双子になんかなりたくない

波湖 真

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別れ

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「目覚めたんだって?」
そうニコニコして入ってきたのはシャール兄様とエリー姉様だった。
「ユーデット!!」
エリー姉様は私に駆け寄るとガバっと抱きしめてくる。心なしか涙声?
「姉様?」
「もう!! 貴女って子は、どうしてそう平気そうな顔をしているの!! 死にそうだったのよ!!」
そういって私に抱きつく姉さは超絶可愛らしかった。いや、もう大人なので綺麗だというべきかしら。
「ユアンだって、真っ青になって倒れてしまって、私はとても心配したの」
「ユアンが?」
私がユアンの方を見るとふいっと横を向いてしまう。そういえば変な夢を見た気がする。確か……もう少しで思い出せるという時にふわりとした手が頭の上に乗った。
「でも、本当に目覚めてよかったね」
シャール兄様は私の頭を撫でる。利害関係が一致していてもこの十年で少しは情も生まれたのかも。
いつになく優しい瞳をして私の頭を撫でるシャール兄様に私も猫のように目を閉じる。
案外この生活も幸せなのかもしれない。私は私のベッドの周りに集まった面々を見つめてニッコリと微笑んだ。
「ありがとうございます」
そんな私を見てシャール兄様は頷くとユアンとジェイクを見つめる。
「君達には少し話がある。ユーデットも目覚めたことだし、こちらへ来なさい」
シャール兄様は優しく言ったが目が笑っていない。これはきっと今回の件だ。
私は慌てて手を上げる。
「兄様! 私も聞きたいです!!」
「ユーデット、君はまだ休まないと駄目だろう?」
「でも、私に関することですよね?」
私が兄様の服を掴んで見上げる。
「まぁ、そうだが……。しょうがないな」
そう言ってシャール兄様は私のベッドの横にある応接セットに腰を下ろした。
「エリーはどうする?」
兄様の声にエリー姉様はビクッと、肩を揺らす。
この同腹の二人の仲はいいが力関係は絶対的な差があるのだ。
シャール兄様の言葉には出て行くようにという明確な指示が含まれていた。
「……私はこれで失礼しますわ。ユーデット、暫くは大人しくしていなさい」
エリー姉様は優雅にドレスを摘むと流れるような礼をしてから部屋をでていった。
私はシャール兄様に視線を合わせるとキッと睨んだ。
「どうしたんだい? ユーデット」
「シャール兄様はエリー姉様に厳しいです!!」
「ハハハ、そうかい?」
そう笑うとシャール兄様は少し寂しそうに頷いた。
「エリーはもうすぐ嫁ぐからね。こういうことは知らなくていい」
「え? 結婚するんですか?」
私は今度違う意味でシャール兄様を掴む。
「ああ、急に決まってね」
「だ、誰と結婚するんですか!!」
私の癒やしのエリー姉様の結婚に私は気が気じゃない。
「ユーデット、その話は後にしよう。ほらジェイクとユアンがすごい目をしているよ」
私はシャール兄様に促されて見た二人は確かに今じゃないでしょうという顔をしている。
「……はい。すみませんでした」
私は後で聞くことにして今は今回の事件についての話に集中する。
「兄上、何かわかりましたか?」
ユアンが真っ先に尋ねる。
「予想通りと言っておこう。ただ、厄介なことに伯爵家が逃げ道を用意していたんだ」
「そ、それは!」
ジェイクが身を乗り出した。
「ジェイクの弟と元公爵夫人については、ほぼ容疑も確定し、証拠も揃った。王族毒殺容疑で既に騎士を向かわせている」
「彼らは認めませんよ」
「そうだろうね。現時点でも不可抗力だと言っているよ」
「不可抗力って……。それは私が倒れたことは不可抗力でもジェイクに毒を盛ったことは本気でしょ!!!」
「ジェイクだけならば、家門のゴタゴタだからね。罪には問えない。今までもそうだっただろう」
「でも、どうして今回はこの王宮でそんなだいそれたことを行ったんでしょうか?」
「そこはジェイクに聞かないとね」
そう言ってシャール兄様はジェイクに話を向ける。
「はい、今僕は公爵家をほぼ掌握しています。父も姫の婚約者として安定した関係を持っている僕をもう廃することはないでしょう。すると僕を狙っている彼らが公爵家では何も出来なくなっていたんです」
なるほど、もう公爵家の中では手が出せない状況だったのね。
「更にはエリザベス姫様のご結婚の噂が流れてきており、切羽詰まってしまったんでしょう」
「え?」
なんでここでエリー姉様のことが?
私が首を傾げると兄様がポンポンと頭を叩く。
「さっき話した伯爵家の逃げ道だけどね。奴らは王国貴族であるにも関わらず、神殿の後ろ盾と言われている隣国の貴族の娘を花嫁に迎えたんだ」
「神殿と近い貴族なんですか?」
「ああ、だからイザとなったら神殿に保護を求める予定を立てていた」
「イザって、王国で捕縛されるとか?」
「ああ、今だね」
だから、伯爵家は公爵家の跡取りの暗殺なんてことが計画出来たのね。もし、それで国王から睨まれても神殿が保護してくれるから。それに神殿だってこの国の貴族とは繋がっておきたいでしょうし。
「だから、エリーは神殿の本拠地がある隣国スメイド王国の王子と婚姻を結ぶことにしたんだ」
流石はシャール兄様、小物の伯爵が貴族と繋がるなら、もう国と国で繋がってしまおうということにしたんだ。
「だから、伯爵のコネはもう無いと同然だね。エリーの婚姻の知らせは明日発布するからそうなれば伯爵家を庇い立てするものはいなくなるだろう」
エリー姉様の急な結婚にはこんなことが含まれていたのね。でも、私が気にすることはひとつ。
「その王子って人はいい人なんですか!!!」
「あの国は長年神殿を崇めてきたが、君が生まれたことで状況が変わったんだ。神殿を崇めずとも女神の赦しは得られるのだからね。だからこそ、エリーとの結婚を承諾したんだ」
「だから! 王子様って人は?」
「私も会ったことはない。だが、エリーの一つ年上の好青年と聞いている。私だってエリーは可愛い妹なんだ。年の離れた中年男や性格の悪い男には嫁がせないよ」
私は胸を撫で下ろす。よかったーーー
「スメイド王国は女神信仰を第一主義にするのを辞めるのでしょうか?」
「そこまではしないだろうけど、神殿にかける予算は減額するんじゃないか?」
ニヤリと笑った兄様はえらく腹黒かった。
その時、二度目のノックが部屋の中に響いたのだった。
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