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第二章 二人の最強の恋愛模様編
第三十七話 エピローグ1 勇者の彼女、勘違いされる
しおりを挟む――由加理視点――
あっくんと初めてキスをして翌朝。
……一睡も出来ませんでした。
何かね、キス出来たのがすっごく嬉しかったの。
でもね、それだけじゃ足りなくなって、あっくんの全部が欲しくなった。
何とか抑えたけど!
だってね、そんな事を言ってはしたないって思われて嫌われたら嫌だもん。
だから、今は頑張って抑えました!
その結果が一睡も出来なかったっていう……。
目を閉じると、あっくんとキスした感触がフラッシュバックのように甦って、胸がドキドキして苦しくて眠れない!
何かそんな事を言っているアタシ、結構気持ち悪いな!
今は結構眠いんだけど、学校だしそうは言ってられないわよねぇ……。
とりあえず、制服に着替えようっと。
アタシはさくっとパジャマを脱いだ。
「いってきまーす!」
朝食を済ませたアタシは、あくびを噛み殺しながら家を出た。
これは不味いわ、眠すぎて授業中寝ちゃいそう……。
家から学校まで、徒歩で通学している。片道大体十五分位。家から三分位歩いた所でいつも和恵ちゃんと合流する。
いつもだったらお互い家を出る時間が一緒だから、歩いている時に和恵ちゃんも歩いて来て合流するって感じなんだけど、今日は違くて彼女が待っていた。
待っているなんて珍しいなぁ。
「和恵ちゃん、おはよう!」
「あ、うん。おはよう」
あれ?
何か元気がない?
何というか、余所余所しいんだけど……。
「和恵ちゃん、どうかした?」
「いや、なんでもないの! なんでもね!!」
挙動不審だ……。
本当にどうしたんだろう?
「とりあえず、学校にいこ?」
「そ、そうだね」
歯切れが悪いまま、アタシ達は歩き出す。
少し無言が続いたんだけど、和恵ちゃんの方からアタシに話しかけてきた。
「昨日は、どうだった?」
「昨日? ……あぁ、あっくんとって事?」
「そうそう!」
うわっ、急に元気になったよ!!
そんなに昨日の事が気になっているのかな?
他人の恋愛事って話聞いてて楽しいのかな。
「特に変わった事は……少しあったけど、うちのお姉ちゃんも交えて色々お話したりしたよ」
「少しあったって、何があったの!」
「お、落ち着いて。怖い……」
あまりの食いつきっぷりにさすがに怖くなったよ。
若干鼻息荒いしね。
「変わった事って言えば……ふあぁぁぁ~」
キスをしたって事だよと言おうとした瞬間、どうしても抑えきれなかったあくびが出た。
そして眠くて目を擦る。
これ、今日の授業は睡魔と必死になって戦う事になりそうだよ。
アタシの一連の動作を見た和恵ちゃんが、何故か顔を真っ赤にしている。
「な、何かやけに眠そうですね」
「何で敬語!? ……うん、一睡もしていないんだよね」
「一睡も!? どれだけなのよ……」
「どれだけ? でも、本当にずっとドキドキしっぱなしで……えへへ」
「あんだけのイケメンだったら、私だってきっとまともに寝られないわ」
「……和恵ちゃん、取っちゃヤだよ?」
「取らないし、あんたから取れるとは思ってないわ!」
若干和恵ちゃんと話が噛み合っていない気がしたけど、まっ、いっか!
アタシ達は他愛のない話をしながら、通学した。
でも、和恵ちゃんの顔はずっと真っ赤なままだった。
「安藤さん、聞いたよ! イケメン彼氏との事!!」
必死に眠気と戦ってようやく迎えたお昼休み。
アタシはご飯を食べたらちょっと仮眠を取ろうとしていたんだけど、最近知り合いになった女子達四人に囲まれた。
な、何を聞いたんだろう?
「あの彼氏と、一晩中ヤっちゃったんだって?」
「ヤっちゃった?」
何をやったんだろう?
襲ってくる睡魔に悲鳴を上げている脳が、言葉の意図を探る。
そして、わかった。
「っ!!」
意味がわかったら、アタシも顔が赤くなる。
「や、ヤってない! アタシはヤってない!!」
何か、まるで冤罪を押し付けられているドラマの登場人物みたいに言っちゃった。
事実、エッチな事は一切してないし!!
話には聞いていたけど、女子の下ネタは超直球なんだね。
「でもぉ、すっごい眠そうだよ?」
「そうそう、遠藤さんの話では、一睡もしていないんでしょ?」
和恵ちゃんと話が噛み合わなかった理由はそれだったか!
つまり、アタシは一晩中あっくんとその……ヤってて、あっくんに寝かせてもらえなかったって誤解されたって事?
これはひどい勘違い!
当の本人は、今部活の打ち合わせでいないし!
アタシはその誤解を何とかしようと口を開こうとしたけど、彼女達は隙を与えてくれない。
「でも私だったら、あんな素敵な彼氏だったら一晩中もオッケーだよ!」
「私も私も! むしろ、私からお願いしてしまいそうで……」
「あぁ、わかるぅ! って、あんた彼氏いたでしょ?」
「そうなんだけど、まぁ早いんだよね」
「……それはご愁傷さま」
ちょっとちょっと、人の机を取り囲んで何て赤裸々な話をしているの!?
アタシまだ、あっくんとはそういうのは一切してないのよ!?
何でアタシも仲間みたいな感じで、ちょいちょい視線を送ってくるの!
あぁ、誤解を解きたい!!
「安藤さんの彼氏、どうだったの?」
やっぱりそう話を振ってきた!
だからしてないの、アタシは!!
誤解を解きたいのに、その隙を与えてくれずにさらに質問をしてくる。
「私ならあの彼氏、例え早くても我慢できちゃうなぁ」
「「「わかるぅ!」」」
わかるな!!
人の彼氏で妄想に浸らないで!!
「安藤さんの彼氏、イケメンなのにすごく優しそうで、しかも結構度胸ありそうだもんね!」
「昨日のあれでしょ、見た見た! あの四人に一切怯まなかったし、殴られても痛い素振り見せなかったんだよね?」
痛い素振りっていうか、実際痛くも痒くもなかったらしいよ?
さすがは勇者様、色々レベルが違います!
でも、アタシの為に怒ってくれたのは嬉しかったなぁ。
「私もあんな風に守られたいなぁ!」
「……うちの彼氏、一回不良に絡まれた時、私を置いて逃げたんだよね」
「……何で今でも付き合ってるのよ。普通ならもうゴミ箱でしょ」
人をゴミ扱いしてる!
怖い!!
「まぁ安藤さんの彼氏程じゃないけど、イケメンだったから……。もうそろそろ我慢の限界だけど。早いし」
そんなに早いんだ……。
どうでもいい情報を仕入れちゃったな。
「で、安藤さん。どうだった!?」
不味い、また話を振られた!
もう今しかない!
「あ、あのね? ごか――」
「「「「五回もしたの!?」」」」
漢字が違う!!
そんなにしたら、アタシの体持たない!
……した事ないからわからないけど。
「み、皆。落ち着いて?」
「落ち着けないわよ! だって、気になるじゃん!!」
「何で気になるの!?」
「だってさ、だってさ? 羨ましいじゃん!」
羨ましいって……。
だからって人の話を聞いてどうにかなる訳でもないと想うんだけどなぁ。
「とにかく、アタシの話を聞いて!」
「「「「は、はい」」」」
ちょっと強めに言ったら、やっと話を聞いてくれる体勢になってくれた。
はぁ、疲れた。
「アタシ、残念ながらまだしてません!」
「してないの!? 何で!?」
「逆に何でそういう反応になるか知りたいよ!!」
「だって、既成事実作った方が彼氏になってくれるじゃん?」
……怖い、怖いよ。女子高生怖いよ。
アタシもそうなんだけど、価値観違いすぎるよ!
「でも…………キスはしたよ。三回も。……えへへへへ」
「はい、つまらないから解散」
「「「了解」」」
「何で!?」
キスはつまらない話なの!?
「だって、キスなんて当たり前じゃない?」
「そ、そういうものなんでしょうか……」
「そういうものです。安藤さんは意外とウブだね」
キスでもかなり嬉しかったしすごくドキドキしたのに、彼女達にとっては普通らしい。
アタシもあっくんとシちゃったら、そう思っちゃうのかな?
よくわからないや。
ってか、わかりたくない!
「いい、安藤さん? 安藤さんは私達同性から見てもすっごく可愛いんだから、誘惑したらどんな男もイチコロよ?」
「そうだよそうだよ! アレ、本当に素敵だよ?」
「そうそう、身体中が相手に包まれているみたいな感じで」
えっ、身体中が包まれている感じ?
何それ、すっごい素敵なんですけど!
あっくんに包まれてるなんて、心臓が破裂しそうな位な幸せなんですけど!!
「そこ、詳しく教えてください!」
「き、急に食い付いてきたね」
ぶっちゃけ、アタシだってそういうのに興味あるもん。
でもまだ早いかなぁって思っているだけであって……。
でもそんなに素敵なら、もうしちゃいたい!
彼女達の方がアタシより男性経験値は上みたいだし、この際色々聞いちゃおう!
こうしてお昼休みは寝る事なく、それぞれの情事を聞かせてもらってアタシが参考にするような形で終わった。
とっても充実した時間でした!
眠気もなくなったしね!
でもクラスの男子達は皆泣いていた。
「……安藤さんが、安藤さんの唇が奪われた」
「もうだめだ、この世のお仕舞いだ!」
「俺の恋は、終わった……」
だから、アタシ以外にも女子はいるのに、何でこんな世紀末みたいになってるのかなぁ。
もしあっくんの事を好きじゃなかったとしても、こういう男子は対象外だなって思う。
はぁ、またあっくんに会いたくなってるなぁ。
確か今日、アデルさんと旅行に行くんだよね。
いいなぁ、アタシも一緒に行きたいなぁ。
でも、二人共異世界で相当苦労しているみたいだし、二人にしてあげたほうがいいよね?
よし、アタシは勉強頑張るぞ!
応援ありがとうございます!
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