を自薦他薦問わず、帝国の国々から探し制定する。この聖女に選ばれるのは最大の名誉とされ、出身国も帝国からかなりの褒美を受け取れるという一大イベントだ。
日頃信仰の薄い国でも、この聖女祭だけは大盛り上がりで参加する。
「そうか!! 大公家がキャサリン嬢を聖女候補として推薦すると考えるわけか!!」
ライアンが手をポンっと叩く。
聖女祭とは言え、今はイベントのようなものだ。帝国の王家に次ぐ大公家の推薦があるのとないのとでは全く違う。聖女に選ばれる確率が格段に上がる。
「そういうこと。聖女候補として推薦されるかもしれないキャサリンを冷遇していたとは絶対言えないわ。こういう噂はあっという間に広まるから国王陛下にも届くでしょうね」
「あははは、慌てるだろうよ。君の父上も公爵も婚約者君も」
ライアンの言葉にキャサリンは目を見開いた。
「本当にそんなことになりますでしょうか?」
「きっとね」
わたしはキャサリンに向かってウインクする。
その後、狐につままれたようなキャサリンを帰した。もちろん明日また来るように言っておくのは忘れない。
ライアンがキャサリンを送っていく後ろ姿を見ているとジェイが口を開いた。
「こういうことか」
「はい。こういうことです」
「もっとアスラン大公家の力を使うのかと思っていたよ。まさか、噂だけだとはね」
私はジェイに振り返って微笑んだ。
「流石に私が本当に権力を使うのは違いますわ。でも、この噂を信じさせるには十分大公家を利用しておりますが。大公様はお許しになりますでしょうか」
「問題ないと思うよ。やってることは友人を招いてのお茶会と神殿へのご機嫌伺いだからね。本気で大公にキャサリン嬢を推薦してもらうこともできると思う」
本気にそう言うジェイに私はお茶を溢しそうになる。
「やめてくださいませ。そんなことをしたらキャサリンが本当に聖女に選ばれてしまいます。私だって帝国の大公の影響力はよく知っております」
「まぁ、そうかもね。これからどうなると思う?」
はははと笑ってジェイが聞いてくる。
「そうですわね。噂が広まるまでに十日、その後、国王陛下が動き出すまで十日というところでしょうか」
「で、キャサリン嬢はどうなるかな?」
「父親や公爵は慌てて優遇するでしょう。そして、今までの冷遇は無かったことにしてほしいと頼むでしょうね」
私はカップをソーサーに戻すと空を見上げる。
青い空には雲一つない。出来ればキャサリンにもこのような気持ちで国を出てほしい。
「グズ男は?」
この前のパーティの様子を思い浮かべて顔を横に振る。
「彼はもう無理だと思います。転生者の手に落ちてしまっていましたから。何を言ってもイザベラの側から離れませんわ」
「確かにそうか」
二人の間に沈黙が落ちる。キャサリンが本当の意味で切りたい縁は切れないだろうということがわかる。
「でも、親からの圧力で苦しみはするでしょう。イザベラもまだ婚約前ですから、風当たりも強くなるはずですわ」
「キャサリン嬢が残りたいと言ったら? クズ男は無理でも親から優遇されれば気持ちが変わるかもしれない」
私はジェイの言葉にゆっくりと顔を横に振る。
「絶対にあり得ません。それどころか噂で態度がコロコロ変わる方達にいっそう嫌悪感が募るだけです。そして、本当に聖女にはならないということはキャサリンが一番知っています。国王陛下が動く前辺りが見切りをつける頃合いですわ」
「ぶん殴りたいという希望は叶うのかな?」
ジェイの言葉に私は大きく頷いた。
「多分、そういう場が設けられるはずです」
リサに前もって侍女の間に流れるうわさを集めてもらっているのだ。
その中には十日後のパーティで、キャサリンが婚約破棄されるというものがあった。
きっと、そのパーティはそのまま開催されるだろう。でも、意味合いは婚約破棄ではなく、婚約は継続されるという趣旨に変わっている筈だ。
私はキャサリンにその場での復讐を提案したいと思っている。
ただ、その場での言動はキャサリンに任せよう。
穏便にただ家出のように国を捨てることもできるし、公衆の面前で父親と公爵、そして、婚約者を非難して飛び出すこともできる。
「兎に角、十日後に保護案件となるはずですわ」
私は冷静にジェイにそう伝えたのだった。
全てが予想通りに進んだ。
リサが流した噂はあっという間に広まり、アスラン大公女がキャサリンと仲良くしているのは聖女祭の聖女への推薦のためだと言われている。
更に大公女の側近や縁者が足繁く神殿に通っていることも真実味を加えているのだろう。
世論とはなんと移り気なんだろう。
あんなにキャサリンを『悪役令嬢』と呼んでいたはずなのに、今はキャサリンを蔑ろにした公爵家へ非難が集まりつつある。
流石に公爵も釈明の場を設けるらしい。
それが、あのパーティだ。
私は手にした招待状をテーブルに置いた。
「お嬢様、キャサリン様がお見えになりました」
バルトの言葉に私は頷いた。
「わかったわ」
今私が身につけているのは、アスラン大公女らしいドレスだ。即ち最高級の装いということだが、気持ちは落ち着いている。
「ニア様、お待たせいたしました」
そう言って部屋に入ってきたのは、これまた素晴らしいドレスを身につけたキャサリンだった。
「素敵だわ」
「ありがとうございます。このようなドレスをご用意いただき、感謝しております」
「いいのよ。今日はご実家や公爵家が用意したドレスは嫌でしょう?」
「はい、今日で終わりですから」
そう言ったキャサリンは内面からも美しさが溢れている。
あの日からキャサリンとは何度も何度も話をしてきた。
この日をどう過ごすのか、復讐とは何なのか、誰にどう対応するのか。話すことは尽きなかった。
そして、キャサリンの出した答えは意外なものだったのだ。
私はその答えを聞いて、思わず唸ってしまったほどだ。
「ふふふ、ぶん殴るんですものね」
私がそういうと顔を真っ赤にして狼狽える。
「やめてくださいませ。あの時は、まだ、混乱しておりましたのよ」
「ごめんなさいね。少しは緊張は解けたかしら?」
「はい」
その時、ドアがノックされてライアンとジェイが入ってきた。
二人とも今日は正装だ。
「うわー、二人とも綺麗だぁ」
ライアンの言葉にキャサリンの頬が染まる。私はそれを見て心から嬉しかった。
だってキャサリンの笑顔が本物だとわかるから。
「では、お嬢様方、参りましょう」
私は頷くとジェイの手を取った。そして、キャサリンの手はもちろんライアンが取る。
「運命が変わる瞬間だね」
こっそりとジェイが言った言葉が感慨深い。
「ええ、今日、全てが本物になりますわ」
今回の一番の功労者はジェイと言っていいだろう。
「ジェイ、本当にありがとうございます」
私は目の前のキャサリンとライアンを見つめながら呟いた。
「いや、アスラン大公殿下の気まぐれさ」
そう言ってジェイは微笑んだ。
私達は連れ立ってマクラニー公爵家のパーティへやって来た。
キャサリンの家にステイルが来たらしいが、既に大公家にいた為キャサリンのエスコートはライアンがしている。クズ男にキャサリンは勿体無い。
私は護衛騎士のジェイを従えて一人での入場だ。
「アスラン大公女リリアナ様、リドル子爵家ライアン様、ユーハル伯爵家キャサリン様です」
会場の視線が一瞬にして集まる。それはそうだ渦中のメンバーの登場だからだ。
私は真っ直ぐ前を向いて顎を上げる。堂々としなくては折角大公様がくださった機会を台無しにしてしまう。
私はキャサリンとライアンを先に行かせて、その後、一人で入場した。
もちろん後ろには常にジェイは控えているが、こういう場では護衛騎士は数には入らない。
私がゆっくりと入場すると、既にキャサリンとライアンが会場の中央に立っていた。
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