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第三章 乙女ゲーム
22 マリアと悪魔
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「ちょっと話が違うじゃないの!」
マリアは何も無い空間に向かって文句をまくし立てた。誰も居ないけれど確かに誰かいるのだ。それはこの数ヶ月で理解した。
初めて声が聞こえた時は不気味で怖くて気のせいかと思ったが何度も何度も聞こえてきて思わずうるさい!と叫んだら返事があったのだ。
どうもこの声が聞こえる人間と聞こえない人間がいるらしくその確認の為に何度も話しかけたという事だった。
その声は低く壮年くらいの男を思わせるものでなんといっても言ってる事がまともでは無い事ばかりだった。人を不快にさせるようなことばかり提案してくるのだ。中には怪我をさせるような危険なものも有り、マリアはこの声の主を悪魔と呼んでいた。
「ねえ、悪魔。あんたの言う通りにしたけど全然駄目じゃない!何がみんなが同情して私の味方になるよ!ただ私が嫌がらせしてるだけになってるわよ!噂だって広まってるけど誰も信じて無いわよ。こんなの。」
マリアはなまじ頭が良いので自分がやっている事の効果や影響もしっかりと理解していた。
悪魔の言う事を聞いたのもただの八つ当たりのようなものでうまく行くとは元々思っていなかった。
なんでも持ってるクリスティーナに少しでも嫌な思いをさせられればそれで良かったのだ。
でもそれももう終わりね。
噂ではそろそろルーカスと王子が出てくるようだし、そうなるとただの生徒同士のイザコザではなくなってしまう。
「あんたはこれで何もかも上手く行くって言ってるけど、私がやってる事は当て馬みたいなものよね?
これじゃあハロルド殿下とクリスティーナの仲が深まるって結末しか見えないんだけど?」
マリアは呆れて何も居ない空中に話かける。
「まぁそうだな。お前は良くやってくれたよ。あの二人には真の愛情に目覚めてもらわねばならないのだ。
ただ、お前は今までの奴と違って周りの状況もよくわかっているようだな。」
フォフォフォと目の前から不気味な声と笑い声が響いた。
「あーあ。もう、やめるわ。王子やルーカスが出てくると面倒だし、あの子結構良い子だったし、あんな話し方や所作は私には出来ないしね。王子様と結婚なんてどうせ夢だったんだからその辺の貴族で我慢するわ。」
全く無駄な時間を過ごしちゃったわとドスンとベッドに横たわったマリアは引き際をわきまえていた。
「そうか、、、。お前の役目は確かにここまでの予定だったが、、このまま手放すには惜しいな。、、、もう少し付き合ってもらうぞ!」
そう言うとマリアには見えないがその声の主がマリアに抱きつくように重なった。
「え?!ちょっと!!やめて!何するのよ!!!」
マリアが一瞬硬直し、バタバタと暴れた後静かになった。
途端にマリアからいつもの溌剌とした雰囲気が消え去り、目は虚ろで顔色も悪くなった。目も釣り上がり、そのまま起き上がった時にはまるで別人だった。
「ハハハ、元々あの王子と婚約者の仲を深めさせて賢者の石を取り出し易くするのがお前の役目だったのだが、お前には取り出した賢者の石を奪うまで付き合ってもらうぞ!」
マリアの高い声にそぐわない話し方でそう告げると男らしい歩き方で窓辺に立ち外を眺める。
これからどうすれば上手く賢者の石を奪えるのかを考えていた。
賢者の石が本当にあるのなら手に入れてどうしても叶えたい事があるのだ。
その考えている姿にはマリアの個性も人格も存在せず何者かの操り人形のような空虚な動きしか見られなかった。
マリアが悪魔と呼んでいた者は自分を呪われていると思っていた。
もう覚えていないくらい前から常に怒りと不満ばかりを感じていた。何度も生まれ変わり、いくつもの生を渡り歩き、その世界、その生でその怒りと不満をぶつけるように生きてきた。
その行動原理は生まれたての赤ん坊のようなものだった。常に何かに怒り、何が不満なのかもわからずに周りに自分の感情をぶつけて泣き叫ぶだけなのだ。
時には革命家、時には発明家、時には犯罪者、時には英雄、、、。それぞれの生で時代や状況により様々な役割を担わされた。
どんなに我儘にそして他人に悪意をぶつけ、時には自分にもぶつけて生きて死んでも、気がつけば必ずこの怒りと不満を持ったまま次の生を得ているのだ。
もう疲れた、もう終わりにしたいと一つ前の生では爆弾を作って大勢の人間を道連れに自ら命を絶ったというのに願い叶わず今度は幽霊として転生してしまった。
悪魔は前世では生贄が少なかったことが原因でこの中途半端な幽霊転生だと考えていた。
もうどうにでもなれと自分と同じような不満を抱えているものを見つけては声をかけてその不満を解消出来るよう囁いてきた。時に他人を騙す方法を教えたり、時には憎い相手を排除するために爆弾の作り方を教えたり、国の中枢にいる者に取り付いたりして過ごしていた。
この声が聞こえるものと聞こえないものがいたが何度か話しかけて返事が無ければ次の不満を抱えている者を探すという事を繰り返してここで何十年も過ごしていた。
この幽霊という立場は厄介で面倒になっても死ぬことも眠る事も出来ず、ただ彷徨っているだけで何年も経ってしまうのだ。
今度は生まれ変わる事も出来ないと諦めて、もう動かずに静かに自我を捨てて空気のようになろうと思った時に賢者の石の話を聞いたのだ。
マリアの中の男の瞳にギラリと生気が帯びる。
なんでも願いが叶うなら、と男は呟いた。
「この世界まるごとを生贄に今度こそ俺を消滅させてほしい。」
マリアは何も無い空間に向かって文句をまくし立てた。誰も居ないけれど確かに誰かいるのだ。それはこの数ヶ月で理解した。
初めて声が聞こえた時は不気味で怖くて気のせいかと思ったが何度も何度も聞こえてきて思わずうるさい!と叫んだら返事があったのだ。
どうもこの声が聞こえる人間と聞こえない人間がいるらしくその確認の為に何度も話しかけたという事だった。
その声は低く壮年くらいの男を思わせるものでなんといっても言ってる事がまともでは無い事ばかりだった。人を不快にさせるようなことばかり提案してくるのだ。中には怪我をさせるような危険なものも有り、マリアはこの声の主を悪魔と呼んでいた。
「ねえ、悪魔。あんたの言う通りにしたけど全然駄目じゃない!何がみんなが同情して私の味方になるよ!ただ私が嫌がらせしてるだけになってるわよ!噂だって広まってるけど誰も信じて無いわよ。こんなの。」
マリアはなまじ頭が良いので自分がやっている事の効果や影響もしっかりと理解していた。
悪魔の言う事を聞いたのもただの八つ当たりのようなものでうまく行くとは元々思っていなかった。
なんでも持ってるクリスティーナに少しでも嫌な思いをさせられればそれで良かったのだ。
でもそれももう終わりね。
噂ではそろそろルーカスと王子が出てくるようだし、そうなるとただの生徒同士のイザコザではなくなってしまう。
「あんたはこれで何もかも上手く行くって言ってるけど、私がやってる事は当て馬みたいなものよね?
これじゃあハロルド殿下とクリスティーナの仲が深まるって結末しか見えないんだけど?」
マリアは呆れて何も居ない空中に話かける。
「まぁそうだな。お前は良くやってくれたよ。あの二人には真の愛情に目覚めてもらわねばならないのだ。
ただ、お前は今までの奴と違って周りの状況もよくわかっているようだな。」
フォフォフォと目の前から不気味な声と笑い声が響いた。
「あーあ。もう、やめるわ。王子やルーカスが出てくると面倒だし、あの子結構良い子だったし、あんな話し方や所作は私には出来ないしね。王子様と結婚なんてどうせ夢だったんだからその辺の貴族で我慢するわ。」
全く無駄な時間を過ごしちゃったわとドスンとベッドに横たわったマリアは引き際をわきまえていた。
「そうか、、、。お前の役目は確かにここまでの予定だったが、、このまま手放すには惜しいな。、、、もう少し付き合ってもらうぞ!」
そう言うとマリアには見えないがその声の主がマリアに抱きつくように重なった。
「え?!ちょっと!!やめて!何するのよ!!!」
マリアが一瞬硬直し、バタバタと暴れた後静かになった。
途端にマリアからいつもの溌剌とした雰囲気が消え去り、目は虚ろで顔色も悪くなった。目も釣り上がり、そのまま起き上がった時にはまるで別人だった。
「ハハハ、元々あの王子と婚約者の仲を深めさせて賢者の石を取り出し易くするのがお前の役目だったのだが、お前には取り出した賢者の石を奪うまで付き合ってもらうぞ!」
マリアの高い声にそぐわない話し方でそう告げると男らしい歩き方で窓辺に立ち外を眺める。
これからどうすれば上手く賢者の石を奪えるのかを考えていた。
賢者の石が本当にあるのなら手に入れてどうしても叶えたい事があるのだ。
その考えている姿にはマリアの個性も人格も存在せず何者かの操り人形のような空虚な動きしか見られなかった。
マリアが悪魔と呼んでいた者は自分を呪われていると思っていた。
もう覚えていないくらい前から常に怒りと不満ばかりを感じていた。何度も生まれ変わり、いくつもの生を渡り歩き、その世界、その生でその怒りと不満をぶつけるように生きてきた。
その行動原理は生まれたての赤ん坊のようなものだった。常に何かに怒り、何が不満なのかもわからずに周りに自分の感情をぶつけて泣き叫ぶだけなのだ。
時には革命家、時には発明家、時には犯罪者、時には英雄、、、。それぞれの生で時代や状況により様々な役割を担わされた。
どんなに我儘にそして他人に悪意をぶつけ、時には自分にもぶつけて生きて死んでも、気がつけば必ずこの怒りと不満を持ったまま次の生を得ているのだ。
もう疲れた、もう終わりにしたいと一つ前の生では爆弾を作って大勢の人間を道連れに自ら命を絶ったというのに願い叶わず今度は幽霊として転生してしまった。
悪魔は前世では生贄が少なかったことが原因でこの中途半端な幽霊転生だと考えていた。
もうどうにでもなれと自分と同じような不満を抱えているものを見つけては声をかけてその不満を解消出来るよう囁いてきた。時に他人を騙す方法を教えたり、時には憎い相手を排除するために爆弾の作り方を教えたり、国の中枢にいる者に取り付いたりして過ごしていた。
この声が聞こえるものと聞こえないものがいたが何度か話しかけて返事が無ければ次の不満を抱えている者を探すという事を繰り返してここで何十年も過ごしていた。
この幽霊という立場は厄介で面倒になっても死ぬことも眠る事も出来ず、ただ彷徨っているだけで何年も経ってしまうのだ。
今度は生まれ変わる事も出来ないと諦めて、もう動かずに静かに自我を捨てて空気のようになろうと思った時に賢者の石の話を聞いたのだ。
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