47 / 63
第二章 冒険者活動編
第47話 その頃の《ジャパニーズ》のメンバーは……
しおりを挟むリュートが銀等級として最高のスタートを切った頃、《ジャパニーズ》のメンバーは未だ立ち直れずにいた。
いや、むしろ今拠点としている賃貸の一軒家に引き籠っていた。
元々彼等は命のやり取りとは無縁の世界で暮らしていて、唐突にこの世界へ転移してしまったのだ。
多人数協力依頼時のゴブリンに攫われた女性達の末路をこの目で見てしまい、四人共精神状態が大きく乱れていた。
目的の為ならある程度冷酷な判断すら出せるタツオミも、流石に精神的ダメージを負ったらしい。あの日から食事やトイレなどの最低限の事以外は、個室から出てきていない。
チエは被害者達の死に際の表情がこびりついているらしく、寝る際にたまに夢に出てきて悲鳴を上げる程だ。
そして、ショウマとリョウコは、性的快楽に逃げた。
きっかけは本人達もよくわかっていない。
だけど、気が付いた時にはお互いの身体を貪り、時間があればひたすら快楽を求めていた。
リョウコは初めてであったが、多人数協力依頼の事を忘れる為なら痛みでも何でもよかった。
今日もショウマの部屋で二人共一糸纏わぬ姿でベッドに寝て、息が乱れていた。
ショウマもリョウコも今のままではいけないとは考えている。
だが、そう思った瞬間、身体が全力で拒否をしていた。
それでも無理に外へ出ようとしたら、激しい腹痛に襲われ、結局冒険者活動が出来ない。
ショウマも同様であった。
「……はぁ、ダメなのはわかってるんだけどな」
ショウマがぼそりと呟く。
初めの頃の行為中はただただ激しく荒々しいものだったのに、最近はリョウコの事を大事に扱ってくれている。それが嬉しくて、ショウマに惹かれつつあった。
彼には向こうの世界で恋人がいる。しかもリョウコの親友と言える存在だ。
そんな親友の彼氏に、現実逃避という理由があるにせよ手を出してしまったのだ。
ショウマの呟きは、きっと親友に対する罪悪感を意味しているのだろうと、リョウコは感じた。
「……ごめんね、向こうに帰ったら芽衣に謝るから」
「ん? ああ、そういう意味じゃない」
「えっ、違うの?」
ショウマの呟きの本当の意味は二つ。
一つ目は、このままただ快楽に溺れるのはいけないという事。
この拠点は賃貸の為、家賃を稼がないといけない。
そしてもう一つは、向こうの世界にいる彼女より、傍で自分を支えてくれるリョウコに気持ちが大きく傾いてしまった事。
命のやり取りをこちらの世界でしているせいか、傍で支えてくれるリョウコの存在が日に日に大きくなり、身体を重ねた事によって気持ちは決定的になってしまった。
罪悪感は全くない。
むしろ身体から始まってしまったこの関係から、恋人関係に持っていけるのだろうか?
そちらの方が不安になってしまっていた。
(はは、今日なんてもう五回もしてる。……猿だな)
無理をさせてるな。
そう思いながら、リョウコの光沢があって綺麗な黒髪を優しく撫でる。
リョウコはショウマに撫でられて嬉しそうに微笑む。
(……だめだ、完全に涼子にぞっこんだ)
思春期の性欲はとんでもない。
またリョウコを抱きたくなったが、ぐっと堪える。
「なぁ、涼子」
「どうしたの、翔真?」
「……俺さ、そろそろ冒険者に復帰しようと思う」
「えっ、大丈夫なの?」
「わかんない。けど、動かないと始まらない、そう思うんだ」
「……翔真」
「達臣も千絵も、多分まだ無理だろうな。とりあえず、俺はそろそろ行けそうな気がするからさ、ソロで活動してみようと思う」
「そんな、危険だよ!」
「わかってるさ。でも、俺は皆のリーダーだから。俺が動いている姿を見て、少しでも皆の励みになれたらなって思う」
ああ、もうダメだ。
優しい笑顔を見せながら語るショウマに、リョウコは胸がときめいた。
最初一緒に転移した時は頼りないと思っていたけど、日に日にリーダーとしての自覚が芽生えて逞しく成長し、いつの間にかリョウコは彼を支えたいと思うようになっていた。
「いつ、行くの?」
「……今は、多分正午位かな。今から行こうと思ってる」
「……て」
「ん? なんて?」
「抱いて、翔真。今、貴方が欲しいの」
「えっ、でも……無理してないか?」
「ううん、無理じゃない。お願い、来て」
目を潤ませながら見つめてくるリョウコを拒否する事は、ショウマには出来なかった。
(ああ、好きだよ、涼子)
(好きよ、翔真。だから、無理しないで)
二人の想いは心身共に一つになった。
リュートと《竜槍穿》のハリー、そして《鮮血の牙》のウォーバキンは、ギルドに併設された酒場の一席で食事をしながら交流をしていた。
この三人は、リュートが銀等級に昇格した時から積極的に意見交換をしており、リュートにとっては数少ない友人と認識する程にまでになっていた。
今は、先程まで三人でやっていた模擬試合の感想を言い合っている。
「俺様が思うに、リュートは直線的過ぎなんだよ」
「ウォーもやっぱそう思うだか……。ちょっといい戦略が思い浮かばねぇだよ」
「ふむ、昇格試験の時に俺とやった時も、相当矢を消費していたな。リュートの今の実力は、対人戦より狩りや不意打ちに特化しているんだよな。とにかく今は、俺達が付き合うから対人戦の経験を積んでみよう」
「ありがてぇけんど、おめぇ達だって忙しいんでねぇか?」
「何言っていやがるんだ、リュート! お前程の弓の腕前を持ってる奴なんて早々いねぇから、俺様達も助かっているんだぜ?」
「そうだ。この前のサバイバル訓練も、本当に助かった」
サバイバル訓練。
王都近くにある森で三日間、リュート対 《竜槍穿》と《鮮血の牙》の混合パーティで、リュートの撃破またはリュートから三日間逃れるという内容だ。
森の中にいるリュートはまさに水を得た魚で、完全に気配を消して予想外の所から狙撃されるのだ。
斥候として優秀な《竜槍穿》のエリーは、《ステイタス》を得た事によって一つのスキルが発現していた。
それは《探知 Lv.3》である。
このスキルは最大レベルが3まであり、エリーは最大レベルでスキルを得ていた。
その名の通り、集中するとあらゆる生物の位置が特定できるという優れものなのだが、何故かリュートの場合は探知に引っ掛からない。
理由は単純だがリュート以外に出来そうにない技法で、彼の奥義である自然と同化する事で、スキルにすら引っ掛からない事に成功したのだった。
しかもかなり巧妙で、真っ先に斥候役のエリーを潰しにかかり、殺気等の攻撃の起こりを感じさせることなくエリーを仕留める。
その後間隔を置いて、徐々にメンバーが減らされていき、サバイバル訓練三日目の午前中に全滅したのだった。
ちなみにこの時使用された矢は先端が丸まっている為、当たったらその場で「ヒット」と叫んで帰宅してもらうというルールで行っていた。
「ってかお前、どうやってあそこまで気配消してんだ? 流石に《ステイタス》持ってるんじゃねぇかって疑っちまうぞ」
「同感だな。本気で疑いたくなる」
「オラ、本当に持ってねぇだよ。ってか、今後も《ステイタス》を持とうなんて思っちゃいねぇ」
冒険者なら皆喉から手が出る程欲しがる《ステイタス》を欲しない冒険者は、非常に珍しい。
そんな姿勢のリュートに、ウォーバキンもハリーも嬉しくなってしまう。
何故なら――
「へっ、流石俺様のライバルだぜ!」
「流石、俺の目標だな」
二人はリュートを超えるべき存在だと認知していたからだ。
友人でありながら、同時にライバルでもある。
そんな関係を上手く築いていたのだった。
ウォーバキンとハリーから肩組みされ、満更でもないリュート。
三人でいちゃついていた時、三人の元へ一人の男が近づいていた。
「……や、やぁ、三人共」
声を掛けられ視線を向けてみると、そこには顔色が良くない《ジャパニーズ》のリーダーであるショウマが立っていた。
「ショウマじゃないか! もう、大丈夫なのか?」
ハリーは立ち上がり、ショウマの肩に手を置いて尋ねる。
「……正直、ここに来るのも身体が拒否してる」
「……無理はしなくていいんだぞ?」
「でもさ、俺、《ジャパニーズ》のリーダーだし、皆の為にも行動で示さないと」
顔色は悪い。
だが、ショウマの眼には、決意が宿っていた。
三人共、「もう少ししたら、ショウマは立ち直れる」と感じていた。
「ならショウマ、俺様達と模擬戦やらねぇか?」
「……いいのか?」
「勿論だぜ。リハビリに丁度いいだろうが。それに対流れ者戦の経験を積める、絶好の機会だろうが!」
「……じゃあ、その申し出、有難く受けさせてもらうよ」
「へへ、そうこねぇと。ハリーの旦那とリュートも、構わねぇよな」
「全く構わないさ」
「オラもだべ」
「……ありがとう、皆」
そして、四人で訓練場へと向かっていった。
地獄と思えた多人数協力依頼を乗り越えた四人は、固い絆で結ばれつつあった。
そして近い未来、そんなショウマの姿を見て、他の《ジャパニーズ》のメンバーも立ち直り、全員で冒険者として活動を再開するのだった。
「所でショウマ、お前、どうせ部屋にこもってずっとマスかいてたんだろ?」
「そ、そんな事してねぇよ!!」
「何動揺してんだよ。俺様はわかってるんだぜ、男はつらい事があったら気持ちいいのに逃げちまうからな」
「っ!!!!!!」
「ほら、図星だぜ」
「なぁハリー、マスかいてるってどういう意味だぁ?」
「リュート、世の中には知らなくていいくだらない言葉が、沢山あるんだ」
「??????」
100
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
霊力ゼロの陰陽師見習い
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる