昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真

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私の部屋に桃色頭が三人。
なかなか面白い光景だ。
それでも、私たちの中にはある種の緊張感が漂っている。
三人とも何となく様子を見ていると言った方がいいのかもしれない。
各言う私も黙ったまま二人を見つめる。
さっきの会話を見る限り、長兄のネイトは肉体系、次兄のサイラスが頭脳系という感じだろうか?
私は、何を話せばいいのかわからなかった。
ママの話なんて聞きたくないだろうし、パパとはまともに話したことないし……
「あーー面倒だ。単刀直入でいくぞ」
ネイトが頭をガジガジとかき混ぜながら、グイッと私の方に身を乗り出した。
「え? ちょっと! にいさん!」
「いいんだよ。こいつは俺の妹だ。家族なんだから、遠慮や気遣いなんて必要ない。そうだろ?」
私はコクコク頷くしかない。
「俺達はお前の出生については、どうでもいい」
「にいさん!」
「まぁ、どうでもいいってのは言い過ぎだが、今は本当に気にしていない」
ネイトの言葉にサイラスも頷いている。
「俺達が今日帰って来たのは、お前がこの家に来たからじゃない」
ネイトの瞳は真剣そのものだが、私は訳がわからない。
「え?」
「お前が庭園に入った。いや、入れたと聞いたから来たんだ」
「え? どういう……」
「にいさん、それじゃあ、わからないよ。ごめんよ。僕から説明するね」
サイラスはそういうと話し始める。
「君が妹であるということよりも、公爵様が君が庭園に入ったことを許していると聞いたから来たんだよ」
私は首を傾げる。別にあの庭園には鍵も扉もない。誰でも入れるんじゃないかな?
「一つ言っておくけど、僕もにいさんも入ったことがない」
「え?」
「公爵様が庭園全体を魔法で覆っているんだ。だから、許可されたものだけが入れるんだよ」
「俺達は、許可されてねーって訳」
「どうして……」
「時間が止まってるから」
「え?」
「あの中に入れるのは、八年前の僕達だけなんだ」
「あの事件の前の状態で時間を止めているから、今の成長した僕達は入れない」
「オヤジの後悔で覆われてんだよ。あそこはな」
そう言ってネイトは頭の後ろで腕を組んだ。
「でも、君は入れたんだよね?」
「はい」
ネイトとサイラスはお互いに目を合わせると頷いた。
「それはすごいことなんだ。君なら公爵様の時間を動かせるかもしれない」
「時間……」
二人の言っていることはニコルソンの言っていたことと同じだ。
時間が止まっている。
私はニコルソンに聞きたかったことを二人に聞いて見ることにする。
「あの……お二人はその事件のことをご存知なんでしょうか?」
二人は再び視線を合わせる。
「ああ、知ってる。俺はあの時まだ七歳だったが、爺様に聞いたからな」
「教えてもらえますか? 私、全然知らなくて……」
「それはそうだよ。君の生まれる前の話なんだから……」
サイラスは、そう言って私の腕をさする。
「にいさん、話してあげたら?」
「いいけど、こいつの母親が絡んでるかもしれないんだぞ」
「ママは犯罪者じゃありません!!」
突然大きな声を出した私に二人は目を丸くする。
そして、ネイトは大きく息を吐くと頷いた。
「そうだな。お前は知っておくべきだな」
そう言って、ネイトはあの事件についてを話し始めた。
自分が知らないところはお祖父様に聞いた話らしいが、私にはとても役に立つ話だった。
その日は王宮での舞踏会のため、当時の公子夫妻は二人で出かけ、お兄様達は留守番していたらしい。
本来ならその時の公爵であるお祖父様が出席するはずだったが、お祖母様が体の調子を崩していて、公子夫妻が出席した。
王宮での舞踏会は緻密なスケジュールに沿って行われるらしく、帰りはいつも同じ時間だった。
お兄様達はいつも帰ってくる時間に眠い目を擦りながら、エントランスホールで両親を待っていたらしい。
それなのに、その日はいつまで経っても二人は帰ってこなくて、お兄様達はお祖父様に言われて、そのまま部屋で休んだのだ。
そして、目覚めると屋敷の中が大変なことになっていた。
朝からたくさんの人が集まって話し合い、皆が皆んな走っているようだった。
それでも、お祖父様は二人を見つけると走り寄って抱きしめてくれた。
そこで、両親の乗った馬車が襲われたことを知った。
二人の乗っていた馬車は丁度中間地点で横倒しになって見つかった。
しかし、中には誰も乗っていない。
だから、初めはランバート公子夫妻が誘拐された事件として捜査されていた。
だが、三日後、公子夫人、二人の母親の遺体が見つかったのだ。
流石にこれを話すのはネイトも辛いらしく、顔を顰めている。
私は申し訳なくて下を向いた。
「気にするな。もう何度も話したことだ。辛いのは変わらないが、慣れてもいる」
悲しいと思った。こんなことを話すことに慣れるなんて、辛すぎる。
「ああ、君が泣く必要はないんです。母の死は理不尽で許すことのできないことですが、僕達は受け入れているんです」
私は溢れる涙に手を当てて頷いた。
そして、二人のことをすごいと思った。
一旦深呼吸したネイトは話し続ける。
公子夫人の遺体が見つかると流石に王国は大騒ぎになった。
誘拐ならばと、報道を控えていたお祖父様が、一気に情報を流し始めたのだ。
巨額の懸賞金をつけたにも関わらず、誰も公子を見つけることができなかった。
そして、行方を追っていた犯人の手がかりも掴めなかった。
公子夫人の葬儀も終わり、もう公子を諦めると公爵が宣言した翌日、公子が戻って来た。
身につけているのは平民が来ているような服で、所持品はなく、朝ランバート公爵家の前に佇んでいたところを保護されたのだ。
だが、残念なことに公子は行方不明だった期間の記憶をなくしていた。
妻を亡くしたことをその時の初めて知り、公子は深く悲しんだ。
「……まぁ、こんな感じだな」
ネイトの話はわかりやすいし、何かの物語のようだ。
しかし、私はその話に違和感を感じた。
「あの、お兄様達はどうしてたんですか? パパがいない間……」
二人は顔を見合わせる。
「ハハハ、そうくるのか。皆、ここまでの話で満足するんだがな」
「うーん、痛いところを突くね」
ハハハと笑ったネイトはため息を吐いた。
「俺達は最悪だったよ」
「え?」
「それはそうだろ? 突然両親がいなくなったんだ。偏屈なジジイと病気のババァしかいなくなったんだぞ」
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